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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「スパイ・ミッション シリアの陰謀」 2018

スパイ・ミッション シリアの陰謀(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 シリアに潜入するもまったく計画通りに進まない任務に、疑念が生じはじめたイスラエル諜報機関(モサド)のスパイ。原題は「Damascus Cover」。イギリス映画。93分。

 

感想

 タイトルや90分という短い上映時間から、気楽に見られるスパイアクション映画かなと勝手に想像していたのだが、実際はシリアスな展開を見せるサスペンス映画だった。序盤を軽く流す感じで見ていたら、この手のスパイ映画にありがちな少し入り組んだ設定が把握しきれず、途中からストーリーを見失ってあまりよく分からなくなってしまった。慌てて見終わった後に再度ざっと見直したことで、なんとか物語を把握できた。

 

 これはもちろん集中して見ていなかった自分が悪いのだが、それでもやっぱり描き方にも問題があるように思える。序盤に今回の任務のあらましが説明されるのだが、ここで内容を完全に覚えることが出来なかったら、物語のどこかで話に付いていけなくなって脱落することが決まっているような構造の映画となっている。主人公は単独で行動するので、「計画ではこの次にあれをするんだったな」とか「こういう時はこうすることになってたな」とかブツブツと呟いたりするのはさすがに不自然だと思うが、もうちょっと何か状況が分かる工夫をして欲しかった。敢えて説明的なセリフやシーンを極力省略しているのだとは思うが、これでは観客までもがスパイとしての高い能力を求められることとなってしまう。

 

 

 それから、主人公は任務中にたまたま再会した女性と関係を持つようになるのだが、命の危険に常にさらされている状況なのにずいぶんと余裕だなと呆れてしまった。それが任務に役立つこともあるのかもしれないが、今回はどう考えてもメリットがあるようには思えない状況だった。だから彼はジェームズ・ボンドのような完璧でスーパーなスパイなのかなと思っていたのだが、その後の仕事ぶりは情に流されまくりで全く優秀とは言い難い。人間味が感じられないほどの冷酷すぎる仕事ぶりではリアリティがないが、だからと言ってここまで情にもろ過ぎてもまた嘘っぽく感じてしまう。割り切れずにオロオロし、仕事を放棄までしてみせる終盤の主人公の姿は、まったくもってスパイらしさがなかった。

 

 主人公はエンディングで、イスラエルとシリア、両国の意外な思惑に踊らされていた事を知る。彼らの言い分には、一旦はなるほどと納得してしまったのだが、後から段々と、でもそれは本当に良い事なのだろうか?と疑念が生じてきた。これはつまり「トムとジェリー」のように仲良く喧嘩し続けるという事で、こんな奇妙な共存の仕方しかできないなんて、いくら何でも切なすぎるだろう、と悲しくなってしまった。解決の難しい問題だ。

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スタッフ/キャスト

監督/脚本 ダニエル・ゼリック・バーク

 

原作 ダマスカスへ来たスパイ (1981年)



出演 ジョナサン・リース=マイヤーズ/オリヴィア・サールビー/ジョン・ハート/ナヴィド・ネガーバン/ユルゲン・プロフノウ/ヴォルフ・カーラー

 

スパイ・ミッション シリアの陰謀(字幕版)

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「ブリスター!」 2000

ブリスター!

★★★☆☆

 

あらすじ

  世界に一つしかないと言われている幻のフィギュアを探し求めるアメコミフィギュアコレクターの男。

 

感想

 フィギュアコレクターの男の話だが、あまり主人公のフィギュアに対する情熱が感じられない。確かに店を回ったり大金を使ったりはしているのだが、肝心のフィギュア自体を愛でている様子がないので、ただの業者みたいに見えてしまう。実際のところ、上級のマニアともなればこんな感じになってしまうのかもしれないが、そんなのは知らないのでもっと分かりやすくフィギュア愛を表現して欲しかった。他の登場人物たちのそれはちゃんと描けていたので、余計主人公のキャラが分かりづらく曖昧だった。

 

 そして主人公が幻のフィギュアを探し求めるのがメインストーリーなのだが、別に血眼になってあちこち奔走するというわけではなく、断続的にその話が出てくるだけ。これも掘り出し物はそんな感じで見つけるものだという事なのかもしれないが、物語に勢いがなく、探しているわけでもない間の時間は何?と思ってしまうような停滞感があって辛かった。それから時系列を入れ替えたり繰り返したりするような演出もしているが、特にそれがなんらかの効果をもたらしているとは思えず、ただ無為な時間が流れるだけだった。

 

 

 序盤は映像や編集、音楽などで色々な演出をやろうとしているのが見えてうるさく感じたり、セリフがアニメぽくてそれならアニメでやればいいのにと思ったりもしたのだが、次第に慣れて気にならなくなってくる。そして全体として見てみれば、統一感のある映画の雰囲気を作り出すことに成功していて、その点に関してはなかなか評価できる。

 

 最後はフィギュアなんかよりも大事なものがある、というよくある流れになるのだが、全然それまでの話とつながっておらず、しかも大事なものが何なのかもよく分からないという、すべてが雰囲気だけで進んで結末を迎えてしまった。まずまずではあるのだがもうちょっとストーリーは練って欲しかった、と残念な気持ちになる映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督 須賀大観

 

出演 伊藤英明/真田麻垂美/大塚明夫/鮎貝健/山崎裕太/櫻田宗久/パトリック・ハーラン 

 

ブリスター!

