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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話」 2017

深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話【電子書籍版】 (eロマンス新書)

★★★★☆

 

内容

 ツイッターで多数のフォロワー数を誇る主婦によるコラム。

 

感想

 男女の問題や人間関係、世の中のこと、自身の身に起きたことなど、多種多様なテーマが独特の視線で語られる。ツイッターでつぶやいているように下ネタばかりなのかと思ったらそうでもなかった。

 

 ただ下ネタの時が一番輝いているというか、面白い。しかし下ネタをしても全然やらしくならないのが不思議だ。照れや恥じらいを一切見せないからだろうか。少しでもそういうものを見せてしまうと一気にやらしさが出てしまうから、ド直球なのがいいのかもしれない。芯を外すとやらしさが出るが、真芯を食うと意外とやらしくない、みたいな。ただ本人が照れや恥じらいを感じない言葉をチョイスしているというのもあると思う。

 

 

 それから、文章にいい女感を出さないようにしているというのもあるだろう。やはり美女が下ネタを喋っていると思うと、こちらが勝手にやらしい方向に持っていってしまうところがある。なので至る所で普通のおばさんですよと強調している。過去の経験を読んでいるとそんなことはないのだろうが。

 

 と読みながら下ネタについて色々と考えてしまった。下ネタも辞さないサバサバしたキャラに憧れて真似したところで、おそらく悲惨な結果が待っているだけだろう。下ネタにも技術がいるという事だ。

 

 物理的に逃げることができないのなら、「自分には非はない。あいつがバカ」と相手を切り捨てて、精神的負荷から逃れることが大事だ。 

単行本 p158

 

 それぞれのコラムには随所になるほどなと思わされるところがあって、上記はイジメについて。最近はとにかく逃げろと言われることが増えてきたが、そんなすぐに逃げられない場合もあるので、こういう逃げ方もあるよなと納得した。

 

 しかし、怒鳴られると自分を責めてしまうというのは日本の教育の弊害かもしれない。言われ通りにやる、やらないと怒られるという中で育ってきたので、怒鳴られるという事はちゃんとやれない自分が悪いのだと責めてしまうのだろう。一旦自分の頭で考えることが重要。

 

 堅苦しくなく、読みやすい内容なので、気軽に読むには良い本。そして、そこから得られることも少なからずあるはずだ。

 

著者

深爪

 

深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話【電子書籍版】 (eロマンス新書)

深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話【電子書籍版】 (eロマンス新書)

  • 作者:深爪
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/11/02
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

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さるかにがっせん (いもとようこの日本むかしばなし)

アナと雪の女王 (字幕版)

 

 

関連する作品

シリーズ前作

深爪式 声に出して読めない53の話【電子書籍版】 (eロマンス新書)

深爪式 声に出して読めない53の話【電子書籍版】 (eロマンス新書)

  • 作者:深爪
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/11/02
  • メディア: Kindle版
 

 

 

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「日のあたる白い壁」 2001

日のあたる白い壁 (集英社文庫)

★★★☆☆

 

内容

  著者が世界各地で出会った様々な画家の作品について書いたエッセイ。

 

感想

 ゴーギャン、ゴッホ、マティスなどの画家ごとに特に1枚の絵画をピックして、それについて書かれている。取り上げられる絵画はちゃんとカラー印刷されたものが収録されており、それを見ながら読むことが出来るので安心だ。

 

 絵の見方なんて自由でいいと思うのだが、それでもこうやって他の人の感想をよんだりすると、そういう見方もあるのか、という発見があって面白い。個人的には今まであまり果物などの静物画やなにげない風景画に心を動かしたことがなかったので、この窓がいいとか、美味しそうだ、という感想は新鮮だった。単純に自分は分かりやすいものにしか反応できないレベルだという事もあるのだろうが。

 

 

 取り上げられる絵の中には見てもあまりピンとこないものもあるのだが、きっとプリントされたものだからだろう。有名な絵を見に行くと、今まで本などで見ていた印象と全然違って驚くことがある。やはり実物を見るという事は大事だ。著者のように世界中に散らばっている名画たちをこの目で見て歩きたい。

 

私は、自分がちっぽけだったことを思いだした。ちっぽけな身体に、でもちゃんと、ちっぽけな魂を抱えていたことを。

p97

 

  著者の文章を読んで作品の事を知るのと同時に、著者自身の事も見えてくるというのが不思議な感覚だ。同じ絵を見ても人それぞれ反応は違い、その反応によってその人が見えてくる。絵画の中の小さな子供たちを見て、自分の幼い頃を振り返り、確かにあった魂までも思いだす。あやふやだったものをしっかりと確かなものとして再認識する感じ。小説家っぽい。

 

 久しぶりに美術館に行きたくなる。

 

著者

江國香織

 

日のあたる白い壁 (集英社文庫)

日のあたる白い壁 (集英社文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/06/28
  • メディア: 文庫
 

 

 

登場する作品

気狂いピエロ [DVD]

近代美術のキーワード―アート・スポーク

ちょうちん屋のままッ子 (理論社名作の愛蔵版)

火野葦平兵隊小説文庫〈第1巻〉麦と兵隊 (1978年)

エコール・ド・パリ〈第1〉 (1950年)

ルドン素描と版画 (版画と素描 新装)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

 

 

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「最高の体調」 2018

最高の体調 ~進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法~ (ACTIVE HEALTH 001)

★★★☆☆

 

内容

 最高の体調を手に入れるのに必要な、進化論をベースにした科学的裏付けのあるテクニックやアイデアを紹介。著者はサイエンスライター。

 

感想

 人類の歴史において農耕生活が始まったのは1~2万年前で、その前は600万年も狩猟生活を送っていた。現代人の多くが体調不良に陥っているのは、人間の体がまだ狩猟生活に最適化されたままだからだ、という考え方に基づいて、話が進められる。

 

 食事や運動など気を付けるべきことが次々とあげられていく。サプリを薦めたりと手軽な方法が紹介されていて、一日何十種類の野菜を摂りましょうとか無茶なことを言わないのは好感が持てる。

