BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「アナザヘヴン」 2000

アナザヘヴン

★★☆☆☆

 

あらすじ

 殺した人間の脳みそを使って料理するという猟奇殺人事件が立て続けに起き、犯人を追う刑事。131分。

 

感想

 まるで、みなさんご存じテレビドラマの映画化です、と言わんばかりの、いきなり本題から始まる導入部分。だが別にそういう流れで作られた映画ではないようだ(映画公開と同時に連動するドラマは作られたようだが)。でも登場人物たちが誰なのかすらよく分からない状態で一気に物語の核心に入っていくスタートダッシュは悪くなかった。情報量の多さも含めて、異常な出来事に現場が混乱している様子が良く伝わり、心をざわつかせる。

 

 そしてそのざわついた雰囲気がキープされたまま物語は進む。異常な出来事が起きているのは分かるのだが、それが何なのかはよくわからず不穏な空気が漂っている。だからこそ惹きつけられるものがあって最初は良かったのだが、その状態が長く続き過ぎた。次第に、いつまでやっているのだ、とイライラしてきた。

 

 少しずつ超常現象が関与していることは分かってくるのだが、それがいっこうにどういうことなのか、くっきりクリアに見えてこない。ぼんやりとした曖昧な表現ばかりが続き、じゃあ具体的にどういうシステムでそれが起きているのかはっきりしろ、ただザワザワした気分を出し続けて弄んでいるだけだろ、と言いたくなってくる。

 

  ただ、途中で犯人が変わっていくというのは、映画を飽きさせない上で悪くない設定だ。そんな犯人役のひとり、柏原崇が演じたサイコパスな男は、キャラクターが典型的過ぎてうすら寒かった。こういう意味なく笑ったり踊ったりするクレイジーな犯人像は、当時は新鮮だったのかもしれないが、今見るとやりつくされた感があって辟易とする。今考えると、この時代はこのタイプの犯人象がブームだったのかもなと思ったりした。ちなみに犯人の中で彼だけがスパイダーマンばりのアクションをしていて、だからどういう設定なのだ?、と苛立たせる要因の一つになっている。

bookcites.hatenadiary.com

 

 それから、まだ悪い部分を見せていなかった松雪泰子演じる女医が、主演の江口洋介演じる刑事にいきなりボッコボコにされるシーンはなんか笑ってしまった。

 

 

 延々とザワザワした雰囲気だけを見せつけられて、イライラから最終的にたどり着いた感想は「長過ぎ。まだ終わらないの?」だった。雰囲気だけでやろうとしているのだから、長くやったらバレるという事に気づくべきだった。振り返って見るとなんでそんなに長くなってしまったのかがよく分からない内容で、もっとコンパクトに出来たはずだ。ザワザワのための演出が冗長の要因だったとしたら皮肉だが。最後は純愛、というのも取って付けたような結末で、なんだかなと思ってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 飯田譲二

 

原作 新版 アナザヘヴン〈上巻〉

 

出演 江口洋介/市川実和子/柏原崇/六平直政/井田州彦/諏訪太朗/加藤晴彦/阿藤快/荒川良々/真鍋由/乾貴美子/京極夏彦/綾辻行人

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

 

音楽 岩代太郎

 

アナザヘヴン

アナザヘヴン - Wikipedia

アナザへヴン | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「ゼイリブ」 1988

ゼイリブ (字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 真実が見えるサングラスで地球が宇宙人に支配されていることを知った男は、仲間と共にレジスタンス活動に参加する。

 

感想

 宇宙人に地球を侵略されるという物語はよくあるが、サングラスをかけると支配された本当の地球の姿が見えるという設定が面白い。地球人に扮した宇宙人が見つけられるだけでなく、宇宙人が地球人の潜在意識に向けて発しているメッセージを見ることが出来るというアイデアが独創的だ。町中で見かける普通の広告や雑誌などをサングラスで覗くと「考えるな」「従え」「買え」「権威に逆らうな」等という言葉が見えてくるというもの。単なるエイリアン映画ではなく、その裏には大量消費社会に対する皮肉や、大衆を飼いならそうとする支配層に対する批判など、社会に対する痛烈な風刺が込められているように感じられる。

 

 ふとしたきっかけからそのサングラスを手に入れて、そんな真実を知ってしまった主人公。まず驚いて戸惑うのはよく理解できたのだが、その次にいきなり宇宙人を殺し始めたのはさすがに物分かりが良すぎというか思い切りが良すぎて、ちょっとついていけなかった。しかも、なぜか若干半笑い。いきなり民間人の女性を人質にとって逃亡まで図るイケイケ具合だ。だが女性宅でそんな勢いをぶった切る出来事がいきなり起きて驚いてしまった。このシーンはここ最近見た映画の中でも一番衝撃的だったが、その後のレジスタンス達のアジトでも同じように突然の出来事で驚かされるシーンがあり、映画的楽しさを味わうことが出来る。どちらも何の前触れもないのが良い。

 

 

 一旦冷静にさせられた主人公は、仕切り直して今度は黒人の同僚を仲間に引き入れようとする。それに対して、家族のためにも余計な事に巻き込まれたくない同僚はそれを拒み、サングラスをかける、かけないで大げんかになってしまう。やがては殴り合いにまで発展するのだが、このケンカが異常に長い。正直、なんでそこまでしつこく必死に戦うのか疑問だったのだが、後で調べたら主人公を演じるロディ・パイパーは人気プロレスラーだったそうで、ここは彼の見せ場だったようだ。この格闘シーンがプロレスぽかったのも、主人公が妙にガタイが良かったのも、それで合点がいった。

 

 それから同僚が迷っていたような、知らない方が良かったかもしれない本当の現実を受け入れるか、それとも知らないまま嘘の世界で生きていくかという選択は、映画「マトリックス」でもあった事を思い出し、このテーマは良くあるものなのかと考えたりしていたのだが、実は「マトリックス」はこの映画の影響を受けているらしい。そういえばマトリックスの登場人物たちは皆サングラス姿が印象的だったが、それもこの映画からの影響なのか。