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「トゥ・ザ・ワンダー」 2012

トゥ・ザ・ワンダー(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 フランスで出会い、アメリカに渡った男女の愛の行方。

 

感想

 フランス人女性とアメリカ人男性の愛の模様が描かれていく。ただしっかりとした物語で描くのではなく、断片的で抽象的な映像を積み重ねていくだけなので、不明瞭な部分は多い。観客の想像力に委ねていくスタイルと言えるだろう。このタイプの映画は得てしてダルくなりがちなのだが、この映画は程よくイマジネーションを掻き立て、次なる展開に関心を持たせてくれる展開なので見ていられる。フランス人女性を演じるオルガ・キュリレンコが美しく魅力的なのも大きい。

 

 映し出されるのは、出会いや別れ、倦怠や喧嘩、そして浮気に和解など、一組の男女に起こる様々な出来事だ。どんなカップルにも起きるような出来事ばかりで、下世話に俗っぽく、リアルに描くことも出来るが、美男美女で詩的に描けばこうなる、みたいな映画だ。愛し合っていたはずの男女がいつの間にか気持ちが離れてしまう不思議も感じる。

 

 

 そして二人の他にひとりの神父も登場し、男女の愛だけでなく、神への愛も描いている。いっこうに自分の愛に応えて姿を現してくれない神に言及することで、愛とは何かを考えさせる。タイトルの「ワンダー」は、「西洋の驚異(Wonder of the Western World)」と称され、カトリックの巡礼地でもあるモン・サン=ミシェルの事を指しているようだ。このカトリックの巡礼地が映画の最初と最後に登場していることもあり、どこか宗教色の強さを感じる映画だ。二人の愛も多分に宗教的な視点から見ているように思える。

 

 

 抽象度が高いラストはどうとでも取れる結末だったが、男は愛を見つけ、女は再び愛を求めて歩みを始めた、と言ったところだろうか。様々な暗示が散りばめられて、何度でも見られそうな映画となっている。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 テレンス・マリック

 

出演 ベン・アフレック/オルガ・キュリレンコ/ハビエル・バルデム/レイチェル・マクアダムス

 

撮影    エマニュエル・ルベツキ

 

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「落下する夕方」 1998

あの頃映画 「落下する夕方」 [DVD]

★★☆☆☆

 

あらすじ

 同棲していた男が他に好きな女性ができたと出て行き、家賃のやりくりに困っていた女の元に、その男が好きになった女性が転がり込んでくる。

 

感想

 主人公と元恋人、そして元恋人が好きになった女の奇妙な三角関係が描かれていく。主人公と元恋人の間に現れる奔放な若い女を演じる菅野美穂の演技が少し辛いが、彼女のせいというよりも脚本のせいという感じがする。本来であればもっと二人をかき回さないといけないのに、ただ風変わりな女がいる、みたいなキャラクターになってしまっている。おかげでストーリーがぼやけてしまい、何がやりたいのだかさっぱり分からない映画となっている。

 

 

 そしてこの映画はどこに注目して見ればいいのかもよく分からない。ただなんとなく三人の様子を描写し続けるだけなので、見ているこちらもただ眺めつづけるだけ。とても体感時間が長く感じた。終盤の展開から考えると、菅野美穂演じる若い女を生暖かく見守る男女、という視点でみれば良さそうだ。でもこうやって観客に考えさせるのではなく、自然とそういう風な見方に持っていくのが監督の仕事だろう。

 

 結局何が言いたいのかさっぱり分からない映画だったが、無理やり考えると、待っているだけでなく、ちゃんと押したり引いたりすることも大事、という事か。好きな男が出て行ってしまっても、あきらめきれなければ気持ちを伝えるべきだし、それでも無理だとわかったら、あきらめてサッと身を引いた方がいい。中途半端な状態が続くのが一番よくない。それは男女の関係だけでなく、人間関係全般や様々な局面で言えることだ。

 

 途中で浅野忠信が出てきて、主人公もフラれてしまった事だし何かあるのかなと思っていたのに、そのシーン一回きりの登場で、あれはいったい何だったのだ?と思ってしまったが、客寄せパンダ的な扱いだったのか。中井貴一も同様で、役者陣を見ればなかなか豪華なメンバーではある。だが、役者は揃っているのに全くそれを活かしきれていない、見ごたえのない映画だ。主人公を演じる原田知世が男に襲い掛かるシーンは良かったが。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 合津直枝

 

原作 落下する夕方 (角川文庫)

 

出演 原田知世/渡部篤郎/菅野美穂/国生さゆり/大杉漣/岡本信人/田邊季正/春名美咲/村上冬樹/橋本菊子/初瀬かおる/阿知波悟美/浅野忠信/日比野克彦/木内みどり

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音楽 西村由紀江

 

落下する夕方 - Wikipedia

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「切り裂き魔ゴーレム」 2017

切り裂き魔ゴーレム(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 連続殺人鬼ゴーレムの一連の事件を担当することになった刑事は、容疑者のひとりで、殺されて故人となっている男に注目する。イギリス映画。

 

感想

 世間が注目するも難航する連続殺人事件の捜査を押し付けられてしまった刑事が主人公。一人ずつ容疑者に当たっていくのだが、各容疑者に実際の犯行の様子を演じさせる演出が上手い。一連のこの想像シーンによって事件の全体像を説明しつつ、各容疑者の犯行の妥当性を検証している。

 

 ところでこの容疑者の中に唐突にカール・マルクスが登場して戸惑ってしまったが、実は殺された男をのぞいて全員が実在した著名人のようだ。そこに何か意味があるのかと深読みしてしまうが、単純にこの時期にこの事件現場付近に住んでいたから、という事らしい。同時期にこの地域でこんな著名人たちが暮らしていたというトリビアみたいなものか。マルクスがロンドンに住んでいた時期があるとは知らなかった。そしてそれなら彼らが容疑者にされてしまう事があったとしても不思議はない。

 

