BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「半世界」 2019

半世界

★★★★☆

 

あらすじ

 地元で親の仕事を継いで炭焼き職人をする男は、ある日中学時代の同級生が戻ってきた事を知る。

 

感想

 ずっと地元にいた主人公と世界を見てきた男が再会して始まる物語。世界の荒波にもまれてきた男にとっては、主人公が広い世界を知らず、ぬるい環境でのんきに生きているように見えてしまうのは分からなくもない。だが主人公にとってはこの地元こそが彼の生きる世界だ。どこの世界にでもあるような様々な問題を抱えながら、彼なりに必死に生きている。

 

 映画は主人公とこの男を中心に、家族や友人など周囲の人々それぞれが、自分たちの世界でもがく姿が描かれていく。炭焼き職人にしてはお肌がツルツルすぎる気がしないでもない稲垣吾郎演じる主人公が、中学時代の同級生である長谷川博己演じる元自衛官と渋川清彦演じる中古自動車屋の中年三人組で、子供のように戯れる様子は微笑ましい。小さな喧嘩をしてもそのうちすぐにまた仲直りをする様子は、消えることがない固い絆が彼らの中にあることを教えてくれる。

 

 

 シリアスな中にもくすっと笑えるシーンがあり、中でも元自衛官の男がいじめに悩む主人公の中学生の息子を連れだして、フランクに何度もビールを勧めるシーンは可笑しかった。主人公の奥さんがメッセージを忍ばせた手作り弁当のくだりも良かったが、文字が白飯に桜でんぶで書かれているので判読しづらく、分かりづらかった。そこは海苔で良かったのに、と思ってしまった。せっかくのシーンがボヤけてしまって勿体ない。

 

 世界中のあらゆる場所にはそこに住む人々それぞれの世界があり、皆そこで笑ったり泣いたりしながら生き、そして死んでいく。自分の視界に入る場所だけが世界なのではなく、そうではない場所にも世界はある。でも、自分にとっては10年前の旅行で訪れた過去の場所だと思っているような場所でも、その時からずっと変わらず、今もその世界で生きている人がいるというのはなんだか不思議な気がしてしまう。当たり前と言えば当たり前なのだが。少し世の中を見る目が変わりそうな映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 阪本順治

 

出演 稲垣吾郎/長谷川博己/池脇千鶴/渋川清彦/竹内都子/杉田雷麟/菅原あき/牧口元美/信太昌之/堀部圭亮/小野武彦/石橋蓮司

 

音楽    安川午朗

 

半世界

半世界

  • 稲垣吾郎
Amazon

半世界 - Wikipedia

半世界 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「スパイ・ゲーム」 2001

スパイ・ゲーム [DVD]

★★★★☆

 

あらすじ

 元部下が中国で拘束されるも見殺しにされることを知り、何とか助けようとするベテランCIAエージェント。126分。

 

感想

 政治的判断で見殺しにされそうになる元部下を助けようとする主人公。スパイらしく世界中を飛び回るのではなく、CIAの建物から一歩も出ることなくそれを画策するのが面白い。様々な手法を使って局内で情報を集め、高官たちの裏をかいていく。スリルのある展開だ。

 

 しかしスパイ1人を見殺しにするためだけに高官たちが集まって会議をするというのはすごい。のちのち露呈した時のために、然るべきことはしたと記録を残しておくという防衛策ではあるのだが、どっかの国だと政府の人間が「自己責任」だと犬笛を吹き、それに反応した人びとがそれが世論、みたいな風潮を作り上げ、世間もそれに同調してしまって何もかもが雰囲気で進行し、すべてが有耶無耶になっていくだけなので羨ましい。ちゃんと記録を残せば経緯も分かるし、適切だったかの判断も下せるし、反省を基に改善していくことも出来る。

 

 そんなCIA内での対応策を練る現在の状況と共に、主人公と元部下の過去の仕事も回想されていく。そこで二人が衝突を繰り返していたことが分かるので、最初は主人公の意図が読めず、実はこの部下が捕まった作戦にも関わっているので誤魔化そうとしているのではないかとか、別のたくらみがあるのではないかとか、色々と深読みをしてしまった。だが実際のところは単純に、それでもかわいい元部下を助けようとしているだけだった。

 

 

 主人公がスパイの技術を駆使し、事態を完全に掌握していく手際は見事だった。中でも、自分の奥さんにおどけて「ディナー作戦実行だ!」と言っているように見える最高にダサいシーンが、実は最高にカッコいい瞬間だったというクライマックスは痛快だった。細かい部分では分からなかったり腑に落ちない部分があったりするし、散々協力者を見殺しにしてきたくせにと欺瞞に思わなくもないのだが、それでもこれまで積み上げてきた全てを賭けて、全力で元部下を救おうとする主人公の姿には胸を打たれた。引退直前の勤務最終日だったという事で、これまでの贖罪的な意識もあったのかもしれない。元部下に言い聞かせていた事とはすべて反対の事をしている。そして、すべてをなげうってまで元部下を助けたのに、感動の再会をするでもなく、ただ無言で去っていくだけのラストもクールだった。

 

スタッフ/キャスト

監督    トニー・スコット

 

製作 ダグラス・ウィック/マーク・エイブラハム

 

出演

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

キャサリン・マコーマック/スティーヴン・ディレイン/マリアンヌ・ジャン=バプティスト/デヴィッド・ヘミングス /シャーロット・ランプリング

 

スパイ・ゲーム [DVD]

スパイ・ゲーム [DVD]

  • ロバート・レッドフォード
Amazon

スパイ・ゲーム - Wikipedia

スパイ・ゲーム | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「出来ごころ」 1933

出来ごころ(活弁入り)

★★★★☆

 

あらすじ

 長屋に息子と暮らす中年の男は、ふとした出来心で住む所がなくなり困っていた若い女の世話をしてやる。「喜八もの」第1作。キネマ旬報ベスト・ワン作品。モノクロ・サイレント映画。

 

