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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」 2003

木更津キャッツアイ 日本シリーズ

★★★☆☆

 

あらすじ

 余命半年ながら仲間と楽しく過ごしていた男は、地元で愛されるも死んだはずの男と再会する。

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 人気ドラマの劇場版シリーズ第1作。124分。

 

感想

 人気テレビドラマの劇場版だ。一応ドラマを見てから見たが、見ていないと多分、各キャラクターの設定や関係性が分からず、ついて行けないような気がする。ドラマファンのための映画だ。

 

 公開当時は新紙幣発行を間近に控えていたようで(2004年11月)、それをネタにした偽造紙幣をめぐる物語となっている。最近この紙幣に代わる新たな紙幣が発行されたが、今を生きる我々には普通に見慣れたこの紙幣が、当時の観客にはまだ見慣れぬ存在だったのかと思うと不思議な気分になる。

 

 

 劇中に登場する贋札も今見るとすぐにバレてしまいそうなものだった。だがこういう不思議なタイムスリップ感が味わえるのも映画の魅力だ。

 

 表のメインストーリーの裏で、実はこんなことがあったと時間を遡ってリプレイするドラマのスタイルをそのまま踏襲した構成だ。だがドラマでは一話に一回だったのに、映画では野球の一試合分、9回も表裏を描くので、若干のくどさを感じてしまった。

 

 ドラマの拡大版といった雰囲気で、とくに映像的なこだわりもないようなので、わざわざ映画にしないでテレビの二時間スペシャルで良かったのでは?と思わないでもない。ただ映画版だということで無駄に力が入り、ドラマ版の良さが消えてしまうことはよくある話なので、これはこれで良かったのかもしれない。

 

 今回はたまたまだが、新紙幣の件で思いを馳せることにもなったりしたので、映画化した意味はあったのだろう。ドラマの締めくくりに映画館へ行くファンイベントだと思えばいい。ドラマを見ていたら普通に楽しめる物語だ。

 

 あまり映画を意識していると思えない映画だったが、無人島のシーンは多少映画的雰囲気が出ている。また、終盤の薬師丸ひろ子は、その佇まいだけで映画ぽさが溢れていて、さすがだなと感心した。 

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スタッフ/キャスト

監督 金子文紀

 

脚本 宮藤官九郎

 

出演 岡田准一/櫻井翔/岡田義徳/佐藤隆太/塚本高史/酒井若菜/山口智充/阿部サダヲ/嶋大輔/三宅弘城/平岩紙/渡辺いっけい/哀川翔/氣志團/ケーシー高峰*/古田新太/森下愛子/小日向文世//内村光良/ユンソナ/船越英一郎*/坂井真紀/金剛地武志/袴田吉彦/中尾彬*/渡辺哲/岩松了**/ 伊佐山ひろ子

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*特別出演 **友情出演

 

木更津キャッツアイ 日本シリーズ - Wikipedia

 

 

関連する作品

次作 シリーズ第2作

 

 

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「峠 最後のサムライ」 2022

峠 最後のサムライ

★★★★☆

 

あらすじ

 戊辰戦争が始まって西軍が迫る中、越後長岡藩は、家老・河井継之助の方針により、どちらにもつかず独自の行動を取ることを決める。

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 北越戦争時の河井継之助を描いた作品。114分。

 

感想

 序盤は西軍が迫る中、兵を鍛え、人と会い、そして芸者と遊ぶ主人公・河井継之助の姿が描かれる。やるべきことはちゃんとやった上で、あとは時が来るまでジタバタしない主人公の肝の据わった性格が伝わってくる。

 

 凡人だったらオロオロして余計なことをしてしまったり、逆に何も出来なくなってしまいそうだ。

 

 そんな中で主人公は、妻を連れて芸者遊びをしたり、知人の医者の絵の上手い息子に跡を継がずに画家になるように勧めたりしている。封建的な時代に軽々とそんなことをやれてしまうなんて、相当に進歩的な考えをしていることが窺える。外国事情にも詳しいようだ。

 

 

 それだけに、主君への恩だとか藩を守るだとか、それでも古い考えにこだわっている主人公が不可解に思えてしまう。本来なら、そんなの知らんと好きなことを始めてしまいそうな人だ。だが彼自身が言っていたように、立場を離れたら宙に浮いたような一生を送ってしまう、という思いがあったからなのだろう。これは一見、良いことのように思えて、悪くとらえることも出来てしまう厄介な考え方だ。

 

 他人には好きなように生きろと言えるのだから、主人公にとってこれは信条であり、また呪縛にもなっていたのかもしれない。

 

 一度奪われた城を取り戻すシーンや、もはやこれまでと自刃するシーンなど、心動かされるシーンはいくつかあった。だが全体としては、教科書的にエピソードが羅列されただけの印象だ。それらがつながり、深みのある河井継之助像が浮かび上がってくることはない。また藩の内情や外部の状況など、周囲の情報も断片的で分かりづらい。

 

 それから、冒頭の徳川慶喜による大政奉還や、主人公が藩の方針を述べる場面で、長々とセリフを喋ってテンポが悪くなるのが気になった。皆に重大な話を言って聞かせるいわば演説のシーンなので、しっかり伝わるようにとゆっくり話していたのだとは思うが、あまりにも長いので途中で気が遠くなりそうになってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 小泉堯史

 

原作 峠(上中下) 合本版(新潮文庫)


出演

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香川京子/田中泯/東出昌大/芳根京子/坂東龍汰/榎木孝明/渡辺大/AKIRA/永山絢斗/佐々木蔵之介/井川比佐志/山本學/仲代達矢/矢島健一

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音楽 加古隆

 

峠 (小説) - Wikipedia

 

 

登場する人物

河井継之助/徳川慶喜/小山正太郎/川島億次郎/山本帯刀/小山良運/松平定敬/岩村精一郎/牧野忠恭(雪堂)

 

 

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「道頓堀川」 1982

道頓堀川

★★★☆☆

 