 捜査により次第に容疑者は絞られ、最終的には殺されてしまった男に焦点が絞られていく。刑事はその男を殺したとして裁判中の、妻である舞台女優の元に何度も足を運ぶようになる。映画はこの刑事と女優のやりとりが中心となり、彼女の半生や人間関係が描かれていく。刑事が、夫が犯人だったら舞台女優は死刑にならずに済むから真相を教えてくれと説得するその論理がよく分からなかったが、善良な男ではなく殺人鬼だから殺したという事であれば情状酌量が望めるという事だったのか。

 

 

 最後は驚きの急展開で真犯人が明らかになる。途中で何度かそれもあるかも、と思っていた事だったので衝撃はなかったが、上手くミスリードされたなとは感心した。各容疑者に犯行シーンをやらせる想像シーンも、その刷り込みを強化するための効果があった。あとから考えれば様々な事件はすべて真犯人の周辺で起きていた。なるほどね、と納得してしまった。

 

 ただ、いまいち真犯人が何をしたかったのか、その意図がよく分からなかった。世間に名を残すため、自身の芸術性を誇示するため、そして世間の期待に応えるため、といったところが理由だろうか。分からないではないが、そこがまだ少しモヤモヤとしたままでいる。

 

スタッフ/キャスト

監督 フアン・カルロス・メディナ

 

脚本/製作総指揮 ジェーン・ゴールドマン

 

原作 切り裂き魔ゴーレム

 

出演 ビル・ナイ/オリヴィア・クック/ダグラス・ブース/ダニエル・メイズ /サム・リード/マリア・バルベルデ/ダニエル・メイズ/エディ・マーサン /ヘンリー・グッドマン/ポール・リッター

 

音楽 ヨハン・セーデルクヴィスト

 

切り裂き魔ゴーレム - Wikipedia

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登場する作品

On Murder Considered as one of the Fine Arts (English Edition)

 

 

関連する作品

ダン・リーノ/カール・マルクス/ジョージ・ギッシング

 

 

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「万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-」 2014

映画「万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-」【TBSオンデマンド】

★☆☆☆☆

 

あらすじ

 どんなものでも鑑定してみせる主人公は、その能力を見込まれてルーブル美術館の臨時学芸員に推薦されるが、そこで事件が起きる。

 

感想

 主人公の万能鑑定士としての能力を見せつける冒頭は悪くなかった。だがここで主人公はすごい人なのだと示したのに、次はルーブル美術館の臨時学芸員の採用試験を受験する流れにはあれ?となってしまった。主人公はてっきりシャーロック・ホームズ的な立ち位置なのかと思っていたので、他の人たちと同様に普通にテストされるのかと意外だった。その後は、普通に研修を受けちゃっているし、そこでそこそこ優秀程度の扱いしかされていないしで、結局この人はすごいの?すごくないの?どっちなの?と混乱してしまう。

 

 それに彼女がなぜルーブル美術館の臨時学芸員を目指すのかも分からなかった。そもそも彼女は万能鑑定士として独立して仕事をしているわけで、受験を勧めてきた男から多額のギャラを別にもらうのなら分かるが、おそらくは採用されたらただ学芸員としての給料を貰うだけ。他の公務員を目指す人と同じように、そこそこの給料で安定した職にジョブチェンジしたかったという凡庸な動機なのだろうか。

 

 彼女は一応、絵画が好きとは言っていたが、本当にそんな仕事をしたかったのなら能力もあるのでとっくにその世界に入っているはずだ。だから個人的な興味から、というわけでもないだろう。金でもなく夢でもない。そう考えていくと、やれと言われたから、くらいしか理由が思いつかない。もっと言えば、そういう映画のストーリーだから、か。彼女のモチベーションが感じられないので、こちらもその後に起きる事件に対してなんの感情移入も出来なかった。

 

 

 それから、劇中では名画の真贋を当てるゲームが何度も行われる。映画の重要な要素になっているのだが、これがまたつまらない。そもそもこんな事を学芸員たちがやるわけない、とリアリティが感じられないし、見た目ほぼ一緒の絵画を並べてそこから本物を選ぶというのは映像的に何の面白みもない。しかも撮影に本物など使っていないだろうから何なら全部偽物なわけで、観客も一緒に考えてドキドキすることも出来ず、緊迫感のあるもったいぶった演出をされたところで困惑するだけだった。いったい今は何の時間なのだと虚無的な気分になる。

 

 このゲームのルール自体も何でそんな回りくどいやり方なのだろうと不審に思っていたのだが、これには理由があったことが後で分かる。でもきっと多くの観客が疑問に思っただろうことを、万能鑑定士がすぐに気づかないのはおかしい。この他にも普通に観客が気づきそうなことを主人公がスルーしてしまう事が多く、お前は本当に万能鑑定士なのか、と後で別室に呼んで問い詰めたくなった。

 

 そして他の登場人物たちもおかしい。松坂桃李演じる記者が主人公に興味を持ったのは分かるが、拒絶されていたのになぜかなし崩し的に仲良くなっていたのがよく分からないし、なぜ彼が中盤で不調になった彼女のために苦悩するのかも謎だった。それになぜか彼が彼女を上回る能力を見せて救ったりもする。

 

 主人公のライバルの女は、贋作であることを知らしめたいのなら盗む必要はなく、ただ世間に公表すればいいだけなのだから計画がおかしいことに気づくはずだよねと思ってしまうし、犯人の男がバレる前提で行動していたのも不可解だ。終盤に警察が無駄に大勢で動き回る姿も馬鹿っぽくて「ブルース・ブラザーズ」か、とツッコみたくなった。全員しょうもない。

 

