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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「 ナイル殺人事件」 2022

ナイル殺人事件 (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 富豪の女性による友人、親族を引き連れてのナイル川下りの新婚旅行に招待された名探偵エルキュール・ポワロは、クルーズ船内で起きた殺人事件の捜査に乗り出す。

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 シリーズ第2作目。原題は「Death on the Nile」。

 

感想

 冒頭は主人公ポワロの戦争時のエピソードが描かれる。思っていたのとは違う、本筋ではないところからのスタートで、若干気勢を削がれてしまった。だが本題の殺人事件はここで描かれた「愛」がテーマになっているので、必要なパートだったと言える。

 

 そして舞台がエジプトに移り、本筋が始まる。ピラミッドや砂漠、ナイル川から望む大自然など、まずはエキゾチックで美しい映像に気分が盛り上がる。ただあまりにも美し過ぎて、これはどうせCGを使っているのだろうなと冷めてしまう気持ちがないではなかった。今やCGが当たり前の時代だが、実写にしか出せない凄みはまだまだある。

CG嫌いクリストファー・ノーラン伝説まとめ!『ダークナイト』から『TENET テネット』まで|シネマトゥデイ

 

 やがて皆で乗り込んだクルーズ船内で殺人事件が発生し、主人公は捜査に乗り出す。今回の主人公はとてもシリアスだ。前作ではもっと飄々としていたような気がするが、今回は乗客たちを問い詰めるように尋問していく。この尋問の中で、乗客たちそれぞれの愛の姿も浮かび上がってくる。

 

 事件の展開は早く、一度殺人事件が起きた後は次々と殺人が起こり、あまり推理を楽しむ時間はなかった。全員を集めて事件の真相を明らかにするクライマックスシーンも早足な印象だ。

 

 

 もうちょっと笑いを交えて和ませつつ、ゆったりとしたテンポで描いて欲しかった感はある。だが元々の原作のプロットの面白さで、普通に楽しめるエンタメ作品に仕上がっている。せっかくのエジプトなんだからもっと観光気分も味わいたかったが、それよりもポワロの内面に迫りたかったのだろう。食えない男に対する見方に新たな視点が加えられる。

 

スタッフ/キャスト

監督/製作/出演 ケネス・ブラナー

 

原作 ナイルに死す〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 15)

 

製作 サイモン・キンバーグ/マーク・ゴードン/ジュディ・ホフランド

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出演 トム・ベイトマン/アネット・ベニング/ラッセル・ブランド/アリ・ファザル/ドーン・フレンチ/ガル・ガドット/アーミー・ハマー/ローズ・レスリー/エマ・マッキー/ソフィー・オコネドー/ジェニファー・ソーンダース/レティーシャ・ライト/アダム・ガルシア

 

音楽 パトリック・ドイル

 

撮影 ハリス・ザンバーラウコス

 

ナイル殺人事件 (2022年の映画) - Wikipedia

 

 

関連する作品

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同じ原作の作品

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「サバイバルファミリー」 2017

サバイバルファミリー

★★★☆☆

 

あらすじ

 ある日を境に突然電気が止まり、社会インフラが機能しなくなってしまった東京で、生活に困った一家は、母方の実家である鹿児島へ自転車で向かうことにする。

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感想

 突然電気が止まったのに、皆が戸惑いながらも会社や学校に向かい、日常を続けようとする姿はリアルだ。この描写は、東日本大震災時の経験から来ているのだろう。だが、なぜ電気が止まったのかを誰も気にしていないのは嘘くさい。

 

 「今何待ち?」とイライラしてしまうことがあるように、人は何かと理由や原因を知りたがるものだ。分からなければ落ち着かず、色々と勝手に想像して誰かと語り合う。それが噂となったり、時にデマとなったりするのだが、それが全然描かれない。

 

 

 そもそもこんな事態なのに、誰も積極的に情報交換しようとしないのが不自然だ。飛行機が飛んでいるかどうかの情報くらいは、本来ならどこかから自然と伝わってくるはずだ。わざわざ空港へ行くまでもないだろう。戦争中だって皆もっと色々知っていたはずだ。

 

 みんなシャイか!と思ってしまうが、目の前の人に訊ねるよりもスマホで調べてしまう時代だから、案外と正しい描写なのかもしれないが。

 

 やがて一家は自転車で鹿児島に向かう。だがここからも色々とおかしい。まずこの距離なのにいきなり初日に道に迷うとかありえない。しばらくはざっくりと西に向かう幹線道路を走ればいいだけだ。なぜ生活道路を行くのか。

 

 さらには、江戸時代ではないのだから、橋がなくて川の中を渡らなければいけない状況なんてまずない、とか自転車は貴重品なのに案外管理は杜撰だよね、とか線路上にいて機関車がやって来たら喜ぶよりまず逃げるだろう、とかツッコみたくなるところが山ほどある。

 

 そんな道中で家族は絆を深めていく。そんなに笑えるシーンはないが、原始的な生活は生きる上での基本であることも教えてくれる。

 

 始めから終わりまでほぼ悪い奴が登場せず、殺伐とした感じがなかったことに違和感があったが、コメディだから敢えて描かなかったのかもしれない。やっぱり日本は治安が良いと海外の人に感心してもらえそうだ。だが殺伐としたリアルな雰囲気の中でくり広げられるブラックなコメディが見たかった気持ちもある。泥棒には止むに止まれぬ事情があった、では甘い。

 

 この他にも、昔のカメラが使えるなら昔の車も使えるだろうとか、まだまだいくらでも気になる点が出てきてしまう。色んな意味で設定がぬるい映画だ。

 

 ただ、作り手が描きたかっただろうことに関してはしっかりと前振りもして描けている。そして何事もなかったかのように元の生活に戻っているラストの空気感は、コロナ禍後の現在を彷彿とさせて味わい深かった。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 矢口史靖

 

出演 小日向文世/深津絵里/泉澤祐希/葵わかな/時任三郎/藤原紀香/大野拓朗/志尊淳/渡辺えり/宅麻伸/大地康雄/菅原大吉/徳井優/桂雀々/森下能幸/田中要次/左時枝/ミッキー・カーチス

