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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「世界にひとつのロマンティック」 2015

世界にひとつのロマンティック(字幕版)

★★☆☆☆

 

あらすじ

 事故で頭にくぎを打ち込まれてしまった女は、医療保険に入っていなかったため手術代を払えず、たまたまテレビで見かけた若手政治家に医療制度の改革を訴えに行く。原題は「Accidental Love」。

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感想

 恋人にプロポーズされたディナーの席で、事故で頭にくぎを打ち込まれてしまった女が主人公だ。脳の損傷によりおかしな言動をするようになってしまう。それで笑いを取りつつ、無保険で手術代を払えない苦境を何とかするために政治家に訴えに行く流れになっていく。

 

 頭にくぎを打ち込まれた状況をコメディにしてしまったり、医療保険制度の問題という固いテーマを扱っていたりと、色々すごいなと戸惑ってしまう。これだけでアメリカの病んだ状況を読み取れてしまいそうだ。タイトルから窺えるようなラブ・コメディというよりは、政治風刺を扱ったコメディといったほうがしっくりくる。

 

 おそらくは重苦しくならないようにしているのだろうが、登場人物たちは皆どこか戯画タッチだ。脳の損傷によりおかしな言動をするジェシカ・ビール演じる主人公や、ベテラン議員の無理難題にオロオロするジェイク・ジレンホール演じる新人下っ端議員のどこか頼りない様子は何度か笑わせてくれた。特に主人公が時々見事なスピーチをして、政治的センスを示してしまうシーンは面白かった。だが全体としてはいま一つで、笑うよりも、キョトンとしてしまうものが多かった。

 

 

 そしてストーリー自体も、とてもあっさりとしたものになっている。起伏がなく、力の入ったシーンもなくて、平坦な印象だ。あとで分かったが、どうやらこの映画は色々と紆余曲折があったようだ。邦題詐欺の元ネタ「世界にひとつのプレイブック」のデビッド・O ・ラッセルが監督していたが製作中止となり、後に彼抜きでそれを無理やり完成させたものらしい。だから映画の監督クレジットに彼の名はなく、仮名の「スティーブン・グリーン」が使われている。そんないきさつを聞くと納得してしまうような出来だった。

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 冒頭で「アメリカン・グラフィティ」を想起させるような古き良きアメリカの姿を描いておいてから、今やすっかり夢見ることも出来なくなった厳しい現実を描こうとしていたが、それを映画そのものではなく、この映画の製作過程で示してしまっているとは皮肉だ。そういった裏話も含めたら面白いのかもしれないが、映画の内容だけだとそんなことはない。

アメリカン・グラフィティ (字幕版)

アメリカン・グラフィティ (字幕版)

  • リチャード・ドライファス
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スタッフ/キャスト

監督 スティーブン・グリーン

 

原案/脚本 クリスティン・ゴア

 

原作 Sammy's Hill: A Novel (English Edition)

 

出演 ジェシカ・ビール/ジェイク・ジレンホール/キャサリン・キーナー/ジェームズ・マースデン/トレイシー・モーガン/ポール・ルーベンス/カート・フラー/ジェームズ・ブローリン

 

 

 

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「望み」 2016

望み

★★★☆☆

 

あらすじ

 少年グループが起こした殺人事件に関わり行方不明中の息子が、加害者なのか、被害者なのか、どちらか分からず苦悩する両親。

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感想

 息子が殺人事件に巻き込まれるも加害者なのか被害者なのか分からず、辛い時間を過ごす家族の様子が描かれる。子どもが加害者だった場合と被害者だった場合で、親がするべき覚悟は真逆のものだ。子どもが事件に巻き込まれただけでも平常心ではいられないのに、どちらの可能性も考慮して備えなければいけない状況が続くなんて、確かに相当キツそうだ。そういうこともあるのだなという気付きはあった。

 

 だが映画としては、事件に至る予兆のようなものがしっかりと描かれないままにヌルっと進行していくので、いま一つメリハリがない。いつのまにか事件が起こり、気付けばその渦中にいた。特に中盤は、家族がマスコミに執拗に追われ、近隣住民に陰湿な嫌がらせを受けるありきたりの描写が続くだけで、かなり退屈だった。

 

 

 ここは捜査の進展を描き、それによって息子は被害者だと確信を強めたり、やっぱり加害者なのかもと揺れる家族の様子を見せて欲しかった。サスペンス感がゼロで、緊張感が全く無い。

 

 終盤、いきなり事件の真相がすべて明らかになる。息子が被害者なのか加害者なのか推理するようなヒントは何一つ与えられず、ただ眺めるしかなかったので、そっちだったのね、良かったのでは?という冷めた感想しか出てこなかった。あとで、そっちで良かったと思ってしまったことに対する罪悪感が湧いてきたが、これは計算された演出ではないような気がする。

 

 ついでに演出で言うと、劇伴音楽がうるさくてかなり煩わしかった。この監督はこの手の映画をやるときはいつも劇伴音楽がうるさい。それなりの手ごたえを感じているから続けているのだろうか。もしかしたらこの方が分かりやすく泣けるからと、好きな人が多いのかもしれない。

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 それから後日譚が妙に長いのも、泣かせるのに必死な感じがしてうんざりしてしまった。ただ、堤真一の武田鉄矢みたいになる演技は面白かった。

人間力を高める読書法

 

 酷くはないが、かといって良くもなく、コメントしづらい面白みのない物語だ。少年院で見せる映画みたいだった。

 

スタッフ/キャスト

監督 堤幸彦

 

原作 望み (角川文庫)


出演

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石田ゆり子/岡田健史/清原果耶/加藤雅也/市毛良枝/松田翔太/竜雷太/三浦貴大/渡辺哲