ビオスリーHi錠 [指定医薬部外品] 270錠

ビオスリーHi錠 [指定医薬部外品] 270錠

  • 発売日: 2003/08/25
  • メディア: ヘルスケア&ケア用品
 

 

・抗菌グッズや殺菌グッズの排除:抗菌スプレーや抗菌ソープのように、良い菌まで殺してしまうような商品は取り除きましょう(キッチンエリアは除く)。なかでも、成分一覧に「トリクロサン」「トリクロカルバン」が入ったものには注意。体の汚れを落とすなら石けんで十分です。

 p102

 

 除菌することは良い事だと思っていたが、腸内環境を整えるためには何でもかんでも除菌するのは考えもののようだ。

 

 そして食事や運動だけでなく、人付き合いの方法からおすすめの観葉植物、はては仕事術まで幅広く紹介されていくのが面白い。体調は精神面の影響が大きいという事だろう。人間関係や将来への漠然とした不安が健康を蝕んでいく。どうすることも出来ない遠い未来や過去をこころが彷徨わないように、ハンドリングしやすい「今」にとどめておく必要がある。

 

 

 この本は当然読んだだけでは何も改善せず、実際にやらなければならないのが億劫なところ。そう思ってしまうこと自体がだいぶ体調が悪い証拠なのかもしれない。ただ、いろいろな方面からテクニックが紹介されているので、自分にとって取り組み易そうなものが一つくらい見つかりそうではある。

 

著者

鈴木祐

 

最高の体調 ~進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法~ (ACTIVE HEALTH 001)

最高の体調 ~進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法~ (ACTIVE HEALTH 001)

  • 作者:鈴木祐
  • 出版社/メーカー: クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
  • 発売日: 2018/07/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

登場する作品

続西方の人

「メランコリーの解剖学」(The Anatomy of Melancholy (Penguin Classics))

アフリカの宗教と哲学 (1970年) (りぶらりあ選書)

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「ウダーナヴァルガ」(ブッダの 真理のことば 感興のことば (岩波文庫)

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The Play of Man

 

 

参考文献リスト

https://yuchrszk.blogspot.com/p/1-p_53.html

 

 

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「When 完璧なタイミングを科学する」 2018

When 完璧なタイミングを科学する

★★★☆☆

 

内容

 ハウトゥー本のような、物事を「どのように」やるか?ではなく、「いつ」やるか?に焦点を絞り、それを科学的な根拠をもとに紹介した本。

 

感想

  確かに世の中にHow To本は溢れているが、When To本はない。朝起きて、昼働き、夜は寝るという一日のスケジュールは何となく決まっているので、やるべき事ややりたい事はそのスケジュールの中で時間を見つけてやればいいという感じになっている。

 

 ただ、どのように勉強したかではなく、午前・午後どちらにおこなったかだけで試験の成績が変わってくると言われたら、気にした方がいいような気がしてくる。世の中にはそういった時間帯により生じる差異がたくさんあることが紹介されていて、なかなか興味深い。医療ミスが起きやすい時間帯があるという話もあり、絶対その時間に手術を受けないようにしようとメモを取ってしまったりもした。

 

 

 同じ人間でも一日の間で能力が大きく変化するというのは、考えてみれば当たり前で、朝起きたばかりはフレッシュな気持ちで事にのぞめるし、昼を過ぎると次第に疲れがたまってきて集中力は落ちてくる。その標準的なリズムを理解して、最良な行動をとるようにすればよいという事だ。

 

 それでも話がややこしいのは、人間は皆同じではなく人それぞれ違うという事だ。皆が朝が強い朝型であれば話は簡単なのだが、世の中には夜型の人間もいて標準の人とは最良の行動パターンが違う。しかし世の中は標準タイプに合わせて設計されているので、夜型人間は苦労を強いられる場面も多い。右利きの人に合わせて設計された社会で苦労する左利きの人のようなものだと、著者は上手く例えている。

 

 しかし、左利きとは違って夜型の人間だということを明確に証明するのは難しく、標準的な人からは朝は眠そうにしている「怠惰な人」などとレッテルを貼られてしまう危険性もあるので、左利きよりもつらい人生を歩む可能性もある。ただ皆が何かしらマイノリティーに属するものを持っていると自覚できたら、優しい社会になるのかもしれないなと思ったりもするが。

 

 一日をどのように過ごすかや、いつスタートして終わらせるか、中間地点ではどうするかという事に関する話は参考にしようと思えることがたくさんあり、ためになった。ただ最後の人々とどのように協調するべきか?という話は、分からなくはないがちょっとテーマとはズレる内容のような気がした。ハウトゥー本ぽくもある。

 

 本の最後に監訳者である勝間和代のあとがきが載っているのだが、これがほぼ完ぺきな本文の要約。こちらを読めば十分のような気もしてしまったのだが、大丈夫なのだろうか。このあとがきを読んでみて興味を持ちもっと詳しく知りたいと思ったら、本文を読んでみるという流れが良いのかもしれない。

 

著者

ダニエル・ピンク

 

監訳 勝間和代

 

When 完璧なタイミングを科学する

When 完璧なタイミングを科学する

 

 

 

登場する作品

から騒ぎ シェイクスピア全集 17 (17) (ちくま文庫 し 10-17)

天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々

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ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)

カンフー・ラビット [DVD]

精霊たちの家 上 (河出文庫)

またの名をグレイス(上) (岩波現代文庫)

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カーズ (字幕版)

トイ・ストーリー (字幕版)

武器よさらば (新潮文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ソロモンの歌 (ハヤカワepi文庫)

ねじまき鳥クロニクル 全3巻 完結セット (新潮文庫)

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マル上司、バツ上司 なぜ上司になると自分が見えなくなるのか

マイ・アントニーア 新装版

サーファー・ガール (2001 Digital Remaster; U.S. Version)

アイ・ゲット・アラウンド (2001 Digital Remaster;U.S. Version)

