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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「蘇える金狼」 1979

蘇える金狼

★★★☆☆

 

あらすじ

 犯罪者としての裏の顔を持つ男は、平凡なサラリーマンを装って勤務している会社の不祥事を知り、乗っ取りを企てる。131分。

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感想

 勤めている会社の乗っ取りを目論む男が主人公だ。だが彼はその前に会社とは関係なく、現金強奪などの犯罪を行なっている。つまり会社になにか恨みがあるというわけではない。たまたま自分の勤めている会社の不正を知ったから、今回はそれをネタに強請ってやろうとしているだけだ。だから、彼がなぜ何度も犯罪を行うのか、その動機がよく分からなかった。

 

 単純に、彼が楽して大金を稼ぎたいと思っているだけの、いわゆる普通の犯罪者であるのなら、わざわざ会社勤めをするはずがない。スリルを味わう娯楽としてやっているようにも見えなかった。彼の動機に対する何か納得できる説明が欲しかった。映画を見ていて何となく感じられたのは限りない欲望というやつだった。欲望よりも渇望と言った方がしっくりくるかもしれない。

 

 そして主人公がなぜ銃の扱いに長けて戦いに強く、犯罪に関する知識も豊富なのかも説明されない。この辺りは演じているのが松田優作なんだから察してくれということなのだろう。それでもそれなりの説得力があるのはさすがだが。得体のしれなさが滲み出ていた。

 

 

 それから主人公に会社の情報を流す重役の愛人役の風吹ジュンが色っぽくて良かった。彼女をもっと見たかったが、あまり出しすぎてウェット感が出ると映画のハードボイルドな空気が壊れてしまうと危惧したのかもしれない。

 

 主人公にピンチらしいピンチがないままに、一連の出来事にだいたいのケリがつく。そのままエンディングに突入するのかと思いきや、ここから主人公が部屋で一人暴れて咆哮するなど「普通じゃない映画」感を出すための演出が続く。

 

 やりたいことはなんとなく分かるし、意味するところも分からないでもない。それに、それなりの見応えもあって悪くはなかったのだが、上映時間が二時間を越えてしまっているので、そんな事やらずにもう終わっても良くない?と思ってしまう自分がいた。

 

スタッフ/キャスト

監督 村川透

 

原作 蘇える金狼 野望篇 (角川文庫)

 

製作総指揮/出演 角川春樹

 

出演 松田優作/風吹ジュン/千葉真一/成田三樹夫/小池朝雄/岸田森/佐藤慶/真行寺君枝/岩城滉一/阿藤海/トビー門口/山西道広/中島ゆたか/南原宏治/待田京介/久米明

 

音楽    ケーシー・D・ランキン

 

蘇える金狼

蘇える金狼

  • 松田優作
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「ビール・ストリートの恋人たち」 2018

ビール・ストリートの恋人たち (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 冤罪で逮捕された婚約者を救うため、家族の協力を仰ぎつつ奔走する妊娠した若い女。原題は「If Beale Street Could Talk」。

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感想

 冤罪で逮捕された男と妊娠していることに気付いた女、二人の若い男女のラブ・ストーリーが描かれる。幼馴染の二人が自然と恋愛関係となり、一緒に暮らすことを夢見るようになる。ごくありふれた恋愛物語だ。だが途中で男が無実の罪で捕まってしまったことで、普通じゃなくなってしまった。

 

 その原因は彼らが黒人だったからだ。白人優位の社会で黒人たちがどのように虐げられてきたのか、その歴史に触れながら、主人公もその流れの中に飲み込まれてしまったことを示唆している。いかに黒人が白人に苦しめられてきたかを熱っぽく、あからさまに語るシーンも何度か出てくる。

 

 

 だが映画の中で、彼らに直接露骨な態度を示す白人は、男を冤罪に追い込んだ警官ぐらいしか登場しない。彼らに部屋を貸そうとしない家主たちもいたが、彼らは明確な態度を見せるのではなく、言葉を濁すだけだった。だが、彼らのような人間がたくさんいることを知っているから、警官は露骨な態度を取れるのだろう。彼らの本音を代表してそれを体現していると言える。

 

 その一方で、彼らに部屋を貸そうとしたり、警官から彼らを庇おうとする親切な白人もいる。個々で見ればもちろん善い人もいるが、システムとして、すべてのしわ寄せが黒人に来るような社会になってしまっているということなのだろう。

 

 しかし、被害者や警察、そして社会を安心させるためだけに、安易に黒人が本当の犯人の身代わりにされてしまうなんて酷すぎる。それが常態化し、いつ自分がその身代わりにされるか分からないような社会では、安心して生活する事なんて出来るわけがない。静かに愛を育むことさえできない。

 

 洒落たファッションに音楽、美しい映像で紡がれる物語だ。若い男女を助けるために奮闘する、彼女の両親の姿にも胸を打たれた。だが男の無罪を晴らそうと必死に準備していたはずの裁判があっさりと素通りされて、既定路線だったかのようにその後の彼らの様子が当然のように描かれていたのは切なかった。だがこれが現実だ。それでも彼らはたくましく生きていくしかない。状況が今より良くなることを祈りながら。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 バリー・ジェンキンス


原作 ビール・ストリートの恋人たち (早川書房)

 

製作総指揮

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出演 キキ・レイン/ステファン・ジェームス/コールマン・ドミンゴ/テヨナ・パリス/マイケル・ビーチ/デイヴ・フランコ/ディエゴ・ルナ/ペドロ・パスカル/エド・スクレイン/ブライアン・タイリー・ヘンリー/レジーナ・キング/フィン・ウィットロック/アーンジャニュー・エリス

 

音楽 ニコラス・ブリテル

 