感想

 子持ちの中年男が若い女に恋心を抱く物語。貧乏長屋が舞台になっていることもあり、落語を映像化したような印象の映画だ。だがいくつかの小咄をただ並べているだけでなく、時には伏線にしたりして、ちゃんと話につながりを持たせているのが上手い。ただこれも落語的と言えば、落語的なのだが。主人公が自分の息子をつかまえて「これだから貧乏人の子供は嫌だ」と嘆くのは笑えた。

 

 登場人物の中では、長屋の隣人で主人公の友人を演じる大日方伝(大日方傳)がとても印象に残る存在感を放っていた。昔ながらの男前で、無精ひげなのに笑うと爽やか、背も高くてまるで阿部寛のようだった。貧しい庶民が暮らす下町の世界では異質な存在だったが、彼は九州の裕福な名家の出身だそうで、やはり育ちの良さは滲み出てしまうのものなのかと思ってしまった。

ABE

ABE

  • アーティスト:阿部寛
  • EMIミュージック・ジャパン
Amazon

 

 主人公が恋した若い女はその友人に恋をしている、という割とよくある三角関係が描かれていく。最終的には予想通りの展開になっていくのだが、はじめに友人が女を拒絶するのがよく分からなかった。主人公が世話をしてやった女で気があることも知っていたから遠慮したのだろうか。だが最後は主人公のために尽くしたことでもう義理立てすることはないと判断したという事なのだろう。

 

 

 最初は可笑しく、次第にいい話になっていく人情噺。泣かされる展開になりそうだとは思っていたが、まさか主人公でも友人でも女でもなく、近所の床屋にとどめを刺されて泣かされることになるとは思わなかった。あまりにも不意過ぎて、虚を突かれて思わずグッと来てしまった。貧しくも善良な人々が、特定の誰かというわけではなく、みんなで互いに助け合って暮らしている。優しい世界だ。

 

 最後は少しクスっと笑わせて、この「喜八もの」が寅さんの原点だと言われることがあるのもよく分かるような人情喜劇だった。

bookcites.hatenadiary.com

 

スタッフ/キャスト

監督/*原案

bookcites.hatenadiary.com

*ジェームス槇 名義

 

出演 坂本武/大日方伝/伏見信子/突貫小僧/谷麗光

bookcites.hatenadiary.com

*ノンクレジット

 

出来ごころ - Wikipedia

出来ごころ(活弁入り) | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

関連する作品

喜八もの 続編

bookcites.hatenadiary.com

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「スモール・ソルジャーズ」 1998

スモール・ソルジャーズ [DVD]

★★★☆☆

 

あらすじ

 高性能な兵士とモンスターのおもちゃ同士の戦いに巻き込まれてしまった少年。

 

感想

 兵士やモンスターのフィギュアたちが動き回る様子は、単純に見ていて楽しい。映像も違和感がなく良く出来ている。戦争映画あるあるやパロディも面白かった。それから、おもちゃが暴走する原因を探る過程で、埋め込まれたチップの開発者が気分を害して、「悪いのはチップじゃない、ソフトだ。」と即座に反論していたのも笑ってしまった。ありそうだ。

 

 しかし気になる点も多かった。まず、おもちゃの兵士軍団とモンスター軍団が戦う理由が、そうするようにプログラムされているから、だけな事。そこを観客が納得できるようにちゃんと描けるかどうかが、その映画の出来を左右する重大なポイントなのに、そういう設定なので受け入れてください、だけではつらい。全然感情移入できず、応援する気にもなれなかった。おもちゃの世界の中での設定という体でもいいので、何らかの因縁は用意して欲しかった。

 

 それから、人間対おもちゃの兵士軍団という構図になっているが、兵士軍団が味方になって、少年と協力して悪い大人を倒す、みたいな物語にした方が盛り上がったような気がする。彼らを敵役にしてしまうと、所詮おもちゃだしなと思ってしまうところもあり、おもちゃのくせに襲ってくるなんてと、小憎たらしさしか感じない。たとえ商品化したとしても、この敵役のキャラクター達のフィギュアが欲しいとは思わないので、商売としても損をしている。彼らが味方であれば、疑似戦争を通して少年が成長していく姿も描けたかもしれない。

 

 そして、兵士軍団の本来の相手役であるモンスターたちの存在感があまりないのも気になった。そもそも彼らに戦う理由はないのだから仕方がないが、その代わりに人間たちが迷惑をこうむっているので、どういうことなのだと苛立ちを覚えてしまう。ただ、一貫して遠い目をし、哀しきモンスター感をずっと漂わせていたのは、空気が読めない場違いキャラのようで可笑しかったが。

 

 

 悪くはないのだが、もっと面白く出来たはずと思ってしまう映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 ジョー・ダンテ

 

出演 グレゴリー・スミス/キルスティン・ダンスト/ジェイ・モーア/フィル・ハートマン/ケヴィン・ダン/デニス・リアリー/デヴィッド・クロス/ディック・ミラー/ウェンディ・シャール/ジェイコブ・スミス/ロバート・ピカード/(声)トミー・リー・ジョーンズ/(声)ジョージ・ケネディ/(声)アーネスト・ボーグナイン/(声)クリント・ウォーカー/(声)ブルース・ダーン/(声)ジム・ブラウン/(声)クリスティーナ・リッチ/(声)サラ・ミシェル・ゲラー/(声)フランク・ランジェラ/(声)クリストファー・ゲスト/(声)マイケル・マッキーン/(声)ジム・カミングス

 

音楽 ジェリー・ゴールドスミス

 

スモール・ソルジャーズ [DVD]

スモール・ソルジャーズ [DVD]

  • グレゴリー・スミス
Amazon

スモール・ソルジャーズ - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「さよならくちびる」 2019

さよならくちびる

★★★★☆

 

あらすじ

 解散を決めて最後のツアーに出た女性デュオとローディ兼マネージャーの男。

 