 コミカルなシーンも全然笑えず、演出も色々おかしすぎてずっとイライラしていたのだが、中でも犯人が屋内なのにわざわざ木の端材を集めて焚火のようにし、その上にある絵を燃やそうとしたシーンには驚愕した。いやいやそこは普通絵画に直接火を放つでしょうと。なんでそんな面倒くさい手法を取ったのかが意味不明で震えた。すぐに燃えないよう時間を稼ぐためということなのかもしれないが、どっちにしても結果は変わらないのだから意味がない。

 

 原作は推理小説の人気シリーズなので、愛読者だったら事前の情報も多いだろうから感想はまた違うのかもしれないが、自分にはただただ腹立たしさが募るだけの映画だった。そもそも題材の「モナ・リザ」も超メジャーすぎて新鮮味がなさ過ぎだし、今さら新しい謎なんてないだろうと思ってしまう。少し調べたら、自分はこの監督の映画を見た後にだいたい怒り狂っているので、相性が悪いのかもしれない。

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スタッフ/キャスト

監督 佐藤信介

 

脚本 宇田学

 

原作 万能鑑定士Qの事件簿 IX 「万能鑑定士Q」シリーズ (角川文庫)


出演

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松坂桃李/初音映莉子/橋本じゅん/村杉蝉之介/児嶋一哉/角替和枝/村上弘明/榮倉奈々

 

Qシリーズ (小説) - Wikipedia

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「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」 2007

エディット・ピアフ~愛の讃歌~(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 フランスの国民的なシャンソン歌手、エディット・ピアフの伝記映画。フランス映画。140分。

 

感想

 幼少期は貧しい環境で育った主人公。出征から戻った父親が妻の実家に預けられた主人公のひどい状況を見かねて連れて行った先が、自分の実家の売春宿というから悲惨だ。酷いところから酷いところに移っただけなのだが、父親からすれば自分のコントロールが及ぶだけまし、ということなのだろう。主人公はその後も、大道芸人の父親についてドサ回りをしたりと、終始恵まれない環境で過ごす事になる。

 

 気の毒な境遇だが、後に歌手として大成したことを考えると、売春宿の娼婦たちの客の心をつかむ術や大道芸人たちの客前での立ち居振る舞いなどを幼少期に見てきた体験が大きく影響しているのだろうなと想像できる。ただ、だから良かった、というわけではなく、同じような劣悪な状況で育ったほとんどの少女たちは、その酷い環境に飲み込まれて生涯を終えただろうことを想像できる力は持っておきたいところだ。

 

 

 エディット・ピアフを演じるのはマリオン・コティヤール。姿勢や身のこなしに滲み出る育ちの悪さを上手く表現している。若い頃から晩年までの各時代の演じ分けも見事だ。特に晩年のヨボヨボ感はすごかったのだが、80歳くらいの老婆かと思ったらまだ40代だったのには驚いた。でも、事故や心労、モルヒネ中毒の影響で体がボロボロだったし、最後は癌だったそうなので実際、本当に老けて見えたのだろう。オスカーを獲得したのも納得の演技だった。

 

 彼女の演技は確かにすごかったのだが、物語の方はというとあまり効果的とは思えない目まぐるしく時系列を入れ替える構成で、分かりづらかったというのが素直な感想だ。それぞれのエピソードも断片的にしか描かれないのでモヤモヤする。ただ彼女は国民的歌手なので、観客がどのエピソードも詳細を知っているという前提で描かれているような気がした。彼女の有名なエピソードを散りばめておいて、あとは観客それぞれの知識で補ってもらおうとしている。それを知っているか知っていないかで映画の深みは変わってくる。彼女に関する知識をどのくらい持っているかで印象が変わる映画と言えそうだ。

 

スタッフ/キャスト

監督 オリヴィエ・ダアン

 

出演 マリオン・コティヤール/シルヴィー・テステュー/パスカル・グレゴリー/ジェラール・ドパルデュー/エマニュエル・セニエ/ジャン=ポール・ルーヴ/クロティルド・クロー/ジャン=ピエール・マルタンス/マルク・バルベ/マノン・シュヴァリエ


音楽 クリストファー・ガニング/エディット・ピアフ

 

撮影 永田鉄男

 

エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜 - Wikipedia

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登場する人物

エディット・ピアフ/マルセル・セルダン/マレーネ・ディートリヒ

 

 

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「刺青 IREZUMI」 1984

★★☆☆☆

 

あらすじ

 金持ちの娘である友人と間違われ、誘拐されてしまった歌手の女。

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感想

 事の発端となる主人公に対するナンパの仕方がワイルドだった。運転中の女の車にバイクで近づき、窓をガンガンと蹴る。最後は転んで事故に見せかけ、女に因縁をつけて言い寄ろうとする。やってることが怖過ぎだ。普通に警察に事情を話せば相手が逮捕されて一件落着となりそうな話だが、そんな男と関係を持とうとついて行ってしまう主人公もまたワイルドだ。

 

 そして男の部屋について行った主人公を、金持ちの娘と勘違いした別の集団がやって来て誘拐する。この集団もまたワイルドで、人違いと気づくと主人公の全身に刺青を入れて売り飛ばそうとする。それが駄目そうだと分かると今度は樹海で殺して捨ててしまおうとする。その間にも別の何人かを殺していて、やることが鬼畜過ぎる。

 

 

 人を人とも思わないような犯行だが、昭和はワイルド、と思い込んでしまっているくらい、昔はこんな事件が多かったような印象がある。もともと人間なんてこんなもので、豊かになったここ50年ほどで人畜無害な自己家畜化が進んだだけなのかもしれない。世界的に見ても、こういう凶悪な事件は貧しい地域で多く、豊かになるにつれて減っていっているように思える。

 