あらすじ

 元ハスラーのマスターが営む喫茶店で住み込みで働く画家志望の青年は、小料理屋の女将と出会う。130分。

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感想

 道頓堀川周辺に暮らす人々の人間模様を描いた群像劇だ。「道頓堀」と言われてもピンと来ないが、繁華街なので夜の街で働く人々や賭けビリヤードなどで稼ぐ人など、世間からはみ出したアウトロー的な人々が多く住む街といったところだろうか。

 

 そんな街に生きる人々の憩いの場となっている喫茶店で働くのが主人公だ。訪れる客たちとのエピソードが展開されるのかと思ったが、それはほぼ無くて、店のマスターとその息子、たまたま知り合った年上の女など、主人公の身近な人々のエピソードが中心となっている。

 

 それぞれのエピソードは内容が薄く、心に響くことはほぼないのだが、随所にインパクトのある演出があって楽しめる。喫茶店でいきなり全裸で踊り出すダンサーやたった1ゲームでげっそりと痩せこけるハスラー、無駄に激しい交通事故など、どうした?何があった?といちいちツッコみたくなるシーンがいくつもあって面白い。

 

 

 中でも全裸で踊るダンサーが股間を隠すため、真正面を向く時だけ毎度花を活けた大きな花瓶の前にわざわざ行くのが妙に可笑しかった。その律義さについ笑ってしまう。

 

 主人公と年上の女のいかにも昭和な濡れ場も印象的だ。情感たっぷりに描かれるが、途中で一度中断することで、勢いだけのものからしっとりしたものへと変化する。互いの気持ちを再度確かめ合うような間が出来て、味わいのある演出だった。

 

 主人公は友人の賭けビリヤードの付き添いをさせられたり、年上の女の逃げたペットの子犬を探す手伝いをさせられたりと、人の良さが伝わってくる。それがラストへの伏線となっていたのだろう。人は心優しいだけでは生きていくのは難しい。

 

 人間模様よりも映像の力で魅せる映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 深作欣二

 

原作 道頓堀川


出演 松坂慶子/真田広之/山﨑努/加賀まりこ/大滝秀治/渡瀬恒彦/片桐竜次/成瀬正/名古屋章/カルーセル麻紀/浜村純

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道頓堀川

道頓堀川

  • 松坂慶子
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道頓堀川 (映画) - Wikipedia

『道頓堀川』【公式】 - YouTube

 

 

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「夜明けまでバス停で」 2022

夜明けまでバス停で

★★★★☆

 

あらすじ

 住み込みで飲食店で働く中年女性は、コロナ禍で職と家を同時に失い、路上生活を送るようになる。91分。

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感想

 コロナ禍で職を失い、寮も追い出されて路上生活を送るようになった中年女性が主人公だ。仕事を失うだけならまだしも、住むところまで連動してなくなってしまうのはきつい。職がなければ部屋を借りられないし、住所がなければ職を得るのも難しい。住み込みの仕事のデメリットを思い知らされる。

 

 今なら行き場を失ってしまった人は、まずネットカフェに寝床を確保するのだろう。だがコロナ禍では休業してしまい、それができなかったとは盲点だった。当時のネットカフエを根城にしていた人たちはどうしていたのだろうかと今更気になってしまった。

東京や大阪、「ネットカフェ難民」の居場所確保が急務 - BBCニュース

 

 劇中では、コロナ禍になる前から人々がギスギスしていたことを描写している。社員とアルバイト、男と女、日本人と外国人など、立場の違う者同士が互いに牽制し合いながら日々を過ごしている。主人公の働く居酒屋という小さな職場内ですら分断があって協力し合えないのだから、当然、社会全体など一つになれるわけがない。これにコロナ禍の窮状が加わって、それがより露わとなる。

 

 

 人に助けを求められない主人公は、そのまま路上生活を送るようになってしまう。そんな日常に少しずつはまり込んでいく彼女の姿には、胸が締め付けられるような悲しみがあった。

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 しかもその過程で、行政の存在感は一切ない。GoToキャンペーンはやるし、オリンピックもやるし、使えないマスクも配るけど、行き場のなくなった主人公には手を差し伸べない。主人公が助けを求めようとしないからというのもあるが、自助だの、自己責任だのと言って、求めづらくしているのは行政だ。これではなんのために高い税金を払っているのかわからない。

 

 現代日本の生きづらさが凝縮されたようなストーリーで、これでラストは冒頭のシーンにつながるのかと思ったら、救いがなさすぎて絶望しそうになった。だが、転落していく主人公にやがて奇妙な明るさが漂い始めるのは、そこに昔ながらの助け合って生きる人々の姿があったからだろう。彼らとの交流を通して、主人公は自分を責めて我慢ばかりするのではなく、素直に感情を表現することも大事だと気づく。

 

 そして迎えた結末が、予想していたような悲惨なものではなく、救いのあるものとなったことに胸をなでおろした。これは、こんな世の中に抗ってきた主人公の日頃の行いが巡り巡って自分に返ってきたということだろう。そこに希望の光がある。少し明るい気分になれた。

 

 ただ、これは悲劇とは紙一重の、薄氷を踏むような辛うじての希望でしかない。これも大事だが、確実な希望を手にするために然るべき相手にちゃんと意思表示をすることも大事であると気づかせてくれる。都庁や国家議事堂を爆破するのはさすがにやりすぎだが。社会の欺瞞に対する怒りや憤りを表現しつつもどこか軽やかさもあり、最後にふっと前向きな気分にさせてくれる映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 高橋伴明

 

脚本 梶原阿貴

 

出演 板谷由夏/大西礼芳/三浦貴大/松浦祐也/ルビーモレノ/片岡礼子/土居志央梨/あめくみちこ/柄本佑/下元史朗/筒井真理子/根岸季衣

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撮影/編集    小川真司

 

夜明けまでバス停で - Wikipedia

 

 

