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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「仕事と人生に効く教養としての映画」 2021

仕事と人生に効く教養としての映画

★★★☆☆

 

内容

 映画を見ることについての効用を紹介。

 

感想

 序盤にいきなり「映画を見ると得をするから」見た方がいいと述べられていて、だいぶげんなりしてしまった。損得勘定をしないといけないくらいなら別に見なくてもいいだろうと思ってしまうが、著者は非常勤の大学講師をしているとの事なので、学生からこんな事をよく聞かれるのかもしれないし、どれだけ得かを説明すると受けがいいのかもしれない。そう考えるとなかなか複雑なものがあるが、コンテンツ過多の時代なので、こういうことを気にする風潮は世界的なものなのか、日本だけのものなのかは気になる。もし日本だけというなら、悲観的にならざるを得ないような日本の変化が原因になるのだろう。

 

 ちなみに何か所か引用もされているが、池波正太郎が「映画を見ると得をする」という本を書いているようだ。映画好きの人は、紹介される映画のお得な点を、「映画ばっかり見て」と誰かに非難された時の言い訳のテンプレに使えば便利かもしれない。それからこの本は、著者の意見かと思ったら他の本の紹介をしているだけだった、と言うのが割と多い。

 

 映画の効用が述べられた後は、映画の歴史や名画の分析・解説が行われ、これらは興味深く面白かった。特に映画の歴史を読んでいると、今のSNSのショート動画の流行ぶりは映画初期の状況と似ているようにも感じられて、かつては大衆の一部だったが、現在は大衆の全員を巻き込んで映画制作の歴史をくり返しているのかもしれないと考えたりもした。そのうち誰もが気軽に長編映画を撮ったり、もういるのかもしれないがTikTok出身の映画監督が出てきたりするのかもしれない。ただコンテンツが飽和している状態なので、長時間動画が流行るのかは疑わしいが。

 

 

 この本では小津、黒澤、溝口、ヒッチコックら名監督の古い名作を題材に取り上げているが、初心者にいきなりこれを見させるのはハードルが高すぎやしないかと思ってしまった。いざ見始めたら普通に楽しめるとは思うのだが。「海街diary」等の最近の映画も取り上げられてはいるが、もっとここ数年の興行成績上位の映画を取り上げた方が取っつきやすいのではと思ってしまった。この本を手に取るのは、そのあたりの映画くらいは見ようと思っている人だろう。

 

 いろんな所で書かれたものを一冊にまとめた本だからなのかもしれないが、そういう意味で内容がアンバランスになってしまっているようにも感じる。率先して映画を見るような人は、この本の中で紹介されている本を読んだ方がいいのかもしれない。それのガイド本としては悪くない。それから「この本の影響でなるべく映画を見るようになりました」とか言う人がいてもなんかイヤかも。

 

著者

伊藤弘了

 

 

 

登場する作品

荒野のオデュッセイア―― 西部劇映画論

罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)

PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

ノルウェイの森 (講談社文庫)

モンテ・クリスト伯 1 (岩波文庫)

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伯爵夫人 (新潮文庫)

蘆刈(芦刈)」

秘伝 (講談社文庫)

ヒッチコック『裏窓』ミステリの映画学 (理想の教室)

レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実

オズの魔法使い (角川文庫)

 

 

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