 人違いで刺青を入れられ、人生を目茶苦茶にされてしまった主人公。犯罪者たちの元を逃げ出したのになぜかまた戻ってきたのが謎だが、絶望して自暴自棄になり、逆に彼らを利用してやろうと思ったのだろう。そんな主人公らに木之元亮演じる記者が介入して話をややこしくしていく。彼は主人公を歌手に復帰させようと画策するのだが、別に主人公がそう望んだわけでもなく、ただ一人で熱くなって突っ走っているだけなので意味が分からない。隣室の主人公に向かって、壁越しに身振り手振りを交えて熱く自分の想いを延々と語る様子はその象徴的シーンで滑稽だった。

 

 その後も唐突に誘拐事件を起こしたりとカオスなストーリーが続く。それでも何らかの製作者の熱のこもったメッセージが伝わってくれば不満はなかったりするのだが、何も伝わってこず、ただ目茶苦茶なだけだ。タイトル的にも刺青のフェティッシュな魅力を描くべきなのだろうが、時々その刺青を映して見せるだけで、特に何も感じられなかった。これはなんの時間だったのだろうと首を傾げたくなるほどで、何も残らない映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督 曽根中生

 

脚本 那須真知子

 

原作    刺青

 

出演 伊藤咲子/沢田和美/木之元亮/成瀬正

 

刺青 (小説) - Wikipedia

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「追想」 1975

追想

★★★★☆

 

あらすじ

 第2次大戦下のフランス。妻と子が疎開先でナチスに殺されたことを知った医師は復讐に動き出す。別邦題「追想 愛と復讐と男の戦い」。フランス映画。

 

感想

 身の危険を感じて妻子を避難させたのに、そのおかげで二人が殺されてしまうという痛恨の悲劇。でもきっと戦争ではこんな事が日常茶飯事に起きてしまうのだろう。些細な出来事が生死を分ける。そして事態を悟って復讐を誓う主人公。事件現場を見ただけで妻子に何が起きたのか分かってしまうのはさすがに物分かりが良すぎるように思うが、詳細はともかく大体は間違ってないのだろう。

 

 しかし主人公は、小太りで丸メガネをかけた善良そうな風貌をしており、ナチス相手に一人で戦うようには見えないので意外性があった。しかも悲嘆にくれたりして時間を置くのではなく、発覚後に間髪入れずに即座に動き出す。レジスタンスの活動をサポートしたりしていたので、元々気骨はあったのだろう。筋肉ムキムキでいかにも強そうなスタローンのような人物よりも、彼のような人物の方がやむにやまれない復讐心で戦わざるを得ない男の心情が伝わって来るので、逆に良いかもしれない。

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 勝手知ったる我が家で、縦横無尽に敵を翻弄し、倒していく主人公。最初からまったく躊躇がない。敵に迫られる結構際どいシーンもあるのだが平然としており、彼の覚悟が感じられた。そしてこの復讐の合間には、妻子との思い出を振り返る回想シーンがクドいくらいに挿入される。緊張と緩和が続く波のある戦況の中では、実際こんな風になるのだろう。そして怒りは時間と共に鎮静化されやすいので、これが彼に復讐の炎にガソリンを注入していると言える。

 

 

 最後に残ったラスボスを仕留めるクライマックスは、前振りも効いて爽快感があった。復讐劇はただ倒すだけではなダメで、倒し方が重要だという事がよく分かる。そしてすべてが終わった後、不意に主人公に悲しみが襲ってくるのもリアルだ。復讐を果たしてしばし気が晴れたとしても、二度と妻子が戻ってくることはない。彼女らのいない人生をこれから生きていくことになる。切ない結末だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ロベール・アンリコ

出演 フィリップ・ノワレ/ロミー・シュナイダー/ヨアヒム・ハンセン

 

追想

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「凪待ち」 2019

凪待ち

★★★★☆

 

あらすじ

 子供を連れて地元に戻る恋人についていくことにした男は、思わぬ事件に遭遇し人生が狂っていく。

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感想

 恋人の実家で共に暮らすことになった男が主人公だ。結婚していれば何の問題もないのだが、籍を入れていないことで色々と気を使ってしまいそうなシチュエーションだ。そして、結婚をするいいタイミングなのにそれをしないことに、彼らが何らかの事情や問題を抱えていることが読み取れる。

 

 そんな少し奇妙な共同生活を送る中、ある時悲惨な事件が起きる。それまでの話の流れから予想していた方向とは別の、そっちか、と驚いてしまうような意外な展開だった。そしてこの事件がますます主人公を居づらい状況にしてしまう。この後、物語は事件の真相を探る事に注力するのではなく、主人公が破滅的にギャンブルにのめり込んでいく姿を追っていく。事件のショックがそれを加速させたという側面もあるだろう。

 

 

 世話してもらった仕事も辞め、借金を重ねながら絶望的な状況に陥っていく主人公の姿は、他者の悪意の介在があったとはいえ、ほぼ自業自得で正直あまり同情する気にはなれない。恋人にギャンブルは止めると約束していたにもかかわらず、あまりためらうことなくあっさりと再度手を出すところからして駄目だなと思ってしまった。

 

 だがそんな彼に救いの手を差し伸べる人たちがいる。しかも優しい言葉をかけるとかそんなのじゃなくて、金銭的な援助までするのだから親切すぎるだろうと思ってしまうが、これは舞台が東北の震災被害にあった町だからなのかもしれない。

 

 確かに被災者いじめやヤクザによる除染の仕事のあっせんなど、震災がもたらした暗い影や人々の悪意もさらっと描かれてはいるが、あんなに多くの命があっけなく失われた今、生きてるだけでいいじゃないか、生きなきゃいけない、という被災地の人々の強い思いも感じられた。生きてる者同士、縁のある者同士、助け合って頑張っていこうという連帯感がそこにはある。

 