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編集    宮島竜治

 

サバイバルファミリー - Wikipedia

 

 

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「最高の悪運」 2001

最高の悪運

★★★☆☆

 

あらすじ

 富豪の家に泥棒に入るも、逆に恋人からもらった大事な指輪を盗られてしまった男は、なんとかそれを取り戻そうとする。

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 別邦題は「ビッグ・マネー」。原題は「What's The Worst That Could Happen?」。

 

感想

 空き巣に入るも逆に大事な指輪を盗られてしまった泥棒が主人公だ。彼から指輪を奪った我の強い富豪の男との大人げない争いが、コミカルに描かれる。

 

 だが主人公が何度も富豪にちょっかいを出すのに、それに対する富豪のリアクションが薄い、というかほぼ描かれないので面白みがない。トムとジェリーのように、子供じみたやり合いがエスカレートしながら盛り上がっていく展開が欲しかった。

 

 その他のコメディ部分はそこそこの面白さだろうか。スベっている感じはないが、日本語字幕で上手く笑いを拾いきれていない印象だ。ただ、もしかしたら丁寧に訳してみたらつまらなさがはっきりと現れてしまう可能性もある。

 

 富豪役のダニー・デビートが、人の話をまったく聞かない傲慢で恥知らずな男を好演している。嫌な奴なのだが憎めないところもあり、いいキャラクターだ。関わり合いたくはないが、見てる分には興味深い。その他では、お互いを口汚く罵り合いながら仕事をしているくせに、実はちゃんと愛し合っていることが分かる主人公の仕事仲間の中年夫婦が面白かった。

 

 

 可もなく不可もなくのほどほどのやり取りの後、クライマックスでは主人公の大仕掛けの仕事が実行される。物語の流れとしては悪くないのだが、描き方が雑でメリハリがない。爽快さはなく、不発に終わってしまった。

 

 満足とは言えない内容だが、バックで使われている音楽のセレクトは良い。この頃にはよくあった内容はともかくサントラが気になってしまう映画だ。映画の映像を使った劇中歌のミュージックビデオが作られたりするやつで、個人的には嫌いになれないタイプの映画ではある。さっそくサントラのリストを調べてしまった。

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スタッフ/キャスト

監督 サム・ワイズマン

 

原作 最高の悪運 (ミステリアス・プレス文庫 147 ドートマンダー・シリーズ)

 

製作総指揮/出演 マーティン・ローレンス

 

出演 ダニー・デヴィート/ジョン・レグイザモ/グレン・ヘドリー/カーメン・イジョゴ/バーニー・マック/ラリー・ミラー/ノーラ・ダン/リチャード・シフ/ウィリアム・フィクトナー/シオバン・ファロン/マイケル・マルヘレン/サッシャ・ノップ

 

音楽 タイラー・ベイツ

 

最高の悪運

最高の悪運

  • マーティン・ローレンス
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「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」 2023

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

★★★★☆

 

あらすじ

 スパイダーウーマンと再会したスパイダーマンは、マルチバースを行き来する彼女の後をつけ、別次元を訪れる。

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 シリーズ第2作目。140分。

 

感想

 主人公がスパイダーウーマンを追って別次元に行ったことから始まる物語だ。別次元の出来事に介入してマルチバースの秩序が乱れてしまうことをを阻止する、タイムトラベル物の時空警察みたいな存在、スパイダー・ソサエティが登場する。「スパイダーマン」が映画だけでも何度もリブートし、なんとなくストーリーの型のようなものが出来上がっていることをうまく利用した設定だ。

 

 そして、マルチバースのスパイダーマンたちが集うスパイダー・ソサエティのシーンは圧巻だった。人種や出身国だけでなく、生き物の種類まで異なる多種多様なスパイダーマンたちがたくさん登場する。画面一杯に溢れる個性豊かなスパイダーマンたちを、一人ずつ詳細に見ていきたくなるような楽しさがあった。

 

 

 その一方で、急にヒーローのありがたみがなくなったような感覚もある。毎回並んで足繁く通っていた珍しいファーストフード店が、海外に行ったらどこにでもあるチェーン店だったみたいなものだろうか。彼らは各次元に戻れば唯一無二の存在かも知れないが、全員がスパイダーマンのこの場所では普通の存在だ。

 

 そんなありきたり感を醸し出した上で、何よりもマルチバースの秩序を守ることが大事だと、彼らに公務員みたいな主張をさせるところが巧みだ。不正して裏金を作っている人がいたなら起訴して正義を行使することが当然のはずなのに、その人が有力者で、見逃がせば出世させてやると言われたからと、見逃してしまう特捜部みたいなものだ。そこには欺瞞がある。

 

 主人公が、マルチバースの秩序なんかより目の前の人を助けるのがヒーローだろうと怒るのも分かる。夢と希望に溢れた少年が親から独立して広い世界に出るも、しがらみと思惑にまみれた大人のルールに阻まれ、葛藤する物語だ。

 

 ヴィランとの戦いに終始し、ワンパターンになってしまいがちなスーパーヒーロー映画に新たな要素が加えられて、先の読めない展開となっている。前作と同様に音楽も良く、アニメならではの表現を取り入れたアイデア溢れる映像にはエモさがあって、総合的に楽しめた。

 

 続編がある前提の、絶体絶命のいい所で終わる感じが「スターウォーズ」の最初の三部作ぽく、別の次元にいる家族に会ったり未来を変えようとするところは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の変形ぽくもあって、満足度が高く、次作への期待が嫌でも高まってしまう映画だった。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 ホアキン・ドス・サントス/ケンプ・パワーズ/ジャスティン・K・トンプソン

 

脚本/製作 フィル・ロード/クリス・ミラー

 

原作 スパイダーバース (MARVEL)

 