マトリックス (字幕版)

マトリックス (字幕版)

  • キアヌ・リーブス
Amazon

 

 アイデアも面白く、SF的な映像表現も意外としっかりとしている映画。ただ個人的には、アイデア一発でストーリーが雑なところが気になってしまう。ジョン・カーペンター作品は、リメイク作品や「マトリックス」のようなオマージュ作品の方が、オリジナルを超えて面白くなる印象がある。

bookcites.hatenadiary.com

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/音楽    ジョン・カーペンター

*脚本はフランク・アーミテイジ名義

 

出演 ロディ・パイパー/キース・デイヴィッド/メグ・フォスター

 

ゼイリブ (字幕版)

ゼイリブ (字幕版)

  • ロディ・パイパー
Amazon

ゼイリブ - Wikipedia

ゼイリブ | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「14の夜」 2016

14の夜

★★★☆☆

 

あらすじ

 セクシー女優が近所のレンタルビデオ屋にやって来るとの噂を信じ、深夜に集まった冴えない中学生たち。113分。

www.youtube.com

 

感想

 舞台は1987年の田舎町だ。田園風景が広がり古い日本家屋が登場したりするのに、大きなアーケードの商店街もあっていまいちどんな規模の田舎なのか判然としない部分はあるのだが、80年代の描写に拘っていることが感じられて好感が持てる映画だ。レンタルビデオ屋に貼ってあるポスターのチョイスや、なめ猫やジャッキー・チェン、ビーバップハイスクール等も登場し、映像に映るものすべてに80年代感が漂っている。主人公の部屋のチープなベッドなどもいかにもな感じがして、徹底しているなと感心した。

 

 物語は14歳の少年たちの一晩の物語を描いた青春映画定番のストーリーだ。セクシー女優が田舎のレンタルビデオ屋に深夜24時にやって来るというあり得ない噂を信じて集まってしまうところが、年頃の中学生という感じがしていい。どんな馬鹿げたことでもやれば何か得られるものがある、といったところだろうか。予想外の出来事が次々と起こる中で、変化していく主人公の心境がコミカルに描かれていく。

 

 ただ起こる事件のほとんどが、だいたいヤンキー案件なのが気になった。確かに当時の世相ではあるし世の常でもあるのだが、シンプルに力がものを言う話ばかりで少々げんなりした。最後に主人公がそんな状況にキレて爆発するところは良かったが、その後の不良と心を通わせるシーンは嘘っぽい。その他では、下っ端扱いしていた同級生に反逆される一連の展開が面白かった。

 

 

 それから、登場する中学生たちの演技がわざとらしくなく、自然なのが良い。特に決して男前ではない、どこにでもいそうな中学生といった風貌の主人公の、まるで素の中学生のような演技は、リアリティがあって素晴らしかった。

 

 なかなか良くできた青春映画に仕上がっていたと思うが、冗長に感じてしまう部分が多かったのが残念なところだ。上映時間を100分以内に収められていたら、もっと印象は良くなっていただろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 足立紳

 

出演 犬飼直紀/濱田マリ/門脇麦/和田正人/浅川梨奈/健太郎/青木柚/中島来星/河口瑛将/稲川実代子/後藤ユウミ/駒木根隆介/内田慈/坂田聡/宇野祥平/ガダルカナル・タカ/光石研

 

14の夜

14の夜

  • 犬飼直紀
Amazon

14の夜 - Wikipedia

14の夜 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「愛は静けさの中に」 1986

愛は静けさの中に (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 片田舎のろう学校に赴任してきた教師は、そこで働く若い聾唖(ろうあ)の女性と出会う。原題は「Children of a Lesser God」。

 

感想

 片田舎のろう学校に赴任してきた主人公が、生徒に熱心に教えようとするのは言葉を発声すること。この世界のことは詳しく知らないが、発声は重要な事とされているのだろうか。そんな疑問で最初はこの主人公のひとりよがりの情熱かと思ったのだが、考えてみれば世の中のほとんどの人は手話など出来ないわけで、そうなるとコミュニケーションを図るために発声が出来るに越したことはないというわけか。やりたくない人には無理強いせず、でもちゃんといつでもウェルカムな態度を示し続ける彼の授業は好感が持てた。

 

 そんな学校で主人公は、かつての卒業生で今は校内の掃除の仕事をする聾唖の若い女性に出会う。心惹かれた主人公は熱心に話しかけるが、過去のつらい経験から固く心を閉ざしている彼女からは冷たい反応しか返ってこない。ただ、初めて二人が教室で向き合った時、彼女はつっけんどんな態度を取りながらも、足の組み方などのしぐさが主人公とシンクロ(ミラーリング)していたので、本心では最初から彼に気があったという事なのだろう。多少の衝突はありながらも割とあっさりデートに応じ、意外と簡単に付き合い始めてしまった。互いに聴くことも話すことも出来ない水の中での愛の告白は、象徴的で良いシーンだった。

 

 

 このままハッピーエンドにすることも出来たのだろうが、そうなると聾唖の女性を健常者の主人公が助けたという一方的な話になってしまう。主人公が、彼女に発声の練習をするようしつこく迫ったり、仕事を辞めさせて自分の家に住まわせたりするのは、悪意はないにせよ、ずいぶんと押しつけがましいなとも思っていたので、ここから彼の意識の問題にフォーカスを当てていったのは上手い展開だった。前半で終わらず、後半の互いに自分を見つめ直す時間があったからこそ、良いエンディングを迎えることが出来たといえる。

 

 聾唖の世界は多くの人にとっては遠い世界のように思えるかもしれないが、言葉の分からない外国に行けば、誰もが似たような体験をするはずだ。会話に入っていけずに黙っていたり、片言の言葉で拙く話していたりすると、頭の悪い人間のよう扱われたりする。発音が変だったり文法が間違っていたりして笑われ、傷ついて心を閉ざしてしまうことがあるのも似ている。そして、逆に日本語の出来ない外国人に対してそういう態度を取ってしまう人もいる。そういう事を思い浮かべながら観ていたら、映画の中のコミュニケーションの問題が全然他人事のように思えなかった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ランダ・ヘインズ