感想

 解散を決めたインディーズで活躍する女性デュオとローディー兼マネージャーの男の三人。彼らのツアーの様子に過去の回想を交えつつ物語は進む。回想部分では、女たち二人の出会いから、男が加わりそして現在に至るまでのいくつかのエピソードが断片的に描かれる。だがそこには彼女らが解散を決めた決定的な理由のようなものは見えてこず、ただいくつかのすれ違いや衝突が描かれるだけだ。こういうものは大きな事件ひとつではなく、小さな事件が積もり積もることによって限界を迎えることの方が多いのかもしれない。案外、最後は静かなものだ。

 

 音楽が大きな要素を占める物語なので、劇中で使われる曲が駄目だったらすべて台無しになってしまうところだったが、幸いそんなに悪くなくて安心した。というか良かった。あとで調べたら秦基博とあいみょんが楽曲を提供していた。デュオ「ハルレオ」のメンバーを演じる小松菜奈と門脇麦の歌声も良くて、彼女らがインディーズで人気があるという設定にも普通に納得でき、説得力があった。

www.youtube.com

 

 この映画は、三人が一台の車に乗り込んで全国を回るロードムービーでもある。だがランドマーク的なものが映し出されることもないので具体的な場所が分かりづらく、いまいちどこにいるのかはよく分からなかった。別に観光をするわけではなく、ライブハウスを回っているだけなので当然ではあるのだが。ただ各地の実際のライブハウスで撮影を行っているので、各地のライブハウスをめぐったりしたことがある人にはピンと来て、グッとくるロードムービーとなっているのかもしれない。

 

 ツアー中も三人の冷え切った関係はあまり変化することはない。だがツアーの終盤に差し掛かり、終わりが見えて来ると次第に何とも言えない物悲しさが募ってくる。映画を見るまでは彼女たちの事なんか知らなかったのに、ツアーの様子を追っているうちに、いつの間にかこちらまで彼女たちの解散を惜しむ気持ちになってきているから不思議だ。

 

 

 音楽賛歌であり、解散していった数多のバンドに対するレクイエムであるかのような映画だ。ただ最後がハッピーエンドになったことががっかりだった。確かにそれを期待する気持ちはあったが、もう彼女たちは後戻りが出来ない所まで来ていたはずだ。なんだかラストで壮大なコントを見ていたような気持ちになってしまった。そのまま、かけがえのない日々にもいつかは終わりがやって来てしまうのだと、後ろ髪を引かれるようなビターな後味の結末にして欲しかった。

 

 それからあまり本題とは関係ないかもしれないが、ツアーの帰路の高速道路で、追い越し車線をトロトロと走って左の走行車線から他の車にどんどん抜かれていくシーンがめちゃくちゃ気になってしまった。敢えてやっているのだろうから何かのメタファーなのかもしれないが、そういう迷惑運転は止めてくれという気持ちで一杯になり、それについて考える余裕は全くなくなってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/原案 塩田明彦

 

出演 小松菜奈/門脇麦/成田凌/篠山輝信/松本まりか/新谷ゆづみ/日髙麻鈴/青柳尊哉/松浦祐也/篠原ゆき子/マキタスポーツ

 

音楽    きだしゅんすけ

 

さよならくちびる - Wikipedia

さよならくちびる | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「20 センチュリー・ウーマン」 2016

20 センチュリー・ウーマン(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 父親のいない息子のために、身近な若い女性二人にサポートを依頼した母親。

 

感想

 40歳の時に産んだ息子を女手一つで育ててきた母親。世の中が目まぐるしく変化した20世紀の初頭に生まれた彼女にとって、40も年の離れた子供のことがよく理解できないと思ってしまうのも分からないではない。

 

 しかしこの世代ほど世の中の激変を体験した世代はいないのではないだろうか。世の中が変化しているのは今でも体感できるが、若い世代の文化がまったくの意味不明だと思ってしまうような事はまず無い。無害な歌手が無害な内容をお行儀よく歌う音楽しか知らなかった母親は、息子が好きだというパンクロックを聴いて理解できずに大いに戸惑っていたが、今後人類が文化の激変で彼女のような戸惑いを体験することはもうないような気がする。

 

 

 そんな彼女の15歳になった息子は、元々まわりに女性が多いからか、すでに中性的で、幼なじみの少女と同じベッドで特に何をするわけでもなく毎晩一緒に寝たりしている。その上さらに世代の近い女性たちに色々教えてもらったりしたら、将来めちゃくちゃモテてしまうのだろうなと思ってしまった。こういう男になって欲しい、女性のこんな事について知って欲しい、という彼女たちの願望をすべて吸収していく。

 

 ただこれは一見悪くないように見えて、実際には女性にとって都合がいいだけの男になってしまいかねない危険も潜んでいる。男女逆の場合を考えればわかりやすいが、男尊女卑の世界で教育されれば男に都合の良い女になってしまうし、独裁政権下で教育されれば独裁者に都合の良い国民になってしまう。誰がどのような意図で教育を行うのかを意識するのはとても大事だ。

 

 この息子とサポート役の二人の女性、そして母親らの決してスマートではない不器用なやり取りは、それぞれの思いがぶつかる様子が見て取れて心に沁みる。グレタ・ガーウィグとエル・ファニング演じる二人の女性もそれぞれの事情を抱えている。他人は決して自分の思い通りにはならないが、それでも交わろうとすることで人は成長していく。

 

 そんな中で、母親が何かというと人を自宅に招きたがるのがなんだか可笑しかった。しかも全然社交辞令ではなく本気なので、次のパーティーシーンに声をかけられた人がちゃっかり居るのが面白い。これは世界恐慌の時代に生まれた彼女ら「助け合う世代」の特徴らしい。自宅に何人かを下宿させているのも同じことなのだろう。だがこれらは若い世代にとっては奇特な行為に思え、ジェネレーション・ギャップを感じてしまう事なのかもしれない。

 

 他の出演者たちの演技も良かったが、アネット・ベニング演じる母親の威厳のある凛とした佇まいが良かった。息子が問題行動をしても取り乱すことなく常に堂々としている。それでいて息子の好きなカルチャーを理解できないと突き放すのではなく、体験し学んでみようとする柔軟な姿勢があるのも好感が持てた。使われている音楽も良い。

 