出演(声) シャメイク・ムーア/ヘイリー・スタインフェルド/ブライアン・タイリー・ヘンリー/ルナ・ローレン・ベレス/ジェイク・ジョンソン/ジェイソン・シュワルツマン/イッサ・レイ/カラン・ソーニ/シェー・ウィガム/グレタ・リー/ダニエル・カルーヤ/マハーシャラ・アリ/オスカー・アイザック/アマンドラ・ステンバーグ/アンディ・サムバーグ/ヨーマ・タコンヌ/ピーター・ソーン/ジャック・クエイド/エリザベス・パーキンス/タラン・キラム/ジョシュ・キートン/ユーリ・ローエンタール/メトロ・ブーミン/J・K・シモンズ/キミコ・グレン/キャスリン・ハーン***/アルフレッド・モリーナ***/ドナルド・グローヴァー* **/アンドリュー・ガーフィールド**/トビー・マグワイア**

*アーカイブ音声 **実写出演 ***アーカイブ映像

 

音楽 ダニエル・ペンバートン

 

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース - Wikipedia

 

 

関連する作品

前作

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次作

「スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」

 

 

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「蜜蜂と遠雷」 2019

蜜蜂と遠雷

★★★★☆

 

あらすじ

 母親の死をきっかけに音楽界から消えていた元天才少女のピアニストは、数年ぶりに復帰し、世間から注目を集めるコンクールに参加する。

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感想

 消えていた元天才少女がコンクールに参加し、他の個性豊かなピアニストたちとしのぎを削る群像劇だ。予選を通じてメインの4人のピアニストたちが、焦ることなくじっくりと、タイミングよく紹介されていく。主人公が元天才少女で、他に秀才、天才、アウトサイダーと、分かりやすくキャラが配置されている。

 

 期間中、ピアニストたちが足を引っ張り合うのではなく、励まし合い助け合う関係になっているのがとても印象的だ。直接戦うわけではないのでいがみ合う必要はないし、結局、孤独な音楽家の気持ちを分かり合えるのは同じ立場にいる人間しかいないからなのだろう。

 

 

 それにこのレベルにもなれば、相手のミスで勝ったところで意味はないと知っている。これまでフィギュアスケートやⅩスポーツなど、コンテスト形式のプレーヤーたちが妙に仲が良さそうなのを不思議に思っていたが、その理由が分かったような気がした。

 

 主人公は様々なバックボーンのある彼らとの交流を通して、かつての感触を取り戻していく。そして彼女もまた彼らに力を与えている。コンクールではあるが誰も勝ち負けを意識しておらず、ただ最高の演奏をすることだけに集中していることが伝わって来て清々しさがある。彼らを演じる役者陣が素晴らしく、皆魅力的なキャラとなっている。

 

 また彼らだけでなく、審査員やスタッフなど、コンクールに関わる人たちのドラマも描かれる。さらなる至高を求め続ける者、自分が天才でないことに薄々気付いている者、そんな音楽家たちの人生を見守り続けた者などが、音楽への複雑な感情を垣間見せながら、新しい才能たちを見つめている。

 

 野生の馬のような崇高さを湛えた若き芸術家たちの競演だ。爽やかな余韻に浸れる。コンクールの結果なんてどうでもいいとすら思ってしまうが、それでもラストでテロップによって発表された結果は、うまく考えられた絶妙の順位だった。

 

 ピアノの演奏シーンも良くて純粋に音楽だけでも楽しめるし、こだわりの感じられる構図のカットもあって、見ごたえのある映画となっている。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/編集 石川慶

 

原作 蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

 

出演 松岡茉優/松坂桃李/森崎ウィン/鈴鹿央士/臼田あさ美/ブルゾンちえみ/福島リラ/眞島秀和/片桐はいり/光石研/平田満/アンジェイ・ヒラ/斉藤由貴/鹿賀丈史

 

音楽 篠田大介

 

撮影 ピオトル・ニエミイスキ

 

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

  • 松岡茉優
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蜜蜂と遠雷 - Wikipedia

 

 

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「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」 2021

プリズナーズ・オブ・ゴーストランド(字幕版)

★★☆☆☆

 

あらすじ

 銀行強盗に失敗し投獄された男は、裏社会のボスに逃亡した女を連れ戻すよう強要される。

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感想

 まず映像のチープさが気になる。夕方から夜にかけてのシーンはわりと普通に見られるのだが、日中の日差しの強い時間帯の映像には白々さを感じてしまうものが多かった。細かいことは気にしないスタイルなのかもしれないが、映画のマジックが失われていてとても冷める。

 

 投獄されていた主人公が、権力者を強要されて女を探す物語だ。だが特にドラマもなくあっさりと女は見つかってしまう。その後主人公は「マッドマックス」風とも「北斗の拳」風とも言える荒廃した集落の人たちに共鳴し、権力者と戦う流れになっていく。

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 だが、見つけた女との間に何らかの関係が築かれていくわけでも、荒廃した集落の人たちにシンパシーを感じるような何かがあるわけでもないので、物語に惹きつけられるものがない。もっと言えば、そもそもの設定がよく分からないので、何をやっているのか、雰囲気でしか分からないところがあった。

 

 それから、主人公が皆を引き連れて権力者のもとに乗り込むのかと思ったら、見つけた女を連れただけのたった一人で登場して、あんなに盛り上がっておいてみんな来ないのかよ、とズッコケてしまった。もしかしたら他の人たちは外に出られない設定があったのかもしれないが。

 

 

 ストーリー自体は大したことがないので、世界観で楽しませる必要があるのだが、時代劇と西部劇をミックスしたような世界観はありきたりで凡庸だ。今さら特に面白みがない。ニコラス・ケイジの出演料に予算を全振りしたのかと思ってしまうよな、日本人キャストやエキストラたちの安っぽい演技にも冷めてしまう。

 

 ただ、どうしても日本テイストに敏感になってしまうし、つい気になってその手の作品はたくさん見てしまうネイティブなので、厳しく見てしまっている所はあるかもしれない。日本に特に関心のない外国人であれば、普通に興味深く見られるような気もする。

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 クライマックスのアクションシーンも特段見るべきところはなく、ニコラス・ケイジの良さもあまり出ておらず、何もかもが中途半端な映画だ。トガるよりも無難に徹している印象を受ける。

 

スタッフ/キャスト

監督

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出演 ニコラス・ケイジ/ソフィア・ブテラ/ビル・モーズリー/ニック・カサヴェテス/TAK∴/YOUNG DAIS/栗原類/渡辺哲