 

原作 ちいさき神の,作りし子ら (1981年)

 

出演 ウィリアム・ハート/マーリー・マトリン/パイパー・ローリー/フィリップ・ボスコ

 

愛は静けさの中に (字幕版)

愛は静けさの中に (字幕版)

  • ウィリアム・ハート
Amazon

愛は静けさの中に - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「楽園」 2019

楽園

★★☆☆☆

 

あらすじ

 少女失踪事件が起きたある小さな集落の人々のその後。

 

感想

 冒頭からしばらく、登場人物たちの挙動不審で不自然な言動が続く。外国人役のたどたどしい日本語だったり、心を閉ざした青年のぎこちない動きだったりと、妙に引っかかるわざとらしい挙動が目立ち、スッと物語に入っていけない。つかみは大失敗、といったところだ。おかげで映画に対して否定的な感情が芽生えてしまい、その後は何があっても心のリミッターが気分の盛り上がりを押さえつけてしまった。

 

 そして残念なことに、この低調な流れは最後までずっと続く。それなりの出演者が揃っているはずなのに、皆の演技が下手くそに見えて仕方がない。あれ、この人までこんな感じになっちゃうの?と驚いてしまう事もしばしばだった。だからこれは役者の問題というよりも演出の問題なのだろう。その状況に相応しくないようなセリフと動きをあてがってしまっている。そしてその人物がなぜそのような言動をするのかも説明されないので、更に不自然さは際立ってしまう。中でも杉咲花演じる女性が、なぜ村上虹郎演じる同級生を頑なに避けようとするのかがよく分からなかった。失踪事件の関係者という自分の過去を知っている人間だから避けようとしたという事なのか。彼女とその両親の関係がほぼ描かれないのも謎だった。

 

 

 映画は、少女の失踪事件の真相や佐藤浩市演じる男が起こした事件の詳細などは直接しっかりとは描かない。問題なのは事件そのものではなく、それに対する人びとの行動だという事を表現したかったのだとは思うが、そこに至る過程も曖昧にしか描いていないので、話がとても分かりにくいものになってしまっている印象だ。杉咲花演じる女性が「楽園」の担い手になる、みたいな結末だったが、彼女のどこにそんな可能性を感じられるのかはよく分からなかった。全体的に物語の点と点を上手くつなげることに失敗してしまっている気がした。

 

 この映画では、地方の片田舎でどうにもならない出来事が起きた時、住人達がスケープゴートや村八分を使って対処しようとした姿が描かれている。だから田舎は怖いよなと思ってしまうが、よく考えてみればこれはどこででも見られる光景だ。テレビやネットでも、叩いていい人がいつの間にか設定されて、皆で叩いている様子はよく目にする。そういう人たちの心理には、皆と一緒になって叩いていれば、自分にその矛先が向けられることはないという自己防御の気持ちが働いているように感じられる。皆と違う意見を言ってしまうのではないかと不安に思うよりも、皆と同じ事を言っていれば間違いないという安心感を重視している。スケープゴートなどはいじめと同じで、決してなくならないものなのかもしれないが、それをしていることに無自覚な人が多いのは恐ろしい事だよなと思ってしまう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 瀬々敬久

 

原作 「青田Y字路」「万屋善次郎」 「犯罪小説集 (角川文庫)」収録


出演 綾野剛/杉咲花/村上虹郎/片岡礼子/黒沢あすか/石橋静河/根岸季衣

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

 

楽園

楽園

  • 綾野剛
Amazon

楽園 (2019年の映画) - Wikipedia

楽園 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「終わりで始まりの4日間」 2004

終わりで始まりの4日間 (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 母親の葬儀のために9年ぶりに故郷に戻って来た青年は、一人の女性と出会う。

www.youtube.com

 

 原題は「Garden State」。

 

感想

 冒頭からユーモアを交えた表現で、主人公の青年の現状を描き出していく。面白くて笑えるのだが、勝手にナタリー・ポートマンがメインの映画だと思っていたので、彼女が出てくるまでは少し落ち着かない感じもあった。そして、割と時間が経ってからようやく彼女は登場する。ちなみに後で知ったが、主演のザック・ブラフが監督・脚本もやっているので、完全に彼の映画だった。

 

 行き詰った主人公の前に現れるナタリー・ポートマン演じる謎の女性。精神科のクリニックで出会っただけあって、最初はヤバさが目立つ変わった女性という印象だったが、次第に普通の女性に見えてきた。それから、ラグビーのヘッドギアをなぜ持っているのか、その切ない理由をあえて明るく語る彼女の姿は可愛らしかった。主人公は主人公で問題を抱えているのだが、そんな明るく振る舞う彼女との出会いが彼にポジティブな影響を与えていく。

 

 冒頭から主人公が少しおかしいのは伝わっていたが、それがなぜなのかは中盤にようやく明かされる。そしてその理由はなかなかショッキングなものだった。それまで、母親の葬儀なのになぜリアクションが薄かったのか、父親とよそよそしいのはなぜなのか、どうして長い間故郷に戻らなかったのか、など色々と不思議だったのだが、一瞬にして理解できてしまった。彼が言うように気まぐれや偶然、そして不運が幾つも重なって不幸な事件が起きてしまい、一生背負わなければならい十字架を背負ってしまった事になる。想像するだにかなり辛い現実だ。

 

 

 久々に戻った故郷でおかしな彼女と出会い、やがて人生を前向きに生きるきっかけをつかんだ主人公。でもそれは彼女のおかげというよりもまず、9年ぶりの再会なのに主人公を温かく迎えてくれた友人の存在の方が大きかった気がする。彼がいなければ、ただ主人公は彼女と二人きりでこじんまりと過ごすだけで、大きな変化は起きなかったかもしれない。変な奴なのに、主人公のために何かしてやろうと思いやる友人の心に胸が熱くなった。

