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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「天城越え」 1983

天城越え

★★★★☆

 

あらすじ

 家出をして下田から天城を越えた少年は、途中で一人の若い女と出会う。 

 

感想

 峠で少年と出会う若い女役の田中裕子がいい。今観てもドキドキさせられるが、中学生の時に観ていたらもっとドキドキして、変な性癖を発症してしまいそうだ。少し映画「白蛇抄」を思い出した。彼女演じる若い女が、少年にとって女性の象徴となった。優しく可愛らしく色っぽいが、したたかで気が強く、そして気まぐれな面も持っている。 

白蛇抄

白蛇抄

  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 それから刑事役の渡瀬恒彦もいい。血気盛んな若い頃と、動きは緩慢だが鋭さは失っていない老人と、2つの年代を演じ分けている。特に老人役は、ゆっくりとした動きと抑揚のない声のトーンなど、よく特徴を掴んでいる。実際に彼が老齢に達した時は、もっと若々しかったが、もしそんな感じで演じていたら、下手くそか、と言われていたはず。すでに老齢に達している人の、若い時の老人の演技を見るのは、比較ができるのでなかなか面白いかもしれない。

 

 そんな二人が中心となって展開される取り調べのシーンは、随分と乱暴で逆に笑えてきた。暴力ありで、トイレにも行かせないという、全く人権無視のアウトな現場。二人の迫真の演技で、見ごたえのあるシーンになっている。取調室が畳の和室というのも趣があっていい。

 

 

 家出をするも不安で、出会う人に犬のようにホイホイとついていく少年は、いかにもまだ子供。でも当たり前の話なのだが、昔の人はみんなこうやって山の中を歩いていたのかと想像すると、すごいなと感心してしまう。しかし、今ではその何百倍も動けるようになったのに、人々の生活は何百倍も良くなったわけではないのは何でだろうと不思議な気分になる。相変わらず日々の生活に追われて余裕はない。

 

 山中で起きた殺人事件。被害者の男は、よくよく考えてみると何一つ悪い事をしておらず、気の毒としか言いようがない。行き倒れ寸前だったというのであれば、最後に天国と地獄を見たということになる。寂しく死んでいくのとどっちが良かったのか。彼は運悪く、少年の純真な心を踏みにじる汚い大人の男のシンボルとなってしまった。

 

 彼に母親に言い寄る叔父さんの姿を重ねてしまった少年の、独りよがりな行動なのだが、あのシチュエーションで、少年のその気持ちは分からなくはない。中盤の雨の警察署の前で、きっと察していたであろう若い女と少年が見つめ合うシーンは、事件の全容を知ってから振り返るとなかなか感慨深い。

 

 エンディングロール後の、バイクに乗った若者たちが、ふらふらと天城トンネルの中へ吸い込まれていくカットも意味深だった。いい余韻に浸れる映画。

 

 ちなみに石川さゆりの天城越えは関係ない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 三村晴彦

 

脚本 加藤泰

 

原作 「黒い画集」所収 「天城越え」

 

製作 野村芳太郎/宮島秀司

 

出演 渡瀬恒彦/田中裕子/石橋蓮司/樹木希林/加藤剛/平幹二朗/北林谷栄/吉行和子/佐藤允/小倉一郎/山谷初男/伊藤克信/車だん吉/阿藤快/加藤剛/坂上二郎

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天城越え

天城越え

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

天城越え (松本清張) - Wikipedia

 

 

登場する作品

伊豆の踊子 (角川文庫)

 

 

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「臣女」 2014

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 体が巨大化していく妻の世話をする男。

 

感想

 巨大化する妻と献身的に世話をする男。不思議な設定で面白いのだが、少し困るのが女の巨人ぶりがうまく想像できない事。ガンダムだとかウルトラマンくらいのサイズだとテレビや映画で見ることが多いのでイメージできるのだが、最大4-5mほどのサイズの参考となりそうな人間型のものというのはあまりない様な気がする。

 

 名古屋のナナちゃん人形くらいかなと思ったが、610cmだそうなので少し大きすぎる。途中で、男と巨大な女ではなく、女と小さな男と視点を変えてみるくだりがあるが、そんな風に子供の頃に大人を見上げていた感覚で想像すればいいのかもしれない。

www.aichi-now.jp

 