撮影 ジェームズ・ラクストン

 

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「学校」 1993

学校

★★★★☆

 

あらすじ

 卒業記念文集の作文を書く生徒たちを見つめながら、彼らとの思い出を振り返る夜間中学教師。

 

感想

 何らかの理由で義務教育を受けられなかった人間が集う夜間中学が舞台だ。バックグラウンドの違う老若男女が集い、それぞれ問題を抱えながらも必死に学んでいる。そんな生徒たちを親身になって支える教師と彼らの心の交流が描かれていく。生徒たちが作文する様子を一人ずつ眺めながら、教師がその生徒との思い出を回想していく演出は上手かった。

 

 そんな中で、教室にはいないが回想シーンで登場した田中邦衛はインパクトがあった。ほんのわずかな登場で、ジャージ姿でいつもの挙動をしているだけなのにめちゃくちゃ可笑しい。もはやいるだけで面白いという特異な存在だ。すごい。

 

 この時は彼が教師なのか生徒なのかすらはっきり分からないのだが、後に現在は入院中の生徒だったことが分かる。そして後半は彼が送った学校生活がメインに描かれるようになる。後半の主人公を前半に印象的に登場させておく演出もまた見事だった。

 

 しかし、彼のように勉強とは無縁だった人間には、夜間中学の存在を知ることからして困難だった、というのは皮肉だ。だが、生活保護が必要な人がその存在を知らない、というような矛盾や欺瞞は世の中にたくさんある。そして、そのなかなか結び付かない二つをつなげる役割を果たすのが、多くの場合、行政ではなく奇特な善人の存在だというのもまた皮肉ではある。

 

 

 そして苦労の多かった彼の人生を思い、教室で皆が、幸せとは何か、学ぶとは何かを語り合う。ここで教師が答えを用意していないのがいい。生徒ひとりひとりに考えさせ、意見を述べさせながら、教師自身も一緒になって考えている。素直に生徒に「分からない」とか「ごめん」とか言える教師は信用できる。生徒たちがズルさや汚さを見せず、無邪気で善良すぎるのが気になるが、教師と生徒が心からの交流をしている様子に温かな気持ちになった。

 

 良い話だし、主人公のような教師は実際にいるのだろう。だが、世間が教師全員に彼のような教師像を求めるのは間違っているだろう。待遇も環境も悪い中で、私生活を犠牲にしてまで仕事に打ち込む人は普通じゃない人だ。そんな人はそう沢山はいない。それに情熱さえあればいいわけではなく、それが間違った方向に作用すればとんでもない害悪をもたらす事だってある。

 

 だから教師には最高を求めるよりも、最低限のレベルを保持していることを求めるくらいが妥当だろう。政治家ですらあんなレベルなのだから、教師にそれ以上を求めるのは酷だ。主人公のような教師に出会えたらラッキーだ、くらいに思っていた方がいい。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

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出演

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竹下景子/田中邦衛/裕木奈江/萩原聖人/中江有里/新屋英子/翁華栄/神戸浩/すまけい/笹野高史/小倉久寛/坂上二郎/大和田伸也/大江千里

 

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音楽 冨田勲

 

学校

学校

  • 西田敏行
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「誰もがそれを知っている」 2018

誰もがそれを知っている (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 子供たちを連れてスペインの実家に戻り、妹の結婚式に参加した女は、式の最中に娘を誘拐されてしまう。

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感想

 冒頭は、主人公が故郷に戻って一族や隣人たちと久しぶりの再会を喜び、結婚式に突入していく幸せな光景が展開される。だがこの監督の映画では絶対にイヤな出来事が起こるので、いつ何が起きるのかと気が気でなかった。しかしまさか誘拐が起きるとは思わなかった。もっと地味にイヤなことが起きるものだと思っていたので意外だった。

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 娘を誘拐されて取り乱す主人公や、心配する一族、親身になって協力する元恋人らの様子が映し出されていく。誘拐発生直後に誰かが「犯人はこの中にいる」と言い出して、一瞬、館ものミステリーが始まるかのような空気が流れたのはちょっと面白かった。監督の作風が変わったのかと思ったが、気のせいだった。

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 その後は、犯人探しや人質をめぐる交渉劇などといった誘拐事件そのものではなく、登場人物たちの心理描写に重点が置かれたドラマが描かれていく。それぞれが普段は蓋をしていた周囲の人間に対するわだかまりが露わになり、秘密も明らかになる。一枚岩であるべき被害者家族や友人の関係がギクシャクとしたものへと変化していく。

 

 だがこれも皆が主人公の娘を助けるために必死だったがためだというのが切ない。彼女を助けるためには身代金が必要だが、そんな大金はなく、あの時あの土地を売らなければ、あんな安い値段にしなければ、といった後悔ばかりがぶり返し、苛立ちが募ってしまった。それで八つ当たりして、普段は抑えていた不満を口走ったり、恨み言を言ってしまった。

 

 

 突然言われた相手も動揺し、同じように今まで黙っていた不平をつい言ってしまう。そんな連鎖で悪循環が生まれてしまった。皆の心に余裕がなく、ストッパーが外れてしまっている印象だ。

 

 冒頭の幸せな光景の裏側では、人々のこんな負の感情が渦巻いていた。表面上は仲良く振る舞っていても、心の奥底では互いに対するわだかまりを隠し持っていることもある。一見円滑な人間関係にもそんな可能性があることに、恐ろしさを感じてしまう。だが逆に考えれば、互いに悪感情を持っていても、よほどのことがない限りは仲良くやっていけるということで、ポジティブに考えるべきなのかもしれない。

 