 

撮影 谷川創平

 

プリズナーズ・オブ・ゴーストランド - Wikipedia

 

 

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「Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼」 2007

Mr.ブルックス ~完璧なる殺人鬼~

★★★☆☆

 

あらすじ

 多重人格でもう一人の自分に唆され、2年ぶりに人を殺してしまった殺人中毒の男は、目撃者に次の犯行時に同行させろと脅される。

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感想

 主演がケビン・コスナーで、その他にデミ・ムーアやウィリアム・ハートが出演するという80年代か?と思ってしまうようなキャスト陣だ。だが皆現役感のある演技をちゃんと見せている。

 

 主人公は多重人格で殺人中毒の男だ。我慢していた殺人を久しぶりにやってしまうが、事件を目撃されて脅されてしまう。だがその脅迫の内容が、次にやるときは間近で見学させろ、というもので、目撃者も殺人に興味のある異常者だった。ここまでですでにかなりの情報量だ。

 

 

 だがこれにプラスして、サイドストーリーもいくつか同時に進行する。主人公を追うデミ・ムーア演じる女刑事は離婚調停で揉めており、さらに彼女に恨みを持つ最近脱獄した別の殺人鬼に命を狙われている。それから大学を辞めたいと実家に戻ってきた娘は妊娠しており、さらには殺人鬼の父の血を継いだようで何か問題を起こしてきたらしい、と盛りだくさんだ。

 

 これだけ題材がたくさんあれば、次から次へと何かが起こって飽きることなく見ていられるだろうと思うかもしれないが、中盤はビックリするくらい何も起きない。主人公は脅迫者を連れて街を漂い続けるだけだし、女刑事の離婚調停は平行線のままで、脱獄犯とは一瞬コンタクトがあっただけだ。娘に至っては匂わせのみで何も起きない。

 

 それぞれの素材がまったく混ざり合っていなくて、これなら別々に食べた方が美味しくない?と思ってしまうほどだった。停滞感があってつまらない。

 

 主人公のキャラクターもよく分からない。脅迫されているのに余裕綽々だし、人殺しはもうやめたいと言っているわりにはノリノリで次の作戦を考えている。だけど娘が自分の血を受け継いでしまったらしいことに泣き崩れたり、突然もう死ぬと決意したりする。

 

 これらは多重人格ならではの描写なのかもしれないが、クールで完璧な殺人鬼なのか、己の性癖に苦悩する殺人鬼なのか、どっちの方向で主人公を見ればいいのか迷ってしまう。シリアスなのかコミカルなのかもどっちつかずで、足元がグラグラして視点が定まらない。

 

 モヤモヤしたものを抱えながら見ていたのだが、終盤に同時進行していたエピソードたちが一気に混ざり合い、ようやく面白くなった。おかげで持ち直した感はあるが、それなら中盤からいい感じにかき混ぜ、同時進行の相乗効果のある物語にして欲しかった。

ファーゴ(字幕版)

ファーゴ(字幕版)

  • フランシス・マクドーマンド
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スタッフ/キャスト

監督/脚本 ブルース・A・エバンス

 

製作/出演

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出演 デミ・ムーア/デイン・クック/ウィリアム・ハート/マーグ・ヘルゲンバーガー/ダニエル・パナベイカー/ルーベン・サンティアゴ=ハドソン/リンゼイ・クローズ/ジェイソン・ルイス/レイコ・エイルスワース/マット・シュルツ

 

Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼 - Wikipedia

 

 

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「空に住む」 2020

空に住む

★★★☆☆

 

あらすじ

 両親を交通事故で亡くしたばかりの女は、叔父夫婦が所有する高層マンションの部屋で暮らし始める。

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感想

 タワマンで暮らし始めた女が主人公だ。突然両親を失ったばかりというのに淡々とした様子なのが印象的だが、素直に現実を受け止め切れていないのだろう。引っ越してきた地上から遠く離れた高層マンションの一室は、そんな彼女の雲のようなフワフワとした心情を表わしているかのようだ。

 

 平然としているように見える彼女は、引っ越しの後さっそく風邪をひく。心のどこかでは誰かの助けを求めているのかもしれない。そんな彼女が、周囲の人たちとの関わりを通し変わっていく様子が描かれていく。

 

 主人公のまわりの人たちの中では、専業主婦の叔母が印象に残った。一見すると富裕層で心に余裕のある善い人、といった雰囲気ではある。だが主人公への絡み方がねっちりとしていて気色悪かった。嫌な感じだなとずっと気になっていたのだが、彼女の心の闇や、ついに一線を越えてくるところがちゃんと描かれていて安心した。

 

 

 でも現実世界では、決定的なヤバさをさらけ出すことなく、その一歩手前の状態をキープし続ける人もいるから厄介だ。めんどくさい人だなと思いながらも付き合い続けるしかない。

 

 それから、同じマンションに住み、主人公と関係を持つ人気芸能人の役は、もうちょっと分かりやすい男前にやらせればいいのにと思ってしまった。物語の鍵となる巨大看板もチープだ。人気スターのキラキラとした感じがなくて説得力がなかったが、どうやら大人の事情の配役のようなので仕方がない。

 

 どこかフワフワしていた主人公だったが、次第に現実にピントが合うようになっていく。彼女に力を与えてくれた人たちに、彼女も力を与えていることに心が動かされる。それぞれが少しずつ頑張って、互いに励まし合うことで勇気づけられ、成長していく。

 

 タワマンの一室でフワフワしていた主人公が、ラストでは地に足を着け、しなやかに体を伸ばして世界を見られる力を手に入れている。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 青山真治

 

脚本 池田千尋

 

原作 空に住む (講談社文庫)

 

出演 多部未華子/岸井ゆきの/美村里江/岩田剛典/鶴見辰吾/岩下尚史/髙橋洋/大森南朋/永瀬正敏

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音楽 長嶌寛幸

 

空に住む

空に住む

  • 多部未華子
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空に住む〜Living in your sky〜 - Wikipedia

 

 

