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「となりの車線はなぜスイスイ進むのか? 交通の科学」 2008

となりの車線はなぜスイスイ進むのか?――交通の科学

★★★☆☆

 

感想

 個人的には渋滞しやすい道路とか、交通事故が起きやすい場所のメカニズムを色々と知りたかったが、どちらかと言うと、ドライバーの心理に焦点をあてて、交通について書かれた本。

 

譲り合いを渋るドライバー、「互恵的利他主義」に基づく関係を持ちたがらないドライバーは、単純に相手を見ないか、あるいは見ないふりをする。恐怖の直進者である。物乞いに対する態度と同じである。アイコンタクトをしない方が、無視しやすい。だからドライバーは、じっと前を向いて信号が変わるのを待つのである。

p51

 

 これを読んで妙に腑に落ちた。道を譲らないドライバーは絶対にこちらを見ない。気づいているはずなのに頑なに前方を見つめている。こちらは譲ってもらえない上に無視されるので腹が立つわけだが、相手は相手で、目を合わせると道を譲ってしまう、自分の弱さと戦うために必死に前方を見つめているわけか。あの不自然なまでの頑なな表情には、そんな決意が込められていたとは。

 

 その他にも、面白いドライバーの心理がいくつも紹介されている。車に乗ると匿名性を感じるために、いつもと違う行動をすることもあるというのは、ネットの匿名性と似ているのかもしれない。オープンカーだと匿名性は低いので、運転マナーが良い傾向があるそうだが、プリウスのような販売台数が多い車と、クラシックカーのようなレアな車のドライバーの運転マナーの違いについても、どうなっているのか気になるところである。

 

 

 そして多くのドライバーが自分は運転が上手いと思っているというのも滑稽な感じがするが、これはドライバーに対するフィードバックがないからだそうだ。フィードバックがあるのは警察に捕まったときだけで、その時ですら運が悪かったと思うだけだ。

 

 それから最近は飲酒運転に対する人々の意識は高くなり、事故を起こしてなくても飲酒運転をしていたと言うだけでかなり厳しい批判を浴びるが、同じように危険な運転であるスピードの出し過ぎには寛容なのはおかしい、という指摘にはなるほどと頷かされる。確かに誰かがスピード違反で捕まったと聞いても、倫理感は何も感じない。

 

 腐敗した社会では交通事故死が多い傾向がある、というのも面白いデータだ。健康に関するデータはあれこれとニュースで観ることがあるが、同様にこういった交通に関するデータももっと発表されるようになると、色々と人々の意識が変わるのかもしれない。

 

 渋滞にならない道路や交通事故が起きにくい車など、様々な研究が行われているが、結局ネックになるのはそれを運転する人間の問題に行きつく、というのは皮肉な結論だ。安全な車を作ればより危険な運転をするようになり、渋滞解消のために道路を増やせば、それより多くの車が増え、さらには意味もなく煽ったり、幅寄せをする不可解な行動をするドライバーもいたりする。結局は、不合理な行動ばかりする人間の実態を突き止めなければ、交通に関する問題は解決しないのかもしれない。もしくは、自動運転などで交通から人間の作用を排除するという手もある。

 

著者

トム・ヴァンダービルト

 

となりの車線はなぜスイスイ進むのか?――交通の科学

となりの車線はなぜスイスイ進むのか?――交通の科学

  • 作者: トムヴァンダービルト,酒井泰介
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/10/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 8人 クリック: 28回
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