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「博奕打ち外伝」 1972

博奕打ち外伝

★★★☆☆

 

あらすじ

 跡目争いで身を引いた兄弟分のために、後継者の組の横暴に必死に耐える組長。

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 シリーズ第10作。103分。

 

感想

 兄弟分のために、跡目を継ぐことが決まったライバルの組の横暴にグッと耐える組長が主人公だ。だが後継者に指名され、ライバルも反目せずに身を引いて、今後は安泰のはずの後継予定の組長率いる組が、荒ぶってライバルたちを挑発する理由がよく分からなかった。普通なら決定が覆ることがないように、おとなしくしていそうなものだ。

 

 しかしこれを主導していた右腕の男としては、親分の地位をより盤石なものとするために邪魔なライバルは潰し、軍資金も出来るだけ蓄えておきたかったのだろう。その気持ちは分からないでもないが、逆効果にしか見えなかった。とはいえこの右腕役を演じた松方弘樹の狂気は際立っていて、一定の説得力はある。

 

 

 跡目争いのライバルだった高倉健演じる男はあっさりと身を引くのだが、彼の仁義を重んじる性格が、主人公に呪いをかけることになってしまった。彼のお願いがなければ、主人公は無駄に弟を二人も死なせることはなかったはずだ。だがこれが、やるせないながらも任侠道なのだろう。皆がそれぞれの信念で動いた結果だ。

 

 また、右腕役の男に勝手放題されているだけに見える若山富三郎演じる後継予定の組長も、本来なら部下に舐められている情けない男でしかないはずなのに、そんな部下の暴走を受け入れ飲み込んでしまう懐の深さに、器の大きさを感じる。

 

 主演の鶴田浩二に加えて、高倉健や若山富三郎などもいる豪華な出演陣で、ドリーム感のある映画だ。出ているのはオープニングクレジットで分かっていたが、忘れた頃に登場した菅原文太はカッコ良かった。颯爽と登場し、波風を立てて周囲をざわつかせ、サッと退場してしまうのも彼らしい。

 

 華やかな出演陣がぞれぞれ、らしさのある男ぶりを見せながらぶつかるドラマで、見ごたえたっぷりだ。だが最終的には主人公の堪忍袋の緒が切れて、敵地に一人乗り込んでいくやくざ映画のワンパターンぶりに、またかと呆れてしまう部分もあった。もはや様式美ではあるのだが。

 

 それにラスボスとの対決が地味な一突きで終了し、そのまま静かにエンディングとなったのは、あっさりとし過ぎで物足りなかった。一瞬で勝負がつくにしても、一突きではなく、豪快に大きく斬りつけるとかカタルシスのある派手なアクションが欲しかった。

 

スタッフ/キャスト

監督 山下耕作

 

出演 鶴田浩二/若山富三郎/菅原文太/松方弘樹/浜木綿子/伊吹吾郎/金子信雄/内田朝雄/潮健児/汐路章/野口貴史/川谷拓三/志賀勝/辰巳柳太郎

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音楽 木下忠司

 

博奕打ち外伝

博奕打ち外伝 - Wikipedia

博奕打ち外伝[公式] - YouTube

 

 

関連する作品

前作 シリーズ第9作

 

 

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「銀座二十四帖」 1955

銀座二十四帖

★★☆☆☆

 

あらすじ

 銀座で花屋を営む男は、それを描いた画家を探すために画廊に展示されていた絵画を見て、行方不明となった兄の作品ではないかと直感する。116分。

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感想

 銀座で花屋を営む男が主人公だ。彼が、銀座の薬物のまん延を阻止しようとする話と、ある絵画を描いた画家を探す話が並行して描かれていく。だが話の焦点がどっちつかずで推進力に欠ける展開だ。

 

 そのどっちつかずの隙間を埋めるのは、銀座という町の紹介映像だ。華やかな面からダークな面、そこに集う人たちや働く人たちの人間模様など、おそらく当時の人たちが興味津々だったであろう最先端の町、銀座の様子を伝えることに費やされている。今ならテレビの情報番組でやりそうな内容だが、当時は映画がその役割も担っていたのだろう。

 

 並行していた二つの物語はやがて一つの話へと集約されていく。だが登場人物たちの不可解な動きに戸惑わされてばかりだった。まず主人公が、探している画家は自分の兄かもしれないとなぜはっきりと言わないのか、不思議だった。なぜか明言せずに言葉を濁すものだから、余計な誤解を生んで様々なトラブルを招いてしまっていた。

 

 

 その他にも、画家を探す女性がなぜ主人公に思いを寄せるようになったのかも不明だし、その夫もそんなに妻のことを愛してるならちゃんと態度で示せばいいのに、冷淡なふりをしていたのもよく分からない。もっと意思表示を皆ちゃんとするべきだろう。どうにも人物描写がしっくりこなかった。

 

 ストーリー展開が遅く、ダラダラとした冗長さを感じてしまう映画だ。女に付きまとっていた男が実は警官だったと明かすまでの、長く執拗な前振りはその顕著な例で、もはやネタバレしているのになぜそこまで引っ張るのか不思議だった。

 

 クライマックスはグッとサスペンス感が出て映画らしさが高まったり、ラストには自衛隊が登場して戦争への懸念を暗示したりと、終盤はそれなりに見どころがあったが、それでも100分ぐらいにおさめて欲しい内容だった。2時間弱は長すぎる。

 

 ところでラストの自衛隊のくだりは、駅のホームでどこかに赴任する隊員を皆が万歳三唱で送り出すシーンだったが、自衛隊になっても旧日本軍の真似事みたいなことをしていたのかと驚いた。自衛隊が出来たばかりで、他にどうするべきかよく分からないから漫然と前例を踏襲しただけなのかもしれないが、そういうのはもう止そうとはならなかったのかと呆れてしまった。きっとこのマインドは今の自衛隊にも受け継がれているのだろう。

聞かれなかったから…防衛省、泥縄の不祥事発表 国会で質疑へ:朝日新聞デジタル

 

