★★★★☆
あらすじ
地方の堀で囲まれた大邸宅で主人が殺され、シャーロック・ホームズとワトスンは真相解明のために現地に向かう。
感想
前半は、外部からの侵入が難しい大邸宅で起きた殺人事件の捜査が描かれる。暗号解読や偽装など、シリーズの過去の短編の内容を組み合わせたようなストーリーとなっている。
それでも被害者の妻とその友人の共謀を示唆してミスリードを誘うなど、楽しませてくれる展開だ。ただしこれはあまりにもワトスンが主張するので、違うなと勘付いてしまうのだが。それでも真相から注意を逸らすには十分で、意外性のある結末につながっていった。ホームズの言動からまだ犯人が邸内にいるのかと思っていたので、明かされた真相には驚かされた。
そして後半は、シリーズ最初の長編「緋色の研究」と同様に、この事件の引き金となった過去の出来事が語られる。
これもまたアメリカが舞台だが、当時のヨーロッパ人にとってアメリカは何でもあり得るいかがわしい場所に見えていたのだろうな想像してしまう。他の短編に出てくるアメリカ人やアメリカ帰りの人物も、大抵は向こうで後ろめたいことをしていた設定になっている印象がある。
この後半は、松本清張的な暗い過去が明らかになるだけの、どんよりとした話になるのかと思っていたのだが、後半は後半で単体で楽しめるミステリーとなっていた。しかもハードボイルドな雰囲気が漂っていて、どこか犯罪小説のような趣があった。
きっと著者は、自分が単なるホームズ物の作家ではないことを示したかったのだろう。こうやって新しい可能性を提示し、それがちゃんと魅力的な物語に仕上がっているのは流石だ。
「バスカヴィル家の犬」のように怪奇的な要素が入ってくると冷めてしまうところがあるので、個人的にはこういうリアル路線の方が好感が持てる。モリアーティ案件で最後に暗い話になってしまうのが悲しいが、前半後半でそれぞれに堪能できる、一粒で二度おいしい物語だ。
著者
アーサー・コナン・ドイル
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