 しかしこの年頃の子供は自立したいと親を疎ましく思う一方で、これまで通りの愛情を求めてもいて、なかなかの面倒くさい存在だ。この矛盾を親と子それぞれがどう処理していくのかで、その後の親子関係は決まってしまうのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 マイク・ミルズ

 

出演 アネット・ベニング/グレタ・ガーウィグ/エル・ファニング/ルーカス・ジェイド・ズマン/ビリー・クラダップ/アリア・ショウカット/ダレル・ブリット=ギブソン/アリソン・エリオット 

 

音楽 ロジャー・ネイル

 

20センチュリー・ウーマン - Wikipedia

20 センチュリー・ウーマン | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「黒い十人の女」 1961

黒い十人の女

★★★★☆

 

あらすじ

 9人の不倫相手と本妻が、その相手であるテレビ局プロデューサーの男を殺す相談をする。

 

感想

 冒頭の、8人の女がひとりの女を尾行するシーンからして異様な雰囲気を醸し出しており、グッと惹きつけられる。一癖ありそうな女たちが集団で蠢いているというのはあまり見ない光景かもしれない。彼女たちを演じるのは、山本富士子や岸恵子、岸田今日子らなかなか豪華な面々だ。中でも生意気な若い女を演じる中村玉緒が可愛らしい。女同士だからか、職場が主な舞台だからか、皆あまり着飾っておらず素っ気ない感じがなんか良い。今でも街で見かけそうな出で立ちをしている。

 

 テレビ局プロデューサーの男の不倫相手と本妻が互いに知り合い、奇妙な関係を築いていく物語。そんな女たちを結び付けた浮気者の男を演じる船越英二がいい味を見せている。そもそも9人もの女性と不倫しているという設定が現実味がなく、ここで男がガツガツと欲望丸出しだと生々し過ぎてさらに嘘っぽくなりそうだが、どこかふわふわとしたような飄々とした演技を見せて、この感じならあり得るかもしれないなと思わせてくれる。

 

 

 奇妙なテイストの軽いブラックコメディといった様子で話は展開していくが、終盤は徐々に深みを増していく。テレビ局で働く男が常に忙しさに追われているのが印象的だったが、彼は何かと慌ただしい世の中で、その場その場の対応をすることだけに終始し、本来の目的を見失ってしまっている現代の人々を象徴している存在だと言える。彼が浮気をするのはその場その場で都合の良い事を言って流れに身を任せていたからだし、妻とすれ違うのも受け身で雑事をこなすばかりで妻との時間を能動的に持とうとしなかったからだ。何も考えずに目の前の事だけ処理する事に慣れてしまい、本当は何がしたいのか、自分でも分からなくなってしまっているような状態だ。

 

 最後は、そこで終わり?と一瞬思ってしまったが、男だけでなく彼女もまた、どこかで悲劇が起きても気にすることなく、我が事だけに集中しようとする現代人のひとりなのだという事を示しているのかもしれない。ただ逆に世の中で起きるすべての悲劇に関わっていたら自分の人生が滅茶苦茶になってしまうので、それもまた程度問題ではあるのだが。一見奇妙だが意外と深いテーマが潜んでおり、見ごたえがあって印象に残る映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督 市川崑

 

脚本 和田夏十

 

出演 山本富士子/宮城まり子/中村玉緒/岸田今日子/船越英二/岸恵子/伊丹一三/浜村純/ハナ肇とクレイジーキャッツ/佐山俊二

 

音楽    芥川也寸志

 

黒い十人の女 - Wikipedia

黒い十人の女 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「マンハント」 2017

マンハント(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 日本で何者かによって殺人犯に仕立てられてしまった中国人弁護士は逃亡を図る。中国映画。1976年の日本映画「君よ憤怒の河を渉れ」のリメイク作品。

 

感想

 演歌が流れ、日本の古い町並みが映し出されるコテコテの純和風シーンからいきなり物語は始まる。ただやはり映像にどこか違和感を感じてしまうのは外国人が撮る日本だからなのだろう。でもそれがいい。そして居酒屋での人情味あふれるやり取りを経ての突然の大虐殺シーン。しょっぱなからもう無茶苦茶で、グッと期待値を上げてくれる。

 

 日本を舞台に中国人の主人公が警察や暗殺者から逃亡を図りながら、協力者と共に事件の真相を探る物語。英語を中心に中国語、日本語が飛び交っているのだが、日本語の音量が小さくて聞き取りづらいのが難点だ。これも監督がネイティブではないため、細かいチェックが出来ないからだろう。日本以外での上映では字幕か吹き替えになるだろうから、困るのは日本人だけという悲しい構図だ。スタッフとして大勢の日本人が関わっているのだから、誰か助言をすればよかったのにと思ってしまった。日本市場も意識していたはずだ。

 

 

 各地を転々としながら主人公は、後には協力者となる福山雅治演じる刑事らの激しい追撃をかわしていく。定期的にアクションシーンが盛り込まれ、随所にジョン・ウー監督らしいクールな構図のカットも見られる。もちろん鳩も飛ぶ。登場人物たちも悪者でさえ単なる悪者としては描かず、複雑なバックグラウンドのある人間味あふれる人物として描いているのも良い。それでも最初の期待を裏切られてしまったように感じるのは、あまりスケールの大きさがなく、こじんまりとした印象を受けてしまうからだろう。

 

 おそらくオリジナルをリスペクトしてこの映画は日本で撮影したのだろうが、どうせなら舞台を中国に移して各地を飛び回るようなスケールの大きいものにして欲しかった。荒唐無稽なシーンの撮影も中国のほうがやりやすいはずだ。

 

 それから、最初はチョイ役なのかなと思っていた和製ドラゴンこと倉田保昭が、終盤に再び登場して大暴れするのは面白かった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ジョン・ウー

 

脚本/製作 ゴードン・チャン

 

原作 君よ憤怒の河を渉れ (徳間文庫)

 

