「母なる証明」　2009

★★★★☆

あらすじ

　殺人容疑で逮捕された息子の無実を証明するために、真相を探り始めた母親。韓国映画。

感想

　いかにも普通のおばさん風の女性が、広い草原で一人、ユルく踊るシーンから映画はスタートする。最後に意味深にそっと左手を隠すこの一連のダンスシーンは、この時点ではなんのことやらさっぱり分からないのだが、とても印象的な映像でグッと来る。

　知的障害のある息子を過保護なまでに心配し可愛がる母親が主人公。ある日突然殺人犯として逮捕され、警察に言われるがままに自白してしまった息子を救出するために、主人公は事件の真相を探り始める。息子の無実を訴える母親という重たいテーマの物語なのに、基本的にはシリアスながらも、どこかコミカルな雰囲気を漂わせているのがいい。つらく悲しい時や真剣な時でも、滑稽なことが起きてしまうのが人生だ。

　主人公は、おばちゃんならではのコミュニケーション能力を駆使して調査を行い、少しずつ真相に近づいていく。途中の被害者の女子高生の携帯電話やマッコリのくだりは正直よく分からなかったのだが、大筋の流れは掴むことが出来た。そしてついに重要人物を見つけ出し、話を聞きに行った主人公。だが、彼女はそこで思わぬ行動を取ってしまう。一瞬驚いてしまったが、冷静になれば彼女の気持ちはよく理解できる。彼女が欲しかったのはそんなものじゃなかった。

　そんな想定外のことが起きながらも、あれよあれよという間にハッピーエンドが訪れる。都合が良い展開だなと思ってしまいそうになるが、それまでにしっかりと伏線が張られているので文句のつけようがなく、説得力がある。本当はこうなのだが、現実にはあれとあれが組み合さってそうなってしまったのだなと納得ができる。

　そしてまたもやダンスで迎えるエンディング。実際にはあまり目にしたくない光景のはずなのだが、まばゆい逆光の中で踊り狂う母親たちのスローモーション映像はクールだった。ここでもそれまでの鍼の伏線が効いている。彼女たちは何はともあれ子供が無事であれば、多少の問題など忘れて踊ることが出来る。母親とはそういうものなのだろう。冒頭で主人公が意味深に隠した右手の意味も理解できた。最初と最後が見事に決まっている映画で、母親の力強さ、たくましさが伝わってくる。