サーフィン・U.S.A. (2001 Digital Remaster)

Baby, What a Big Surprise (2007 Remaster)(朝もやの二人)

ヒトラーのオリンピックに挑んだ若者たち: ボートに託した夢

Hamilton (Original Broadway Cast Recording) [Explicit]

My Shot [Explicit]

This land is your land: This Land Is Your Land

けだもの組合 [DVD]

 

 

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「爆速! アルゴリズム 毎日の生活がみるみるうちに変わる」 2019

爆速! アルゴリズム: 毎日の生活がみるみるうちに変わる

★★★☆☆

 

内容

 プログラミングだけでなく日常生活でも使われているアルゴリズムについて、分かりやすく紹介する。 

 

感想

 易しい内容で気軽に簡単に読み進められるかと思いきや、全然そんなことはなかった。対数や指数、逆関数、log関数などのワードが普通に出てきて、心が折れそうになった。数学的知識がある人には易しいのかもしれない。

 

 洗濯物の山の中から同じペアの靴下を見つけるにはどうしたらいいのか、というような身近な話題をもとにアルゴリズムが紹介されていく。ただ、問題に対してすぐに解答を提示して解説に入ってしまうのでどうにもしっくりこない。どちらかというと、どういう考え方をすれば、効率的な答えが導き出せるかという発想方法の方が興味があった。考え方も示されずにいきなり答えだけ教えられても、活用しようがない。

 

 

 いくつか紹介されているアルゴリズムの中では、情報の圧縮方法の話が面白かった。文章データの圧縮のために、一文字一文字に固定長の文字コードを割り当てるのではなく、よく使われている文字には短いコード、あまり使われない文字には長いコードを割り当てることで、全体としてのデータ量を著しく減らすというデイヴィッド・A ・ハフマンが考案した方法。普通は固定長のコードを割り当てて思考停止してしまいそうなのに、そのさらに先を考えられるのはすごいなと素直に感心してしまった。

 

 本書は、普段プログラミングとは縁がない人に日常生活でも実はアルゴリズムが使われていることを知らせて親しみを持ってもらおうとしているのか、プログラミングを学習している人に、アルゴリズムは実は日常生活でも活用されているということを伝えようとしているのか、良く分からないどっちつかずの内容となっている。ただ、プログラミングの基礎知識がないと理解できなさそうな内容なので、後者なのか。

 

 そしてこれは文化の違いなので仕方がないが、親近感を感じさせるために散りばめられているジョークがことごとく良く分からないのがかなりのマイナスポイント。ジョークにすらつまずいてしまって、読みやすそう、簡単そうという印象に追い打ちのダメージを与える結果となってしまっている。

 

 しかも巻末でこの本の用語などの解説をしたIT関連の日本人が、ジョークに爆笑してしまう箇所がいくつもあったとか言ってしまっているものだから、プログラミングをする人たちとはきっとわかり合えない深い溝があるのだな、と距離を感じてしまった。これを読んでプログラミングに親しみを覚えるどころか、その逆になってしまう人もいるかもしれない。

 

 

著者

アリ・アルモッサウィ

 

爆速! アルゴリズム: 毎日の生活がみるみるうちに変わる

爆速! アルゴリズム: 毎日の生活がみるみるうちに変わる

 

 

 

登場する作品

量子の海、ディラックの深淵――天才物理学者の華々しき業績と寡黙なる生涯

心の社会

The Art of Insight in Science and Engineering: Mastering Complexity (MIT Press) by Sanjoy Mahajan(2014-11-07)

メメント (字幕版)

エニグマ アラン・チューリング伝 上

A Handbook on Good Manners for Children: De Civilitate Morum Puerilium Libellus (English Edition)

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

 「数学遊戯」 エドュアール・リュカ

「We done win」 ナイジェリアのポップソング

容疑者Xの献身 (文春文庫)

 

 

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「POPULAR 「人気」の法則 人を惹きつける謎の力」 2018

POPULAR 「人気」の法則: 人を惹きつける謎の力 (単行本)

★★★☆☆

 

内容

  心理学者による「人気」に関する考察。

 

感想

  人気のある人はより良い人生を送っているという結果があり、その中で紹介されているいつもと違う事をする実験が面白かった。

 

 普段はしないような恰好、たとえばショッキングピンクのTシャツを着て一日を過ごしてみるという実験。当然、周りはおかしな人だと思っていつもと違う接し方をしてくる。そして、違う接し方をしてくる他人に対して、自分までもがいつもと違ったリアクションをしている事に気づく。つまり、相手の接し方が変われば、自分までもがいつもと違う自分に変わってしまうという事だ。

 

 

 人気者は周囲に好意的な接し方をされることで、ポジティブなリアクションを返してますます人気者になり、嫌われ者は冷たい接し方をされることでネガティブなリアクションを返し、ますます嫌われていく。こういった事が積み重なって、それぞれの人生が決まっていくのだなと実感した。ただ、この実験には嫌われ者が逆転するヒントも隠されていて、相手の反応を変えるような努力をすればいいという事なので救いもないわけではない。

 

 科学的なデータが添えられて「人気」について様々な考察が紹介されているが、正直なところそんなにビックリするような新事実はなくて、そうでしょうね、という想定の範囲内。ただ、どのようにすれば我が子を人気者にすることが出来るかについて、結構な紙幅を割いているので、子育て中の人には役に立つのかもしれない。

 

 これも、もう今さら読者は人気者にはなれないのだから、せめて子供に期待しようみたいな意図を感じて少し嫌な気持ちになってしまうのだが。

 

 とはいえ読んでいて思うのは、科学的なデータは添えられてはいなかったが「人を動かす」は正しいことを言っているのだなという事だ。科学的根拠がないという事はだからダメではなく、まだ分からない、という事にすぎないのだなと。幽霊だとか超能力とかもそういう事なのかもしれない。

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 科学的な裏付けにそんなに興味がないのなら、「人を動かす」を読むだけでいいような気もしてしまった。

 