出演 チャン・ハンユー/福山雅治/チー・ウェイ/ハ・ジウォン/アンジェルス・ウー/桜庭ななみ/池内博之/TAO/トクナガクニハル/矢島健一/田中圭/ジョーナカムラ/吉沢悠/斎藤工/竹中直人/倉田保昭/吉沢悠

bookcites.hatenadiary.com

 

音楽 岩代太郎

 

マンハント(字幕版)

マンハント(字幕版)

  • チャン・ハンユー
Amazon

マンハント (2017年の映画) - Wikipedia

マンハント | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

関連する作品

リメイク元のオリジナル作品

bookcites.hatenadiary.com

 

 

bookcites.hatenadiary.com

kibi6.hatenadiary.jp

bookcites.hatenadiary.com

「ひとよ」 2019

ひとよ

★★★★☆

 

あらすじ

 虐待を繰り返す夫を殺して服役し、15年ぶりに戻ってきた女と、それを迎える子供たち。

 

感想

 冒頭、母親役の田中裕子がいきなり放心状態で現れるのはインパクトがあった。彼女のタクシー運転手姿や若作りした顔、その前のベタとも思えるくらい分かりやすい子供たちの虐待による負傷の跡など、なんとなくコントぽい雰囲気があって思わず笑いそうになってしまった。どこからともなく志村けんが出てきそうな感じがあった。当事者たちには悲劇でも、第三者から見れば滑稽に見えてしまうことはよくある。

 

 そしてそれから15年後、服役していた母親が戻って来て本格的に物語は動き出す。最初、子供たちは日常的な父親の虐待から身を挺して救ってくれた母親を手放しで歓迎するのかと思っていたので、戸惑いを見せる彼らの反応が意外だった。だが冷静に考えてみれば当然で、彼らは虐待からは逃れられたが、その代わりに殺人犯の子供として世間の冷たい仕打ちを受け、思うように生きて来られなかった。母親の帰還を素直に喜べないのは当たり前だ。

 

 そんな複雑な思いを抱える子供たちに対し、母親が事件直後に皆に語った言葉をどんなに責められても頑なに撤回しない姿が印象的だった。彼らはあの事件を彼らなりに定義づけ、その後はそれを基にして生きてきた。いま彼女があの一夜に語った言葉を覆してしまうと、それまで生き抜いてきた子供たちの根底にあったものをグラグラと揺るがすことになってしまう。もはや過去は変えられないのだから、今さら余計な事をする必要はない。

 

 

 そんなわだかまりを抱えながらも、それでも家族は家族だ。三人兄妹の中で最も冷めた態度を示していた佐藤健演じる次男が、終盤の母親の危機で見せた必死な姿には目頭が熱くなった。それ以前に、いい年齢になった兄妹三人が何するでもなくただ一緒に佇んでいる姿を見るだけでもグッとくるものがある。

 

 分かりやすい描写やセリフが多すぎるかなという気がしないでもないが、色々と考えさせられる映画だった。こんな事になるのだったら父親を殺さなかった方が良かったのかと考えてしまうが、だとすると子供たちはずっと虐待を受け続けてしまうし、かといってやっぱり殺してよかったのかと言えば、その前にそもそも人を殺してはいけないだろうというのがある。じゃあ虐待を受けないようにすればよかった、となるがそんなのは無理で、どこまで遡ったところで正解は見えてこない。それならやっぱりあの一夜を経た今の現実を受け入れて、前向きに生きていくしかないのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督 白石和彌

 

脚本 髙橋泉

 

出演 佐藤健/鈴木亮平/松岡茉優/音尾琢真/筒井真理子/浅利陽介/韓英恵/MEGUMI/大悟(千鳥)/佐々木蔵之介/田中裕子

 

音楽    大間々昂

 

ひとよ

ひとよ

  • 佐藤健
Amazon

ひとよ (映画) - Wikipedia

ひとよ | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「アンダーカバー・ブラザー」 2002

アンダーカバー・ブラザー (字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 黒人組織と協力し、白人至上主義の悪の組織と戦うスパイエージェントの男。

www.youtube.com

 

感想

 コメディ映画とはいえ、結構カジュアルに人種間の対立を描くのだなと軽く驚いた。ただ黒人組織が差別解消のために白人を雇ったり、そこで逆差別の少し気まずい思いをさせる描写もあったりしてしっかりとバランスを取っており、この映画を見たからといって対立が深まるようには描かれていない。

 

 これらを皮肉やジョークを散りばめながら描いていくのだから、一見おバカそうに見えて、かなり高度な事をやっていると言えそうだ。コメディはタブーに切り込んでこそ、みたいなところがあるかもしれない。

 

 主人公は70年代の黒人ファッションに身を包むスパイエージェントの男だ。いきなり「もみあげをつけたメイシー・グレイ」と形容されていて笑ってしまったが、きっと多くの人は分からない。この映画はおそらく黒人文化や白人文化との違いに対する知識がどれくらいあるかによって、楽しめるかどうかが決まってきそうだ。

 

 東京と大阪の文化の違いをネタにしたコメディ映画みたいなもので、他国の人にはあまり面白みが伝わらない類の映画だ。自分も笑うというよりは、そこが違うのかと感心してしまう場面の方が多かった。知識がなくても興味があれば、笑えなくても勉強にはなる。

 

 受け手の問題もあり、爆笑するほどではないが、冷え切った感じでもない、ほどほどのギャグが繰り広げられる映画となっている。そんな中で、白人文化に取り込まれてしまった主人公を責める仲間たちが、主人公と良い仲になった白人女性の話になると急に興味津々となるのが面白かった。

 

 それから黒人対白人で戦っていたのに、いつの間にか男たちは一緒になって女性たちのセクシーな戦いを楽しんでいたシーンも印象的だった。人間は肌の色だけでなく、年齢・性別・趣味嗜好などいくつもの属性を持っていて、それらのどれかに共通点があれば案外簡単に打ち解けられるものだ。肌の色だけに拘るなんて馬鹿らしいよね、と示唆しているようにも思えた。

 

 