 

スタッフ/キャスト

監督 川島雄三

 

原作 「銀座二十四帖」 井上友一郎

 

出演 三橋達也/月丘夢路/北原三枝/大坂志郎/河津清三郎/安部徹/芦田伸介/岡田眞澄/佐野浅夫/浅丘ルリ子/森繁久彌(声)

 

銀座二十四帖

 

 

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「転校生-さよなら あなた-」 2007

転校生 -さよなら あなた-

★★★★☆

 

あらすじ

 離婚した母親について幼い頃に過ごした長野に戻って来た男子高生は、幼なじみと再会するが、ふとしたきっかけで体が入れ替わってしまう。

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 大林監督による1982年の映画「転校生」のセルフリメイク作品。120分。

 

感想

 主人公の母親が離婚して、住んでいた尾道から地元に戻ってきたという設定で、今作の舞台は長野となっている。だが狭い路地があって細い坂道もあるごちゃごちゃとした雰囲気は、どことなく尾道とよく似ている。敢えて傾いた不安定な構図を多用する映像と相まって、何か不思議なことが起きてもおかしくないような幻想的な場所に仕立てられている。

 

 そんな町の一角には神社の石段も見えたので、今回はここで体が入れ替わるのだろうなと予想していたのだが、そこではなくて全然別の方法だった。だが男女を左右に配置して、事故のあとは逆の位置に戻らせることで体が入れ替わったことを示す演出は見事だった。それに二人のもつれ具合は、体が入れ替わったことへの説得力がちゃんとあった。

 

 幼なじみの相手の女子高生は、割とさっぱりとした性格のように感じたが、体が入れ替わった後は急激に女らしくなったような気がして少し違和感があった。だがそこは典型的にしておかないと演じにくい部分があったからなのだろう。二人とも熱演で、本当に入れ替わったように見えてくる。

 

 

 入れ替わった体や役割の変化に戸惑う二人の様子をコミカルに描きつつも、次第に物語は深刻な展開になっていく。それと同時に独特の表現が増えて、不思議な世界観が醸成されていく。奇妙な世界へと、なんの衒いもなく突っ走っていく展開は、吹っ切れていて妙に気持ちがいい。その世界を自然に受け入れてしまっている。

 

 深刻な展開は、二人の体が元に戻れば解消されるのかと思っていたが、そのまま悲しい結末になってしまった。だが深く交流すれば、相手の中に自分が残り、自分の中には相手が残る。だから相手がいなくなっても、自分の中にいる相手を大切にすることで悲しみを減らすことができる。そうやって人は別れを乗り越え、成長していく。

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 ところで映画の副題「さよなら あなた」は、オリジナル版の最後の言葉「さよなら わたし」に呼応してつけられたそうだが、よく考えると一周回ってすごい普通のことを言っているだけになっているのがなんか可笑しい。ムードで持っていかれてしまう映画だ。大林ワールドを堪能できる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/音楽*

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*學草太郎名義

 

脚本 剣持亘/内藤忠司/石森史郎/南柱根

 

原作 おれがあいつであいつがおれで (角川つばさ文庫)


出演 蓮佛美沙子/森田直幸/清水美砂/厚木拓郎/寺島咲/石田ひかり/田口トモロヲ/斉藤健一(ヒロシ)/窪塚俊介/根岸季衣/中原丈雄/細山田隆人/高橋かおり/宍戸錠/山田辰夫/入江若葉/小林桂樹*/犬塚弘/古手川祐子/長門裕之

*写真出演

 

転校生 (映画) - Wikipedia

 

 

登場する作品

死に至る病 (岩波文庫)

 

 

関連する作品

オリジナル作品

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「溺れるナイフ」 2016

溺れるナイフ

★★★★☆

 

あらすじ

 両親が家業を継ぐことになり、東京でのモデルの仕事を辞めて田舎に引っ越してきた女子中学生は、そこでひとりの少年と出会う。111分。

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感想

 東京の少女が田舎の少年と恋に落ちるラブストーリーだ。まず主演の菅田将暉と小松奈々が、田舎の中学生にはあり得ないようなヴィジュアルだ。そんなわけないだろうとツッコみたくなるところだが、それが二人の恋の特別感を際立たせているとも言える。

 

 小松奈々演じる主人公が恋に落ちるのは、地元の有力者の跡取り息子で、傲慢に振る舞う少年だ。分かりやすく目立つ存在だが、主人公はそんな少年が見せる万能感に惹かれたのだろう。立ち入り禁止の神聖な場所とされる海辺でも、悠々と泳ぐような恐れを知らぬ少年だ。

 

 

 元モデルの主人公も、田舎では注目される存在である。周囲が恐る恐る声をかけるだけの中で、少年は自分にないものを彼女に感じて惹かれ、万能感ゆえに手に入れようとする。そうして二人は付き合い始める。

 

 完璧とも言えるカップルとなった二人だったが、男に襲われた主人公を少年が助けられなかったことから、その関係に溝が生じてしまう。なんだって出来ると万能感に満ちていた少年にとっては、彼女を守れなかったこの事件は屈辱的な出来事だった。自信を失い、彼のナイフのようなきらめきは影をひそめる。

 

 だが万能感を打ち砕かれる経験は、思春期の若者なら誰しもが通る道だ。むしろ少年はそれをよく維持できた方だろう。それに、素直に敗北を認めているのは潔い。

 

 世の中、特にSNSには、完全に負けているのにそれを認めず、負けていないポーズを取ることで万能感を演出し、皆の注目を集め続けようとしているみっともない人間はたくさんいる。それに比べたら、それをしない少年は立派だ。少年への気持ちがあきらめきれない主人公は、彼に元の姿を取り戻して欲しいと願っている。

自民・杉田水脈氏「言論弾圧」 男女平等否定への批判に:東京新聞 TOKYO Web

 