 それから映画全体を通じて、なぜか「神」を軽視する雰囲気が漂っているのが印象的だった。主人公の夫が神に頼る態度を見せるたびに、神が一体何をしてくれるというのだ、助けるつもりがあるならとっくに助けているはずだ、と冷ややかな空気が周囲に流れていた。監督はイラン人だが、無神論者なのだろうか。

 

 最終的に誘拐事件は解決するのだが、犯人が捕まるわけでも警察が動き出すわけでもない、どんよりとした結末だ。そして、姉夫婦や主人公一家には、新たな疑念の芽が生まれている。それらが今後どうなるのかは霧の中、とでもいうような映像で終わるエンディングは見事だった。この後味の悪さが残る余韻は嫌いじゃない。

 

 少し見直してみると、元恋人が、主人公の抱いている姪の赤ん坊を彼女の子供と勘違いしたり、姪が服を脱ぐ動作をよくしていたりと、物語の行く末を暗示するようなシーンが色々とあることに気付かされた。改めてじっくり見ると色々な発見がありそうだ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 アスガル・ファルハーディー

 

出演 ハビエル・バルデム/ペネロペ・クルス/リカルド・ダリン/バルバラ・レニー/インマ・クエスタ/エドゥアルド・フェルナンデス

 

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「双生児」 1999

双生児

★★★★☆

 

あらすじ

 戦争で勲章をもらい、今は医師として働き、美しい妻、両親と共に暮らす男は、ある日、自分そっくりの男に襲われる。

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感想

 登場人物たちに眉毛がなく、女性は変な髪型をしている。物語の舞台となる随所に洋風を取り入れた日本家屋の立派な美術と相まって、独特の世界観が形成されている。作り込まれた映像世界にまず惹き込まれる。

 

 そしてこの世界観を決定づけているのは、主演の本木雅弘の美しさだ。映画に漂う奇妙さや不気味さを、この男前がすべて回収して「映像美」に変換している。他の凡庸な役者ではこんな風に映画を引き締めることは出来なかっただろう。彼はその容姿だけでなく、一人二役で様々な表情を見せ、迫真の演技で映画を盛り上げている。

 

 

 主人公が家族と暮らす家で次々と摩訶不思議な出来事が起き、やがて彼の前に彼そっくりの男が現れる。何か事件が起きた時の揺れまくるカメラワークが良かった。ベタではあるが見ているだけで不安に襲われる。それに至るまでの何かが起こりそうな、ザワザワとした空気を醸成する演出も見事だった。

 

 物語が進むにつれて、記憶喪失で昔のことをまったく覚えていなかった主人公の妻の過去や、主人公そっくりな男の素性も明らかになっていく。違う環境で育った性格の違う二人の男が、立場を入れ替えたら性格までも入れ替わっていくのが面白い。主人公の妻が言っていたように、一つの体に二人の男の精神が入ってしまったようなラストは、良かったのだか悪かったのだか判断し兼ねてなんとも言えない気持ちにさせられた。

 

 正直なところ、セリフがよく聞き取れないシーンも多く、細かい部分ではよく分からないところも多かった。なぜ主人公そっくりな男が貧民窟を追放されたのか、どうやって主人公が井戸から脱出できたかなどは不明だ。ただそれが気にならなくなるくらい、作り込まれた奇妙な世界観に浸れた満足感があった。余韻も悪くなく、堪能できた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/編集 塚本晋也

 

原作 双生児 ――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話――

 

出演 本木雅弘/りょう/藤村志保/筒井康隆/石橋蓮司/麿赤兒/竹中直人/田口トモロヲ/村上淳/内田春菊/広岡由里子/矢島健一/武野功雄

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音楽 石川忠

 

撮影 森下彰生

 

双生児

双生児

  • 本木雅弘
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「ダークタワー」 2017

ダークタワー (字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 リアルな夢に悩まされていた少年は、ある日夢の中の世界へとつながる場所を発見する。95分。

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感想

 宇宙のバランスを保つタワーを守るため、少年がガンマン(ガンスリンガー)と協力して戦う物語だ。一種の冒険物語と言えるだろう。異世界へとつながるゲートを前にした時はワクワク感があった。

 

 ただ物語の世界観に関する説明が不足していて、細かい設定がよく分からなかった。ガンマンはそもそもどういう人なのか、主人公が持つ特殊能力は何ができるのか、敵の黒衣の男はなぜ強いのか等がすべて曖昧だ。細かいところはこれまで見てきた似たような映画を参考にそちらで補完してくれ、と言われているかのようだ。

 

 

 それから主人公がほとんど活躍しないのも物足りない。やったことといえばガンマンを敵と戦える状況にいざなったくらいだろうか。これではヒーローというよりも単なる案内役だ。

 

 またガンマンも、復讐心に囚われて本来の目的を見失っていると非難されているが、どちらにしても敵を倒さなければならないのだから別にそれでも良くない?と思ってしまった。合理性ではなく精神性の問題なのは分かるが、分かりにくかった。

 

 壮大な世界観の物語をこじんまりと描いてしまった印象の映画だ。そもそもスティーヴン・キングの原作が全7巻もある長編なので、2時間程度の映画で完全に描き切るのは無理な話だ。その代わりにシンプルにコンパクトに描こうとしたのだろう。あわよくばシリーズ化も狙っていたのかもしれない。

 

 100分未満の映画は嫌いじゃないが、この映画に関してはもっとじっくり世界観を描いたうえで本題に入って欲しかった。なんだかもったいなさがある。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ニコライ・アーセル

 

原作 「ダークタワー」シリーズ I‐VII【14冊 合本版】 (角川文庫)

 

製作 アキヴァ・ゴールズマン/ロン・ハワード/エリカ・ハギンズ

 

