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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「人喰い ロックフェラー失踪事件」 2019

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

★★★★☆

 

内容

  曽祖父は世界一の大富豪、父はニューヨーク州知事で後の副大統領というマイケル・ロックフェラー。23歳の彼がニューギニアで消息を絶った事件の真相を探る。

 

感想

 世界的な大富豪ロックフェラー家の御曹司が未開の地で消息を絶ち、しかもおそらく首狩り族に食べられたのだろうという話は興味をそそられる。 

 

 こういうタイプの本は様々な取材や調査を行ううちに、次第に点と点がつながっていき、最後に真実は何だったのかその結論をいうパターンが多いように思うが、この本では最初に何が起きたのかが明らかにされる。冒頭でいきなりマイケル・ロックフェラーが遭遇した出来事が生々しく描かれていて、少々面食らってしまった。

 

 

 そして、そういう結論に至った取材や調査の結果が徐々に明らかにされていく。当時、現地にいた西洋人たちの残した資料や、直接聞いた話などが示され、当時の状況、未開の地アスマットの人々の慣習なども紹介され、それらから考えると確かにそうなのかもしれない、という気にさせてくれる。

 

 しかし、それが本当だとしたらマイケルはタイミングが悪い時にやって来て、運悪く被害者になってしまったことになる。彼らの風習からすると被害者が彼である必要は全然なかった。もちろん気の毒に感じるのだが、その一方で現地での彼の言動には御曹司ゆえや若さゆえなのだろう傲慢さも垣間見える。

 

彼が未開の地にいるのが好きなことは明白だが、自分がその経験の一部であることを忘れているようにも思える。彼はアスマットの誰ひとりとも友情を育もうともしなかった。品物を欲しがっただけだ。アスマットの上等な美しい古美術を求めていたが、アスマットの人々には興味を示さなかった。芸術を物そのものと考え、より大きな存在が生み出した物こそ芸術だとは考えていなかった。

p201

 

 彼らがどんな人間かではなく、何を持っているかにしか興味がなかったかのように見える。確かに金持ちっぽい考え方ではある。そもそも彼が御曹司でなければ金銭的にもコネクション的にもこの地に来ることは出来なかったことを考えると皮肉ではある。

 

 様々な資料や証言にあたった著者の調査結果に足りなかったのは、当事者であるアスマットの人々の証言や彼らが持っているであろうマイケルの所持品や骨などの物的証拠。当時を知る人や当事者だろう人物に話を聞いても、肝心な事ははぐらかされてしまう。というわけで著者が取った行動は、彼等と一か月間生活を共にすること。

 

 もちろん何らかの証拠や証言を期待しての事だったのだが、もうこの辺りからは文化人類学のフィールドワークの様相を呈していて、失踪事件は大した問題ではないような雰囲気さえある。彼らと寝食を共にすることで、彼らの世界観、死生観、人生観などを体感し、なぜ人を喰うのか、マイケルの魂はどこへ行くのか、彼らと同じ感覚で理解し語る著者の言葉にはちょっとした感動がある。相手やその文化を理解するという事はこういうことなんだよなという気がした。

 

 タイトルから期待していた話とは違う方向に進んでいったが、異文化で暮らす人たちのリアルな姿を知ることが出来て面白かった。彼らは彼らの世界のリアルを生きている。

 

著者

カール・ホフマン 

 

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

 

 

 

登場する作品

「死んだ鳥」 監督 ロバート・ガードナー

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知恵の七柱 (1) (東洋文庫 (152))

Arabian Sands (Penguin Classics)

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 「上は空、下は泥」 監督 ゲソ― 

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聖なる飢餓―カニバリズムの文化人類学

 「アスマット マイケル・C・ロックフェラーの日誌」 

首狩りと精霊の島―ロックフェラー四世失踪の謎 (1973年) (ペガサスドキュメント)

「スパイ・ゲーム」 フランク・モンテ 

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

「終わりと共に始まって 双子の喪失と治療の回想録」 メアリー・ロックフェラー・モルガン

オズの魔法使い(字幕版)

 

 

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