 

 シリアスで深刻な内容を、とぼけたユーモアを交えながら軽いタッチで描いたよく出来たヒューマンドラマだ。心温かな気持ちになれた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/出演 ザック・ブラフ

 

製作総指揮 ダニー・デヴィート/マイケル・シャンバーグ/ステイシー・シェア

 

出演 ナタリー・ポートマン/ピーター・サースガード/イアン・ホルム/ジーン・スマート/メソッド・マン/アン・ダウド/ロン・リーブマン/デニス・オヘア/マイケル・ウェストン/ジム・パーソンズ

 

音楽 チャド・フィッシャー/アレクシ・マードック

 

終わりで始まりの4日間 - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「僕らは歩く、ただそれだけ」 2009

僕らは歩く、ただそれだけ [DVD]

★★★☆☆

 

あらすじ

 恋人がニューヨークに行ってしまって落ち込むカメラマンの女は、ある日ふらりと地元に立ち寄る。元はSPANK PAGEの宣伝用映像として撮影されたもの。菅野ぱんだの写真集「1/41 同級生を巡る旅」にインスパイアされたものでもある。

www.youtube.com

 

感想

 この映画がどういう経緯で作られたのかはよく分からないが、長尺のミュージックビデオとして作られたものに素材をつけ足して映画化したという事なのだろうか。ドラマチックな出来事はたいして起こらず、ミュージックビデオらしい淡々とした薄めの物語となっている。登場人物たちの心情も割と言葉で説明しちゃう親切設計でもある。物語を楽しむというよりも、いろんな安藤サクラを楽しむ映画と言えるかもしれない。見ていてふと思ったが、安藤サクラは映画の中でだらだらしがち。

 

 恋人がニューヨークに行ってしまい一人になった安藤サクラ演じる写真家の主人公が、カメラ片手に故郷に戻るというストーリー。主人公は、時おりカメラを構えながらフラフラと歩き続ける。道で出会った子供や主婦、店の人などにもカメラを向け、そしてずんずんと学校の中にも入って行ったりするのだが、これは彼女が女だから成立するのでは?と思ってしまった。これが男だったら怪しい人扱いされて警察沙汰になりそうな気がする。でもこういう写真を撮るカメラマンというのはだいたいこんな感じだろうから、男女限らずカメラマンは人柄がものを言うのかもしれない。この主人公も人と接するときはやたらヘラヘラして、警戒心を抱かせないようにしていた。

 

 

 恋人と離れ離れになった寂しさを我慢していた主人公が、ついに感情を爆発させた運動場のシーン。ここで物語の内容とシンクロするようなSPANK PAGEの曲「koi」も流れて、ミュージックビデオとしては一区切りがついた感があった。関係ないが最近の日本のアニメ映画はこういう形式が多くて辟易している。この後、主人公がかつての同級生たちの写真を撮り始めるのは、映画用につけ足した部分なのかなという気がした。

bookcites.hatenadiary.com

 

 ラストは彼女の撮った写真をスライドショー的に流しながらエンディング。使われたのが同級生の写真だったのは、この映画が写真集「1/41 同級生を巡る旅」にインスパイアされたからでもあるし、かつて同じ時間を過ごした仲間が今はそれぞれの道を歩いている、だから自分も頑張ろうという事でもあるのだと思うのだが、ちょっと取って付けた感があった。どちらかと言うとこれよりも、主人公が道すがらに撮っていた街歩きのスナップ写真が見たかった。

1/41 同級生を巡る旅

1/41 同級生を巡る旅

Amazon

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 廣木隆一

 

出演 安藤サクラ/柄本佑/菜葉菜/高良健吾/安藤玉恵/櫻井りかこ

 

音楽 SPANK PAGE

 

僕らは歩く、ただそれだけ - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「ANON アノン」 2018

ANON アノン(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 人々の視覚情報などまで保存・管理され、事件が起きてもすぐに解決する監視社会。しかし、当局に情報がなく関知できない匿名の女が関わる連続殺人事件が起き、刑事が真相を追う。

 

感想

 とても物静かで落ち着いた雰囲気の映画。そう聞くと眠くなりそうな映画なのかと思ってしまうかもしれないが、ビンテージカーやミッドセンチュリー家具など洒落た小道具や大道具・セット等が登場し、映像も美しく惹きこまれてしまう。音楽も良く、センスの良さが感じられる映画だ。後で調べたら「ガタカ」を撮った監督だった。

ガタカ (字幕版)

ガタカ (字幕版)

  • イーサン・ホーク
Amazon

 

 自分が見ているもの、いわゆるPOV視点の映像は、記録、保存されて当局に監視されている社会。そして目に映るものすべてに関する情報が同時に表示され、ものの名前や相手の年齢・経歴などが瞬時に分かるようになっている。さらには動画を見たりメッセージの送受信も出来たりして、目が一種のモニタースクリーンのようになっている。なかなか興味深い装置で便利そうだが、常に歩きスマホをしているみたいで煩わしそうでもある。

 

 ミーティングで同じ映像をそれぞれ目のスクリーンで確認しているときは、傍から見ると虚空を見つめる痴呆の集団のようでもあり、ちょっと面白かった。この社会では、ただボーッとしていても熱心に仕事をしていると勘違いしてくれるのかもしれない。振り返ってみると、この映画では目の中にディスプレイがあるので普通のディスプレイはまったく登場しておらず、ちゃんとした世界観で徹底しているなと感心した。

 

 クライヴ・オーウェン演じる刑事が、殺人事件に関与したと思われるが当局のデータベースに全く記録のない謎の女を追う物語。しかしおとり捜査のためとはいえ、刑事は売春したりドラッグをやったりとなかなかのやりたい放題だ。倫理観はどうした?と言いたくなるが、プライバシーを失くしてしまった監視社会の人間なので、どこかで感覚が麻痺してしまっているということなのかもしれない。刑事が少しずつ謎の女と距離を詰めていく過程は悪くなかった。