出演 イドリス・エルバ/マシュー・マコノヒー/トム・テイラー/クローディア・キム/フラン・クランツ/アビー・リー/キャサリン・ウィニック/ジャッキー・アール・ヘイリー/フラン・クランツ/デニス・ヘイスバート/ホセ・ズニーガ

 

音楽 トム・ホルケンボルフ

 

ダークタワー (字幕版)

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  • イドリス・エルバ
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「北斎漫画」 1981

北斎漫画

★★★★☆

 

あらすじ

 戯作者になることを夢見つつ下駄屋を営む後の滝沢馬琴と、その2階に下宿する絵師としてまだくすぶっている葛飾北斎。

 

感想

 葛飾北斎と滝沢馬琴、そしてその周辺の人物たちの物語だ。まだくすぶっている北斎がミステリアスな女と出会うところから物語は始まる。この女と出会ったことから北斎の能力が開花したということなのだろう。だがあまりこの辺りの描写はピンと来ない。女に入れあげている感じも売れた感じもあまり伝わってこなかった。ここは彼の強烈な個性を示すパートだったのかもしれない。

 

 そして中盤、話は一気に北斎90歳の時点に飛ぶ。このダイナミックな展開はすごい。当然、皆が老けたメイクを施しているので老人コントのようでもあり、微妙にファニーな雰囲気が漂っている。普通の伝記映画であれば終盤にチラッと見せるだけのシチュエーションだろう。これで残り一時間弱ももつのかなと勝手に心配してしまった。だがここからが面白かった。

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 90歳になった北斎は、死期が迫っていることを感じながらも、まだ絵を描きたい、もっと上手くなりたい、生きたいと切望している。まだ納得していない、死ぬわけにはいかないとジリジリする彼の焦りが伝わってくる。死を静かに待つのではなく、最後までギラギラと人間臭く生きようとするその姿には圧倒される。

 

 そしてこれは北斎と馬琴の関係を描きながらも、メインは北斎と娘の親子の物語だったのだなと分かってくる。どんな時も常にそばに娘がいて支えてくれたからこそ、北斎は好き勝手に生きられた。混濁する中で娘の名を呼ぶ北斎の姿が印象的だった。

 

 

 この北斎の娘、葛飾応為を演じる田中裕子が非常に良い。時々、グッとくる表情をして惹きつけられる。若い頃のあっけらからんとした姿は魅力的だし、70歳の老女役でも、いつの間にかちゃんとそう見えるようになってくるから不思議だ。

 

 ただ70歳の老婆としてのベッドシーンは、顔は老けメイクをしているのに体は明らかにピチピチで違和感があった。だが、だからといって老婆の裸を見たいかと言われたらそうではないので、これで良かったのだろう。ちぐはぐで異様な映像は、北斎の絵の世界観ぽくもある。

 

 それから二役を演じた樋口可南子も本当に同一人物?と思ってしまうような上手い演じ分けを見せている。特に若い女役はいかにも普通の可憐な娘といった感じでとても自然だった。彼女は固い演技のイメージがあったので、こういうのも出来るのかと驚いた。

 

 有名な春画「蛸と海女」をモチーフにしたシーンも心に残る。蛸の足が蠢く特撮はチープなのだが、形だけのおざなりでない踏み込んだ演出にドキドキとさせられてしまった。

 

 男たちの情熱と女たちの艶っぽさをうまくミックスした映画だ。「生きる」とはこういうことなのだ、というメッセージが感じられる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 新藤兼人

 

出演 緒形拳

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田中裕子/樋口可南子/フランキー堺/乙羽信子/宍戸錠/大村崑/愛川欽也/殿山泰司/初井言榮/大塚国夫/梅津栄

 

北斎漫画

北斎漫画

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北斎漫画 (映画) - Wikipedia

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登場する人物

葛飾北斎/曲亭馬琴/葛飾応為/十返舎一九/式亭三馬/喜多川歌麿/蔦屋重三郎

 

 

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「警部」 1979

警部(字幕版)

★★☆☆☆

 

あらすじ

 フランス・ニースである警部が殺され、背後にマフィア同士の抗争と警察との癒着があるとにらんだ男は捜査に乗り出す。フランス映画。

 

感想

 主人公をはじめ主要な登場人物たちが、何の説明もなく次々と登場する。この映画はおなじみのキャラクターが活躍するシリーズ物なのかと疑ってしまったが、そういうわけでもなかった。序盤はそれぞれがどんな人物なのかを見極めつつ、話の筋も追わないといけないのでだいぶ混乱してしまった。

 

 物語が進むにつれて次第に話の全貌が見えてきて、主人公も警察の内部調査を行う警部であることが分かってくる。しかしいきなり相手を殴りつけ、暴力に訴える主人公のスタイルにはドン引きしてしまった。相手の事務所や車を爆破したり、店に放火したりまでする極悪非道ぶりだ。正直、全然好きになれなかった。

 

 それでも、正義のためなら悪も辞さない矛盾したキャラクターとして徹底してくれれば、それはそれで映画として成立する。だがこの主人公は時にコミカルなことをしたり、なにかと女性を口説くナンパな姿を見せたりして掴みどころがない。映画のテイストがブレブレ過ぎて、どういうつもりで見ればいいのかが最後まで分からなかった。タフでハードボイルドなのか、軽妙でコミカルなのか、クールで粋なのか。とにかく映画に統一感が欲しかった。

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 ただ、それぞれのシーンを単体で見れば悪くないものも多かった。中でも、映画中盤の映画館のシーンで、途中からやってきた主人公がこの映画自体の内容とかけながら、上映中の映画のこれまでのあらすじを娘に尋ねるシーンは洒落が利いていた。「警官が乱暴よ」と答える娘にニヤリとしてしまう。