 そんな人々が差し出す好意を次々と踏みにじっていく主人公にはドン引きしてしまうが、でも逆に清々しくもある。人から好意を受ける資格のある人間ではない事を示すために、あえて駄目な方向へと突っ込んでいってしまう歪んだ心の持ち主だ。だがそんな彼も、どんなに裏切り続けても差し出され続ける手に遂に悔い改めることになる。いい意味で心が折れた。再生しつつある街で主人公もまた再出発を図る。

 

 主演の香取慎吾は、もっさりとした小汚い風貌で、ろくでなし感がよく出ていた。それでいて無駄にガタイがいいのも、さらにタチが悪そうでそれも良い。演技の方はメリハリのない、いつもの一本調子で残念な感じがあったが、終盤のクライマックスでの演技は意外と良くて心を掴まれた。演技になるといつも嫌々やっているように見えてしまう彼にこの役を与えたのは正解かもしれない。

 

 主人公が優しい人たちに囲まれすぎだったり、事件の描き方が淡白すぎだったりするのは少し気になった。だが事件と合わせて考えると、良い人に見えても、それをどんな意図でやっているかは分からないという人間の怖さを示しているのだろう。自分も含めてそんな人間たちの中で我々は生きている。

 

 それから、事件の捜査で疑う刑事が主人公を挑発するように言う大事な決め台詞が何言っているのか全然分からなかったのは困った。何度か繰り返し見てなんとか聞き取れたが、東北弁ネイティブなら余裕だったのだろうか。それならそうじゃない人のために字幕を入れて欲しかった。

東北弁トランプ

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スタッフ/キャスト

監督    白石和彌

 

出演 香取慎吾/恒松祐里/西田尚美/吉澤健/音尾琢真/リリー・フランキー/三浦誠己/黒田大輔/奥野瑛太/麿赤兒/不破万作/宮崎吐夢

 

音楽 安川午朗

 

凪待ち

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  • 西田尚美
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「スウィート ヒアアフター」 1997

スウィート ヒアアフター (字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 カナダの小さな片田舎で起きた多くの犠牲者を出したスクールバス転落事故で、遺族らをまとめて集団訴訟を起こそうとする弁護士。

 

感想

 事故当日と弁護士が遺族の家を回る事故後、そして2年後の現在と、3つの時間が交互に描かれていく。最初は戸惑ったが次第に慣れ、少しずつ明らかになる物語の全体像も見えてくる。そして序盤は事件の真相を探る物語なのかと思っていたのだが、そうではなく、遺族ら関係者が事件後をどのように生きていくのかを描く物語だという事が分かってくる。

 

 しかしスクールバスの事故で田舎町の子供たちがごっそりと死んでしまうというのは、人口の少ない町にとっては衝撃だろう。町から子供がいなくなり、残るのは悲しみに沈む大人だけだ。街の雰囲気が大きく変わり、暗くなってしまうのも分かる。事故直後の騒々しさが収まり、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるそんな町に、主人公の弁護士はやって来る。

 

 

 主人公と遺族たちとの会話から、彼らが裁判で真相を明らかにしたいという人たちと、もうそっとしておいて欲しいという人たちに分かれる事が分かってくる。何もしないのでは気持ちが収まらないし、でも騒いだところで被害者が戻ってくるわけでもない。どちらの言い分にも一理あり、どちらが間違っているとは一概に言えないだろう。

 

 それに、それぞれの立場や状況もその判断に影響を与えているはずだ。例えば、頑なに裁判を拒んでいた男は、自ら整備をしたバスに異常がなかったことを知っており、その上で事故の一部始終を目撃しており、さらには事故後も現場や事故車を再確認している。全てを自分の目で確認したからこそ、自分の中で整理がついてしまい、もう裁判は必要ないと判断できるのだろう。それとは別に、これを機に不倫がバレては困る、という理由もあったかもしれない。

 

 劇中で「ハーメルンの笛吹き男」の絵本が登場し、それが様々な暗示を劇中人物に投げかけている。バスの運転手や皆を引き連れ訴訟を起こそうとする主人公は笛吹き男のように見えるし、生存者の少女は取り残された子供のようでもあり、父親との関係においては彼女もまた、報酬を貰えずに怒る笛吹き男と言えるかもしれない。色々と考えてしまう映画だ。

 

 そして主人公である弁護士もまた、娘との関係において問題を抱えているという設定なのが、物語を深みのあるものにしている。序盤の洗車機のシーンが象徴的だが、彼は正義に囚われて身動きが取れなくなっているようにも思える。対象が車の部品でもガードレールでも何でもいいから、とにかく訴えようという彼の姿勢はとても極端に見えた。もしかしたら、あちらの訴訟はそれが普通なのかもしれないが。

 

 最終的には訴訟をしないという優しい世界を選んだ遺族たち。結局事故の原因は明らかにならず、事故を起こしたドライバーは別の場所で再び働き始めており、彼女が原因であれば同じ悲劇が再び起きる可能性がないわけでもない。笛吹き男にちゃんと代金を払わなかった村人たちのように、いつか社会がその大きな代償を支払う事になるのかもしれない。そう想像するとゾッとしてしまうエンディングだった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 アトム・エゴヤン

 

原作 この世を離れて (ハヤカワ・ノヴェルズ)


出演 イアン・ホルム/サラ・ポーリー/トム・マッカムス/ガブリエル・ローズ/アルバータ・ワトソン/ブルース・グリーンウッド

 

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登場する作品

ハーメルンの笛吹き男

 

 

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「きみの鳥はうたえる」 2018

きみの鳥はうたえる

★★★★☆

 

あらすじ

 友人と共同生活を送るバイト店員の男は、ある女性と付き合い始め、三人で出かけるようになる。

 