 

 

 ただラストで事件の真相がついに明らかになった時は、あさっての方向から急に別の話がやって来たような感じで呆気にとられてしまった。そもそも犯人がちゃんと仕事をした後に依頼者を殺すのが不可解だったが、これだったらなぜわざわざ殺す必要があったのか?もっとやりようがあったのでは?などと疑問が湧いてきて、ますますよく分からなくなってしまった。

 

 そして監視社会に対する刑事の「知られて困る事なんてないし、それで安全な社会になる」という言葉と、謎の女の「知られて困る事なんてないが、だからといってわざわざ教えたくない」という言葉は、プライバシーに関する議論では定番の対立する意見で、凡庸すぎてちょっとがっかりした。そして正直に告白すると、中盤で若干眠たくなる瞬間もあった。

 

 この映画は未来のディストピア社会を描いているのに、妙にタバコを吸うシーンが多くて気になったが、あれは記憶や記録なんてタバコの煙のようにあやふやなものだという暗喩なのだろう。記録や記憶を頼りにすれば間違いないと思い込んでいるようだが、そんなの簡単に書き換えられたり消したりできちゃうものなんだよ、一旦体内に取り込んだその記録や記憶も、吐き出したときには刻々と変化してしまっているかもしれないよと警告しているかのようだった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 アンドリュー・ニコル

出演 クライヴ・オーウェン/アマンダ・サイフリッド/コルム・フィオール/ソーニャ・ヴァルゲル

 

音楽 クリストフ・ベック

 

撮影 アミール・モクリ

 

ANON アノン(字幕版)

ANON アノン(字幕版)

  • クライヴ・オーウェン
Amazon

ANON アノン - Wikipedia

ANON アノン(R15+) 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「タクシー運転手 約束は海を越えて」 2017

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 大金に釣られ、ドイツ人ジャーナリストを軍事弾圧真っ只中の光州へ連れていくことになったタクシー運転手。実話を基にした映画。

光州事件 - Wikipedia

 

感想

 タクシー運転手の主人公は、デモで渋滞が起きると舌打ちをしながら引き返すような男だ。そんな男が大金の報酬に目がくらみ、軍事弾圧が行われているらしい光州の実情を探りたいドイツ人ジャーナリストを現地に連れていく。まずは金さえ手に入ればいいという主人公の軽薄な態度がコミカルに描かれる。

 

 だが現地に入り、実際に軍隊が市民に暴力をふるう姿を目の当たりにすると、段々とシリアスな雰囲気が漂い出す。無慈悲に殴る蹴るを繰り返すなど、なかなかの生々しい映像で、観ているだけで辛くなってくる。自国を守るための軍隊が国民に向かって危害を加える様子はどう考えても矛盾に満ちていて、なんともいえないやるせなさがある。これは誰のために、そして何のためにやっているのだと憤りが湧いてくる。ヘラヘラしていた主人公の顔も次第に真顔になっていく。

 

 

 それでも一度は娘のためにソウルに戻ろうとした主人公だが、思い直し再び光州に引き返すシーンは印象的だった。一度真実を知ってしまったら、もはや今まで通り、普通に暮らすことは出来ないという事だろう。主人公がそれまでの他人事ではなく、当事者として行動するようになっていく姿には胸が熱くなった。

マトリックス (字幕版)

マトリックス (字幕版)

  • キアヌ・リーブス
Amazon

 

 それから、知り合った現地のタクシー運転手の仲間たちが、普通のおじさんでしかないのに急にカッコ良く見えてくる。韓国ではタクシー運転手という仕事に特別な意味や使命感があったりするのだろうか。ただ彼らだけでなく、主人公の周りにいる人々がなんだかんだで皆いい人たちで、ほっこりとした気分にさせられた。庶民が連帯して、助け合って生きていることが良く伝わってくる。

 

 この映画では、何も知らなかった主人公が光州で起きていることを目にした時の、異世界にやって来てしまったかのような呆気にとられた表情が印象的だったが、それだけ軍事政権による情報統制は効果的だったという事だろう。今でも政府は何かと情報を隠したがる。

 

 だが今は情報過多の時代なので、少しフェーズが変わってきたのかなという気がしないでもない。毎日刺激的なニュースが大量に流れる世の中では、すべてに当事者意識を持っていては身が持たない。そのおかげで、逆に当初の主人公のように世間の人々の見て見ぬふりをする技術が上がってしまっているような気がする。

 

 そんな状況でこれからの社会運動はどのようになっていくのかは興味がある。運動はネットで、という事になるのだろうが、それでもやっぱり不満を持った大衆が集まることは、権力者にとって一番怖い事のような気もする。

 

 自国の負の歴史にちゃんと向き合えるのは偉いし、それをこうやってエンターテイメント作品として昇華できるのはすごいなと素直に感心した。

 

スタッフ/キャスト

監督    チャン・フン

 

出演 ソン・ガンホ/トーマス・クレッチマン/ユ・ヘジン/リュ・ジュンヨル

 

タクシー運転手 約束は海を越えて - Wikipedia

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~ 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「狼たちの報酬」 2008

狼たちの報酬(字幕版)

★★☆☆☆

 

あらすじ

 銀行員、ギャングの手下、歌手、医師らの人生が交錯する物語。原題は「The Air I Breathe」。97分。

 

感想

 様々な人物が登場し、彼らの人生が少しずつ交錯して織りなす物語。うまくいけば「パルプ・フィクション」のようにめちゃくちゃ面白くなったのだろうが、これは明らかに失敗している。やりたいことは分かるのだが、上っ面だけでまるで中身が伴っていない。

 