著者

ミッチ・プリンスタイン

 

POPULAR 「人気」の法則: 人を惹きつける謎の力 (単行本)

POPULAR 「人気」の法則: 人を惹きつける謎の力 (単行本)

 

 

 

登場する作品

孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生

狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか (ウィザードブックシリーズ)

 

 

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「暗夜行路」 1937

暗夜行路〈前篇〉 (岩波文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

  父親との間にあるわだかまりや、自分の出生の秘密に思い悩む青年。

 

感想

 思い悩んでいる青年ではあるが、女遊びをしたり反省したり、友人と酒を飲んだりと、普通に生活して気分がころころと変わる姿がリアルだ。どんなに思い悩んでいる人だって年中暗い顔をしているわけではなく、気分が高揚したり笑ったりすることはある。ましてや悩んでいるせいで他に何もできなくなることなんてない。というよりも、他に何もしなくていいような生活が出来るわけがないといった方が正しいか。人生は続く。

 

 そんな日常の中で、主人公が女と会うたびに相手への印象が変わっていくのが面白かった。初対面では美人だと思ってまた会いに行ったら、今度はよく見たらまぁ普通だなとがっかりしたり。結構こういう事はよくあり、初対面ですべてを決めつけるのではなく、何度も会って相手をいろんな角度から見てみることは大事だ。その時の自分の精神状態だって影響するだろう。

 

 

 相手の印象が会う度に変わるのに、それでも京都で見かけた一人の女性と結婚しようとする主人公。本人関係なく、相手方の親が自分の家柄などを考慮して、良いと判断したら結婚できてしまうこの当時の結婚の風習はすごいなと驚いてしまう。言葉を交わしたこともないような、街で見かけた一目ぼれの女性とも結婚できてしまうというわけで、その身分にいたら楽しそうだ。ただ一生の相手としてはリスクがでかい。出会う度にがっかりする確率の方が高いはずだ。

 

 忌まわしい出生のいきさつに主人公は悩んでいるが、でも世界のどこかの部族では普通のことだったりするだろうし、親の金で仕事名目とは言いながらも尾道や京都で気の向くままの日々を過ごせるなんて全然いいじゃないかという気がしていた。だが、結婚してから主人公の妻が起こした事件は、ああやっぱりハードモードかもと思い直さざるを得なかった。

 

 有名な大山での朝日が昇るシーンは確かに見事で、まるで自分が体験しているかのようで、新しく生まれ変わったような気持ちになった。そして、そこで終わるのかというすごい終わり方。悪くはないのだが、今まで主人公目線で語られていたのに急に妻が語りだしたのには少し首をひねりたくなった。

 

著者

志賀直哉

 

暗夜行路〈前篇〉 (岩波文庫)

暗夜行路〈前篇〉 (岩波文庫)

  • 作者:志賀 直哉
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/05/18
  • メディア: 文庫
 

暗夜行路 - Wikipedia

 

 

登場する作品

紅い花 他四篇 (岩波文庫)「四日間」

京の四季(「四季の唄」)

碧巌録〈上〉 (岩波文庫)

本朝二十不孝 (岩波文庫)

寒山詩 (岩波文庫 赤 11-1)

千字文 (岩波文庫)

宗門葛藤集 訓注・和訳(しゅうもんかっとうしゅう)

「真夏の夜の夢」*舞台を現代にしたドイツ映画

から騒ぎ (白水Uブックス (17))

 「Unfortunate likeness」 モーパッサン

シューベルト:魔王(エールケーニヒ)

タンタヂールの死

八百屋お七

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不如帰 (岩波文庫)

高僧伝〈1〉 (岩波文庫)

臨済録 (岩波文庫)

 

 

この作品が登場する作品

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「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」 1999

文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

★★★★☆

 

内容

 我々がごく普通と思っている人間の性の事柄は、動物界全体から見ると随分と奇妙に感じられる事ばかり。人類の性はなぜそのように奇妙に進化したのか、進化生物学者が考察する。単行本「セックスはなぜ楽しいか」から改題。

 

感想

 自然界の生存のための進化の競争は、異なる種の間だけでなく、同一の種の男女間でも行われているという話が面白かった。どの生物でも男女どちらが自分たちの遺伝子を継ぐ子供を育てるのかという駆け引きがある。

 

 生まれてすぐに一人で生きていける種であれば、子供が生まれたらすぐに男女ともに新たな相手を探しに行けるが、子育てが必要な種ではどちらかが面倒を見ないと労力をかけてせっかく生まれた子供が死んでしまう。そこで男女間で駆け引きが行われ、片親だったり、両親だったりで面倒を見ることに落ち着いていく。意外と子育てに対する男女のコストやリスクがちゃんと考慮されて決まっているのが面白い。

 

 

 カマキリのオスは、交尾をした後にメスに食べられてしまうが、たくさんのメスと出会い交尾できる可能性が低い環境であれば、交尾した相手が確実に出産できるように、自らを栄養として与えて体力をつけさせるのは理にかなっている、という話はなるほどなと頷かせられた。遺伝子を確実に残すためには様々な戦略があるということだ。

 

 同一種のオスとメスが協力し合って生き延びようとしている訳ではなく、その中でも個々が最適な戦略を取るために相手を出し抜こうとしているというのはなかなかにシビアな世界だ。男女がつがいとなって仲良く暮らしているように見える種であっても、男女の利害関係の調整の結果そうなっただけだと思うと、夢がなくて泣けてくる。

 

 当然人間も男女間での駆け引きが同様にある。それを考慮に入れながら、男はなぜ授乳しないのかとか、女は一定年齢になるとなぜ子供を産めなくなるのか、などが考察されていく。雑学的なネタやジョークになりそうな話や、時と場所を間違えて使用すれば問題発言になってしまいそうな話など興味深い話の連続だった。

 

 今後人類が滅びず続いていくとしたら、人間の性はどのように変化するのだろうと色々考えてしまった。

 

著者

ジャレド・ダイアモンド

 

文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

 

 