 一方で主人公には芸能界復帰の誘いがあり、戻るべきかどうかで悩んでいた。遠くへ行きたい主人公と、良くも悪くも地元で生きることを宿命づけられている少年は、別れる運命だったと言えるのかもしれない。無意識にそれに気づいていたからこそ、二人の関係には激しさがあったのだろう。

 

 クライマックスは、そんな二人の想いが込められた壮絶なものとなる。二人の思い出を輝かしいものにするための儀式だ。それさえあれば、一人でも怖れることなく生きていける。

 

 主演の二人の他、常に主人公を思いやるも報われない、いかにも少女漫画にいそうないい奴キャラを演じた重岡大毅や、地味ながら実は支配欲が強そうな同級生役の上白石萌音と、皆が瑞々しい演技を見せている。映像や音楽も印象的で、インパクトのある恋愛映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 山戸結希

 

脚本 井土紀州

 

原作 溺れるナイフ(1) (別冊フレンドコミックス)

 

出演 菅田将暉/小松菜奈/重岡大毅/上白石萌音/志磨遼平/斉藤陽一郎/市川美和子/ミッキー・カーチス

 

音楽    坂本秀一

 

溺れるナイフ

溺れるナイフ - Wikipedia

 

 

この作品が登場する作品

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「あした来る人」 1955

あした来る人

★★★☆☆

 

あらすじ

 ホテルの一室で仕事する実業家の元に、本出版の資金援助を求める学者の男が、娘の紹介でやってくる。115分。

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感想

 実業家の娘夫婦に愛人、そして娘の知り合いの学者と、実業家周辺の四人の若者を描いた群像劇だ。だがこの若者たちは皆少しおかしい。

 

 娘夫婦の夫は妻に黙って山登りに出掛けてしまうし、妻は夫が遭難した知らせを受けても駆けつけることはない。不仲というよりも嫌い合っているといった方がいいだろう。最低限のコミュニケーションも築けず、なるべく顔を合わせないようにしている。

 

 

 そして愛人は実業家の出資で洋裁店を営んでいる。これ自体は珍しくもなんともないが、実業家とは厳密には愛人の関係ではなく、それがまた話をややこしくている。実業家は彼女を娘のように可愛がっており、彼女は男の本当の愛人になりたいと思っている。

 

 この中では、学者の男が一番真っ当だといえるが、初対面の人にも相手の興味に関係なく、自分の研究について延々と語り続けてしまうような男である。誠実そうではあるが、付き合うとうんざりしてしまいそうだ。

 

 そんな4人の男女がシャッフルする四角関係が描かれていく。いけない関係に臨む態度は4人それぞれだが、愛人のそれが一番よく分からなかった。他人の夫でも構わずグイグイ行くくせに、それがパトロンの娘婿だと知ると途端に躊躇してしまう。彼女なりに複雑な感情はあるのだろうが、中途半端で面倒くさい人に思えてしまった。

 

 ある夫婦が別れて、お互い新たな相手とよろしくやるだけの都合の良いメロドラマ的な展開かと冷ややかに見ていたのだが、ここで突然、それを見ている実業家の視線が入ってくるのが面白かった。彼は、若者たちの行動に感銘を受けている。

 

 きっと実業家の世代は、夫婦はどうあろうと一緒にいるもの、妾は妾らしくしているもの、会社員になったらその会社で一生働くもの、そういうものだと思い込んで生きてきたのだろう。ある意味で状況に身を任せ、人生に期待することなくあきらめていた。

 

 しかし若い世代は置かれた状況に甘んじず、より幸せになろうともがいている。希望を持てば失望することもあるのに、それでもよりよい明日が来ることを夢見る若者たちの姿は新鮮で、新たな時代の到来を実感していたのだろう。

 

 今は再び、人生なんてこんなもの、期待するだけ無駄だとあきらめて生きる時代になっているように感じる。明るい未来を信じて生きる世代が誕生することがまたあるのだろうかと、遠い目をしてしまった。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 川島雄三

 

原作 あした来る人

 

出演 山村聰/三橋達也/月丘夢路/新珠三千代/三國連太郎/小夜福子/小沢昭一/高原駿雄/金子信雄/天草四郎/高品格

 

音楽 黛敏郎

 

 

 

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「関東無宿」 1963

関東無宿

★★★☆☆

 

あらすじ

 いさかいを収めるために敵対する組の構成員に会いに行った男は、その姉が有名ないかさま賭博師の妻であることを知る。92分。

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感想

 仁侠映画なのに序盤から女子高生三人がキャッキャとはしゃぐシーンがしばらく続くのが面白い。切った張ったを期待して映画館にやってきた当時の男たちは、どんな気持ちでこれを見ていたのだろうと想像するだけでも笑ってしまう。背伸びしたい年頃の少女向け映画のような始まりだった。

 

 この女子高生たちはヤクザの親分の娘とその友人たちだ。その組の構成員が、友人の一人を騙して売り飛ばしてしまうのだからあくどい。普通は、自分の親分の娘の友人にそんなことをしようなんて思わないだろう。

 

 

 売り飛ばされた女子高生は、本来なら可哀想な子供ということになるのだが、本人がポジティブでノリノリなのでそんな感じはあまりない。それでも、そんな肉屋を支持する豚みたいなことでいいのか?みたいな心のざわつきはある。

 

 少女を売り飛ばした組員が、彼女に惚れていた敵対する組員といざこざを起こし、それがやがて組同士の抗争へと拡大していくのだが、なんともショボい原因だ。主人公はそのいざこざを収めようと訪れた相手組員の家で、その姉が一度会ったことのあるいかさま賭博の女と気付く。

 

 その後は組同士の抗争と同時に、女の夫である有名ないかさま賭博師との対決が描かれていく。しかし抗争と賭博がどんな関係にあるのかがいまいちよく分からなかった。抗争は組のため、賭博は女のため、ということだったのだろうか。

 