 スパイ映画をパロディしただけの、なんてことのないストーリーなのだが、主人公と敵役がマイケル・ジャクソンの曲が流れる中で対決するクライマックスはなかなか盛り上がった。このシーンだけでなく全編で音楽の選曲が良く、内容はどうあれ音楽は良さそうという事前の予想どおりだった。なぜかジェームズ・ブラウンも出ている。そこそこ面白く音楽も良いので、暇つぶしにユルく見るには最適の映画といえる。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 マルコム・D・リー

 

脚本/原案 ジョン・リドリー

 

出演 エディ・グリフィン/クリス・カッタン/デニース・リチャーズ/アーンジャニュー・エリス/デイブ・チャペル/チー・マクブライド/ニール・パトリック・ハリス/ゲイリー・アンソニー・ウィリアムズ/ビリー・ディー・ウィリアムズ/ジャック・ノースワーシー/ロバート・トランブル/J・D・ホール/ジェームズ・ブラウン

 

音楽 スタンリー・クラーク

 

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「全身小説家」 1994

全身小説家

★★★★☆

 

あらすじ

 小説家・井上光晴の最期の5年間を追ったドキュメンタリー映画。キネマ旬報ベスト・ワン作品。157分。

 

感想

 この映画で取り上げられている井上光晴という人のことについては、本も読んだことがなく、どんな人なのかもまったく知らなかったのだが、ひたすら創作に打ち込む近寄りがたい人という事前に勝手にイメージしていた人物像とは全然違った。まわりに自然と人が集まってくるような人間的な魅力にあふれた人だった。何も知らなければただの陽気なおじさんだと思ってしまいそうだ。

 

 中でも、彼について語る年配の女性達がみな目をキラキラさせていたのが印象的だった。生まれてきた以上はやりたいことをやらなきゃ本当に生きたことにはならない、と自身が語っているが、そうやって生きている人は魅力的に見えるのだろう。しかも人の迷惑を省みず傍若無人にやりたいことをやるのではなく、なるべく誰にも迷惑をかけないようにと心掛ける配慮の人でもある。皆が楽しいと自分も楽しいというタイプの人で、愛されるのはよく分かる。

 

 

 映画は次第に井上の闘病にフォーカスを当てるようになる。このあたりは闘病していたから撮影を始めたのか、撮影していたら闘病するようになったのか、どちらが先なのか気になる所ではある。彼が死に対して恐怖というよりも無念さを表しているのが印象的だった。今からできることには限りがあるのか…と残念がっている。

 

 そんな中で行われた井上の手術シーンはなかなか強烈なものがあった。ニュースやドキュメンタリーで目にする手術の様子は、たいがい患者はどこの誰だか分からない匿名性の高い人物なのであまり意識しないのだが、この映画ではずっと追いかけてきた人の手術を見ることになるので、生々しさが半端なかった。今まで喋っていた人の体が切り開かれて内臓が取り出され、そして術後に再び普通に喋っているのを見るのは、今さらだがなんだか不思議な感じがした。こういうことを日常的にやっている医者はすごいなと妙に感心してしまう。

 

 闘病とは別に、取材する中で井上が自身で語った半生が虚構にまみれている事も徐々に明らかになっていく。確かに最初は驚いたが、なんだか段々と愉快な気分になってきた。人間だれしも語りたくない過去はあるし、それを嘘で取り繕おうとすることはある。それに真実を語ったつもりでも気づかず捻じ曲げてしまっていることだってある。だったら、どうせなら面白い話をでっちあげたっていいじゃないかという気がしてきた。誰に迷惑をかけるわけでもない。性愛を超越した男女の友情があることを知った、と告別式で涙ながらに語っていた瀬戸内寂聴も、後で調べたら実は男女の仲だったらしく、やってるなとニヤリとしてしまった。でもそれで別に構わない。

 

 この映画では井上の小説のことについてはあまり触れらないのだが、当時は彼の作品について世間はある程度の知識を持っているという前提だったのだろうか。彼の作品を読んでみたくなった。

 

スタッフ/キャスト

監督/撮影 原一男

 

出演 井上光晴/井上郁子/埴谷雄高/瀬戸内寂聴/野間宏

 

撮影 大津幸四郎

 

全身小説家

全身小説家

  • 井上光晴
Amazon

全身小説家 - Wikipedia

全身小説家 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「ボーン・コレクター」 1999

ボーン・コレクター (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 事故により半身不随となった科学捜査官が、女性警官とコンビを組んで連続殺人事件の犯人を追う。

 

感想

 自宅で寝たきりの科学捜査官が、女性警官が行う現場検証をもとに事件の真相に迫っていく。いわゆる安楽椅子探偵もので、主人公が頭脳を、女性警官が行動を役割分担する形となっている。事件現場で何を見つけ、それから何を推理したのかというような、本来なら一人の名探偵の中で自己完結してしまうことがすべて言語化されるので、分かりやすくて面白い。さらに二人のコミュニケーションにおける微妙なタイムラグが緊張感を生んでいて、ハラハラドキドキもさせてくれる。

 

 そしてこのコンビを演じる二人の役者が素晴らしい。半身不随の主人公を演じるデンゼル・ワシントンはほとんど同じ状態で大きな動きはないにもかかわらず、バリエーション豊富な演技でマンネリを感じさせることがない。一方の若い警官を演じるアンジェリーナ・ジョリーも、初々しさを感じさせながらも凛とした佇まいで華がある。彼女はスターになるのも納得の存在感を放っていた。

 

 この二人が協力することで少しずつ犯人に迫ってはいるのだが、その間に多くの被害者が救出されずに死んでしまうのがリアルだ。彼らが助かってしまうとその証言が注目を集め、科学捜査で犯人を見つけ出すというこの物語の趣旨から外れてしまうという製作者の意図があるのが主な理由なのだろうが、実際のところ、そんなに都合よく被害者を助けられることはなかなかない。それから以前から連続殺人事件は起きていたのに、警察がその関連性を見落としてしまって単独事件として処理していたというのも地味に怖い。こういうのも現実には良く起きていそうだ。

 

 