 まず各エピソードの主人公たちのことがしっかりと描かれていないので、観ていてもあまり話に身が入らない。フォレスト・ウィテカー演じる銀行員は真面目一筋でやって来たのなら相当貯金はあるのでは?とか、サラ・ミシェル・ゲラー演じるデビューしたての歌手は実際どのくらいの人気があるの?とか、次々と気になることが出てくるのだが、それに答えてくれることはない。テンポを重視したのかもしれないが、要所は押さえておいて欲しかった。その他にもケヴィン・ベーコンやアンディ・ガルシア、ブレンダン・フレイザーらも出てくる豪華な出演陣なのにもったいない。

 

 

 そして、それぞれのエピソードがどれもいまいちで、ありがちというか、中途半端というか、思わせぶりなだけで実際のところあまり大したことがなく、面白みに欠ける。それでも最初はテンション高く描かれていたのでまだ良かったが、中盤以降は一気にトーンダウンしてダレてしまい、観るのがだいぶしんどかった。97分しかない映画なのに、めちゃくちゃ長く感じてしまった。

 

 ラストは上手くまとめたと言えるのかもしれないが、それまで皆でつないできた物語がなぜ女性歌手に集約されるのかがよく分からなかった。そもそも彼女は売れたくて、人気者になりたくて歌手になったはずだろうに(これも説明がないのでよく分からない)、マネージャーが変わったくらいでどうしてそんなに嫌がるのかがよく分からなかった。契約書が譲渡されただけなので契約内容自体は変わらないはずだ。自分から人が去っていくのが悲しいと言いたいのだろうが、それとは別にきっと夢だっただろう歌手として頑張れよ、と思ってしまった。それなのにあのエンディング。ハッピーエンド風だったが、それはハッピーエンドなのか?と思ってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ジェホ・リー

 

出演 フォレスト・ウィテカー/ブレンダン・フレイザー/サラ・ミシェル・ゲラー/ケヴィン・ベーコン/アンディ・ガルシア/ジュリー・デルピー/ジョン・チョー/ケリー・ヒュー/テイラー・ニコルズ/トッド・スタシュウィック/ジョン・バーンサル/クラーク・グレッグ

 

音楽 マーセロ・ザーヴォス

 

狼たちの報酬(字幕版)

狼たちの報酬(字幕版)

  • ケヴィン・ベーコン
Amazon

狼たちの報酬 - Wikipedia

狼たちの報酬 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「デッド・オア・ラン」 2016

デッド・オア・ラン(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 立案した犯罪計画を販売することで生計を立てる男は、ある事件で何者かにハメられて警察とギャングに追われることになり、疎遠だった娘を連れて逃亡を図る。

www.youtube.com

 

感想

 ギャングと警察に追われることになり、疎遠だった娘を連れて逃げる主人公。父親の身勝手な行いに娘が反発し、最初はギクシャクしていた父娘関係だったが、逃亡生活の間に互いの理解が深まり、次第に絆が生まれていく。娘役を演じるヘイリー・スタインフェルドは、2014年の映画「ラストミッション」でも殺し屋の娘という同じような役柄を演じていて、どうして立て続けに似たような役を引き受けたのか謎だ。だが、父親に反発するいかにも反抗期の娘、といった雰囲気が良く出ていて好演している。

bookcites.hatenadiary.com

 

 そんな娘を常に愛して気にかけながらも、裏稼業の男だからという理由で自重し、遠くから見守るだけだった主人公を演じるのは、ヴィンス・ヴォーンだ。彼が完璧な犯罪計画を立てることが出来る切れ者だというのはまだ分かるとして、それと同時に強いというのは納得できない。

 

 彼は何処からどう見ても筋肉ムキムキの精悍な体つきなんかではなく、中肉中背で二重あごのもっさりとしたおじさんだ。そんなおじさんが、ガタイの良いシャープな男たちを圧倒する、というのはさすがにリアリティを感じなかった。一応は体を鍛えている描写はあったが、全然強そうじゃない。それからネタにしていたが、やっぱり彼の変な髪型が気になってしまって、どこか集中できないところはあった。本人は本気であの髪型を気に入っていたという事なのだろうか。

 

 主人公は娘との絆を深めつつ、窮地に陥った自身の状況を打開するためにことの真相を探ろうとする。立案した犯罪計画を売って生計を立てているくらいなのだから、彼はそのあたりは用意周到に、万一の場合に備えてリスクヘッジをしながら動いているのかと思ったが、案外そうでもなくて肩透かしを食らった気分になる。その場しのぎのアドリブで何度か危機を脱していくばかりで、どう考えても臨機応変というよりも行き当たりばったりと言った方がふさわしいような運頼みの要素が強い。たまたま相手の気が逸れる出来事が起きたとか、たまたま銃弾が当たらなかったとか、そんなのばかりだった。

 

 

 そしてついに窮地を脱したクライマックスはなかなか良く出来ていた。だがこれもよく考えると運頼み感が強い。確実に相手の銃弾を避けられる保証はどこにもなかった。父娘の関係を描いた部分はほっこりするし、コメディ部分も面白く、少し洒落た雰囲気も悪くはないのだが、常にどこかモヤモヤしたものが付きまとってスッキリせず、手放しでは楽しめない感じの映画となってしまっている。

 

スタッフ/キャスト

監督    ピーター・ブリングスリー

 

原作 Term Life (English Edition)

 

製作/出演 ヴィンス・ヴォーン

 

出演 ヘイリー・スタインフェルド/ビル・パクストン/ジョナサン・バンクス/マイク・エップス /ジョルディ・モリャ/シェー・ウィガム /ジョン・ファヴロー/ウィリアム・レビー/タラジ・P・ヘンソン/アナベス・ギッシュ/テレンス・ハワード /ケイン・ヴェラスケス/マヌエル・ガルシア=ルルフォ/ブレント・ブリスコー

 

デッド・オア・ラン - Wikipedia

デッド・オア・ラン | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」 2019

オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 資金難に苦しむヒマラヤ救助隊チームは、エベレスト山頂付近に墜落した飛行機から機密文書を回収してほしいという怪しげな依頼を引き受けることになる。

www.youtube.com

 