 

音楽 山内達哉

 

望み

望み

  • 堤真一
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望み (雫井脩介の小説) - Wikipedia

 

 

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「別れる前にしておくべき10のこと」 2019

別れる前にしておくべき10のこと(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 二人の子供を持つシングルマザーの女は、酒の勢いで知り合ったばかりの男と関係を持つが、その後妊娠していることに気付く。

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感想

 一夜限りの関係のつもりが妊娠してしまった子持ちの女が主人公だ。それを伝えるために男と再び会ったことから二人の付き合いが始まる。そもそも妊娠するようなやり方をするなよという話だが、ありえないことではない。

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 当然男は戸惑うのだが、今後どうするかは様子見することにして、二人は関係を続けてみることにする。時間と共にお互いを少しずつ知るようになり、男は主人公の子供たちとも良好な関係を築き始める。男が主人公親子に溶け込んでいく様子は、恋愛ものというよりは家族ものといった趣があって、微笑ましかった。特殊な始まり方をした二人ではあったが、結局最後は丸くおさまるのかと期待させられた。

 

 だが、主人公が子供を産むことにし、男と共に育てていこうと決意した後に、二人の関係に綻びが生じ始めてしまう。原因は、始まりが始まりだけに二人が互いのことをまだよく理解していなかったから、ということなのだが、正直なところ納得できなかった。まだそれほど長い期間でなかったとはいえ、二人は一緒に暮らすようになっていたわけだから、そこらの別々に暮らしているカップルよりはよほど互いのことを分かるようになっていたはずだ。

 

 

 だったら逆にどれくらいの期間付きあえば、お互いを深く理解し合えていると判定できるのだ?と疑問に感じてしまった。長年連れ添った夫婦だって、相手を完ぺきに理解することなど出来ないはずだ。

 

 その後は、男の最低なクズぶりが際立っていく。土壇場でひどいなと、憤りを感じなくもないのだが、よく考えれば男は最初から自分の駄目っぷりをさらけ出していた。それをちゃんと自覚して、包み隠さず正直に、主人公に告白してさえいた。だから、ある意味では誠実だったと言えるかもしれない。偽りの姿を見せておきながら、最後に本心をぶちまけられるよりよほどいい。

 

 二人で決めた「別れる前にしておくべき10のこと」を全て叶えられたのだから満足すべきだとも、それを順番通りにやるべきだったとも、どちらにも取れそうなやるせないラストとなった。あるいは男がリスクを負わずに貴重な体験ができたというだけの話なのかもしれない。

 

 個人的には、別れを予感させるタイトルでありながらその別れは何十年も幸せに暮らした後の、どちらかが天寿を全うした時でした、という予想を裏切る結末であって欲しかった。いくらなんでもそれはロマンチック過ぎか。釈然としない気持ちになる映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 ガルト・ニーダーホッファー

 

出演 クリスティーナ・リッチ/ハミッシュ・リンクレイター/リンジー・ブロード/カティア・ウィンター/ジョン・エイブラハムズ/スコット・アツィット

 

 

 

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「新聞記者」 2019

新聞記者

★★★☆☆

 

あらすじ

 政府に圧力をかけられながらも取材を続ける新聞記者と、先輩の自殺をきっかけに政府の闇を告発しようとする官僚。

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感想

 政府に圧力をかけられながらも、真相を追及する女性記者が主人公だ。だが彼女が何と戦っているのかが分かりづらく、曖昧だった。映画の中での一応の敵は内閣情報調査室だが、彼らがなぜ恐れられているのか、なぜそんなことをしているのかは詳しく説明されない。

 

 フィクションなんだから、彼らの背後で総理らが横暴な指示を出す様子や権力を私物化する様子など、もっと遠慮せずに巨悪を分かりやすく描いて欲しかった。腰が引けている感じがするが、今を生きる日本人ならわざわざ説明しなくても分かるよね、ということなのかもしれない。

 

 悪として描かれる内閣情報室では、薄暗い中でエリート顔の職員たちが皆無言でパソコンを見つめながらキーボードを叩いている。この特撮ものの悪の組織みたいな幼稚な描写にはげんなりしてしまった。

 

 それに権力に魂を売ったエリート集団というイメージは、おそらく実際とは違うような気がする。親の七光りだけでやっている世襲議員はインテリにコンプレックスがあって嫌いだから、おそらく彼らの取り巻きは能力は低いが忠誠心だけはあるような連中ばかりだろう。ガサツで雑なおじさんの寄り合いのイメージだ。使えないマスクを莫大な金を使って全国民に配ることを決めてしまうような人たちなのだから。

 

 

 そんな人間の集まりで政権を維持できるわけないだろうと思うかもしれないが、それで維持できてしまっているからきっと本人たちも驚いているはずだ。現実にあったニュースを連想させるような事件に対して、政府が世論操作を仕掛けるシーンが何度か出てくるが、そのどれもに政府の思惑通りに世間が踊ってしまっている。チョロすぎだと笑ってしまった。現実でもたくさんの人が踊っていたことを思い出すが、こんなに小馬鹿にされてたなんて、自分だったら恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまう。

 

 主人公の女性記者を演じるシム・ウンギョンは、時々セリフにカタコト感が出たりするのだが、それが異物感を生んで不思議な魅力を醸し出していた。今の日本では、日本社会で育ったのではない彼女のような異質な存在でないと、まともなジャーナリズムは行えないと暗示しているかのようだ。そういう意味でも、多様性は今後重要になってきそうだ。

 

 一度は正義のために立ち上がろうとした官僚が、権力に飲み込まれてしまうかどうかのところで映画は終わる。ありきたりだし、そんなので躊躇するくらいならそもそも告発などしようとしないだろうと思ってしまい、サスペンスとしてはイマイチだった。