 

登場する作品

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》 K527[2DVDs]

詐欺師フェーリクス・クルルの告白〈上〉 (光文社古典新訳文庫)

 

 

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「騎士団長殺し」 2017

騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上) (新潮文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 妻に離婚をきりだされた男は、友人の父親である有名画家が住んでいた小田原のアトリエで暮らし始める。

 

感想

  突然妻に離婚をきりだされて家を出て、北海道・東北を車で彷徨ったのちに、小田原に落ち着いた主人公。そこでかつての住人の有名画家が残した謎の絵を発見してから不思議なことが次々と起こる。

 

 「顕れるイデア編」と「遷ろうメタファー編」となっているだけに、簡単には理解できないような内容ではあるが、ただ難解なのではなくポップさがあるところがこの著者の凄さなのかもしれない。個人的には騎士団長の喋り方が好きだった。

 

 

 彼が主人公を「諸君ら」と複数形で呼ぶのは、一人の人間の中には多重人格的に様々な人間がいるからなのかもしれない。その時々で色んな一面が顔を出すし、少女が女に変わるように時間と共に変わることもある。

 

 このように小説の中では確かなものなんて何一つないのでは?と訴えられているような気がする。変わらない人間はいないし、確かな結婚生活なんてないし、生死の境目だって曖昧だ、昨日と同じ日々が続く保証なんてないし、地震や津波が一瞬ですべてを変えてしまう事だってある。

 

 だから様々なことから距離を取ってそれに振り回されないようにするのではなく、それでもそんな世界に踏み込んで、様々な変化を受け入れていくことが、生きているという事なんじゃないか、そんなメッセージが感じられた。そして確かなものなどない世界で、曖昧なものたちをアートで表現するということはかなり有効なのではないか、という事も。

 

 そのほとんどが主人公が住む小田原の家で展開されるために、少し停滞感がある。いつか読み直した時にはまた別の感想を持ちそうな、色々な考えが頭の中をめぐる作品。

 

著者

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騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上) (新潮文庫)

騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上) (新潮文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: ペーパーバック
 

騎士団長殺し - Wikipedia

 

 

登場する作品

Pyramid

シャイニング (字幕版)

歌劇《トゥーランドット》

プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》

モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》

楽劇《ばらの騎士》

バルトーク:青ひげ公の城

シューベルト : 弦楽四重奏曲全集 6 第15番 

春雨物語 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

改訂 雨月物語 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)「二世の縁」

モーツァルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ集

モンクス・ミュージック

アニーローリー(アイルランド民謡)

阿部一族

フール・オン・ザ・ヒル (Remastered 2009)

不思議の国のアリス (角川文庫)

「エルナー二」 ヴェルディ

シューベルト:ロザムンデ

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トレブリンカ叛乱――死の収容所で起こったこと1942-43

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NASHVILLE SKYLINE

Alabama Song

RIVER

For All We Know

ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47 「クロイツェル」

R.シュトラウス: オーボエ協奏曲

The Look Of Love

Key Largo

バットマン (字幕版)

French Kissin' in the USA

殺しの分け前/ポイント・ブランク [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

白い恐怖 [DVD]

Independence Day

Hungry Heart

RUBBER SOUL

PET SOUNDS

Cadillac Ranch

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「絢爛たる影絵 小津安二郎」 1982

絢爛たる影絵 小津安二郎 (岩波現代文庫)

★★★★☆

 

内容

 「東京物語」で助監督を務め、その後直木賞を受賞した作家による監督・小津安二郎の考察が、思い出を交えて語られる。

 

あらすじ

 名作「東京物語」の撮影に参加したのだから、さぞや巨匠・小津をリスペクトして仕事をしていたのかと思っていたら、現場に波風を立てるような血気盛んな様子だった著者にビックリした。

 

 ただ考えてみれば、その他にも木下恵介らがいるそうそうたる監督陣に分け入って監督になろうとしている助監督なのだから、ギラギラしていて当然なのかもしれない。権威にたてつく反骨心があるような人間でなければ、監督にはなれないのだろう。

 

 

 そして、そのバチバチとした競争が日本映画を盛り上げていたのかもしれない。著者と同年代には大島渚や篠田正浩らがいて、今から考えればそうそうたるメンバーたちの競争だったわけだ。すごい先輩たちに恐れ入っているようでは駄目で、彼らを倒す気骨が必要で、それは著者も述懐しているが、若さの特権でもある。

 

理解はしばしば人間をたじろがせてしまう。理解さえなければ出来たはずのことが出来なくなって来る。行動に足枷がかかる。

単行本 p35

 

 そんな若手たちの気概を大きく包み込むような大御所たちの態度にも感心する。うるさい邪魔な存在として彼らを見るのではなく、彼らの気持ちを理解しつつ、伝えるべきことは伝え、未熟ながらも映画人の仲間として扱っている。クリエイター同士のあるべき姿、関係といえるだろう。

 

 小津を倒すべき古い監督と見ていた著者が、時が過ぎるとともに小津作品に屈服させられていくというのが、小津の凄さを物語っている。彼が作っていたのは時代とともに消えていく映画ではなく、どんな時代でも愛される普遍的な映画だという事を時間をかけて著者に思い知らせていく。

 

 そんな著者の「東京物語」のラストの笠智衆と原節子が会話するシーンの解説は、なんであのシーンが妙にドキドキしたのか、その謎を解いてくれた。自分の中でうまく説明できなかったことを言語化されて改めてハッとした。そしてこれも、なんとなくであってもそのニュアンスを伝える小津の凄さでもある。

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 この本を読んでいると、はっきり言葉にしなくてもニュアンスで伝えられてしまう才能が、小津を生涯未婚のままにさせたのかなと思わなくもない。具体的なプロポーズの言葉をはっきりと口にすることが出来なくて、いつも照れてニュアンスだけで、相手もはっきりした言葉がないからどうすることも出来ず、ただずるずると続くだけの関係。そんな姿を想像してしまう。

 