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「ソニック・ザ・ムービー」 2020

ソニック・ザ・ムービー (字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 宇宙の果てから地球に逃れ、人目を避けてアメリカの片田舎で暮らしていたソニックは、寂しさのあまり起こした事件により国家から目を付けられ、科学者に追われることになる。

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 セガの人気ゲーム「ソニック」シリーズが原作。

 

感想

 人気のゲームシリーズを原作とする映画だ。だが主人公ソニックのデザインがしっくりこない。おそらく毛むくじゃらなのがなんか違うと感じてしまう原因だ。これよりも、ドラえもん的なツルツル、テカテカな表面の方がイメージに合う。

 

 それに毛むくじゃらにするなら、不評で差し替えられた初期のキャラデザインの方が、体形はともかく顔はしっくりくるかもしれない。一応、そもそもハリネズミだし、抜け落ちた毛が物語で重要な役割を果たしたりするので、体毛がないと困る設定ではある。

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  敵から逃れてやってきた地球で、人目を避けて生きてきたソニックが、ひょんなことから国家にマークされるようになり、地元警官の男の助けを借りつつ逃亡する物語だ。孤独を感じていたソニックが、警官らと友達になり、道中ではしゃぐ様子がコミカルに描かれていく。彼を追う科学者役のジム・キャリーも安定の面白さだ。

 

 ハイテク機器を用いる科学者との戦いも、見ごたえのあるアクションで楽しませてくれる。だがいまいち気分が盛り上がらないのは、主人公であるソニックにあまり感情移入できないからだろう。

 

 

 それまで10年もたった一人でそれなりに楽しく暮らしてきて、一人で野球なんかも出来ちゃうくらいなのだから、別にソニックに助けなんか必要ないだろうと思ってしまう。彼が必要としたのは目的地までの案内だけなので、それなら地図を渡してしまえば、それで後は勝手にやれるだろうし、その方が早そうだ。応援するまでもないような気がする。

 

 本当は一人で充分に出来るのに、寂しいがために他人を巻き込み、騒動を起こしているだけの面倒なキャラに見えなくもない。現実社会にもこんな人いるよなとふと思ったりした。それはともかく、突き詰めると、キビキビと超音速で動くキャラには、あまり好感が持てないということなのかもしれない。

 

 音楽を効果的に使ったり、原作のゲームをイメージするような演出もあったりして、無難で悪くないのだが、物足りなさを感じてしまう映画だ。 

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スタッフ/キャスト

監督 ジェフ・ファウラー

 

原作 ソニックオリジンズ|オンラインコード版

 

製作 ニール・H・モリッツ/トビー・アッシャー/中原徹/伊藤武志

 

製作総指揮 里見治/里見治紀/前田雅尚/ナン・モラレス/ティム・ミラー

 

出演 ジェームズ・マースデン/(声)ベン・シュワルツ/ティカ・サンプター/ジム・キャリー/ナターシャ・ロスウェル/ニール・マクドノー

 

音楽 トム・ホルケンボルフ

 

ソニック・ザ・ムービー (字幕版)

ソニック・ザ・ムービー (字幕版)

  • ジェームズ マースデン
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ソニック・ザ・ムービー - Wikipedia

 

 

関連する作品

 

 

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「カオス・ウォーキング」 2021

カオス・ウォーキング(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 移住した惑星で人類は心の声が外部に漏れ出るようになってしまった。原住民との戦いで女が殺され、男だけになった開拓村で暮らす青年は、墜落した宇宙船を発見し、生存者の女性と出会う。

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感想

 皆の心の声がだだ漏れするようになってしまった世界が舞台だ。なんでそんなことになったのか不思議だが、その原因は明らかにされない。だが、心の声が外部に漏れ出るだけでなく、想念のようなイメージも浮かび上がるようになっているのは興味深い。「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドぽく使うことも出来る。

 

 主人公は、異星人の原住民との戦いで女たちが殺され、男しかいなくなった村で暮らしている。油断すると心の声がだだ漏れで不和が生じかねない社会で、なんとか心を抑えようと努力しているのだが、その努力する心の声さえだだ漏れになってしまうのがつらい。だが割とみな聞き流してくれる。いちいち気にしていたらきりがないだろうから当然なのかもしれない。慣れもあるだろう。

 

 そんな主人公が、移民の第二陣としてやって来るも遭難してしまった一人の女性と出会う。そして、新たな移民団を敵視する村人たちから彼女を助けようと、一緒に村を出たことから物語は動き出す。心の声が漏れるのはなぜか男だけなので、初めて女性を見て心の声がだだ漏れまくりの主人公の様子が面白おかしく描かれつつ、二人の旅が展開していく。

 

 

 その過程で主人公は、幼い頃から聞かされていた話とは違う村の真実を知ることとなる。この真実は、一方だけが心の中が丸見えの、主人公と女性の不公正でアンバランスな関係を見ていたら、確かにそんなことが起きえるかもしれないなと納得してしまうようなものだった。かなりの説得力があって興味深い。

 

 だが、メインとなる二人の旅自体にはあまり面白みが感じられなかった。そもそもこの旅は、女性が救助信号を送るための単なる移動でしかない。その間に起きる出来事もどこか中半端で、最後の戦いも盛り上がりに欠けた。もうちょっとスタンド使いの戦いみたいにするとか工夫が欲しかった。

 

 面白くなりそうな設定ではあるが、それらをうまく活かしきれなかった印象だ。心の声がだだ漏れなのは、コメディにはいいのかもしれないが、心を病んでるようにも見えるし、クールに決めたい時には邪魔になって締まらなくなってしまうので、両刃の剣かもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督 ダグ・リーマン

 

脚本 パトリック・ネス/クリストファー・フォード

 

原作 心のナイフ 上 (混沌の叫び1) (混沌の叫び 1)


製作 ダグ・デヴィッドソン/ロバート・ゼメキス/アリソン・シェアマー/アーウィン・ストフ/ジャック・ラプケ

 

出演 トム・ホランド/デイジー・リドリー/マッツ・ミケルセン/ニック・ジョナス

 

音楽 マルコ・ベルトラミ/ブランドン・ロバーツ

 

カオス・ウォーキング - Wikipedia

 

 