 

 だが、こういう映画はもっと作られていい。正義を語る物語があるからこそ、正義は維持される。主人公をやりたがる女優が国内におらず、韓国から連れてくるしかなかったり、松坂桃李が出演しただけで賞賛されている時点でだいぶ終わっているなとは思うが、それでもまだ完全に終わったわけではない。

 

 しかし世間の人々が、政府がメディアに圧力をかけるのも、公文書を改ざんするのも、カルト宗教団体と癒着するのも、お友達を優遇するのも別に構わない、批判をするな、批判するなら野党だけにしろ、となっている世の中では、新聞記者もメディアも頑張る気がしないだろうなと同情する部分はある。

 

 現に東京五輪だって、ほとんどの人が思っていた通り汚職まみれだったが、報じられたところで別に政権に危機は訪れていない。政権批判したって逆に世の中に叩かれてしまうだけだ。そりゃ選挙前に首相に声かけられたら尻尾ぶんぶん振って喜んで会食に行っちゃうし、その翌日から分かりやすく政権を持ち上げ野党を叩く記事を張り切って量産しちゃうよなと思ってしまった。結局問われているのは世間の人々だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 藤井道人

 

原案 新聞記者 (角川新書)/河村光庸

 

出演 松坂桃李/シム・ウンギョン/本田翼/岡山天音/郭智博/長田成哉/宮野陽名/高橋努/西田尚美/高橋和也/北村有起哉/田中哲司

 

音楽 岩代太郎

 

新聞記者

新聞記者

  • シム・ウンギョン
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新聞記者 (映画) - Wikipedia

 

 

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「黄昏」 1981

黄昏 (ユニバーサル・セレクション2008年第3弾) 【初回生産限定】 [DVD]

★★★★☆

 

あらすじ

 別荘地でひと夏を過ごす老夫婦。夫の80歳の誕生日に娘が恋人とのその息子を連れてやってくる。

 

感想

 人生の黄昏時を迎えた老夫婦が主人公だ。夫は自身の衰えた容貌を鏡で見てため息をついたりしている。もはや下り坂しかない人生に寂しさを感じているのだろう。

 

 だからきっと湖畔の別荘でこの老夫婦は、お茶を飲んだり読書をしたりと静かにゆっくりと過ごすのだろうと思っていたのだが、実際は二人でカヌーを漕いだり、ボートで出かけたりと落ち着くことなく動き回る。予想に反してめちゃくちゃアクティブだ。

 

 

 二人に枯れた老人らしさがなくて、普通に人生を謳歌しているようにしか見えなかったが、この辺りはライフスタイルの違いなのだろう。そんな暮らしの中でも、ふと物悲しさに襲われる瞬間がある。

 

 夫役のヘンリー・フォンダが、偏屈で怒りっぽい老人を見事に演じている。特にリミッターが壊れているのように声の大きさが調節できず、突然声が大きくなったりするところなどはいかにもだった。そんな夫を明るく温かく見守る妻役のキャサリン・ヘップバーンも良かった。

 

 序盤は、夫の痛烈な皮肉や辛らつな言葉をどう受け取っていいのか戸惑う。これにはきっと老いから来る苛立ちのようなものが含まれているのだろうから、笑っていいものかと迷ってしまったが、あまり気にせずシンプルにコメディと見ればよいのだろう。夫自身もそれに薄々気づいた上でそんなキャラクターを演じている。そう考えると少し気が楽になった。

 

 やがて二人は娘の恋人の息子を預かることになる。この孫のような少年と共に生活することで彼らの中に新しい風が吹き、禍根があった娘との関係も改善に向かった。予想できる流れではあったが、確かに心温まる物語だった。

 

 ラストのスカす展開も良い。思わず泣きそうになってしまったが、そのままだったらあざとすぎた。これだとそれを回避しつつ、いつかは二人にも終わりがやって来てしまうことを実感させられる。上手い演出だ。

 

 文句ばっかり言いながらもちゃんと妻には愛を伝える夫と、そんな性格の夫を汲んで励ます妻。長年連れ添った夫婦ならではの二人の関係性に心が動かされる。夫の危機にためらうことなく湖に飛び込んだ妻がカッコ良かった。

 

 こんな人生の黄昏時を迎えるのなら悪くないかもなと思わせてくれる。そのためには別荘を購入したり、色々とやらなければいけないことがたくさんあるが。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 マーク・ライデル

 

原作 On Golden Pond: A Play


出演 キャサリン・ヘプバーン/ヘンリー・フォンダ/ジェーン・フォンダ/ダブニー・コールマン

 

音楽 デイヴ・グルーシン

 

黄昏 (ユニバーサル・セレクション2008年第3弾) 【初回生産限定】 [DVD]

黄昏 (ユニバーサル・セレクション2008年第3弾) 【初回生産限定】 [DVD]

  • ヘンリー・フォンダ.キャサリン・ヘプバーン.ジェーン・フォンダ.ダグ・マッケオン.ダブニー・コールマン.ウィリアム・ラントゥ.クリス・ライデル
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黄昏 (1981年の映画) - Wikipedia

 

 

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「あいつと私」 1961

あいつと私

★★★★☆

 

あらすじ

 裕福で健全な家庭環境で育った女子大生は、同じく裕福だが複雑な家庭環境に育った同級生の男に惹かれる。

 

感想

 この時代に自家用車で大学に通うような裕福な若者たちの日常が描かれる。だが冒頭の講義のシーンで、学生たちが活発にしっかりとした議論を展開しているのに感心してしまった。とても健全だ。彼らの意見にあれ?と思う部分もないわけではないが、ちゃんと男女が言いたいことを主張し合えている。