 

 終盤は、やりたい放題だった主人公が娘を誘拐され、少し面白くなる。だが結局最後は、それは卑怯なのでは?と思ってしまうような結末を迎えた。主演のジャン=ポール・ベルモンドの色々な魅力を楽しめる映画と言えるのかもしれないが、集中して見るのがとても困難な映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ジョルジュ・ロートネル

 

脚本 ジャン・エルマン/ミシェル・オーディアール

 

出演

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マリー・ラフォレ/ジュリエット・ミルズ/シャルル・ジェラール/ミシェル・ガラブリュ

 

警部(字幕版)

警部(字幕版)

  • ジャン=ポール・ベルモンド
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警部 (1979年の映画) - Wikipedia

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「浮草物語」 1934

浮草物語(活弁入り)

★★★☆☆

 

あらすじ

 旅芸人一座を率いる男は、昔子供を産ませた女がいる町を久々に興行で訪れる。舞台の合間に親子の団欒を楽しんでいたが、現在の内縁の妻にそれがバレて思わぬ問題が起きてしまう。

 

 「喜八もの」第1作。キネマ旬報ベスト・ワン作品。モノクロ・サイレント映画。

 

感想

 かつて子供を産ませた女のいる町にやって来た旅芸人一座の座長の男が主人公だ。久々に会う我が子の成長を喜び、将来を楽しみにしている。だが、当時は普通なのかもしれないが、子供が徴兵検査に余裕で受かるだろうことを喜ぶ父親の姿はなんだか切ないものがあった。

 

 主人公は、自分みたいな旅芸人が父親では可哀想だと素性を隠し、知り合いの愉快なおじさんとして息子と接している。それでも、舞台の合間を利用して一緒に将棋をしたり、釣りをしたりする様子はとても幸せそうだ。

 

 

 ただ、主人公が釣りをしている時に川に財布を落とし、流れて失くしてしまったのにあまり気にしていなかったのには驚いた。だが、今だと銀行カードやクレジットカードの面倒な手続きのことが気になってしまうが、当時だと本当にお金しか入っていないから、金銭的な損失さえ受け入れられるならそこまでダメージはないのだろう。

 

 今は便利な世の中だが、この時代もこれはこれでシンプルでいい。財布に落ち込むほどの大したお金なんか入っていないだろう、と言うオチだった。そんなちょっとした笑いも交えながら物語は進む。

 

 だが、共に各地をまわる内縁の妻が、主人公に旧知の女と子供がいたことを知って激怒してしまう。感情的には分からないではないのだが、子供が生まれたのは十何年も前のことだ。今さら何を言っても仕方がないように思えて、彼女に同情できなかった。その後に彼女が行った仕返しの企ても理不尽に感じてしまった。

 

 やがて彼女の企みによって事件が起き、その過程で真実を知った息子と主人公の愁嘆場が訪れる。だが、そこから強く見えてくるのは旅芸人の悲哀だった。町から町へと旅を続けて一つ所に落ち着くことがなく、雨の日が続いただけで生活に窮してしまうような不安定な生活だ。そもそも主人公が、息子には自分のようにはなってもらいたくないと思っていること自体が哀しい。父親だと名乗る事すらためらってしまっている。

 

 だが主人公は、この厳しい稼業を続けていくしかない。そう考えると内縁の妻が、主人公に隠し子がいたことにあれほど怒ったのも理解できるような気がした。互いに明日をも知れぬ身だと支え合って生きてきたつもりだったのに、相手の男はいざとなれば退避できる場所を確保していた。相手が自分と同じではなく、実は保険をかけていたと知ったら腹が立つのも無理はない。

 

 大きな代償を払いつつも、主人公が再出発を図るシーンでラストを迎える。だが結局こうなるのなら、途中で余計なことをしないでそのままにしておいても良かったのでは?と思わなくもない。振り回された一座の者たちが不憫に感じてしまった。

 

 ちょっとウェットすぎるきらいはあったが、人生の悲哀が感じられるしんみりとした人情物語だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/原作*

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*ジェームス槇 名義


脚本 池田忠雄

 

出演 坂本武/八雲理恵子/飯田蝶子/三井秀男(三井弘次)/突貫小僧

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*ノンクレジット

 

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「大頭脳」 1969

大頭脳(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 天才的犯罪者の手口を真似て列車強盗を目論むも、その天才的犯罪者も同じ犯行計画を立てていたことが分かり、慌ててしまう泥棒の男。100分。

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感想

 序盤はドタバタ気味のベタなコメディが続く。どことなくジャッキー・チェンやマイケル・ホイが活躍していた70~80年代の香港映画のコメディと雰囲気が似ている。香港映画のコメディは、いかにもアジアン・ローカルなベタな笑いのセンスだと思っていたのだが、実は由緒正しい映画の伝統を受け継いだものだったのだなと気づかされた。ジャッキー・チェン映画が、ジャン=ポール・ベルモンドの映画に影響を受けていると言われるのも納得だ。

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 ただこの映画はベタながらも、フランスの映画だからか、どこか洒落ている。冒頭のヒッピー的なファッションはあか抜けていたし、脱獄の際のトンネル掘りのシーンはセンスの良さが感じられた。それから途中でなぜか挿入されるアニメも無駄にクオリティが高く、それを使ったギャグも粋だった。

 

 中盤を過ぎた頃、いよいよ列車強盗が実行される。古い映画なので合成技術などには時代を感じさせられるものがあったが、一連のシーンは緊張感があり、アクションシーンにもワクワクさせられる。泥棒同士が犯行現場でかち合うプロットも面白い。わちゃわちゃと混乱する中で笑いも生まれている。

 

 