 やがて犯人による数々の謎めいた犯行の理由が判明するのだが、なぜ犯人がこんな面倒くさいことを行うのか、その目的はよく分からなかった。そこは単なるクレイジーな犯人の趣味の世界ということなのかもしれないが、後で判明する犯人の犯行動機から考えると、特に猟奇的な趣味は持ち合わせていないはずだ。逆に猟奇的な殺人というものがどういうものかよく分からず、それらしく見せるために参考文献を用いたという事なのかもしれない。もしそうだったとしたら、特段楽しくもない、辛くて面倒くさいだけの作業を仕事のようにやっていたという事になり、なんだか間抜けではある。なんなら主人公の方がこの事件に楽しく取り組んでいたかもしれない。

 

 そんな犯人が、動けない主人公に襲い掛かるクライマックスは、こんなのノーチャンスだろうと絶望的な気持ちになってしまった。これはなかなか味わえないレベルのお先真っ暗感だ。だがこんなに絶体絶命に思えても、やれることは何かある。最後まで決してあきらめず、必死に戦いつくす主人公の姿になんだか勇気づけられてしまった。自分も頑張ろう、まだやれる、と思えてくるラストで元気が出た。

 

スタッフ/キャスト

監督 フィリップ・ノイス

 

原作 ボーン・コレクター 上 (文春文庫)

 

出演 デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/マイケル・ルーカー/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン/ジョン・ベンジャミン・ヒッキー

 

撮影 ディーン・セムラー

 

ボーン・コレクター - Wikipedia

ボーン・コレクター 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「嵐電」 2019

嵐電

★★★☆☆

 

あらすじ

 京都の路面電車「嵐電(らんでん)」を舞台に展開される三組の男女の物語。

 

感想

 三組の男女のそれぞれの恋愛模様が時に交錯しながら描かれていく。ただファンタジー要素が多いので、どこまでが現実なのだろうかと訝ってしまうような、不思議な味わいのする映画だ。この幻想的な展開をすんなり受け入れてしまえるのは、舞台が古都京都ならではかもしれない。

bookcites.hatenadiary.com

 

 電車の中から狸と狐に扮した白塗りの男女が出てきたりするのだが、あまり幻想的な雰囲気がなくて、白々しさが出てしまっていたのは残念だった。撮影機材などの予算的な問題なのかなと思ったが、カフェの女性店員と俳優が手をつなぎ電車に揺られるシーンはいい雰囲気の映像に仕上がっていたので、そういうわけでもなさそうだ。それから自然なセリフ回しは悪くないのだが、重要なセリフが聞き取りづらいことが多かったり、画面に動きを出すためなのだろうが役者が不自然な動きを急に始めたりと、他にも気になる部分はいくつかあった。

 

 冒頭に「行違い駅」の様子が長々と映し出されることからも、この映画はすれ違う男女を描いた映画だと言える。別れた後に本当の気持ちに気づく男子高生や、なぜすれ違ってしまったのか後悔と共に省みている作家の男、現在進行形ですれ違い続けるカフェの女性店員。そんな中でも、控えめな部分と大胆な部分が歪に表に出てしまうカフェの女性店員が良かった。そして高校生男女の重要なシーンに毎度なぜか偶然立ち会ってしまう井浦新演じる作家の男の、戸惑いつつも平静を保とうとする様子が面白かった。

 

 

 最終的にはみなハッピーエンドのような形になるのだが、現実には全員そうはならなかったのだろうなと想像できてしまって切ない。これらがそうあって欲しかった現実だったのかと思うと、ますます悲哀を感じてしまう。古都京都にはそんな男女の渦巻く想いが1200年分、土地に沁み込んでいるわけで、だからこそ幻想的な出来事が起きてもおかしくないように思えてしまうのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 鈴木卓爾

 

出演 井浦新/大西礼芳/安部聡子/金井浩人/窪瀬環/石田健太/福本純里/水上竜士

 

音楽 あがた森魚

 

嵐電

嵐電

  • 井浦新
Amazon

嵐電 (映画) - Wikipedia

嵐電 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「チャイルド44 森に消えた子供たち」 2015

チャイルド44 森に消えた子供たち(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 戦争の英雄としてソ連の国家保安省(MGB)のエリート将校だった男は、ある事件がきっかけで左遷されてしまい、以前から気になっていた幼児連続殺人事件を本格的に調べ始める。137分。

 

感想

 冒頭でいきなりソ連とウクライナの暗い歴史に言及するので、タイムリー過ぎて軽く動揺する。ただその後は触れられなくなるのであまり本編とは関係ないのかなと油断していたら、最後につながってきた。戦争は終戦となれば終わりなのではなく、その後も人々に影響を及ぼしつづけるものなのだなとつくづく思う。それは体験者だけでなくその子供にも引き継がれてしまう事もあり、そう考えると戦争がまったくの過去の出来事と言えるようになるまでには100年ぐらいはかかってしまうような気がする。

 

 エリートだった主人公が左遷され、気になっていた幼児連続殺人事件の捜査に乗り出すストーリー。主人公が左遷された理由は、忠誠度を試されてそれに応えることが出来なかったからなのだが、白いものを白いと言ったら不評を買ってしまったというのがなんだか納得できない。白いものを白いと言う人間を拒絶し、白いものでも黒いと言える忖度できる人間を優遇するなんて組織にとっては不利益にしかならないはずなのだが、ソ連では有効なのだろう。皆が困ろうがたった一人の独裁者が満足すればそれでいい独裁国家。

 

 

 世間には、理想はゆるい独裁国家、などと考えている人がいるらしいが、「ゆるい」独裁があり得ると思っている時点で相当お花畑だと言える。独裁が時間と共にどんどんと過酷なものになっていくのなんて自明の話だ。

 

 映画はそんな独裁政権下の理不尽が多く描かれていく。そもそも、スターリンがソ連は楽園で、楽園では殺人は起きない、と発言したことから公式には殺人事件は発生しないことになっていて、主人公らが事件として調べ始めただけで危険視されてしまうというのが相当ヤバい。これは逆に潜在的なシリアルキラーにとってはやりたい放題というわけで、殺人鬼にとっての楽園になってしまっている。その他にも、政府に目をつけられて家族皆で死ぬのか誰かを切り捨てるのかの決断を迫られたり、相思相愛だと思っていた女性が実は自分の背後にいる国家を恐れて服従しているだけだったと判明したりと、なかなかの暗黒ぶりが垣間見えるシーンが随所にある。

