★★★☆☆
あらすじ
自堕落な生活を送るフリーターの男は、同棲相手に浮気がバレたことで逃げ出し、知り合いの家を転々とするようになる。
藤ヶ谷太輔主演、原田美枝子、豊川悦司ら出演。 三浦大輔監督による同名の舞台が原作。122分。
感想
同棲相手に頼り切りで暮らすいわゆるダメ男が主人公だ。彼女に浮気を詰められ、たまらず咄嗟に逃げ出してしまう。そして友人宅などを転々とする主人公の様子が描かれていく。
最初に転がり込んだ友人宅で、居候のくせに妙に偉そうな態度を取る主人公が面白い。案外、人は他人のわがままを許容してくれるものだ。態度のデカいおじさんが世の中にうようよいるのもそのせいだ。いい人でありたいとか波風を立てたくないとか、わがままを許してしまう原因は色々あるだろうが、主人公のような人間はそんな気持ちにナチュラルにつけこんでくる。
そしてそんな経験を重ねることで、誰ならつけ込めるのか、自然と人を見る目が養われているのだろう。相手がついにキレて怒り出すと、負けじと一矢報いようとするところにもダメ人間らしさが表れていたが、的確にダメージを与える言葉のチョイスにはその観察眼が発揮されていた。
アドバイスは無視し、注意されると逆切れし、気まずくなると逃げてしまう主人公に、行き場がなくなってしまうのは当然だ。
ついに北海道の実家に戻った主人公だったが、ここでもまた逃げてしまう。そして路頭に迷っていたところで、音信不通になっていた父親と再会する。この父親が主人公に輪をかけたようようなダメ人間なのだが、年季が入っているだけに貫禄があってもはやカッコ良かった。言ってることややってることは最低なのに、堂々としているだけに魅力的に見えてしまうのが可笑しかった。よく見る役柄ではあるが、演じる豊川悦司がハマっていた。
そんな父親を見て、主人公は我がふりを直そうと思うのだから彼にも存在意義がある。色んな人がいる社会の良いところだ。主人公よりも彼に興味津々になってしまった。
クライマックスで駄目な自分を何とかしたいと思いをぶちまけた主人公だが、あまりそんな様子が見られなかっただけに意外な感じがしてしまった。咄嗟の反応で逃げるところだけが描かれて、その後冷静になった時に後悔したのか反省したのか、どう思ったのかが描かれていないからだろう。
ここで終わらずにまだその後にもうひと山あるのだが、まだ終わらないのか、長いなと思うだけだった。自業自得な結末だ。
冒頭と結末で何度も主人公が振り返るのは、いつも心を残して生きていることを表していたのだろう。未来でもなく現在でもなく、過去をいつも見ていたら、前向きに生きられないダメ男になってしまうのは必然だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 三浦大輔
原作 「そして僕は途方に暮れる」 作/演出 三浦大輔
出演 藤ヶ谷太輔/前田敦子/中尾明慶/毎熊克哉/野村周平/香里奈/原田美枝子/豊川悦司