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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ア・ロング・ウェイ・ダウン」 2005

ア・ロング・ウェイ・ダウン (集英社文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 大晦日の夜、自殺するためにビルの屋上にそれぞれやって来て出会った老若男女4人は、自殺を思いとどまり、その後定期的に会うようになる。

 

感想

 自殺を決意した4人がたまたま出会い、交流を通して再生していく物語だ。冒頭の自殺の名所のビルの屋上で初めて4人が出会うシーンはまるでコントのようだった。先客と交渉したり、先を越そうとしたり、その争いに巻き込まれたりとドタバタで、死にたい者同士が何をやっているのだと笑ってしまう。

 

 こうなってしまうと、もはや自殺する気など失せてしまうのは理解できる。世の自殺してしまった多くの人だって、現場で何かひとつ間の悪いことが起きていれば、気勢を削がれて思いとどまっていたかもしれない。逆に普通なら自殺に至らない状況なのに、すべてのタイミングが完全に一致してしまい、あっさりと自殺を遂げてしまった人もいるはずだ。人生なんて些細な運に左右されてしまう。この日の自殺を取りやめた4人は、人生のどん底同士の連帯感からその後定期的に会うようになる。

 

 

 この4人は、不祥事を起こしたセレブの中年男、親や恋人との人間関係に問題を抱える十代少女、夢破れた青年、植物状態の息子を二十年近く一人で看護する中年女性と、まったく事情が異なるメンバーで構成されている。そのせいか、いたわりと思いやりに満ちた親密なコミュニティーとはならず、なにかと衝突や対立を繰り返し、まとまりがない。これは主に傍若無人な十代少女のせいなのだが、解散寸前のバンドのような緊張感があり、繰り広げられる丁々発止のやり取りが面白かった。そして、なんだかんだで解散とはならず、関係が続いていくのもほっこりする。

 

 一人で考え込むと良くない方向にどんどんと沈んでしまいがちだが、他人の目を通すと案外あっさりとその回避策が見つかったりするものだ。ひとりで閉じこもってしまうとロクなことにならない。孤独は危険だ。それぞれが、奇妙な交流を通して自身の問題と向き合い、解決策を見つけていく様子は、こちらの心まで軽くなっていくようだった。状況が何も変わらなくても、心持ちを変えるだけで人生は違って見えてくる。

 

「あなたたちはお互いに一緒に寝たくてしかたがないんだけどできないのよ、二人ともどうしようもなくストレートだから」

p391

 

 自殺という重いテーマを扱っているが、ユーモアを交えて軽やかにやってのけているのも素晴らしい。 

 

著者

ニック・ホーンビィ

 

 

 

登場する作品

家族の終わりに

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*「プライドと偏見」

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ムーラン・ルージュ (字幕版)

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二都物語(上) (光文社古典新訳文庫)

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シークレット・ヒストリー〈上〉 (扶桑社ミステリー)

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アラバマ物語

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ブランドなんか、いらない

ベル・ジャー (Modern&Classic)

罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)

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「アメリカン・パストラル(American Pastoral: The renowned Pulitzer Prize-Winning novel (English Edition)

「スポーツ・ライター(The Sportswriter: Bascombe Trilogy (1) (English Edition))」

ベル・カント (ハヤカワepi文庫)

ハリー・ポッターと賢者の石: Harry Potter and the Philosopher's Stone ハリー・ポッタ (Harry Potter)

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マーティン・チャズルウィット(上)

「ティリー・トロッター(Tilly Trotter (The Tilly Trotter Trilogy Book 1) (English Edition)

)」シリーズ

「メアリー・アン・ショーネシー(A Grand Man (The Mary Ann Stories Book 1) (English Edition))」シリーズ

 

 

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