 

 そして普通にデモに参加し、安保反対・戦争反対などと訴えてもいる。全然チャラチャラしていない。この映画は当時の若者の最先端の文化を描いて、若者たちが憧れや羨望と共に見るタイプのものだろう。それがこれで、若者たちが彼らのようになりたいと思うのだとしたら、なんてまともな国だったのだと遠い目をしてしまった。今より進んでいるかもしれない。

 

 

 このままの路線で若者文化が進化していれば、今の日本はずいぶんと違ったものになっていたはずだ。今は若者向けの映画で政治の話なんて出てこないし、日本の未来について議論する事もない。この映画ではさらに工事現場の作業員たちを登場させて、デモに参加しているような学生たちは特権的な立場にいる事を示唆している。現実をしっかりとらえており、地に足が付いている感じがする。

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 とはいえ、やっぱり昭和だなと思わせるシーンもある。主人公らが結婚式から帰る車の中で、小沢昭一演じる同級生が友人の新婦に対してゾッとするようなことを言ったり、「童貞」「処女」を掲げた親睦会を教授を招いて行ったりしている。今とはそのワードに対する感覚が違うのだろうが、呆気に取られてしまった。

 

 それから結婚の決まった友人を主人公ら女友達が胴上げするシーンで、最後は受け止めずにそのまま地面に落下させたのは衝撃だった。危険でヒヤッとしたし、ふざけたわけでもなく急に興味を失ったかのように止めてしまったのが怖かった。その他にも、主人公がいきなり相手をビンタするシーンもあり、相変わらず昭和は激しい。

 

 これらは狙っているのかいないのかよく分からないが、良いスパイスとなっていて、純粋に物語を楽しむことができた。普通に興味津々に当時の学生の文化・風俗を眺めている感じだ。

 

 石原裕次郎演じる複雑な家庭で育った男が、自身の問題に暗くならず、明るく対処しようとする姿にも好感が持てた。主人公との恋愛も時に劇画チック、時に朗らかで面白い。そんな彼らを次第に俯瞰でとらえたラストのカメラワークが印象的だった。こんな暮らしをしている人たちが、この社会のどこかにいるはずだと予感させる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 中平康

 

脚本 池田一朗(隆慶一郎)

 

原作 あいつと私(新潮文庫)

 

出演 石原裕次郎/芦川いづみ/小沢昭一/吉永小百合/宮口精二/轟夕起子/酒井和歌子/中原早苗/吉行和子/滝沢修/浜村純

 

音楽 黛敏郎

 

あいつと私

あいつと私

  • 石原裕次郎
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「マトリックス レザレクションズ」 2021

マトリックス レザレクションズ(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 これまでの活躍を忘れ、マトリックスの世界で著名なゲームデザイナーとして生活していた主人公は、よく行くカフェで出会う女性になぜか心惹かれてしまう。

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 マトリックス三部作の続編で、シリーズ第4作目。148分。

 

感想

 個人的に「マトリックス」シリーズは、一本目は最高だがあとは付け足しのようなものだと思っている。作品ごとにボルテージが上がっていった「スター・ウォーズ」の最初の三部作とは違う。だから続編が作られたのは意外だった。これも昨今のリバイバルやリブート、続編ブームの一環なのだろう。

 

 ちょっと冷めた気持ちで見始めたのだが、こちらのそんな気持ちを見透かすように、映画内で「マトリックス4」を嫌々作るメタ展開があったり、過去の三部作の映像をふんだんに引用していたりして、意外とノリが軽い。重厚さはないが、気負いなく自由に作っている感じが伝わって来て、序盤は悪くなかった。

 

 

 これまでの三部作の内容は制作したゲームの話で、自分はゲームの世界と現実を混同してしまっていると主人公が思い込んでいる設定は面白かった。

 

 だが、いよいよ主人公が現実世界に戻って話が本題に入っていくと、映画のテンションはだいぶトーンダウンしてしまう。二作目以降の難解になり過ぎた世界観が引き継がれているのでストーリーをしっかりと追えなくなり、アクションシーンも新鮮味の感じられないいつものやつだ。というか主人公は、なにかといえば両手を前に差し出して敵の銃弾を防ぐばかりで、ずっと一本調子だった。ただ音楽だけは、過去の映画の記憶がよみがえる感じがあって良かった。

 

 久々の続編で描かれるのは、主人公とヒロインの愛だ。壮大な世界観でそれ?と思ってしまうが、愛がなければ世界を救おうなんて思わないはずだから、すべての始まりは愛だろうと言われたら頷くしかない。物語の原点を描いたと言える。

 

 シリーズの世界観を完全に理解しているとは言えないので、改めて第一作目から見直してみようかなと思わせてくれる映画ではあった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 ラナ・ウォシャウスキー

 

脚本 アレクサンダル・ヘモン/デイヴィッド・ミッチェル

 

製作    グラント・ヒル/ジェームズ・マクティーグ

 

出演 キアヌ・リーブス/キャリー=アン・モス/ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世/ジェシカ・ヘンウィック/ジョナサン・グロフ/ニール・パトリック・ハリス/プリヤンカー・チョープラー・ジョナス/マックス・リーメルト/ジェイダ・ピンケット・スミス/ランベール・ウィルソン/クリスティーナ・リッチ/チャド・スタエルスキ/エレン・ホルマン

 

音楽 ジョニー・クリメック/トム・ティクヴァ

 

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関連する作品

前作

 

 

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「ファーストラヴ」 2021

ファーストラヴ

★★☆☆☆

 