 だが抗争を収めるために売り飛ばされた少女を探しに行ったはずなのに、賭博に夢中ですっかり忘れてしまった様子の主人公には間抜けなものを感じてしまった。寄り道してないで抗争解決に全力を尽くすべきなのでは?と問い詰めたくなる。

 

 やがて組同士の抗争にも決着がつくが、クライマックスからの後日談が長く、しかもグダグダの結末でどうにもスッキリしない。抗争と賭博がどっちつかずに描かれており、あまりカタルシスを得られないものだった。

 

 ただ、照明を当てる位置を次々と変えたり、戸がすべて倒れて真っ赤な背景が浮かび上がったりする舞台のような映像演出は印象的だった。よく見ると主演の小林旭の眉毛もすごいことになっていて、どこか歌舞伎ぽさもある。ストーリーは勘所がつかみにくいが、映像はクールな映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督 鈴木清順

 

原作 地底の歌 (1949年)

 

出演 小林旭/松原智恵子/平田大三郎/中原早苗/伊藤弘子/野呂圭介/高品格/殿山泰司/伊藤雄之助

 

関東無宿

関東無宿

  • 小林旭
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関連する作品

原作が同じ映画化作品(1956年)

地底の歌

地底の歌

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「利休」 1989

利休

★★★★☆

 

あらすじ

 織田信長に引き続き豊臣秀吉の側近となった茶人・千利休だったが、次第に秀吉との間に溝が生じ始める。135分。

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感想

 千利休と豊臣秀吉の変化していく関係を描いた物語だ。まず衣装や茶室のセット、小道具などが見事でそれだけで見ごたえがある。なんでもわざわざ美術館から借りてきた本物の茶器などを使って撮影したらしい。

 

 まだ信長が存命で、秀吉が天下人になる前から物語は始まる。最初から利休は秀吉を「こいつセンスねーな」と呆れ、秀吉は利休を「こいつすごいな」と感心している。だが両者ともそれを胸の内にしまったままで、はっきりと口に出すことはない。この互いに対する秘めた感情が、両者の存在が大きくなるにつれ、深い溝を生んでいくことになる。

 

 利休が、茶人としては評価していない秀吉に対して如才なく仕える様子は興味深い。何を言われても自らはへりくだり、常に秀吉を持ち上げる。媚びているだけと言えなくもないのだが、もはや些末なことは気にしない悟りを開いた人にも見える。

 

 

 自説を曲げずに秀吉の怒りを買った弟子の山上宗二に対し、秀吉に命令されて嫌々作った黄金の茶室も出来上がってみれば案外悪くなかったと述べていたのは象徴的だった。なんでもやってみれば得られるものがあるかもしれないと達観していたのだろう。ある意味で、疎ましくなるほどの利休の才能を大きく花開かせたのは、センスのない秀吉自身だったのかもしれない。彼の無理難題が利休を成長させた。

 

 天下人と茶の湯の神として強大な権力を持つようになった二人は、周囲の様々な思惑もあって対立するようになっていく。それが決定的となる二人きりでの最後の茶室のシーンは迫力があった。演じる三國連太郎と山崎努の息詰まるような迫真の演技には魅せられる。当初からあった互いに対する感情が隠し切れなくなり、もはや共存は不可能であると確信していく。

怪物と呼ばれて

怪物と呼ばれて

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 最終的には譲れないものを譲らなかった利休は自刃に追い込まれるが、ただ頑なだったのではなく、その前の家康と対面した際には心の揺らぎを見せている。彼も出来ることなら死にたくはなかったのだろう。人間らしさが垣間見える瞬間だった。

 

 切腹を申し付けた後の秀吉の一人ごちる姿も心に残る。そんな命令をしておきながらも彼の心には敗北感があったのかもしれない。深い余韻に浸れる見ごたえのある映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/出演* 勅使河原宏

*カメオ出演

 

脚本 赤瀬川原平

 

原作 秀吉と利休 (中公文庫)

 

出演 三國連太郎/山﨑努/三田佳子/岸田今日子/北林谷栄/松本幸四郎/中村吉右衛門/田村亮/坂東八十助/中村橋之助/財津一郎/観世栄夫/江波杏子/元永定正*/飯田善國*/堂本尚郎*/熊倉功夫*/中村獅童/細川護煕*/織本順吉/ドナルド・リチー/井川比佐志

*カメオ出演

 

音楽 武満徹

 

利休

利休

  • 三國連太郎
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利休 (映画) - Wikipedia

 

 

登場する人物

千利休/織田信長/徳川家康/大納言秀長(豊臣秀長)/北政所(高台院)/大政所/茶々/ 石田三成/古田織部/細川忠興/古渓和尚(蒲庵古渓)/長谷川等伯/正親町天皇/誠仁親王/和仁親王(後陽成天皇)/織田有楽(織田長益)/松井友閑/富田知信(富田一白)/高山右近/今井宗久/長次郎/前田玄以/津田宗及/フロイス/山上宗二/豊臣秀吉 

 

 

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「コンフィデンスマンJP プリンセス編」 2020

コンフィデンスマンJP プリンセス編

★★☆☆☆

 

あらすじ

 シンガポールの大富豪が亡くなり、その隠し子を遺産相続人として探していることを知った主人公らは、自らの弟子を送り込む。

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 人気ドラマの劇場版シリーズ第2作目。124分。

 

感想

 序盤は小ネタを挟みつつ、この後のための伏線を一生懸命に張っている。だがスベリ気味でツカミはOKとは言い難かった。それからどうでもいいが、息を引き取った大富豪役の北大路欣也の肌ツヤが良すぎて、とても死人の顔には見えなかった。

 

 そしていよいよ弟子の少女を隠し子役に、自分はその母親役として富豪の家に乗り込んでいく。これを成功させるまでの過程は悪くなかったが、その後が良くなかった。後継者に相応しくないと渡してくるだろう手切れ金が目当てだったのだが、この目標自体が中途半端だし、しかも失敗してしまう。

 

 