 それから、小津と同時代を生きた映画人たちがたくさん登場するが、なかでも溝口健二監督の話が面白かった。自分が持っている僅かな知識では彼はとんでもないパワハラ男だという事になっているので、小津が悪ふざけする姿にオロオロしていたという話は意外な感じがした。彼は性格が悪いのではなく、権威を信奉しているだけという事なのかもしれない。監督というものは権威のある立場だから、自分だけではなく監督という立場の人には威張り散らしていて欲しいと思っているようだ。

 

 小津作品に限らず、この時代の映画をもっと見たくなるような本だった。

 

著者

高橋治

 

絢爛たる影絵 小津安二郎 (岩波現代文庫)

絢爛たる影絵 小津安二郎 (岩波現代文庫)

  • 作者:高橋 治
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/09/17
  • メディア: 文庫
 

 

 

登場する作品

小津安二郎の芸術〈上〉 (1978年) (朝日選書〈126〉)

小津安二郎・人と仕事

潤一郎訳 源氏物語 (巻1) (中公文庫)

「鶴亀」 里見弴

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青銅の基督 ——一名南蛮鋳物師の死

体験的戦後映像論 (1975年) (朝日選書〈38〉)

断腸亭日乗 01 〔はしがき〕

小津安二郎の美学―映画のなかの日本 (現代教養文庫)

闇の中の安息―篠田正浩評論集 (1979年)

 

 

登場する人物

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この作品が登場する作品

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「羆嵐」 1977

羆嵐 (新潮文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 1915年に北海道で起きた日本史上最大の熊による獣害「三毛別(さんけべつ)羆事件」 を題材にした小説。

三毛別羆事件 - Wikipedia

 

感想

 開拓民たちが三毛別に移り住むことになった経緯についての軽い紹介が終わった途端に始まるヒグマによる大量殺戮。読んでいるだけで背筋が凍り付く。そもそも本の表紙が怖いし。

 

 何よりも小休止を挟むことなくヒグマが次々と人を襲っていくのが怖い。最初に母子が殺され、人々がその死を悼んで通夜を行っているその場にさえ現れて棺をひっくり返して暴れまわる。抗争中の敵対するヤクザですら焼香にやって来るのに、ヒグマは侘び寂びがなくて全く空気を読まない。当たり前だが。これが大自然の怖さでもある。

 

 

 村民たちが何もできずにただ外で見守る中、家の中からヒグマが人間を咀嚼する音だけが聞こえてくるという描写は想像するだにおぞましい。飛び込めば自分もやられるし、火を放てば中にいるかもしれない生存者を巻き添えにすることになる。どうすることもできず、ただ出てくるのを待つしかない状況。中からは獣の荒々しい息遣いや骨を砕く音が聞こえてくる。

 

 冬眠しないヒグマは腹を空かせて狂暴になるという事だが、なぜ冬眠しないかといえば体が大きくなりすぎて冬眠に手ごろな穴倉が見つからないから。ということは、もれなく冬眠できずに凶暴なヒグマは尋常じゃない大きさという事になる。悪夢のような状況。実際にはそれは間違った説という見解もあるようだが。

 

 ヒグマの恐ろしさを実感してヘトヘトになりながら読み進めるが、大量殺戮は序盤で終了。その後はヒグマの影に怯える人々が描かれていく。自分たちだけでは手に負えないと悟り警察に頼る村民たち。そして、近隣住民からの人員を引き連れてやって来た警察が陣頭指揮を執る。

 

 応援に駆け付けた意気揚々な近隣住民たちが、現場で現実を目の当たりにしてすっかり怯え切ってしまう様子がリアル。きっと現場を知らないからこそ無神経なことが言えて、それが現場の人をイラつかせるという構図は世界中で起きているのだろうなと想像する。特にSNSでいっちょかみっちょかみしたがる人が多い現在は尚更だろう。

 

 しかし、銃はまだしも槍やまさかりで彼らは本当にヒグマを倒せると思っていたのだろうか。飛び道具以外は接近戦をするしかないのだが。ほとんど原始時代と変わらない。大人数でいけば何とかなると思っていた浅はかさを感じる。そして、自分たちはヒグマにとっては単なる餌という存在でしかないと気づき震える。

 

 最後は一人の猟師によるあっけない幕切れ。だけど現実はこんなものなのだろう。人間だってやられっぱなしだったらここまで繁栄していない。つま弾きものだった猟師と村民たちの事件後のやり取りに深みというか厳しさを感じた。

 

 キャラクター付けをする登場人物たちを限定したり、実際の事件を整理、再構成したりして、小説として散漫にならないように工夫している著者の巧さが光る。

 

 三毛別はどこにあるのだろうとグーグルマップで検索してみたら、ストリートビューが怖いことになっていた。こんなのが突然現れたら腰が抜けるのも無理はない。

 

著者

吉村昭

 

羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)

 

羆嵐 - Wikipedia

 

 

この作品が登場する作品

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「十九歳の地図」 1974

十九才の地図 (河出文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 東京にやって来て住み込みで新聞配達をする予備校生。他全4篇の短編集。

 

感想

 表題作「十九歳の地図」は、田舎から出てきて住み込みで新聞配達をする青年の物語。 多感な時期に都会に出てきて、予備校生でかつ住み込みの仕事をするという自らの境遇に鬱屈したものを感じている。そんな心を慰めるためか、自らの新聞配達地域の地図を作り、気に入らない出来ごとに遭遇するたびに印をつけている。

 

 地図を眺めて全能感に浸っている主人公が興味深い。普段自分が行動している範囲をただ地図に表しただけで、まるで支配しているかのように感じるというのは何となく理解できる。すべてを手中に収めたような感覚。そう考えるとヴィジュアル化、見える化をして全体を把握できるようにするというのは重要な事だと実感する。権力者や金持ちが小高い場所に住みがちなのも、神社仏閣が高いところにあるのも納得だ。

 

 