 

 事件の捜査を進める主人公だが、捜査よりも政府の妨害をいかにかわすかのほうが大変で、事件の謎を追うミステリーというよりもサスペンスと言った方がいいような内容となっている。実際、案外あっさりと犯人も見つかってしまうので、舞台がソ連でなければ30分ぐらいで終わってしまう内容だったかもしれない。

 

 2時間以上あるがその長さを感じさせない緊張感があり、それなりには楽しめる映画だ。ただ見終わった後にスッキリしないものが残ってしまうのも事実。まず何と言っても、主人公がなぜ身の危険を省みずに事件の捜査を強行したのかが分からない。一応は左遷されて半ばやけくそだったからという事なのだろうが、大して関わりのない事件に命を懸けたくなるほどの説得力のある理由は提示されなかったので、釈然としないものがずっと残った。同様に妻や左遷先の署長がノリノリで協力するのもよく分からない。

 

 それから、とうとう政府に捕らえられるも命からがら脱出した主人公らが、そこで逃亡するでも体勢を立て直すでもなく、そのまま流れるように捜査を再開したのも不自然に感じられた。ただ主人公の妻が、ピンチになる度に毎回必死に夫に助けを求めるわりには案外自力で敵を倒していて、意外と強くてたくましいのは面白かった。

 

 事件の捜査も犯人の異常性も、ウクライナの孤児院出身の主人公の生き様も独裁政権下のソ連の描写も、何もかもが中途半端に詰めあわされているだけといった印象の映画だ。最終的に主人公は独裁政権下に再び居場所を得ただけだし、結局何が描きたかったのだろうと思ってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ダニエル・エスピノーサ

 

脚本 リチャード・プライス

 

原作 チャイルド44 上巻 (新潮文庫)


製作

bookcites.hatenadiary.com

マイケル・シェイファー/グレッグ・シャピロ

 

出演 トム・ハーディ/ゲイリー・オールドマン/ノオミ・ラパス/ジョエル・キナマン/ジェイソン・クラーク/ヴァンサン・カッセル

 

チャイルド44 森に消えた子供たち - Wikipedia

チャイルド44 森に消えた子供たち 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com

「顔」 1957

松本清張 顔

★★★☆☆

 

あらすじ

 追いすがる腐れ縁の男を殺して東京に向かった女は、モデルとして成功を手に入れるがやがて事件の目撃者の存在に怯えるようになる。

 

感想

 岡田茉莉子演じる主人公が、電車から男を突き落としたことから物語は始まる。詳しい状況はまだ明かされないが、男が主人公を脅しているようだったし、殺意はあったのかもしれないが、もみあいからの事故のようなものにも見えなくはなかったので、逃げずに目撃者のフリをして警察を呼べばよかったのにと思ってしまった。ただ黙っていればバレることなく済ますことが出来るかもしれないとの期待から逃げてしまったのだろう。この時たまたま目撃者がいたことが、のちのち彼女を苦しめることになる。

 

 電車の中の二人の様子から、彼女は男に弱みを握られた気の毒な身の上の善良な女なのかと思っていたら、全然違っていて意外だった。東京でモデルとして成り上がることを目指して、親切な先輩を蹴落とし、体を張ってスポンサーを獲得し、なりふり構わず突き進んでいる。美しい岡田茉莉子の顔が段々ヒール味を帯びて見えてくる。

 

 

 ただ彼女の境遇が恵まれていなかったのは事実のようで、善良で貧しいまま一生を終えるくらいなら、なんでもやって金持ちになってやるという気持ちは分からなくはない。今でいうギャングスタのラッパーみたいなもので、それはそれで一つの生き方として他人が否定できるものではないだろう。

Get Rich Or Die Tryin

Get Rich Or Die Tryin

  • アーティスト:50 Cent
  • Interscope /universa
Amazon

 

 

 主人公の事件を追うのは田舎者の刑事。やがては東京の刑事と共に捜査をするようになる。演じる笠智衆の演技はわざとらしいのだが、どこか憎めない愛嬌があって面白い。ただの事故で済まそうとする東京の刑事をよそに粘り強く捜査を続け、事件の真相に迫っていく。

 

 その捜査に協力するのがたまたま事件を目撃した男だ。ただ彼は彼で暗い過去を持っており、刑事や記者に金をせびるような怪しい振る舞いを見せており、なにがやりたいのだか、いまいち伝わってこなかった。最終的に彼は直接彼女と接触を図ろうとするのだが、彼がいつ諸々の情報を入手したのかが謎で、描き方がだいぶ雑なように思えた。

 

 その他にも主人公が付き合っていたプロ野球選手に野球を辞めさせようとするくだりもよく分からなかった。人目を避けてひっそりと暮らしたいという事なのだろうが、それならわざわざプロ野球選手を選ぶことはないように思えた。そこは彼女が悪女ではなく、普通の女に戻った瞬間だったのかもしれないが。

 

 ちょっと事件の結末が曖昧ですっきりしないなと思っていたのだが、「都会は色付きの照明が多すぎる…」と笠智衆演じる田舎者の刑事がつぶやくところから始まる一連のエンディングは、往年のクラシックな社会派サスペンス映画の趣があってなかなか良かった。都会はたくさんの人を惹きつけ、その人生を狂わせる。なんとも言えない表情の主人公の顔で終わるラストシーンもじんわりと来て、余韻は悪くない。

 

スタッフ/キャスト

監督 大曽根辰夫

 

脚本 井手雅人/瀬川昌治

 

原作 「顔・白い闇 (角川文庫)」所収 「顔」

 

出演 岡田茉莉子/大木実/松本克平/千石規子

bookcites.hatenadiary.com

 

音楽    黛敏郎

 

顔 (松本清張) - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com