 この後は目標を見失い、何かありそうで何もない時間がしばらく続くことになる。これは主人公らに戦うべき相手がいないのが大きいだろう。本来であれば柴田恭兵演じる執事がそうなるべきだが、なぜか別格扱いで彼らの視野には入っていない。また遺産相続を争う兄弟たちも、敵対心は見せるものの明確に戦う姿勢は示さない。おかげで何をやっているのかよく分からない時間帯になってしまった。

 

 ようやくクライマックスを迎えても、目的変更した玉璽を奪うための計画を着々と実行しているというよりも、奪えるタイミングがやってくるまでの時間をただ潰しているだけなので緊張感は全くない。ここでもとりとめのない時間が過ぎていくだけだ。

 

 終わってみれば、敵がいないものだから、本人たちも言っていたが、江口洋介演じる男を無理やり敵に仕立てて戦っただけ、後継者と偽る弟子の少女のいい人ぶりをいい話風に描いて、無駄にウェットな話を見させられただけの、この2時間は何だったのだ?と思ってしまうようなストーリーになっている。

 

 しかし、こんなにウェットな話にするのは何故なのだろうか。コンゲームにウェットな要素があるというよりも、コンゲームと見せかけた、ただのウェットな話になっている。

 

 ただ、そもそもの隠し子を探すこと自体が仕掛けの一部だったという最後のオチは悪くなかった。

 

スタッフ/キャスト

監督 田中亮

 

脚本 古沢良太

 

出演 長澤まさみ/東出昌大/小手伸也/小日向文世/織田梨沙/関水渚/瀧川英次/前田敦子/ビビアン・スー/白濱亜嵐/古川雄大/滝藤賢一/濱田岳/濱田マリ/デヴィ・スカルノ/GACKT*/石黒賢/竹内結子/三浦春馬/広末涼子/江口洋介/柴田恭兵/北大路欣也/ジャッキーちゃん

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*友情出演

 

音楽 fox capture plan

 

コンフィデンスマンJP - Wikipedia

 

 

関連する作品

前作 劇場版シリーズ第1作

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次作 劇場版シリーズ第3作

 

 

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「侠骨一代」 1967

侠骨一代

★★☆☆☆

 

あらすじ

 ヤクザが牛耳る芝浦で働き始めた男は、死んだ母親そっくりの芸者と出会う。92分。

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感想

 序盤は主人公の兵役時代が描かれる。上官のいじめに割とカジュアルにキレて反撃する様子はなかなか衝撃だった。まるで子供の喧嘩みたいだ。母親の突然の訃報に泣きだしてしまった主人公を殴る上官は人でなしだったが、それに怒ってマシンガンを連射する主人公もたいがいだった。彼のように皆が自己主張し、それをちゃんと統率できていたなら旧日本軍はもっとまともに戦えていたような気もする。

 

 除隊後は組に入り、主人公は人足仕事をするようになる。そこで他の組との抗争となっていくのだが、中盤はわりとおとなしい印象だ。主人公の胆力を垣間見せながらも、母親と顔がよく似た芸者との関係が中心となって描かれていく。

 

 

 しかし、主人公が彼女を母親だと思って勝手に尽くすのは理解できるとして、そっくりと言われた芸者が母親のつもりで振る舞うようになるのはよく分からなかった。金だけくれる上客が見つかったと喜びそうなものだが、恵まれない境遇の人をたくさん見る時代や職業だっただけに、何かが彼女の琴線に触れたのかもしれない。この映画に登場する貧しい人々は総じて他人を思いやる優しい心を持っている。

 

 母親への想いが強く感じられる映画だが、最近はこんな風にストレートに描く物語は見なくなったような気がする。昔は貧しかったので母親への苦労のかけ方が途轍もなかったからなのかもしれない。だとすると貧しくなりつつある日本ではまたこういう物語が増えてくるのだろうか。以前、美輪明宏の「ヨイトマケの唄」が再注目され、以来よくカバーされるようになったが、これはその兆しなのかもしれない。あるいは当時を知る世代の最後の郷愁なのかもしれないが。

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 ラストは、相手の攻撃に我慢の限界を迎えた主人公が対決に向かう、やくざ映画定番の流れだ。だが両者の対立が深まる様子がしっかりと描かれていないので盛り上がりに欠け、対決シーンもどこか中途半端だった。

 

 ただ、対決に向かう途中で敵組織にいた戦友と戦い、決着後にかけられたセリフを合図に主題歌が流れ出すシーンはカッコ良かった。主演の高倉健は、大事なシーンでは引き締まった良い表情を見せる。映像にグッと力がみなぎり、さすがスター、といったところだ。

 

 この対決も、主人公のハレの日のために芸者が無理をして用意した一張羅の着物を着て向かっており、どうにも主人公と芸者の親子プレイ、マザコンプレイを見せられているような気になってしまう。メタファーのつもりなのか、芸者がやたらと牛乳を飲むのが可笑しかった。一度、彼女が勢いよく飲んだ牛乳が口元から溢れてしまっているシーンがあったが、あれは単なるミスだったのか、抑えきれない母性を表していたのか、どっちだったのだろうか。

 

スタッフ/キャスト

監督 マキノ雅弘

 

原作 侠骨一代 (ROMANBOOKS)

 

出演

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大木実/石山健二郎/志村喬/宮園純子/富司純子/室田日出男/八名信夫/潮健児/南原宏治

 

侠骨一代

侠骨一代

  • 高倉健
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侠骨一代[公式] - YouTube

 

 

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「怒り」 2016

怒り

★★★★☆

 

あらすじ

 身元不明で、未解決の夫婦惨殺事件の容疑者かもしれない男たちと、彼らに関わる人々。142分。

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感想

 殺人事件の犯人かもしれない素性のあやしい男たちと、その周辺の人物たちを描いた物語だ。最初に惨殺事件が描かれた後、無関係と思えるような話がいくつも続くが、しばらくするとそのつながりが見えてくる。

 