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「さかなのこ」 2022

さかなのこ

★★★★☆

 

あらすじ

 小さなころから魚が好きだった少年は、将来、魚の博士になることを夢見て成長していく。

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 さかなクンの半生を描いた作品。

 

感想

 魚好きの少年であった主人公が「さかなクン」になるまでの半生が描かれる。特異なキャラである「さかなクン」だが、幼少期の母親の影響が大きいことがよく分かる。魚に興味を示す主人公が望むことを、母親はすべて叶えてあげようとしている。

 

 親なら誰だって子の望みを叶えてあげたいものなのだろうが、近所の怪しげな魚好きのおじさんの家に一人で行かせたり、好きなことだけやって勉強が出来なくても構わないと注意しなかったりと、彼女の場合は度を越している。子供を甘やかし続けたらどうなるかの実験でもしているのかと疑ってしまうほどだ。狂気すら感じるが、その根底にあるものは見えない。

 

 

 そんな環境で伸び伸びと育った主人公はもちろん自由だ。当然学校に行けば目立ってしまう。さっそく同級生たちの、いじめに発展しそうなからかいの対象となる。だが主人公がこの試練を軽々と切り抜けてしまったのは可笑しかった。そうやって対処すればいいのかと感心してしまった。

 

 ここからは主人公の孤高ぶりが際立つ。独自の道を突っ走る彼に、誰もが調子を狂わされ、彼のペースに巻き込まれていく。これくらい突き抜けていたらもはや彼をどうこうしようとする気はなくなって、無条件で認めるしかなくなるのだろう。彼自身はそれほど友だちを求めているようには見えなかったが、自然と周りに人が集まってくる。水と油に見えたヤンキーたちとの交流は微笑ましかった。

 

 だがそんな主人公も、学校を出てからは苦労する。自分の好きなことをやり続けたくても、その前に生活をしなければならない。魚関係の仕事をしつつ、どこか満たされない悶々とした日々を過ごすことになる。やりたいことがはっきりしていてもそれが世にある職業でない場合、社会と折り合いをつけるのは難しい。

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 壁にぶつかっていた主人公が、彼のキャラを愛する昔の仲間たちの協力によって世に出ていくことになる流れは感動的だった。与えられた仕事だからとそこで頑張り続けるのではなく、向いてないなと思ったらちゃんと辞め、やりたいことを求め続けたことも大きいだろう。もしかしたらクビにされた方が多かったのかもしれないが。

 

 初のテレビ出演時、収録中のスタッフたちが皆一様にニコニコしていたのが印象的だったが、主人公にはそうやって温かく見守りたくなる何かがある。そんな主人公を演じるのんが素晴らしかった。彼女が演じることでさかなクンの中性的なキャラも際立ち、おそらく男性が演じるよりも2割増しくらいで魅力的になっていた。つまり、さかなクンはのんくらい可愛いキャラということになるのか?

 

 好きなことを突き詰めていけばこんな未来が待っているかもよ、という物語だが、実際はそんな簡単な話ではないだろう。主人公だってさかなクンが演じていた近所のヤバい魚好きのおじさんのようになっていた可能性だってある。

 

 しかも冷静に考えれば、つぶしの利く「魚」を好きになったのも幸運だった。例えば「妖怪」とか別のものが大好きになっていたら、それで生きていくのはもっと難しかったはずだ。妖怪関係の仕事なんてアルバイトでも簡単に見つからない。

 

 のびのびと育ち、「普通」には目もくれずにオリジナルな道を突き進んだように見える主人公だが、家族がいつの間にかいなくなっていたり、転がり込んできた女友達に人並みな幸せを思い描いてみたりと、必ずしも何の悩みも苦労もない、順風満帆な恵まれた人生を歩んできたわけでないことが垣間見える描写もあり、深みがある。

 

 さかなクンのキャラクター通りのコミカルで面白い映画だ。そして、楽しい中にも色々と考えさせられてしまう映画でもある。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 沖田修一

 

脚本 前田司郎

 

原作 さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~

 

出演 のん/柳楽優弥/夏帆/磯村勇斗/岡山天音/さかなクン/三宅弘城/井川遥/宇野祥平/鈴木拓/島崎遥香/賀屋壮也/長谷川忍/豊原功補/

 

さかなのこ - Wikipedia

 

 

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「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」 1993

エイジ・オブ・イノセンス [DVD]

★★★☆☆

 

あらすじ

 1870年代ニューヨークの上流社会。名門の家長で弁護士の男は、スキャンダラスな噂で社交界を騒がしていた婚約相手の従姉に思いを寄せるようになる。

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感想

 上流社会の男が、婚約者の従姉であり、幼馴染である女と密かな愛を育む物語だ。主人公は婚約中で、女は離婚を考えヨーロッパから戻ってきた身と、両者共に微妙な立場にいる。互いにしがらみがなければ何も問題はなかったのだろうが、その立場や世間体が二人の恋を困難なものにした。だがそれが二人を燃え上がらせた側面もあるかもしれない。

 

 ニューヨークの上流社会を舞台に繰り広げられる恋愛劇で、まずは華やかだが面倒くさそうな社交界の姿が浮かび上がってくる。夜な夜な集まって料理や服装を褒め合い、うわさ話に花を咲かせる様子は、暇を持て余した金持ちたちの遊びなのだろうなと思ってしまう。

 

 

 だがそれだけでなく、これは金持ちが金持ちであり続けるための重要なシステムであることも窺える。金持ち同士でつながりを保ち、時に結婚などでその関係を強化しつつ、うわさ話でお互いの状況を監視し合っている。一時的に時代の波に乗った成金を加えたりもしながら、ひとつの大きな運命共同体として自分たちの富を維持する互助システムだ。

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 金持ち同士が親戚関係でつながっているなんてことは、世界中どこでも見られる光景だが、それはこのシステムがあるからだろう。この映画でも家同士の複雑な関係があり、それを把握するのに苦労する。だが彼らは、日々の集まりで繰り返される会話があるからずっと忘れずにいられるのかもしれない。我々も冠婚葬祭などで親戚が集まった時、「あの人誰?」とひそひそと確認し合ったりするが、彼らはそれを日々社交界でやっているわけだ。