 鬱屈した主人公は、世間的には同じくくりで見られるだろう相部屋の30過ぎの男や隣室の同じ境遇の予備校生をこころの中で馬鹿にし、そして配達先の幸福な家庭の人たちにも憎悪を感じている。これは満ち足りていない若者であれば、多かれ少なかれ感じることだろう。そして自分は彼らとは違うと強がりながらも、違ったからと言ってだから何なのだという虚無も感じたりと、様々な思いが心の中を駆け巡っている。

 

 時おり公衆電話でいたずら電話のような電話をかけて悪態をついたり、脅したり、罵倒している主人公。これは世間に背を向けているつもりの主人公が、それでも世間とのつながりを求めているという事を窺わせる。素直な心で人と関りを持つことが出来ず、こんな歪なやり方になってしまっている姿は、今だとSNSで有名人にしつこく絡んでいる人たちと同質のものなのだろう。悪態をつくことで自分の存在を示し、構ってもらえないかと期待している。

 

 世間に対して肩ひじを張った姿勢、頑なな心というものは、やがて歳を重ね、様々な人と接することで自然と溶けていくものだが、そんないつか身に付く心持ちが、今の彼につかの間ではあるが一瞬訪れ、それを噛みしめられたラストに少し安堵した。

 

 その他の短編は地方特有の土の匂いや血の匂いが漂ってくるような作品。決別することも出来ず、かといって仲良くも出来ず、その間の際から際までを行ったり来たりする事しか出来ないのが、血縁というものだなというのを強く感じさせられた。それから逃れるにはその土地を出ていくか、事件沙汰になるようなことをするしか方法はないのかもしれない。

 

著者

中上健次

 

十九才の地図 (河出文庫)

十九才の地図 (河出文庫)

 

十九歳の地図 - Wikipedia

 

 

登場する作品

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「哀しみのソレンツオ」 

 

 

関連する作品

映画化作品 

十九歳の地図(廉価版) [DVD]

十九歳の地図(廉価版) [DVD]

 

 

 

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「白夜/おかしな人間の夢」 1848

白夜/おかしな人間の夢 (光文社古典新訳文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 夜の街を散歩していた青年は、泣き濡れる一人の少女と出会う(白夜)。他全4編の短編集。

 

感想

 表題作「白夜」は夢想ばかりしている青年とある少女との数日間の恋物語。恋が上手くいかず落胆している少女に恋をしてしまっている時点で最初から雲行きはあやしいのだが、自分が恋した女性が落ち込む姿は見たくないと応援してしまうところが、恋する男の悲しさだ。彼女の恋が実るように協力し励ます。

 

 この自らの恋の成就からは遠ざかる矛盾した行動をしていると、どこからか黒い気持ちがむくむくと湧き上がりそうだが、ジレンマに対する苦悩や妄想からくる嫉妬といった恋愛にありがちな煩悶はあるものの、仄暗い感情は全く隆起しないので健康的だ。男女ともに恋に恋をしているような幼さがあり、恋愛に対して純真で清潔な態度。

 

 

 少女の主人公に対する行動は、保険的なものを感じてしまうのだが、きっとそれは汚れた心の持ち主の発想なのだろう。ラストは予想通りというか、ハッピーエンドではないのだが、主人公の自己肯定感や前向きさに爽やかさを感じてしまう。

 

 もう一つの表題作「おかしな人間の夢」は、自殺を図る男が見た夢の話。この短編という形式で、壮大な人類の物語を描いて見せるあたり、さすがドストエフスキー、と言いたくなる。

 

奴隷制度が現れ、自発的に奴隷になる者さえ登場した。連中はさらに弱い者を抑圧する際、手助けしてもらうためだけに、進んで最強の者に屈服したのだ。

p200

 

 理想的な世界が崩壊していく姿を描いた中で出てくる文章。短編だと杓子定規な描写に終始してしまいそうなところに、鋭い言葉を入れてくる。どうせ奴隷になるなら出来るだけ身分の高い奴隷になりたいと、さっさと白旗上げる人いるな。巨大長編を読み終えた様な満足感があった。

 

 その他の二つの短編はおとぎ話や童話のようで悪くない。ドストエフスキーの長編小説はいくつか読んだが、ところどころに難解な箇所があって、それが積み重なっていき最終的には良く分からない、という印象になることが多かった。しかし、短編だと積み重なることがなく、そもそも難解な箇所も少なくて、読みやすく面白かった。ドストエフスキーの名作と呼ばれている長編小説を読んでみて難解に感じた人や、なかなか手を出せない人は、彼の短編小説を読んでみるのがいいのかもしれない。

 

著者

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白夜/おかしな人間の夢 (光文社古典新訳文庫)

白夜/おかしな人間の夢 (光文社古典新訳文庫)

 

白夜 (ドストエフスキー) - Wikipedia

 

 

登場する作品

マイアベーア:歌劇「悪魔のロベール」(イタリア国際管/パルンボ)

アイヴァンホー (世界文学全集〈第3集第9〉)

ロッシーニ 歌劇「セヴィリアの理髪師」チューリヒ歌劇場2001(リイシュー) [DVD]

死の家の記録 (光文社古典新訳文庫)

 

 

関連する作品

映画化作品 ルキノ・ヴィスコンティ監督

白夜 【HDリマスター】 [DVD]

白夜 【HDリマスター】 [DVD]

 

 

映画化作品 ロベール・ブレッソン監督

ロベール・ブレッソン監督『白夜』Blu-ray

ロベール・ブレッソン監督『白夜』Blu-ray

 

 

この作品をモチーフにした作品

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「競売ナンバー49の叫び」 1966

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 かつての恋人の遺書に遺言執行人として指名されていることが判明し、現地に向かった女性。 

 

感想

 遺言執行人としての仕事をしているうちに謎の組織の存在を知り、興味を持って調べているうちに、それに呼応するかのように周りで奇妙な出来事が起こり…というストーリーは何となく理解できるのだが、内容についてはほとんど意味が分からなかったというのが正直なところ。

 