感想

 エベレストを舞台に繰り広げられる雪山アクション映画だ。頂上付近の飛行機墜落現場まで案内することになった救助チームが、同行した依頼者たちに次々と襲われるストーリーとなっている。大まかなプロットとしては、よくあるパターンではあるが盛り上がるだろう展開で、そんなに悪くないとは思うのだが、細かい設定が駄目すぎる。まず依頼者が怪しげな連中だと勘付いていたわけだから、もっと警戒しろよと思ってしまった。機密文書を回収して用が済んだら消されるかも、ぐらいは想像できそうなものなのに、あまりにのんき過ぎた。

 

 そして大した見せ場もなく呆気なく倒されていくメンバーたち。みんな相手の意図に気づく前に襲われ、少し抵抗するくらいしかできなかったので、なんだか間抜けな感じがする。一人くらいはそれでよかったのかもしれないが、残りはせめて相手の意図に気づいた上で対決して欲しかった。

 

 それにメンバーのほとんどは、長時間登場する割には表面的なキャラクターしか描かれておらず、なんとなくそこに居るだけという印象になってしまっていてもったいない。ただ、もう助からないと悟ったヘリ操縦士が、共倒れを避けるために自分を介抱するヒロインの女性隊員に「君が「必ず戻ってくる」と言って下山してくれれば納得するから」と自分を見捨てるよう促すシーンは、よくあるシーンにひねりが加えられていて良かった。

 

 

 細かいストーリーはダメダメだったが、雪山アクションとしては普通に見応えがあり、単純に登山する様子を見ているだけでも面白かった。ただ、無理やり見栄えのする厳しいルートを取っているのでは?という疑念もないではない。いくらなんでも一発勝負でミスれば一巻の終わり、みたいなルートを普通は取らないだろう。もっと安全なルートがあるはず、と思ってしまうが、まあ映画なので許容範囲だ。

 

 すべてが終わって迎えるエンディング。すこし不穏な空気が漂っていたので、何か驚愕の新事実が明るみになるのか、大どんでん返しかと身構えたのだが、ただ感傷に浸っていただけだということが分かってズッコケた。たっぷりと時間を使って思わせぶりな事をしたわりには何もない。それにヒロインが最後に取った行動を知った時には、他の隊員たちが彼女のためにした命がけの行動は一体何のためだったのだ?隊長のメッセージをちゃんと聞いていなかったのか?と説教したくなるような、悪い意味での驚きがあった。

 

 そしてこの映画の最大の問題は、冷静に考えるとこの物語で起きた事はすべて無意味だったのでは?と思えてしまう事だ。彼らは多くの犠牲を払うことになったが、特に何かを得たわけではないし、彼らが依頼を引き受けなければ依頼者たちはそもそも何も出来ず、目的を果たすことは出来なかったわけだから、何かの危機を救ったわけでもない。となると彼らはする必要がなかった余計な事をしただけという事になり、なんだか空しさだけが心を満たす。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ユー・フェイ

 

出演

bookcites.hatenadiary.com

チャン・ジンチュー/リン・ボーホン/ビクター・ウェブスター/ノア・ダンビー/グラハム・シールズ/ババック・ハーキー/プブツニン

 

音楽 川井憲次

 

オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁 - Wikipedia

オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「キッズ・オールライト」 2010

キッズ・オールライト (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 レズビアンカップルに娘と息子の4人家族。子供たちが連絡を取り、精子提供者と交流が始まったことから家族がおかしくなる。

 

感想

 レズビアンカップルの家庭が舞台。そんな家庭で子供たちは普通の顔して過ごしていて一瞬驚くが、考えてみれば当たり前の話で、生まれてからずっと15年以上もその環境で過ごしていたらそれが普通で、いまさらとやかく言うこともないだろう。映画自体もそんなレズビアン家庭を奇異の目で面白おかしく描くという事はしていない。現実との乖離がどれくらいあるのかは分からないが、少なくともアメリカではこの物語が普通に受け入れられる状況にあるのかと思うと、日本の時代遅れ感に少しゾッとしてしまった。たとえ今、日本で法律などが整ったとしても、この映画と同じ状況になるにはあと20年ほどは必要なわけで、どんどんと取り残されてしまうなと、映画の内容とは関係ないところで色々と考えてしまった。

 

 映画は子供たちが自分たちの生物学上の父親である精子提供者とコンタクトを取った事から始まる。子供たちが自分の父親に関心を持つのは自然な事だと思うが、精子提供者はどう振る舞っていいのか難しいところだ。別に子供を見捨てたとか言うわけではないので堂々と会えばいいのだが、かといって父親ぶるのもおかしな話で、会ったところでどうしていいのか分からないし、その後もどうするべきなのかよく分からない。彼らと緩くつながる親戚の叔父さんみたいな立ち位置でいるのが一番いいような気がしたが、映画の中のこの男性は少し勘違いをしてしまったということになるのか。でも、知らないうちに自分の子供が世に存在していた事を知ったら、色々と思うところがあるのは理解できる。

 

 

 この男性と交流を持つようになったことで、一家に少しずつ変化が訪れる。そして家族それぞれの問題も表面化していく。それらが時にコミカルに描かれるのだが、コミカルな雰囲気の中で描かれないのでボーッと観ていると見過ごしてしまいそうだ。ただそれが生真面目な顔をしてジョークを言う人のような、変な可笑しさを醸し出していて面白い。役者陣も皆良い演技をしている。

 

 観ているうちに分かってくるのは、どんな形の家族であれ、どこの家にもあるような似たような問題を抱え、それを乗り越えようとしているということだ。そしてタイトル通り、どんな形の家族であれ、子供たちは問題なく普通に成長していく。妙な心配などする必要はないということだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 リサ・チョロデンコ

 

出演 アネット・ベニング/ジュリアン・ムーア/マーク・ラファロ/ミア・ワシコウスカ/ジョシュ・ハッチャーソン/ヤヤ・ダコスタ

 