 なんだかんだで色々あるのだが、最終的にはすべてが水の泡と帰す漫画的な結末が待っていた。この無常感が漂う結末は、フランス映画でよく見るような気がする。アニメのルパン三世的でもある。

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 そして、いまいちなぜ登場したのかがよく分からない自由の女神像のレプリカだが、やたらと存在感があるのが印象的だった。あのでかい女神像が映っているだけでとても映画的になる。異物感は映画的な効果を生むのだろう。妙に見入ってしまった。

 

 笑いあり、アクションありの娯楽作品だ。確かに今の映画と比べると見劣りする部分はあるのだが、それを忘れてしまうくらいに純粋に楽しめた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ジェラール・ウーリー

 

出演

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デビッド・ニーブン/イーライ・ウォラック/ブールヴィル

 

大頭脳(字幕版)

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  • ジャン=ポール・ベルモンド
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「よこがお」 2019

よこがお

★★★★☆

 

あらすじ

  訪問看護師として働く女は、公私ともに充実した日々を過ごしていたが、自分の甥が訪問先の娘を連れ去る事件を起こしたことからすべてが狂い始める。

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感想

 訪問介護の仕事を献身的にこなし、訪問先の家族とも良好な関係を築いていた中年の女が主人公だ。プライベートでも結婚が決まって順風満帆だったが、訪問先の女子中学生にたまたま引き合わせてしまった自分の甥が事件を起こしたことからすべてが崩壊してしまう。事件が起きるまで、事件直後、数年後の現在と、3つの時間が並行して描かれていく。

 

 主人公の人生が狂ってしまったのが、彼女に何の責任もない偶然の産物と甥の犯罪だというのが切ない。それなのに社会正義の名のもとに世間の好奇の目が襲い掛かる。ターニング・ポイントとなったのは、主人公の甥が事件に関与していることが分かった時に、すぐに訪問先の家族に打ち明けなかった事だろう。

 

 

 だがそもそも主人公に責任はないわけだし、言わずに済むなら言いたくないことだ。そこで他人に制されて、黙ってしまった気持ちはよく理解できる。だがこのタイミングを逃してしまうと、もう言い出せなくなる。とはいえ、ここで打ち明けたところで大してその後の展開は変わらなかったような気もするが。

 

 やがて主人公は、たった一人の女性によって追い詰められていく。それを示すような、夜の公園で彼女の顔に深く暗い影を落とすシーンはとても印象的だった。だがそれと同時に、あまりにも分かりやす過ぎる演出に、ちょっと笑ってしまいそうになってしまった。

 

 しかしてっきりマスコミ、同僚、近所の人など、いわゆる世間に無実の主人公が袋叩きにあう様子を批判的に描くかと思っていたので、ひとりを悪者にするのは意外だった。世間が叩くこと自体は自然な成り行きで、仕方ないことのようにされている。だが皆の悪気のない悪意を代表して、彼女がすべてを背負ったと見ることも出来るかもしれない。

 

 中盤までの現在の主人公の行動は、何をするつもりなのか、その意図が読めなかったが、やがてそれは復讐のためだったことが明らかになる。だがこの復讐はよく考えるとなかなか難易度が高い。なんと言っても年齢差があるので相手をその気にさせるのが難しそうだし、主人公の接近の仕方も怪しさ満開だった。

 

 これは演じたのが筒井真理子だったからリアリティがあったと言えるかもしれない。そして難易度が高かったからこそインパクトがあった。これがもし若い女であれば特に心に響かなかったはずだ。

 

 先が読めない展開で、純粋に物語の行方を追うことを楽しめた。善良でしっかりとした女性のような主人公にだって、普段は人に見せない顔がある。お釈迦様ではないのだからそんなの当然だ。それは彼女に限らず誰にだってある。甥にも主人公を陥れた女性にもそれはあった。だから勝手に相手を決めつけて油断しないことだ。いつそれが顔を出すか分からない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 深田晃司

 

出演 筒井真理子/市川実日子/池松壮亮/須藤蓮/小川未祐/吹越満

 

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「マグニフィセント・セブン」 2016

マグニフィセント・セブン (字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 悪徳実業家に町から追い出されそうになった住人たちは、対抗するために金で助っ人を雇うことにする。1960年の映画「荒野の7人」のリメイク作品。

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感想

 賞金稼ぎの主人公に率いられた七人の助っ人たちが、住人たちと共に悪党と戦う物語だ。原作だとそれぞれキャラクターの違う七人が個性を生かして活躍するのだが、この映画はあまりそんな感じがせず、こじんまりとしている。確かに七人の人種やバックグラウンドはそれぞれ違う。だがキャラクターとしての方向性はそんなに変わらない印象だ。皆、腕が立つ一匹狼といったところだろうか。

 

 また、それぞれのキャラクターに感情移入したくなるほどの描き方がされていないのも問題なのかもしれない。主人公とクリス・プラット演じる演じるギャンブラー以外は初登場シーンにあまりインパクトがなかった。それに何か問題を抱えていそうなイーサン・ホーク演じるスナイパーにしても、しっかり詳細を描くのではなく、なんとなくそれを匂わすだけだった。七人それぞれの関係性の中にも注目すべきようなものはない。時間的な制約もあったのだろうが、これなら別に七人ではなくて三人ぐらいで良かったのでは?と思ってしまった。

 

 

 ただクライマックスの悪党たちとの対決は迫力があって悪くなかった。もうちょっとアイデアのある作戦が欲しかったが、激しいアクションが繰り広げられて見ごたえがある。敵味方関係なく、呆気なく人が死んでいくのもリアルだ。圧倒的だった敵のガトリング銃を破壊したギャンブラーのシーンも、その前のハンターがやられた時の前振りが効いていた。この時はせめて一矢報いてから倒れてくれよと思ったのだが、これのための伏線だった。

