★★★★☆
内容
心理学、行動経済学、哲学、人類学など、各界を代表する知識人たちによる「バカ」の考察。原書はフランスで出版された。
感想
タイトルからして刺激的だが、全編にわたって何度も「バカ」という言葉が登場してなかなか壮観。特に冒頭の編者による「はじめに」の文章はかなり辛辣で、いきなり苦笑いさせられてしまった。
内容はノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンや神経科学者のアントニオ・ダマシオら各界を代表する人物たちが「バカ」について語る本。当然、彼らの知見をもとにして語られるので、うんうんと頷かされる内容が多い。それぞれが語る各章はわずか数ページなので、コンパクトで気軽に読むことができる。翻訳も不自然に感じる部分がほぼなくて、読みやすい。
ただコンパクトな分、物足りなく感じる部分があることは否めないのだが、もっと詳しく知りたい箇所については各章で言及されている本などを読めばいいのだろう。その足掛かりとしても良い本と言える。ちなみに、実際に本人が文章を書いたものと、インタビューされたものを文章化したものがあり、インタビュー分については内容が薄め。
ナタン (前略)でもかつては、こうして直接民主制が実現することで、四分の三の人間がバカだと判明するとは思いもしませんでした。これには本当に驚かされました。
p312 「知識人とバカ」 トビ・ナタン
本書の中では多くの人がインターネットの普及について言及しているが、これについては特にここ数年本当に痛感している。しかも、一般大衆が、というだけではなく、そこまですごくないにしてもさすがにそれなりのレベルは保っているだろうと思っていた政治家や官僚、メディアや各界を代表するような人物たちなど、世の中に影響を与える立場にいる人たちですら、同じように「バカ」が相当数いる事が可視化されたのがショッキングだった。
ネットは、今まで聞く事の出来なかった「バカ」の声を可視化した装置だが、さらに「バカ」に影響を与えてしまう装置だともいえる。現在は、刺激的な情報に日常的に触れられるようになった人類全体が「中二病」にかかってしまっている状態なのかもしれない。ここを上手く乗り切ることができずに変にこじらせてしまうと、厄介な未来がやってきそうで心配だ。
当然なのだがこの本は、安全な高所から「バカ」を論じているわけではなく、いつ何時自分が「バカ」になってしまうかも分からない、という前提に立って論じているので、好感が持てる。どんなにまともな人だって、特定の状況になれば「バカ」になってしまうことはあり得るのだ。この本を読みながら、ここで語られている「バカ」とは自分の事なのでは?と誰もが不安を覚えるはず。逆に言えば、そんな不安を一度も感じることなく読み終えることができた人間だけが、真の「バカ」といえるのかもしれない。
著者
セルジュ・シコッティ/イヴ゠アレクサンドル・タルマン/ブリジット・アクセルラッド/アーロン・ジェームズ/ジャン゠フランソワ・マルミオン/エヴァ・ドロツダ゠サンコウスカ/ダニエル・カーネマン/ニコラ・ゴーヴリ/パトリック・モロー/アントニオ・ダマシオ/ジャン・コトロー/ライアン・ホリデイ/フランソワ・ジョスト/ハワード・ガードナー/セバスチャン・ディエゲス/クローディ・ベール/ダン・アリエリー/ローラン・ベーグ/アリソン・ゴプニック/デルフィーヌ・ウディエット/ジャン゠クロード・カリエール/ステイシー・キャラハン/トビ・ナタン
編者 ジャン゠フランソワ・マルミオン
翻訳 田中裕子
登場する作品
「物の本質について (岩波文庫 青 605-1)(事物の本質について)」
「La démocratie des crédules(だまされやすい人たちの民主主義)」
「Les 4 vies de Steve Jobs: Biographie de Steve Jobs (French Edition)(スティーブ・ジョブスの四つの人生 スティーブ・ジョブス伝記)」
「 Assholes: A Theory of Donald Trump (English Edition)(くそったれ ドナルド・トランプ理論)」
「James, A: Assholes(くそったれの理論)」
「Le raisonneur et ses modèles(思考者とそのモデル)」
「バカについて」 ジョルジュ・ピカール
「Un taxi pour Tobrouk(トプルク行きのタクシー)」
「ツールの司祭/赤い宿屋 (岩波文庫 赤 530-1)」」所収 「ツールの司祭」
「Trust Me I'm Lying: Confessions of a Media Manipulator (English Edition)(信じてくれ、ぼくは君たちに嘘をついている メディア情報操作者の告白)」
I Hope They Serve Beer In Hell
「La méchanceté en actes à l'ère numérique(デジタル時代の行動における悪意)」
「物の本質について (岩波文庫 青 605-1)(事物の本性について)」
Disciplined Mind: What All Students Should Understand (English Edition)
愚かな決定を回避する方法―何故リーダーの判断ミスは起きるのか (講談社プラスアルファ新書)
選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)
「支離滅裂」 アラン・スーション
「L’imposture intellectuelle des carnivores: Essais - documents (French Edition)(肉食動物の知的偽装)」
Bidoche. L'industrie de la viande menace le monde
「Yesterday(イエスタデイ)」