あらすじ

 著名な父親を殺害をするも不遜な供述を繰り返し、世間を騒がせていた女子大生を取材することにした臨床心理士の女。

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感想

 挑発するような供述をして世間を騒がせていた被疑者の女子大生を、臨床心理士である主人公が取材し、彼女の心の闇に迫る物語だ。性的虐待を題材にしており、なかなかヘヴィーな内容となっている。

 

 序盤は取り付く島のない被疑者に苦戦するが、その糸口をつかんだ主人公は、徐々に彼女の心の闇に迫っていく。そして次々と彼女のつらい過去が明らかになっていく中盤は、哀しみであふれる涙が止まらない、観客ではなく映画が。なぜか映画自体が泣き濡れている。

 

 

 本来は、監督が冷静にどのように観客の心を動かすかを計算して演出し、観客の涙を誘わなければいけないのに、監督が先に泣いてしまっている。泣かされるつもりで来たのに、なんでお前が泣いているんだよ、と冷めてしまう。

 

 おそらく意図としては誘い笑いと同じで、誘い泣きの演出のつもりなのだろう。ここは泣くところですよと仰々しい音楽で教えてあげている。人によっては分かりやすくてありがたいと思うのかもしれないが、自分には余計なお世話でしかなく、「うるさいわ!」としか思えなかった。

 

 しかも、終盤に向けてどんどんとその演出は酷くなっていく。はい、ここです!みたいな感じでピアノが突然ポロンと鳴ったりして、もはや爆笑するレベルだった。おそらくこの映画はより本来の意図通りになるよう改良するよりも、コメディとして編集し直すほうが簡単かもしれない。

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 それからせっかく被告役の芳根京子が裁判シーンでいい演技を見せているのに、大げさな音楽をかぶせられていたのは気の毒だった。監督が役者を信じていないのだろう。もしくは観客を信用していないのか。

 

 あと、映画ではUruの楽曲が使用されている。エンドロールで流れる主題歌は問題なかったが、劇中で使われる挿入歌は彼女の歌力が強すぎて、映像が完全に負けてしまっていた。歌が全部持っていくので、このシーンは全然物語の内容が頭に入って来なかった。

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 事件の真相が明らかになっていくと共に、主人公自身が抱えた心の闇の問題も描かれるのが、この映画のポイントだ。だが事件の真相は、被疑者の母親にまずしっかり話を聞いていればだいたいのことはすぐに分かったはずなので、わざわざ遠回りしただけのような気がした。

 

 一方の主人公の心の問題も、夫に打ち明けたらひと悶着あるわけでもなく、拍子抜けするほどあっさりと解決してしまった。なんだか中途半端な二つの物語をひっつけただけの、中途半端な物語になってしまっている印象だ。

 

 ラストも、笑顔を見せない子供からどんな風に笑顔を引き出したのかと思ったら、特段良い話でもない、ありふれた方法だったのには脱力した。それでよく映画を締めようとしたなと呆れてしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督 堤幸彦

 

脚本 浅野妙子

 

原作 ファーストラヴ (文春文庫)

 

出演 北川景子/中村倫也/芳根京子/板尾創路/石田法嗣/清原翔/高岡早紀/木村佳乃/窪塚洋介

 

音楽 Antongiulio Frulio

 

ファーストラヴ (小説) - Wikipedia

 

 

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「夫たち、妻たち」 1992

夫たち、妻たち

★★★★☆

 

あらすじ

 友人夫婦が突然離婚を発表し、動揺する夫婦。

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感想

 友人夫婦が突然離婚したことに端を発し、ギクシャクしていく夫婦の姿が描かれる。安定した暮らしに満足していたのに、なにか一つの変化が起きただけで突如不安に襲われることはある。当然だと思い込んでいたものが当然ではなかったことに気付き、当たり前だと思っていたものすべてを疑心暗鬼の目で見るようになってしまうからだろう。

 

 主人公の妻が友人夫婦の離婚にオーバー過ぎるリアクションを見せたのもそれが原因と言える。起きるべきでないことが起きてしまったと感じている。彼女が残念に思う気持ちは理解できるが、だからと言って友人夫婦を非難までするのは完全に大きなお世話だろう。

 

 

 だがこんな余計なお世話をする人は世の中にたくさんいる。芸能人の不倫にエキサイトしてしまう人たちもその一例だ。だが彼らも主人公の奥さんのように、その芸能人の不倫によって自分の心や生活の何かが脅かされると感じているのかもしれない。そう思うと同情できなくもない。

 

 主人公夫婦は、自分たちの関係を疑うようになる。だが、新たな恋を楽しむ離婚した友人たちの姿に触発された部分もあるはずだ。自分たちもまだ彼らのように自由に恋愛を楽しむことができると気づいてしまった。あんなに友人の離婚にショックを受けていたのに、逆説的な展開で面白い。

 

 登場人物たちが皆恋愛感情を重要視して大切にしているのがとても印象的だ。いい年になっても、結婚していても、愛だの恋だの言っていられるのは、人生を謳歌している充実感があっていいのかもしれない。人生を楽しんでいる感じがする。もちろんそれだけがすべてではないのだが。

 

 登場人物らが皮肉や泣き言を交えて喋りまくるいつものウディ・アレン映画だ。わざと手振れで揺れる映像にしたり、インタビューシーンがあったりして、ドキュメンタリータッチにしているのが特色だろうか。繰り返されるうだつの上がらないやり取りになんとも言えないユーモアが感じられて笑えてくるのだが、ハマらない人にはハマらないかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/出演

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出演 ミア・ファロー/ジュディ・デイヴィス

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ジュリエット・ルイス/リーアム・ニーソン/リセット・アンソニー/ブライス・ダナー/ロン・リフキン/ノーラ・エフロン/フレッド・メラメッド*

*クレジットなし

 

夫たち、妻たち

夫たち、妻たち

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夫たち、妻たち - Wikipedia

 