 一つの文章が長く、段落も長く、言っていることも難解で読むだけでもめちゃくちゃ時間がかかる。隠喩や暗喩、引用などが散りばめられ、歴史上の出来事が語られて、読む人の教養を試されている様な気もする。とはいえ、著者自身は一つのストーリーの中に余計なものをたくさん放り込んで、複雑めいた雑多なイメージを作り出そうとしているのかもしれない。その難解さが議論を呼び語り継がれる。

 

 

 無理やり解釈すると、分かった気になっている自分の住む世界でも、自分の知らない所で思ってもみないことが進行しているかもしれない、それを知るには自ら動くしかない、といったところか。それもあるけどそれ以外もあるというような、簡単には結論付けることが出来ないような内容。また何年かして読み返してみると、違う印象を持つのかもしれない。

 

 これでトマス・ピンチョン作品の中で読みやすい方らしいのだが、となると、なかなか他の作品には手が伸びることはなさそうだ。ノーベル賞受賞とかなんらかのニュースで話題になった時に、もしかしたら他作品を読んでみようという気になるかもしれないが。

 

著者

トマス・ピンチョン

 

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

 

競売ナンバー49の叫び - Wikipedia

 

 

登場する作品

「競売ナンバー49の叫び」

バルトーク:管弦楽のための協奏曲 

She Loves You (Mono)

ロードランナーとワイリー・コヨーテ 全3話収録 (日本語字幕版)

The Rise of the Dutch Republic: a History Volume 1 (English Edition)

 

「殺すも生かすもウィーンでは」

ファウスト*歌劇 [DVD]

「最後のピューリタン」 サンタヤーナ

モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

 

 

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「金色夜叉」 1898

金色夜叉(上) (岩波文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 結婚の約束を反故にして金持ちと結婚した幼馴染に絶望し、前途有望な将来を捨て姿をくらました男。執筆中に作者死亡のため未完。

 

感想

 熱海で貫一がお宮を足蹴にするするシーンが有名な小説。ちなみに著者の尾崎紅葉が女だと思っていたのは内緒の話。さらに未完で終わっていることも知らなかった。

 

  古文のような雅俗折衷といわれる文体で書かれており、最初は少し戸惑うが読み進めているうちに次第に慣れてくる。ただ文章の硬さにムラがあって、難解に感じてすんなり頭に入ってこない部分もあった。それとは別にツイッターかよ、と可笑しくなって集中できない部分もある。

 

「ちと話したい事があるのだが、や、誠に妙な話で、なう」

尾崎紅葉.金色夜叉(Kindleの位置No.907-908).青空文庫.Kindle版.

 

 有名な熱海の足蹴のシーンはクライマックスかと思っていたら、かなりの序盤に登場するのが意外だった。以降は、そのような別れ方をした二人のその後が描かれていく。序盤に盛り上がるシーンがあったから、多くの人々を惹きつけたという事なのだろう。

 

 あんなにお宮にデレデレとしていた貫一が、序盤の別れの後に再び姿を現したときには寡黙で無感動な男へと変貌していて困惑するが、あんな仕打ちを受ければ当然か。非道な行いで人から後ろ指をさされるような高利貸しになっていた。

 

 

 一方のお宮。大金持ちと結婚して何不自由ない生活を送るが、次第に一度は捨てた貫一への思いが再び募り始める。貫一の居所を突き止め、手紙を送ったり、面会しようと試みる。

 

 読んでいて思うのはお宮のずるさ。若いころから美人といわれ、自分の美貌をもってすればそれなりの金持ちと結婚できるな、と考えるような打算の持ち主だったので、逆に貧乏学生の貫一と婚約したことの方が意外だった。

 

 そして金持ちと結婚した後にやっぱり貫一と結婚すればよかったと後悔しているが、こういう人はもし貫一と結婚していたら逆の事を考えて後悔しそうだ。いつもここではないどこかを求めているというか、いつもこんなはずじゃなかったと後悔している人。

 

 お宮が接触しようとするも、裏切られた貫一は頑なにそれを拒む。そんな中で、貫一は暴漢に襲われたり放火されたり、別の女に言い寄られたり、お宮は旦那に浮気されたり、病気になったり、また貫一とお宮のような同じ境遇のカップルが登場したりと、次から次へと様々な事が起こる。まるでソープオペラやメロドラマのようなめくるめく展開。面白い。

 

 途中で、これは明らかに夢だな、というあり得ない展開があり、なのに全然夢から覚めず荒唐無稽な場面が長々と続いて、え、もしかしてこれ夢じゃないの?と不安になりはじめた頃に、やっぱり夢でした、と明かされて、なんだか弄ばれた気分。色々と楽しませてくれる。

 

 最後はお宮の届かぬ思いが空しく宙に舞うような切ない結末。かと思っていたら未完なのでこれはまだ途中で、本当はもっと話は続く予定だった。お宮が金持ちと結婚したのはただ金に目が眩んだわけではなく、言うに言えない理由があったという仄めかしがあちこちに散見されるので、この後はその誤解が解けて二人はめでたく結ばれたのだろうと予想する。きっと、お宮がズルい人というのも誤解なのだろう。おそらく種本となった「女より弱きもの」を読めばわかるのだろうが、読みたいようなそのままにしておきたいような複雑な気分。

 

著者

尾崎紅葉

 

金色夜叉

金色夜叉

 

金色夜叉 - Wikipedia

 

 

登場する作品

現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫)

完訳 水滸伝 全10冊セット (岩波文庫)

「赤い切掛け島田の中は」

 

 

関連する作品

この作品の種本とされている本 

女より弱き者―米国版金色夜叉

女より弱き者―米国版金色夜叉

  • 作者: バーサ・M.クレー,Bertha M. Clay,堀啓子
  • 出版社/メーカー: 南雲堂フェニックス
  • 発売日: 2002/11/01
  • メディア: 単行本
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門下生による続編 

金色夜叉終編

金色夜叉終編

 

 

映画化作品(1937年) 

金色夜叉 [DVD]

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この作品が登場する作品

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