感想

 あてもなく時間を持て余した若者たちのひと夏の物語。三人が夜遊びするシーンが多く登場するのだが、その雰囲気をよく表現できている映像が良かった。人けがなくなりひっそりとした街の中で、自分たちだけが無邪気に笑っている。考えてみれば深夜の時間帯に活動しているのは、暇とエネルギーを持て余した若者たちくらいのものだ。あとから振り返れば真夜中にそんなことをして何が楽しかったのだろうと思ってしまうのだが、当時は自然とそうなっていた。そんな彼らを見ながら、こんな感じを久しく味わっていないし、これからまた味わうことはあるのだろうかと遠い目をしてしまった。

 

 メインの三人を演じる役者たちがみな自然体の良い演技を見せている。どこか投げやりな雰囲気を持つ主人公を演じる柄本佑や、飄々とした友人役の染谷将太。二人の共同生活が容易に想像できるようなキャラクターとなっている。そして主人公の恋人役の石橋静河はしなやかな演技で、二人の間に自然に入り込み、そこにいつの間にか馴染んでしまっている女性のキャラクターに説得力を与えていた。それから机に突っ伏して本を読むシーンは、グッとくる表情でとても印象的だった。

 

 書店員のバイトもする主人公の姿から次第に見えてくるのは、なるようになれとでもいうような捨て鉢な態度だ。バイトに行きたくなければ行かないし、同僚にムカつけば殴るし、それでクビになったとしても構わない。その時やりたいことをやるだけだ。くだらない事を気にする世間に対する反発もあるだろうし、思うようにはいかない自分に対する苛立ちの裏返しもあるのだろう。いずれにしても若者にありがちな態度ではある。

 

 

 そんな彼の姿勢は恋人に対しても同様だ。彼女と付き合うのは嬉しいことだが、他で彼女が何をしているのかはどうでもいいことだし、別の男に気が移ってしまっても、それはそれで仕方がないと考えている。彼女がちゃんとしたいと前の男と正式に別れようとしたら、何もそんなことしなくても、放っておけば自然消滅するのにと、不思議そうな顔をしてみせる。彼女が戸惑ってしまうのも理解できる。

 

 主人公のその方針は一見大らかに見えるのだが、実は自分が傷つかずに済むように防御線を張っているだけでしかない。望まない結果が起きても大丈夫なようにあらかじめ心構えをしておいて、あとは流れに身を任せているだけだ。いざその時が来たら、そういう事もある、仕方がない、と物分かりの良い振りをしてやり過ごそうとする。

 

 それでは駄目だ、望む結果を手に入れるためにはちゃんとしなければ、と主人公が気づいたのがラストシーンだった。そんな彼を前にした彼女の、なんとも言えない表情で終わるエンディングが良い。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 三宅唱

 

原作

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出演 柄本佑/石橋静河/染谷将太/OMSB/渡辺真起子/萩原聖人

 

音楽    Hi'Spec

 

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「ノー・グッド・シングス」 2002

ノー・グッド・シングス(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 行方不明の女を探すために聞き込みをしていた刑事は、勘違いから犯罪者集団に監禁されてしまう。

 

感想

 行方不明者の聞き込みをしていたら、自分たちの捜査をしていると勘違いした犯罪者集団に監禁されてしまった主人公。その発端が、どこにでもいそうな老夫婦のお宅にお邪魔したら、というのが意外性があって良かった。全然予期できなかった。

 

 それから、目を離さないためという名目なのだろうが、犯罪者たちが食事をするときに、椅子に縛り付けられた主人公も何故か同席させられているのが可笑しかった。食事は皆でテーブルを囲むのがマナーという欧米らしいこだわりが感じられる。

 

 主人公は終盤までずっと椅子に縛り付けられ、身動きが取れないままの状態が続く。しかも主人公が何をしようとしているのか、完全に観念しているのか、それとも脱出のための糸口を必死に探しているのか、その意図が分からないので、映画がどこに向かおうとしているのか判然としなかった。何となく時間が過ぎるだけで動きが乏しく、面白みに欠ける。

 

 

 一応は2度ほど主人公は抵抗を試みるのだが、他にやりようがあるだろうと思ってしまうような行動であっさりと失敗してしまう。こういうもどかしさを感じて焦れる展開は、監禁ものでは定番といえば定番の流れではあるのだが。

 

 主人公が囚われて動きがない間は、犯人グループたちの犯行が描かれていく。その様子から、リーダーの男にメンバーたちが反発を感じながらも渋々従っているという彼らの関係性が見えてくるのだが、なぜそこまで皆がリーダーを恐れているのかが謎だった。チャンスはあるのにどうせバレると逃げることをあきらめている女や、あとは引き金を引くだけだったのに説得されて止めてしまう男など、なんで?と思う事の連続で釈然としなかい。重要な所なので、そんな関係性に対する説得力のある丁寧な説明が欲しかった。

 

 なかでも女の行動は特に意味不明で、主人公も戸惑っていたが、反発したり従順になったりと結局何がしたいのかがよく分からない。基本的にはマインドコントロールされてしまっているという事なのだろうか。もしかしたら、彼女の気まぐれな子猫のような魅力を映画の核にしたかったのかもしれないが、気持ちよく翻弄されるというよりは、ただただ苛立たしいだけだった。演じるミラ・ジョヴォヴィッチ自体は確かに魅力的ではあるのだが。

 

 最後は主人公がクールに決めるのだが、そんなことよりも犯人グループたちのわけの分からなさが気になって、どうにも締まりのない印象の映画になってしまっている。

 

スタッフ/キャスト

監督 ボブ・ラフェルソン

 

原作 「ターク通りの家」 「コンチネンタル・オプの事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)」所収

 