 

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「スパイの妻〈劇場版〉」 2020

スパイの妻<劇場版>

★★★★☆

 

あらすじ

 太平洋戦争が間近に迫った神戸。貿易商の妻として裕福な暮らしを送っていた女は、満州出張から戻ってきた夫の行動に不信を抱くようになる。

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 キネマ旬報ベスト・ワン作品。

 

感想

 戦争が迫り、息苦しい雰囲気になっていく世の中で、洋風の裕福な生活を送る貿易商の妻が主人公だ。ただでさえ当局に目を付けられやすい状況にもかかわらず、不審な行動を取る夫に不安を覚えている。最初は二人がたびたび口論する様子が描かれて、その関係に亀裂が生じてしまうのではと危惧させる。

 

 そしてついに夫が不審な行動の理由を打ち明け、それを聞いた妻がその後に当局を訪れたときは、最悪の展開になるのかと震えたが、実際には予想とは真逆の意図があったことが分かって驚かされた。その前の金庫から書類を持ち出すシーンで、倒してしまったチェス盤の駒を直す主人公の顔に強烈な光が差していたのが印象的だったが、それはこれを暗示していたのだろう。

 

 

 このシーンに限らず、この映画では光と影の使い方がとても印象的だ。そしてその光と影の間を行ったり来たりしながら話をする登場人物たちの動きも興味深い。相手の背後に立ったり正面に回ったり、近づいたり離れたりするその動きから、何らかの意味を読み取れそうだ。

 

 それにしても怪しい夫の動きに注意を取られていたら、それを見ていた主人公の方が大きく変わってしまう演出は意表をついて見事だった。

 

 しかし、最大の目的のためならそれ以外は切り捨てる主人公の態度には凄みがあった。ぎりぎりの状況の中では、全部を守ろうとすれば全部ダメになってしまう公算が大きい。冷酷かもしれないが、賢明な判断なのだろう。そもそもこの状況で日和らずに、危険な道を選択した時点で、既に相当な覚悟をしていたはずだ。

 

 やがて夫婦は一つの目的のために手を取り合う。そして徐々に緊張感が高まっていく中で迎えるクライマックス。まさかの展開がまた待ち受けていた。しかもその見事な流れには、思わず感嘆させられた。まるでスピルバーグの映画のようだ。しかしこの展開は色々な解釈ができそうだ。それを考えるのもまた楽しい。

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 劇中で主人公の夫が軍人を見つめる態度には、戦争に対する批判的なまなざしが強く感じられた。特高警察による拷問や戦争犯罪の描写もある。映画からなんとなく今の社会の空気に対する危惧のようなものが感じられた。ただ冷静に考えれば、拷問や戦争犯罪は実際にあったことなので、それを事実のままに描いたら反戦表現だと思うのはおかしいのだが。

 

 主演の蒼井優と夫役の高橋一生が良い演技を見せていた。中でも映写機で映像を確認するシーンで、蒼井優が顔の表情だけでフィルムの内容を物語っていたのは見事だった。

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 まるで実話を基にした物語かのように、その後の主人公らの様子をテロップで伝えるラストは味わい深く、クライマックスからそこに至るまでのシークエンスもまた見ごたえがあった。

 

 上質のサスペンスを堪能できる作品だ。満足感に浸れた。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 黒沢清

 

脚本 濱口竜介/野原位

 

出演

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高橋一生/東出昌大/恒松祐里/みのすけ/玄理/笹野高史/川瀬陽太

 

音楽 長岡亮介

 

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「チャーリーズ・エンジェル」 2019

チャーリーズ・エンジェル (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 殺人兵器に転用できてしまうバグを見つけたデバイス開発者は、上司に報告するも無視されたため、チャーリーズ・エンジェルが所属するタウンゼント探偵社とコンタクトを取って告発しようとする。

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 テレビドラマ版やその後の映画版の世界を引き継ぐシリーズ続編。

 

感想

 建前上はシリーズ続編だが、特に前作からのつながりはないので、それを気にせず見ることができる。過去に様々な事件を解決してきた歴史ある組織の現在の話だと思えばいい。

 

 画期的な殺人兵器が世に出ることを阻止するために、チャーリーズ・エンジェルたちと開発者が一緒になってその行方を追う。前作と違って、二人のエンジェルと一人の一般人女性が混じった三人組が活躍する。一般人の目を通すことで映画の設定や世界観を説明することができるし、素人のドタバタぶりをクールなプロの仕事と対比させることでコミカルさを出すことも出来る。上手いアイデアだ。

 

 

 ブラジルやヨーロッパ、トルコなど、世界を派手に飛び回り、それなりのアクションや笑いもあり、本当の悪玉は誰だ?とハラハラするサスペンスもある。エンタメ作品として悪くない出来だ。まずまずの満足感が得られる。ただ、全体的に地味な印象になってしまっているのは否めない。

 

 おそらくそれは、主要キャストの知名度がそんなにないというのもあるのだろうが、そもそもタイトルからしてアレなので、今の時代に合うように「女は男の愛玩物じゃない」というメッセージを発することに力を入れすぎってしまっているからのような気がした。

 

 男に媚びない姿勢や女性の自立、女同士の連帯を描くことが中心となってしまい、世界を脅かすヤバい兵器が世に出てしまう危機感はほとんど描かれない。おかげで手に汗握るような緊迫感もないし、世界を救うスケールの大きさも感じられなかった。

 

 それに肝心の女同士の連帯などがしっかり描かれていたかと言うとそれも疑問で、険悪だったエンジェルの二人が最終的にそこまで仲良くなったとも思えない。続編があったとして、もし演じる女優が変わっていたり、キャラ自体が変更されたりしていたとしても、おそらくそんなにがっかりしないだろう。その程度の関係にしか見えなかった。

