★★★★☆
感想
例えば誰かが荒っぽい車の運転をしているのを見た時、あの人は自分勝手な傍若無人な性格なんだろうなと思いがちだが、実際は緊急事態で急いでいるだけなのかもしれない。人は他人の行動を見ただけで、その人の人格を決めつけてしまい、その時の状況については無視しがちだ。いかに状況が人々の行動を決定しているかについて説明し、それを考慮しないことで陥りがちな問題への対処法が紹介されている。
ただどうやら状況を見過ごしやすいのは西洋文化の人々のようらしい。西洋の人々は特定の事象にのみ焦点を合わしてしまうが、東洋の人々はそれらの状況にも注目し、考慮する傾向があるという。そんなにはっきりと違うのかと驚いたが、このような違いを生み出した背景については本書では述べられておらず、こちらにも興味が出て来る。
状況に関する様々な話が取り上げられるが、自分自身のアイデンティティですら置かれた状況に左右されているというのは面白かった。自己の内面をどんなに時間をかけて見つめてみても自分がどんな人間かは分からないが、現在自分の置かれている状況の中で、周囲と比較することによって自分のアイデンティティが見えてくる。
アイデンティティには多様な側面があり、状況が違えば、自己概念の違う特徴が浮かびあがる。ある研究によれば、人間には「それぞれの存在を特有のものにする」観点から自己を捉える傾向があるという。
p132
日本において自分が黄色人種だと強く意識することはないが、アフリカやヨーロッパなど他の人種が大勢を占める地域に行けば、それを強く意識することになるかもしれない。そう考えると「自分探しの旅」というちょっと半笑いで捉えられている行為も、理に適っていると言えるのかもしれない。様々な状況に自分を置くことは、その状況における自分のアイデンティティを浮かび上がらせることになり、多面的に自分というものを知ることになる。
その他、生まれつきとされる男女の違い、運命的なものとされる恋愛も、実は状況の力が大きく働いていることや、人々の抱える無意識の偏見による状況が不公平を生んでいることなどが取り上げられる。特に他意はないが、相手に好意を持たれるための状況については熱心にメモをとってしまった。
今後は「状況」を考慮することで、同じような場面でもこれまでとは違った行動を取ることができるかもしれない。
著者
サム・サマーズ
登場する作品
オフィスのベスト・パートナーになるために―男は火星から、女は金星からやってきた
Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey
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