 殺人事件の解決にただ焦点を当てるのではなく、この事件によって浮かび上がって来た人たちの物語を描く構造になっているのが面白い。しかし世の中には様々な事情から身元を隠して生きるしかない人がたくさんいるのだなと社会の闇を感じてしまった。

 

 

 そんな彼らも生きるためには社会と関わらざるを得ない。彼らに後ろ暗いところがあると知りながら、それでも受けいれてくれる人たちがいる。だがその人たちもどこか社会に対して疎外感を感じているのが興味深い。家族の問題や性的マイノリティ、新たな場所にやって来たよそ者感など、社会の中で孤独感を味わいながら暮らしている。そんな彼らがゆるやかに連帯する姿には胸を打たれるものがある。

 

 逃亡犯の指名手配写真が大々的に公開されたことにより、関係者は疑念を覚え動揺する。そしてそれまで自分でも気づかなかったような各自の内面が炙り出されていく。そこには「怒り」もあった。やがて真犯人が明らかになるが、彼は世の中に渦巻くそんな怒りを代弁しているかのようだった。

 

 ただ、真犯人が明らかになるあたりから展開が急に凡庸で予定調和的になり、トーンダウンしてしまった印象がある。話をしめるためにはある程度仕方がなかったのかもしれないが、彼らは全員無関係で、真犯人は全く別の人だった、という展開でも良かったような気がする。

 

 途中までは文句なしに面白かったので終盤の尻すぼみが残念だったが、豪華出演陣で魅せる映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 李相日

 

原作 怒り (上) (中公文庫)

 

出演

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森山未來/綾野剛/広瀬すず/佐久本宝/ピエール瀧/三浦貴大/高畑充希/原日出子/池脇千鶴/赤江珠緒

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音楽 坂本龍一/池内ヨシカツ

 

怒り

怒り

  • 渡辺謙
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怒り (小説) - Wikipedia

 

 

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「東京リベンジャーズ」 2021

東京リベンジャーズ

★★☆☆☆

 

あらすじ

 しがない生活を送る元ヤンキーの青年は、ある日突然高校時代にタイムリープしてしまったことから、死んでしまった元恋人を助けようと奮闘する。

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 シリーズ第1作。120分。

 

感想

 未来を変えようと過去に戻った元ヤンキーの男が主人公だ。戻ったばかりの頃は、ヤンキーの格好がダサいとか、ナメてるとかナメられているとかどうでもいいとか、不良の生態をディスる言葉を連発して面白くなりそうだったのだが、その後は普通のヤンキー映画だった。

 

 主人公の惨めな人生を決定づけた高校時代は、不良集団のリーダーの男と友達になったことでまず変わった。彼がなぜリーダーに気に入られたのかはよく分からないが、シンデレラストーリーの一種だと考えればいいのだろう。なんのとりえもない普通の人間が、すごい人間に見初められる。そこはそういうものだと受け入れるほかない。

 

 だが、その後の主人公とリーダーの関係は奇妙だった。他の仲間と同じようにバイクを乗り回したりして共に行動するのではなく、一歩引いた場所で見守っている。これはよく考えると友だちというよりも恋人のポジションだ。不良漫画によくいるマドンナと同じ役割を果たしている。そう気づいてしまったら、その後はそんな風にしか見えなくなってしまった。

 

 物語は、そんなリーダーと彼をサポートするマドンナ役の主人公の関係が中心となってしまい、本来の目的である元恋人を助ける話はおざなりになっている。そもそも主人公が元恋人の死にそんなにショックを受けているようには見えなかったし、それを必死に阻止しようとしているようにも見えなかった。

 

 第一、将来にそんなことが起きると分かったのなら、もっと頻繁に会うなど付き合い方を改めようとしそうなものなのに、そんな気配はない。二人に親密さが感じられず、付き合っているのかすら怪しいぐらいだった。二人で会う約束をする時も、過去から戻って彼女の安否に変化があったかを確認する時も、事務的なやりとりに見えてしまう。

 

 

 それから、未来を変えようとするためのミッションが、変えようとする結果からあまりに遠すぎる。どんな事件で死んでしまったのか詳しく語られないので不明だが、その事件で元恋人を死なせてしまった人間をどうにかすればいいだけのはずだ。それなのに「風が吹けば桶屋が儲かる」の桶屋ではなく、「風」を何とかしようとばかりしているようで、いかにも効率が悪い。本当に風を止めれば大丈夫なのかという疑念も残る。

 

 10年前にしか戻れない設定なので、そこで出来ることをやっているのだろうが、それよりも事件から9年半ほど過ぎるまでのんびりと待ち、それから過去に戻って直接の事件を阻止するために頑張った方が手っ取り早いような気がしてしまう。

 

 ヤンキーの抗争としても、未来を変えようとする主人公の成長物語や元恋人との恋愛物語としても、そしてタイムリープものとしても、どれも中途半端なものになっている。リーダーが、中盤で一発で倒した相手との再戦でなぜか手間取るクライマックスもキレが悪い。

 

 おかげでちゃんとやればビシッと決まったはずのラストも、何の感情も湧かないまま過ぎていった。原作漫画を映画サイズにしたらこんな感じ、という粗いプロットを見せられたような気分だ。ここから細部を詰めたものを見せて欲しかった。

 

 ところで、冒頭のヤクザを轢き殺そうとするシーンや自転車で二人乗りするシーンなど、北野映画へのオマージュを感じさせる場面が何度か見られたが、あれは意識していたのか、ただの偶然なのか、どっちだったのだろうか。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 英勉

 

脚本 髙橋泉

 

原作 東京卍リベンジャーズ(1) (週刊少年マガジンコミックス)

 

出演 北村匠海/山田裕貴/杉野遥亮/今田美桜/鈴木伸之/眞栄田郷敦/清水尋也/磯村勇斗/間宮祥太朗/吉沢亮

 

東京卍リベンジャーズ - Wikipedia

 

 

関連する作品

次作 シリーズ第2作 前編

 

 

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