 

 もちろんこういう映画があってもいいのだが、あまりにもそこらへんを厳格に意識しすぎてしまっていたかもしれない。考えてみれば、ジェームス・ボンドだって女にモテることを意識している。エンタメ作品なのだから、もうちょっと華やかさが欲しかった。

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スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作/出演 エリザベス・バンクス

 

原作 ソフトシェル 地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル コンプリート 1stシーズン (5枚組) [DVD]

 

製作総指揮 ドリュー・バリモア/レナード・ゴールドバーグ/マシュー・ハーシュ/ナンシー・ジュヴォネン

 

出演 クリステン・スチュワート/ナオミ・スコット/エラ・バリンスカ/ジャイモン・フンスー/サム・クラフリン/ノア・センティネオ/ジョナサン・タッカー/パトリック・スチュワート/ナット・ファクソン/ノア・センティネオ/ジャクリーン・スミス/ダニカ・パトリック/ロンダ・ラウジー/ラバーン・コックス/ヘイリー・スタインフェルド/リリ・ラインハート/クロエ・キム

 

音楽    ブライアン・タイラー

 

編集 メアリー・ジョー・マーキー

 

チャーリーズ・エンジェル (字幕版)

チャーリーズ・エンジェル (字幕版)

  • クリステン・スチュワート
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チャーリーズ・エンジェル (2019年の映画) - Wikipedia

 

 

関連する作品

前作

 

 

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「ハラがコレなんで」 2011

ハラがコレなんで

★★☆☆☆

 

あらすじ

 流れで米国人男性についてアメリカに行き、妊娠して一人で戻って来た女は、幼い頃に暮らしていた時代に取り残されたような長屋で再び暮らすようになる。

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感想

 幼い頃に住んでいた長屋に戻って来た妊娠中の女が主人公だ。彼女はかつて暮らした昔ながらの粋で人情味がある下町の生活から多大な影響を受けている。他人の家にチャイムも鳴らさずズカズカと入っていったり、いきなりタッパーに入った漬物をあげようとしたりする姿は面白かった。また、自分のなけなしのお金を困っている他人に全部あげてしまうシーンは、確かに粋でカッコ良かった。

 

 序盤は、なんか変な人だなと彼女の行動を面白がれていた。だが、見ているうちに次第に苛立たしさを覚えはじめた。最初の新鮮味が薄れてくると、彼女の一本調子ぶりが目立ってくるからだ。別におかしな人でもいいのだが、彼女なりの喜怒哀楽が見えない。常にこう来たらこう返すというプログラムのもとに動いているようで、彼女に人間味が感じられず、まるでロボットを見ているような気持ちになってくる。段々と感情移入できなくなって気分が冷めてしまった。

 

 

 主人公を演じる仲里依紗も案外とコメディは向いていないのか、観客に笑える隙を与えない演技になってしまっている。とはいえ彼女の責任というよりも、やはりもともとのキャラクター造形を間違えている方が大きいだろう。

 

 それからコミカルなシーンが冗長なのも良くなかった。余韻を残して味わいを引き出そうとしていたのかもしれないが、楽しかった気持がスーと引いて真顔になってしまう変な間が出来ただけだった。

 

 最後はタイトルからして予想通りの、ドタバタの中で赤ちゃんが生まれる展開となる。だが赤ちゃんが生まれるまでは描かず、その手前で終わらせたのは好感が持てた。個人的に赤ちゃんが生まれて終わる映画は、なんかズルい感じがして嫌いだ。

 

 主人公を見ていると、「男はつらいよ」の主人公・寅さんが代表的だが、粋で人情味のある人間は、他人を幸せにはするが、意外と本人は幸せになれない方が多いのかもしれないなと思ったりした。己のスタイルを守るためなら自分の幸せまでもを犠牲にしてしまうからだろう。映画の中の他の登場人物たちも皆そんな感じだった。

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 人生には「粋」に限らず、誠実だったり、ワイルドだったり、ファッショナブルだったりと、様々なテーマのスタイルがある。それにこだわって生きるのは悪いことではないが、自分の幸せよりもそれを優先するような生き方は止めたほうがよさそうだ。何でもやり過ぎは良くない。それを分かった上で、それでもそのスタイルを貫こうとする自由ももちろんあるが。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 石井裕也

 

出演 仲里依紗/大野百花/中村蒼/石橋凌/稲川実代子/竹内都子/近藤芳正/螢雪次朗/斉藤慶子/戸次重幸/森岡龍

 

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「ファンタスティック・プラネット」 1973

ファンタスティック・プラネット (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 巨人ドラーグ族に母親を殺され、ペットにされてしまった人類オム族の赤ん坊。アニメ映画。

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感想

 心を病んでしまった人が描くような、荒涼・寂莫としたタッチのアニメーション映画だ。シュールで不条理な世界観は見ているだけで不穏な気持ちになってくるが、それが段々とクセになってくる。登場する奇妙な生き物たちもなんだか愛くるしく見えてきた。

 

 赤ん坊の時に母親を殺され、一人取り残されていたところを拾われて、巨人族のペットになった男が主人公だ。舞台となる星では、人間が巨人族に虫けらのように扱われている。彼の母親が巨人の子供たちに嬲り殺された冒頭のシーンなどは象徴的で、まさに地球で人間の子供たちが蟻を無造作に殺しているのと同じだった。そう思ったら急激に、普段毛嫌いしている虫けらたちの気持ちが理解できたような気がして、猛烈に申し訳ないような気持ちになってしまった。

 

 