 

 大自然の雄大さを強調するようなショットや、敵のボスとの一対一の決闘となった時の主人公の顔のアップなど、西部劇らしさを意識した映像が随所に見られる。映画的な雰囲気を濃く漂わせた映画だ。あの「七人の侍」「荒野の七人」のリメイクだと大上段に構えて見なければ、普通に楽しめる娯楽作品だと言えるかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督/製作総指揮 アントワーン・フークア

 

原作 七人の侍


出演 デンゼル・ワシントン/クリス・プラット/イーサン・ホーク/ヴィンセント・ドノフリオ/イ・ビョンホン/マヌエル・ガルシア=ルルフォ/マーティン・センズメアー/ヘイリー・ベネット/ピーター・サースガード

 

音楽 ジェームズ・ホーナー/サイモン・フラングレン

 

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オリジナル作品

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「震える舌」 1980

震える舌

★★☆☆☆

 

あらすじ

 熱を出し、おかしな挙動を見せていた娘が破傷風にかかっていることが判明し、入院させるも悪化していくその病状に疲弊していく夫婦。

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感想

 破傷風にかかった娘とその看病で疲弊する両親の姿が描かれる。両親が異変に気付いたのは、娘が口を開けようとしなくなったことだった。だが子供が大人の気を引こうと不審な行動を取るのはままあることなので、それだけで判断するのは難しい。

 

 現に最初は両親もあまり気にしておらず、叱りつけてさえいた。大抵の場合はそれで何事もなく過ぎていくのだろうが、今回のようにそれが本当に病気の症状だった場合はとんでもないことになる。娘が苦しんでいるのに気付かないどころか、怒ったりしていたなんて、一生後悔することになるだろう。だがそうなるかどうかは運でしかない。そう考えると恐ろしい。

 

 

 娘はさらに歩き方までおかしくなる。両親がどんなに問いただしても、彼女が平気なふりを装っていたのは不思議だったが、もしかしたらそれは本能から来るものだったのかもしれない。野生の動物は、体が弱く無事に成長しなさそうな子供の育児を放棄する。だから彼女も、無意識のうちに両親に見捨てられるのではと不安を感じ、自分は大丈夫だと必死にアピールしていたのだろう。

 

 やがて症状が悪化して、病院で破傷風であることが判明し、娘は入院することになる。外の僅かな刺激に反応して痙攣を引き起こす様子は壮絶で、見ているだけで辛かった。そして何度も舌を噛み、その度に血まみれになる様子は、並のホラー映画よりも怖かった。

 

 両親はそんな娘の様子を見て疲弊し、それと同時に自分も破傷風になるのではと怯えるようになる。娘のことで頭がいっぱいだったが、ふと冷静になって自分の事を考えた途端に、急に不安が襲い掛かって来たのだろう。その気持ちはよく分かる。それらが両親の精神を徐々に蝕んでいく。

 

 ただ、そんな子供と両親の姿を延々と見せられ続けるのはかなりしんどかった。大したドラマもなく、ただ病状の変化を見守るしかない。もしかしたらホラー的に楽しませようとしていたのかもしれないが、実際にある病気の実際にある症状を見せられて、怖がって面白がるような気持ちにはさすがになれない。

 

 破傷風が恐ろしいことは実感できたが、どうせならその知見が深まるような情報がもっと欲しかった。難病の少女の治療の様子を見せられるだけの、嫌な感じに怖い映画だった。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/製作 野村芳太郎

 

脚本 井手雅人

 

原作 震える舌 (講談社文芸文庫)


出演 渡瀬恒彦/十朱幸代/若命真裕子/中野良子/宇野重吉/北林谷栄/梅野泰靖/蟹江敬三/中原早苗/谷よしの

 

音楽 芥川也寸志

 

震える舌

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「クィーン」 2006

クィーン(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 1997年のダイアナ元皇太子妃の交通事故死の際、王室の伝統と世間の声の間で苦慮したエリザベス女王の数日間が描かれる。

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感想

 ダイアナが不慮の事故で亡くなった際、女王は沈黙を続けて世間から批判を浴びた。だが女王の立場から考えると、難しい判断だったことがよく分かる。離婚してすでに王室を離れたダイアナはもはや部外者だ。彼女の死をどう扱うかの主導権を、そもそも女王は持っていない。それに未来の国王の母親だからと率先して何かを行なおうとすれば、何をするにも税金を使うことになる王室は、世間から批判を浴びる可能性もある。余計なことをするよりも粛々と伝統に従った方が無難だろう。

 

 この件に関しては、むしろ批判する国民に問題があったと言える。メディアに踊らされ、過剰な反応を見せてしまった。ダイアナの死を悲しんだのは事実だろうが、それ以上にこの出来事を祭りやイベント的に消費しようと盛り上がってしまった。今なら「喪服を着て宮殿前に花を供える私」の写真をSNSに上げるため、バズるのに効果的な衣装やコーディネートを考えてウキウキしている感じだろうか。そして自分たちが祭りでこんなに盛り上がっているのに、なぜ王室は参加しないのかと理不尽に怒っている。

 

 

 ただここまで過熱してしまったのは、社会に不満が蓄積していたという背景があるのかもしれない。政権交代が起きたのもそうだろうし、それまでのダイアナの行動に異常な関心を示していたのもそれが影響しているのだろう。ストレスのたまった社会はそのはけ口を求めて、イベントに熱狂しやすくなる。ダイアナの死はタイミングが悪い時に起きてしまった。

 