 

 そんな社会の中で繰り広げられる主人公の情事は、周囲の目を気にして密やかに行われる。おかげで彼らの心の動きが見えづらい。どこで愛が芽生え、相手がどこでそれに応え、どこで燃え上がったのかが曖昧だ。だが彼らの恋愛はそれくらい微かな合図を送り合いながら発展していくものなのだろう。その一つでも見落としてしまえば、取り返しがつかなくなるかもしれない危ういものだ。

 

 いくつものしがらみをかいくぐりながら何とか愛を成就させようとしていた主人公だったが、密やかだと思っていた自分たちの恋愛が、社交界には筒抜けだったと気づいた時の、妙に冷ややかな反応は印象的だった。冷静に振り返ってみれば、バレバレな言動がたくさんあった。そして無邪気で何も知らないと思っていた妻のしたたかさが明るみになるのが怖い。

 

 エンディングは数十年後に飛ぶ。かつての海辺の場面のように、彼女が自分の存在に気付いていることを感じながら、それでも主人公が背を向けるラストシーンにしんみりとしてしまった。結ばれない運命の二人だった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 マーティン・スコセッシ

 

脚本 ジェイ・コックス

 

原作 エイジ・オブ・イノセンス―汚れなき情事 (新潮文庫 ウ 14-1)

 

出演 ダニエル・デイ=ルイス/ミシェル・ファイファー/ウィノナ・ライダー/ジェラルディン・チャップリン/マイケル・ガフ/リチャード・E・グラント/ロバート・ショーン・レナード/ミリアム・マーゴリーズ/ジョナサン・プライス/スチュアート・ウィルソン/メアリー・ベス・ハート/ノーマン・ロイド/アレック・マッコーエン/シアン・フィリップス/(声)ジョアン・ウッドワード

 

音楽    エルマー・バーンスタイン

 

エイジ・オブ・イノセンス (字幕版)

エイジ・オブ・イノセンス (字幕版)

  • ジョアン・ウッドワード
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エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事 - Wikipedia

 

 

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「愛のメモリー」 1976

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★★☆☆☆

 

あらすじ

 妻と娘を誘拐され、警察の指示に従うも二人を死なせてしまった事業家の男は、その16年後、訪れたイタリアで妻そっくりの女性と出会う。

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 原題は「Obsession」。

 

感想

 序盤で主人公の妻と娘が誘拐されてしまうので、この事件の解決を描くサスペンスなのかと思ったのだが、悲しい結末であっさりと終焉を迎えてしまう。これ自体は意外性があって、この後に16年後に飛ぶのもダイナミックで良かったのだが、その後は物語がどこに向かうのか、その方向性が見えなくなってしまった。

 

 事件の16年後、商談でイタリアに出掛けた主人公は、妻との思い出の地で妻そっくりの女性と出会う。そして彼女の行動を監視するようになる。ここからストーカーに変貌していく主人公の異常行動が描かれるのかと思ったのだが、あっさりとデートに誘い、やがて付き合うようになってしまった。

 

 

 しかし死んだ妻にそっくりだからと言い寄る男に、相手の女が好意を持つかなと疑問だ。有名人に似ていると言われたらうれしいかもしれないが、身近な人に似ていると言われたら、代用品のように感じてしまうのではないだろうか。

 

 映画原題の「Obsession(執着)」の通り、主人公が彼女に執着する姿が描かれる。だが、女がそれを理解した上で受け入れてしまっているので特に問題は感じず、そうなるとなんら普通の恋愛と変わらないわけで、その行方にはあまり関心が持てなかった。本人たちがそれで納得しているのだから、外野がとやかく言うことではないだろう。

 

 何がやりたいのだかよく分からないなと思いながら見ていたのだが、終盤に彼女が妻の時と同じように誘拐されてしまい、ようやく方向性が見えてきた。そしてこれまでの物語の裏側が明らかになっていく。だが驚かされるよりも逆に疑問が募ってしまうばかりだった。そういうことだったらあの時の彼女の態度は何?とか、共同経営者の心配は何だったの?とか、そんな金と時間をかけずに出来る方法はあったでしょ?とか色々と考えてしまい、スッキリしなかった。

 

 どことなくヒッチコック映画の雰囲気があったが、「めまい」を意識していたらしい。昔の映画なのでテンポがゆっくりしているせいもあるが、中盤の停滞感がしんどく、盛り上がれないクライマックスにストレスが溜まってしまう推進力の乏しい映画だ。

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スタッフ/キャスト

監督/原案 ブライアン・デ・パルマ

 

脚本/原案 ポール・シュレイダー

 

出演 クリフ・ロバートソン/ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド/ジョン・リスゴー

 

音楽 バーナード・ハーマン

 

愛のメモリー (字幕版)

愛のメモリー (字幕版)

  • クリフ・ロバートソン
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「風の中の牝雞」 1948

風の中の牝雞

★★★★☆

 

あらすじ

 終戦後の日本。戦地に行った夫の帰りを待つ女は、急病になった幼い息子の治療費に困り、一度だけ身を売ってしまう。

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 タイトルの読みは「かぜのなかのめんどり」。

 

感想

 主人公は夫の帰りを持つ一児の母だ。そんな主人公が、金策のために着物を売りに行くところから映画は始まる。そこで交わされる女同士の会話には、暗い未来の予感が漂っていて、最初から重い気分になってしまった。彼女は不測の事態が起きればすぐに立ち行かなくなる綱渡りの日々を送っている。

 

 悪い予感は、息子の急病によって現実のものとなる。身を売ってなんとか急場をしのいだ主人公だったが、ようやく帰ってきた夫にそのことを打ち明け、怒りを買ってしまった。

 

 

 ここまでの展開はかなり速い。金に困った次の瞬間には身を売りに行っているし、夫が帰って来たその夜にはあっさりとそのことを白状してしまっている。せめて夫には隠しておけばいいのにと思ってしまったが、本人の中ですでに何度もシミュレーションをしていたのだろう。こうなった時には身を売る、それを隠しながら夫と暮らすことは出来ないから聞かれたら正直に答える、ともう覚悟を決めていたような気がする。