 ペットとして飼われるた主人公は、飼い主の巨人族の娘が勉強する際にいつもそばにいたことで、様々な知識を身に付けていく。そして脱走するのだが、その時に学習道具も一緒に持って行くのが偉い。学ぶことがいかに重要かを分かっている。

 

 やがて野生で暮らす人間集団と合流した主人公は、身に付けた知識を皆と共有しようとするが、なかなか受け入れられない。学問の重要性を理解できるのは学問した者だけで、無知な人間には理解できないというのはもどかしいジレンマだ。何もしなければ格差は広がるし、それを利用して無知な者を騙して搾取することも出来てしまう。

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 最終的には急激に知識を身に付けて進化する人類に危機感を抱いた巨人族が駆除に動き、人類はそれに抵抗し対決する展開となる。人類的には熱い流れだが、巨人族から見れば、虫けら扱いしていたものに突如襲撃されるなんて、パニック映画級の衝撃だろうなと思ったりした。

フェイズ IV/戦慄! 昆虫パニック [DVD]

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 昔の映画だし、絵柄が陰気だし、途中で眠くなってしまうかもなと思いつつ見始めたのだが、とても刺激的で最後まで集中して見ることができた。そして、普段とは違う立場で物事を見ることで、色々と考えさせられる映画でもあった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ルネ・ラルー

 

原作 Oms en serie

 

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この作品が登場する作品

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「レンタネコ」 2012

レンタネコ

★★★☆☆

 

あらすじ

 寂しい人に猫を貸し出すレンタネコ屋を営む女。

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感想

 猫に好かれやすい猫好きな女が主人公だ。いくつか掛け持ちしている職業の一つとしてレンタネコ屋がある。序盤は、猫を借りたい人が現れ、主人公が審査を兼ねてその人のお宅を訪問し、契約後にそこで起きたちょっとしたエピソードが描かれる。一話完結のテレビドラマみたいなスタイルで、それが短く二つ続く。だがこの二つのエピソードがいまいちパッとせず、面白みに欠けた。

 

 続いて、レンタカー屋で料金表に載っていた車のランクを見たことがきっかけで、なんでもランク付けをする世の中に対して物申す、みたいな展開となる。みんな平等じゃないか、勝手にランクを決めるな、と言いたいことは十分に分かる。でもそんなに新鮮味を感じるような斬新な意見ではなく、よく聞くような話だ。わざわざ長々と熱弁するようなものではない。クドくてうんざりした。

 

 そして店員に猫を貸し出すのだが、いつもやっている審査のためのお宅訪問をなぜかやらなかった。それがめちゃくちゃ気になってしまって、しばらくは話が頭に入って来なかった。

 

 中盤まではわりと辛い展開だったが、田中圭演じる主人公の同級生が現れてからは面白くなった。それまでのほっこり優しい世界とは異なる少し毒っ気のある話が展開される。あまりに善なる世界だと嘘っぽくて退屈になってしまうから、良いバランスの取り方だ。

 

 

 主演の市川実日子の個性的なキャラクターは魅力的だし、彼女の古き良き日本を感じさせる日本家屋での暮らしぶりも和んだ。たくさん登場する猫たちはメインで大活躍するわけではなく、ただそこいらでだらだらしているだけなのだが、でもそれが良い。猫好きが猫のようにだらだら見るには良い映画なのかもしれない

 

 だが、主人公が猫好きなどの設定はそのままで、だけどレンタネコ屋はやらないで、後半部分を膨らませた話をメインにしたらもっと面白くなったような気がした。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

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出演 市川実日子/草村礼子/光石研/田中圭/小林克也/眞島秀和

 

レンタネコ

レンタネコ

  • 市川実日子
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「オー!」 1968

オー! (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 銀行強盗グループのドライバー役を務めるも仲間から軽んじられていた元レーサーの男は、皆を見返そうと機会を窺う。フランス映画。

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感想

 事故でライセンスをはく奪され、今は銀行強盗グループで皆に軽んじられながらもドライバー役を務める元レーサーの男が主人公だ。自分の立場を不満に感じ、いつか皆を見返してやろうと思っている。そしていざそのチャンスがやって来て、反撃開始か?と期待したら凡ミスで思わぬ展開になるのが面白い。

 

 ただ映画全体としてみると、主人公が最終的にはどうなりたいのかがよく分からない。そして各シークエンスを見ても、しっかりとした前振りがないので、そこで主人公が何をしようとしているのかがはっきりとは分からない。見ているうちになんとなく主人公の意図が見えてくる演出だ。おかげでメリハリのない、だらだらとした印象の映画となってしまっている。

 

 

 だがそれでも飽きることなく、なんだかんだで見れてしまうのが不思議だ。予想外の展開が起きる先の読めないストーリーと、主演のジャン=ポール・ベルモンドの魅力のおかげだろうか。彼のファッションも含めた洒落た雰囲気や、各所に散りばめられたさりげないユーモアも一役買っているのだろう。

 

 ラストも、想像していなかったハードモードな結末が待ち受けていた。皆が死んでしまって主人公だけが生き残る。たまたま一つの事がうまくいって世間に持ち上げられ、有頂天になってヒーロー気取りだった主人公が、最後に現実を思い知らされる。

 

 だが、現実はそんな甘いものではないと、この時点でようやく気付くなんて、ずいぶんと幼稚な気がしないでもない。とはいえ、自分は特別なんだと思いたい気持ちはよく分かる。それだけに、結局は他の悪党たちと同じことをやってしまっている主人公の姿に悲しみを覚えてしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ロベール・アンリコ

 

出演

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ジョアンナ・シムカス/シドニー・チャップリン

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*ノンクレジット

 

オー! (字幕版)

オー! (字幕版)

  • ジャン=ポール・ベルモンド
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オー! - Wikipedia

 

 

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