 世間の反応に戸惑う王室だったが、メンバーが皆毒舌を交えて不満を表明しているのが面白かった。さすがイギリスとニヤリとさせられる。女王の夫フィリップの、とにかく鹿狩りがしたいという揺るぎない意志が伝わって来る言動も可笑しかった。主演のヘレン・ミレンはじめ、王室メンバーを演じる役者陣が特徴を掴んで熱演しており、皆本物とよく似ている。トニー・ブレアを演じたマイケル・シーンも良かった。

 

 周囲が世間の声など気にしなくていい、と助言する中、女王は首相の提案を受け入れ、慣例を破ることを決める。これは信念を曲げてしまったと見ることも出来るが、今後も王室を存続させるための現実的な判断だと言える。伝統と現実の間でバランスを取り、王室の権威を守っていかなければならない。それは王位につく者しか果たせない責務だ。そう考えると彼女の決断には凄みが感じられる。鹿だって気高いだけでは生きていけないのだ。

 

 映画の中盤、女王が運転する車が故障して、大自然の中をひとり、救援がやって来るのを待つシーンがある。ふいに出来たぽっかりと空いた時間に気が緩み、女王に思わず涙が込み上げる。あの涙はダイアナの死に対するものだと思っていたが、後から考えると自身の重責に対するものも含まれていたのかもしれない。

 

 ダイアナが事故で重体の報を聞いた時や首相の提案を受け入れた時など、いくつかあった重大な瞬間の様子は、敢えて見せない演出となっている。女王の気持ちになって想像してごらんと言われているようにも、お前らなんかに女王の気持ちなど分るものかと言われているようにも感じられた。この数日間だけでなく、彼女の全人生にも思いを馳せてしまうような、じっくり堪能できる濃密な人間ドラマだ。

 

スタッフ/キャスト

監督 スティーヴン・フリアーズ

 

出演 ヘレン・ミレン/マイケル・シーン/ジェームズ・クロムウェル/ヘレン・マックロリー/シルヴィア・シムズ

 

クィーン(字幕版)

クィーン(字幕版)

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登場する人物

エリザベス2世/トニー・ブレア/エディンバラ公フィリップ/シェリー・ブレア/チャールズ皇太子(チャールズ3世)/王太后(エリザベス・ボーズ=ライアン)

 

 

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「噂の女」 1954

噂の女

★★★☆☆

 

あらすじ

 京都で女手一つで遊郭を営む女は、東京の大学にやるも恋に破れ、自殺未遂を起こした娘を連れ帰ってくる。

 

感想

 若い医師に思いを寄せる遊郭の女将である主人公と、それを知らず同じように医師に惹かれてしまう家業を疎ましく思う娘の愛憎入りまじった関係が描かれる。ただ最初は田中絹代演じる主人公がかなり年配に見えるので、若い医師との関係を見定めるのが難しかった。

 

 それらしい雰囲気を漂わせてはいるのだが、恋愛関係が成立する歳の差なのか?と判断しかねて落ち着かない。だが演じていた役者の当時の実年齢を調べると、主人公演じる田中絹代が四十代半ばで娘役の久我美子は二十代半ば、そして医師役の大谷友右衛門が三十代半ばだったので、どちらもあり得る歳の差だった。納得できる設定だ。とはいえ、突きつめれば恋愛に歳の差なんて関係ない、となってしまうのだろうが。

 

 そんな三人が揃って能の舞台を見るシーンは、主人公の様々な心の動きが垣間見られ、見ごたえがあった。娘が男と思いのほか親密になっていることに気付いて驚き、焦っている。なかでも、舞台の演目が老いらくの恋を描いたもので、観客が無邪気に笑う中、自身と重ねてしまって居たたまれなくなり、そっと席を外す主人公の姿には身につまされるものがあった。

 

 こんな風に皆が笑っているのに自分だけが笑えないような体験は、誰にでもあるはずだ。今は「誰も傷つけない笑い」が持て囃されていると言うが、厳密に言えばそんなものは存在しない。人知れずどこかで誰かが泣いている可能性は常にある。そこに思い至れるかどうかは重要なポイントだろう。

 

 

 母娘の間をうまく立ち回る医師の男は、正直なところ、なぜ二人が惚れてしまうのか、まったく理解できない男だった。なにより娘に馴れ馴れしく体を寄せていく姿が気持ち悪い。企みがバレた時の開き直り具合も最低だった。遊郭で色んな男の醜態を見てきたはずの主人公なのに、自分のことになると途端に何も見えなくなってしまうなんて皮肉だ。

 

 娘役の久我美子は、最初はほぼ表情がなく(役柄の状況的に仕方がなかったが)、あまり演技が上手くないのかと思ったのだが、徐々に豊かな表情を見せ始める。特に能の舞台を見て屈託なく笑う姿は印象的だった。彼女に悪意は全く無いのだが、その純粋な笑顔が主人公に残酷に突き刺さり、とても効果的なシーンとなっていた。

 

 最後は、互いに対するわだかまりが解け、穏やかに話す母娘の姿にほっこりとした気分になる。だがその裏で業界の影の部分が強調され、女性が辛い状況に立たされ続ける現実も見せられて、どんよりとした気分にもさせられた。時々ほっこりするドラマもあるが、そうやって花街は成り立ち、続いている現実がある。

 

スタッフ/キャスト

監督 溝口健二

 

脚本 成澤昌茂/依田義賢

 

出演 田中絹代/久我美子/大谷友右衛門(中村雀右衛門 (4代目) )/進藤英太郎/見明凡太郎/浪花千栄子/田中春男/十朱久雄/小松みどり

 

音楽 黛敏郎

 

撮影 宮川一夫

 

編集 菅原謙二

 

噂の女

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噂の女 (1954年の映画) - Wikipedia

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