出演

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ミラ・ジョヴォヴィッチ/ステラン・スカルスガルド/ダグ・ハッチソン/ジョス・アクランド/グレイス・ザブリスキー/エミリー・ヴァンキャンプ

 

ノー・グッド・シングス(字幕版)

ノー・グッド・シングス(字幕版)

  • サミュエル・L・ジャクソン
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「ボーイ・ミーツ・プサン」 2007

ボーイ・ミーツ・プサン [レンタル落ち]

★★★☆☆

 

あらすじ

 観光プロモーション用の映像撮影を行うために単身で韓国・プサンに行かされた若い男は、現地で一人の若い女性と出会う。

 

感想

 柄本佑演じる若いカメラマンが、現地で出会った日本人の女性と共にプサンの観光名所をめぐる。主人公の目的は観光プロモーション用の映像撮影だが、この映画自体がそんな感じで、プサンの観光地が次々と映し出される。今のご時世では特に、旅行気分を味わうのにはいいかもしれない。

 

 いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」もので、旅先で出会った若い男女がキャッキャ言いながら数日を過ごすだけのストーリーだ。リアルさの追求というよりもどこかファンタジー感があり、ポップでお洒落な雰囲気の映画にしたかったのだろうなという感じがある。残念ながらあまり成功しているとは言えないが。

 

 特に劇中で何度もかかる主題歌がおそらくフランス語の歌詞の曲で、確かにお洒落さはあるが、韓国なのになんで?という違和感があり気になった。その無理やりお洒落さを作ろうとする必死さがダサい。そこは韓国語の曲でトライするべきだった。

 

 

 相手役のミステリアスな若い女を演じるのは江口のりこで、今のような個性的な演技の片鱗を見せてはいるが、この当時はまだ20代中盤で若い。ビキニ姿にもなったりして、どこにでもいるような若い女という印象だ。女優にとってはこのくらいの年齢が、若さのアドバンテージではなく、役者としての魅力で使われるかどうかが決まるターニングポイントかもしれない。ここで大勢の自称女優が消えていくが、彼女はこのあと個性を磨いて生き残り、今の活躍につながった。

 

 映画は特に可もなく不可もなく、といった内容で、気楽に見るには悪くない。ただ、元々80分くらいの短い映画だが、別に15分の短編でも描けてしまいそうな気がする内容ではある。

 

スタッフ/キャスト

監督 武正晴

 

出演 柄本佑/江口のりこ/川村亜紀/前田綾花/光石研

 

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「希望のかなた」 2017

希望のかなた(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 シリアからフィンランドにやって来た難民の男は、ふとしたきっかけで出会ったレストランの人間たちに助けられる。フィンランド映画。

 

感想

 冒頭からしばらくセリフのない時間帯が続く。だがそれでも映画の前提となる知識は得られ、世界観も伝わってくるので、すんなりと映画の世界に引き込まれていった。しかしフィンランド映画はいつもこんな感じで、美男美女は登場せず、イナたい雰囲気が漂っている印象だ。お洒落な北欧というイメージとは随分かけ離れている。とはいってもフィンランド映画で見た事があるのはカリウスマキ兄弟のものくらいなので、彼らの作風というだけのことなのかもしれないが。

 

 主人公はフィンランドにたどり着き、難民申請をしたシリアの青年だ。なんでもないような顔をしているが、難民として各国を彷徨う間に相当な過酷な目に合っていることが後で分かってくる。難民だから当然なのかもしれないが、もはやそんな悲惨な体験にも慣れきってしまっているのだと考えると、何とも言えない暗い気持ちになってしまう。国を失うとはこういうことだ。途中で彼が野良犬と共に身を隠すシーンがあるが、難民は野良犬と同じような扱いをされるというメタファーなのだろう。

 

 

 この映画は基本的はコメディなのだが、こんな風にその裏には厳しい現実が潜んでいることを示唆している。だから一瞬笑ってしまっても、しばらくするとそれが意味することに気づいてスッと真顔になってしまう事が何度かあった。警察の場所を尋ねる主人公に、本気か?よく考えろ、と答えが返ってきて笑ってしまったが、国の機関なんて非情で、本気で助けようとはしてくれないからかと、後ではっきりと思い知らされる。

 

 途中で急にレストランが寿司屋に変わったのは単純に面白かったが、もしかしたらここにも何か深い意味が隠されていたのかもしれない。

 

 だがそんな厳しい現実でも主人公がなんとか生き延びてこれたのは、周囲の人々の善意があったからだ。主人公が深く関わることになるなぜかジミヘンの絵が飾ってあるレストランのオーナーもそうだし、その他にも様々な局面で彼を見逃し、庇い、そして手を差し伸べてくれる人がいた。勿論、劇中のネオナチのように執拗に嫌がらせをする人間もいるが、目の前に困っている人が現れたら、ほとんどの人は助けずにはいられなくなるはずだ。

 

 そんな善意の輪がつながり、主人公は唯一の希望だった生き別れになった妹との再会を遂に果たす。さあこれから、という矢先にある事件が起き、そして唐突な感じで映画は終わる。様々な解釈は出来ると思うが、一晩経っても平気だったので彼は死んでしまうわけではなく、レストランの人たちの元を去ったのはこれ以上の迷惑をかけるわけにはいかないと判断したからだと思いたい。この傷を負った男があなたの前に現れたらどうしますか?次はあなたの番ですよ、と問いかけられているような気がした。善意の輪を途切れさせないために、自分に出来ることは何だろうかと考え込んでしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 アキ・カウリスマキ

 

出演 シェルワン・ハジ/サカリ・クオスマネン/カティ・オウティネン

 

希望のかなた(字幕版)

希望のかなた(字幕版)

  • シェルワン・ハジ
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