 

 そんな妻からのつらい告白を聞いた途端に、夫が激怒したのには驚かされた。妻がそんなことをするなんて許せない、と条件反射的に思ってしまう気持ちは分からなくはないが、どう考えても仕方ないことだったと分かることだ。だがその後も夫の怒りが収まる気配はなく、その態度には反感を覚えてしまった。男だって戦地で妻に言えないようなことをしてきたかもしれないだろうと。

 

 だがその後、妻が身を売った場所を確認しに行った夫が、そこで出会った同じような境遇の商売女に親身に接する様子を見て、第三者的な視点では彼も理解しているのだなと安心した。他人ごとだと冷静に考えられても、自分の事となると感情が暴走してしまうことはままある。頭では分かっていてもどうしても許せない。

 

 夫の感情が爆発する階段のシーンは強烈だ。小津映画には珍しく、激しいアクションに背筋が凍りついた。しかも動かなくなった主人公に対し、心配はしても近くに駆け寄ることはなく、階段の上からただ見下ろすだけだったのは不可解だった。この一連のシーンにはずっと不自然なぎこちなさがある。ここまでやるべきなのか?という監督の迷いが表れているのかもしれない。

 

 夫の尋常ではない怒りに戸惑いっぱなししだったが、改めて考えてみると、彼の怒りは妻に対するものではなく、もっと大きなものに向けられているのだろう。妻がそんなことをしなければいけない状況、夫が妻の苦境を知ることも出来ず、助けることも出来ない状況に追いやったものに対する腹立ちが見て取れる。タイトルで言えば牝鶏にではなく、その風を起こしたものに、風の中に放置したものに対する怒りだ。

 

 序盤の主人公が友人の女性とかつての夢を語ったシーンでも、戦争さえなければそんな夢が叶っていたはずなのに、と暗に批判しているように感じられた。ラストシーンでの激しいメッセージは、夫婦のことだけではなく、敗戦後のこの国に対する誓いのようにも聞こえる。戦争に導いたものに対する怒りと、二度と同じ過ちはさせないぞという強い思いが伝わってきた。

 

 公開された当時は、この映画に自身を重ねて胸を痛めたり、それどころか現在進行中でその最中にいた人たちもたくさんいたはずだ。そんな空気を敏感に察していたからなのか、小津作品には珍しく、熱い思いがほとばしる映画となっている。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

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出演 田中絹代/佐野周二/村田知英子/坂本武/三井弘次/谷よしの/青木放屁

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撮影 厚田雄春

 

風の中の牝雞

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「レヴェナント: 蘇えりし者」 2016

レヴェナント:蘇えりし者(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 西部開拓時代、アメリカの極寒地帯で毛皮ハンター隊の案内を務めていた地元の罠猟師は、クマに襲われ瀕死の状態でその場に置き去りにされてしまう。

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 実在した罠猟師ヒュー・グラスをモデルとした物語。アカデミー賞監督賞、主演男優賞、撮影賞。

 

感想

 極寒の地に置き去りにされた主人公がサバイバルする姿が描かれる。荒野に置き去りにされるだけでも相当しんどいが、その上瀕死の状態なのでマイナスからのスタートどころか、もはやアウトだと言っても過言ではない。絶体絶命の状態だ。

 

 そんな状態に主人公を追いやったクマに襲われるシーンは凄まじい。執拗に何度も襲い掛かってくるクマの姿には震えた。応戦している間にどんどんと傷が増えていき、これではいくら必死だったとしても途中で心が折れてしまいそうだ。それでも最後まであきらめなかった主人公だからこそ、その後の物語には説得力がある。

 

 

 仲間に発見されて介抱され、担架で帰路に着いた主人公だが、険しい道のりに道中で放棄されることになる。映画「ザ・ビーチ」を思い出すつらい展開だが、それでも最初はちゃんと連れて帰ろうとしてくれていたわけだし、最期を看取り埋葬するために三人も残してくれたのだから、最大限の誠意は尽くしてくれたと言えるだろう。正直なところ、この厚遇ぶりには驚いた。

 

 だが一緒に残ったメンバーが悪かった。そのうちの一人が主人公の息子を殺し、もう一人の若者を脅しつけ、主人公を見殺しにしてさっさと立ち去ってしまった。せめて安楽死させてやれよと思ってしまったが、ここから主人公の信じられないほどの復活劇が始まる。もしかしたら主人公の中でもあきらめのようなものが生じていたのかもしれないが、息子を目の前で殺された怒りが、生への執念を生んだのだろう。

 

 何度も窮地をくぐり抜け、主人公はついに仲間に発見される。砦に収容され、さすがにしばらく休養するのかと思いきや、そのまま復讐を果たすために出掛けるのはすごい。その執念に圧倒される。

 

 クライマックスとなる復讐シーンは、同行した隊長の軽率さと、見事な策を打ちながらもそこで仕留めきれなかった主人公のグダグダぶりが気になったが、相手も必死だから仕方がないのかもしれない。主人公の執念と共に、相手の何が何でも絶対に生き残るという強い信念がしっかりと描かれている。とどめを刺さずに川に流す最後のシーンは工場の流れ作業みたいで少し面白かったが、きれいにまとまった復讐劇だった。

 

 これが実話に基づいているというからすごいが、主人公の生への凄まじい執念と、美しくも厳しい極寒の大自然の映像が強く心に刻まれる映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

 

原作 レヴェナント 蘇えりし者 (ハヤカワ文庫NV)


製作総指揮 ブレット・ラトナー

 

出演 レオナルド・ディカプリオ/トム・ハーディ/ドーナル・グリーソン/ウィル・ポールター/ポール・アンダーソン/ルーカス・ハース/ブレンダン・フレッチャー

 

音楽 坂本龍一/アルヴァ・ノト

 

撮影    エマニュエル・ルベツキ

 

レヴェナント:蘇えりし者(字幕版)

レヴェナント:蘇えりし者(字幕版)

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レヴェナント: 蘇えりし者 - Wikipedia

 

 

登場する人物

ヒュー・グラス/ジム・ブリッジャー 

 

 

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