キッズ・オールライト - Wikipedia

キッズ・オールライト(R15+) | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」 2019

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

★★★☆☆

 

あらすじ

 ガンとなった母親の死を看取ることになった主人公。 

 

感想

 タイトルからしてそうだが、主人公の母親に対する愛情が溢れまくっている物語。主人公は母が末期のがんだという事を知り、彼女が死なないために全力を尽くそうとする。とはいえ実務面、体を拭いたり付き添ったりといった実際の面倒は主に恋人に任せきりで、本人は百度参りだったり死んでほしくないと自身の気持ちをぶつけるだけの精神面担当だったのはある意味ですごい。正直主人公よりむしろ、赤の他人の面倒をここまで看ることができる主人公の恋人の聖人ぶりに感銘を受けてしまう。

 

 それからこの映画は、主人公と母親の関係を中心にしているからとはいえ、母親の夫、主人公の父親の存在感が希薄なのが気になった。描かれるのはいつも母親と主人公の二人の関係だけで、長年連れ添った夫婦の関係はごくわずか、ついでのように描かれている。なんだか主人公が他の家族を差し置いて、独りよがりに振る舞う人物に思えてきた。彼のやっていることのほとんども、母親のためというよりも母親のいない世界なんて嫌だという彼自身のためにやっているような印象を受ける。でもきっとこういう周りが見えず突っ走ってしまうような人でないと面白い漫画は描けないのだろう。

 

 

 一応、母親の死後には父親や兄の心情も描かれるのだが、それまでほぼ何もなかったので唐突だなと戸惑ってしまった。ちなみにそれらのシーンはどれも悪くはなく、うっかりするとこちらも目頭が熱くなってしまいそうにはなるのだが、人が死んで悲しいのは当たり前だしな、という冷めた気持ちがどこかにあった。でもよぼよぼと海に向かって進む父親役の石橋蓮司の後ろ姿はグッと来た。これらのシーンに自然とつながっていくような描き方をすればもっと良くなっていたような気がする。

 

 とてもピュアな母と息子の物語。ただ、純粋真っすぐ過ぎて逆に人間味が感じられず、どこか特殊な世界の話のようで、あまり一般化して自分の事として共感を得られにくくなってしまっているような気がする。基本的にずっと悲しい話が続くだけなので辛くもあり、いい話ではあるが、この話は家族だけの思い出としてそっと胸にしまっておけば良かったのでは?と思ってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 大森立嗣

 

原作 母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。(新装版)

 

出演 安田顕/松下奈緒/村上淳/石橋蓮司/倍賞美津子

 

音楽 大友良英

 

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 - Wikipedia

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「ブロードキャスト・ニュース」 1987

ブロードキャスト・ニュース (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 テレビの報道局でプロデューサーとして働く女性は、新しくやって来たニュースキャスターの男性に恋をする。

 

感想

 バリバリと仕事を仕切るプロデューサーの女と、能力は低いが見栄えは良いニュースキャスター、彼女の良き理解者で能力も高いリポーター、二人の男性が織りなす三角関係。同じ報道局で働く三人の恋愛や友情、また仕事や人生に対する姿勢が描かれていく。

 

 個性的な三人の中でどうしても同情してしまうのはリポーターの男だ。知識も豊富で頭が切れ、ジャーナリストとしての能力も高い。だが人を惹きつけるような魅力がないので、本人が目指しているアンカーマンのような花形の仕事は任せてもらえない。容姿やカリスマ性といった本人の努力ではなんともならない越えられない壁があるというのは残酷な現実だ。本人もそれに薄々気づいているだけに、余計な力が入ってしまって本来の力を発揮できずに失敗してしまうという悪循環。しかも良くある話ではあるが、意中の女性はライバルの男に夢中になっているという悲しい展開。そんな中でも常に冗談を言ってピエロのように明るく振る舞う彼の健気さが逆に切なかった。

 

 

 それから見栄えが良いだけと、意識の高い二人に内心では馬鹿にされているキャスターの男も可哀そうではある。少なくとも彼は自身の能力の低さを認めてそれを改善しようとしているし、それをカバーするために武器である見栄えの良さを磨いてきた。彼は彼なりに頑張っている。ただ、天性のものは備えているので努力さえすれば何とでもなる、というのはやはり不公平な感じはしてしまうが。それから、この手の人で一番危ういのは、自身が恵まれているのは見た目の良さのおかげではなく、自分の能力の高さ故だと勘違いしている時だろう。周囲の人間も案外そう思わされてしまいがちなので、注意しなくてはいけない。

 

 そんな二人の男に挟まれたホリー・ハンター演じる主人公の女性。優秀だが優秀過ぎるがゆえに恋愛関係では恵まれない。そんな彼女が、「ニュースは中身より見栄え」という彼女が危惧していたマスコミの風潮を体現するかのような男に恋をしてしまったというのは皮肉だ。報道には一家言ある彼女も、恋愛では面白いニュースを喜ぶ大衆のようにコロッといかされてしまった。だが越えられない一線は何とか守ったという事か。

 

 決して一枚岩ではない三人が、それでも仲間として互いに意見を言ったりアドバイスをし合う姿は良かった。こういう多様性のあるチームがまとまった時は強い。そして様々な壁にぶつかりながらも、賛否はあれど決して自らの矜持は捨てなかった三人だからこそ、離れ離れになって何年か過ぎた後でも、ためらうことなく再会することが出来たのだろう。皆あの時の気持ちを持ったまま、なんら恥ずべきことなく生きてきた。彼らの充実した表情にそれが読み取れる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 ジェームズ・L・ブルックス

 

出演 ウィリアム・ハート/ホリー・ハンター/アルバート・ブルックス/ロイス・チャイルズ/ロバート・プロスキー/ジョーン・キューザック/クリスチャン・クレメンソン

bookcites.hatenadiary.com

 

音楽    ビル・コンティ

 

ブロードキャスト・ニュース - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com