 男の浮気がきっかけで巨大化した妻。精神的に参って男を問い詰め、自らを傷つけようとする姿は、島尾敏雄の「死の棘」を思い出させる。彼女が巨大化したきっかけは明らかに夫の浮気にあると言えるだろう。後ろめたさも抱えながら、男は妻の世話をする。

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 ただこの異常事態に、彼女のために誠心誠意尽くしているのかと言われたらそういうわけでもなく、男の頭の中では、浮気相手の事を考えて会いたいなと思ったり、妻が死んだら気持ちよく泣けてスッキリするかなと想像したり、自分の小説のネタにして一作品書けそうだと算段したりと、よこしまな考えをしたりもしている。でもきっとこれが普通で、看病や介護をしている人たちのリアルな心の中のような気がする。人はそう簡単に聖人君子にはなれない。

 

 男の妻はすくすくと大きくなるというよりは、体のあちこちが不規則に大きくなっていくという、いびつで醜い成長の仕方をする。そのため妻は予測できない体の痛みに自分をうまく制御できず、暴れたり汚物も垂れ流すグロテスクな姿をさらけ出している。そんな彼女を世話するきつく汚い仕事を、男はよく続けられるなと感心してしまう。苛立たしさや嫌悪感を時に感じる事もあるのだが、それでも妻を見捨てることは出来ない。これこそが愛というやつなのだろう。

 

 

 世間の目を忍んで妻を家から出さず、食料を与えてひたすら汚物の処理を続ける鬱々とした日々を過ごした後で、ついに限界を感じて二人で外に飛び出すことにした男。解放感も出てきて、畳みかけるような終盤の展開は読む手が止まらず、最後は不覚にも泣きそうになってしまった。そして、最後まで簡単には変われないリアルな男の姿が印象的。

 

著者

吉村萬壱 

 

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

臣女(おみおんな) (徳間文庫)

  • 作者:吉村萬壱
  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

悪の華 (新潮文庫)」所収 「巨女」

ヘルダーリン詩集 (岩波文庫)

 

 

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「ライフハック大全 人生と仕事を変える小さな習慣250」 2017

ライフハック大全―――人生と仕事を変える小さな習慣250

★★★★☆

 

内容

  日々をより快適に過ごせるようになるような、様々なライフハックを紹介する。

 

感想

 時間やタスクの管理から集中力やアウトプットに関すること、またコミュニケーションや習慣化に関することまで、多種多様なライフハックが紹介されている。たくさんあるが、その中でまずは自分が気になったものから取り組んでみればいいだろう。

 

 1冊の本には議論が多岐にわたるものや、小説の場合にはプロットが複雑で読み終わるころには最初のあたりを忘れそうになっているものもあります。そうしたときに、毎日読んだ分の内容をメモしてつないでゆく「読書ジャーナル」をつけたほうが、読書体験をより忠実に記録し、あとで内容を思い出しやすくなります。

p169 「HACK 129 毎日の「読書ジャーナル」をつくる」

 

 個人的に一番やりたいと思ったのはこの「読書ジャーナル」を作るというライフハック。毎回本を読んだ後は、その内容を思い出せるようにと、このブログを書いているのだが、いつも何度も見返したりして時間がかかってしまう。本を読むのは楽しいが、その後のブログを書くのが億劫で、それを考えると新しい本に手を付けるのを一瞬躊躇してしまう自分がいたのだが、これなら随分と楽になりそうだ。

 

 とはいえ、毎日読んだ分のメモを書くというのも時間が取られてしまいそうだが。でも記録として残るのだから、その価値はあると言えるだろう。習慣化していきたい。

 

 

 その他では、人との距離を縮める「フランクリン効果」は、なるほどなと感心させられた。でもこういうテクニックを知らずにナチュラルに使っている人もいるから恐れ入る。普通に振舞うだけで誰とでも良好な関係を築ける人は羨ましいが、こういう知識を吸収することで、彼らと同じようになれるというのは心強い。

フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)

 

  

 250個のライフハックがそれぞれ大体1ページにまとめられていて、読みやすい構成の本。ただ最初のページから順に一気に読もうとするとしんどくなりそうなので、著者が推奨しているように興味のある所を中心に少しずつ読んでいくのが良さそうだ。

 

 そして適当にページを開いて読むだけで、そのライフハックに取り組むかどうかに関わらず、なんだか頑張ろうという気になってくるから不思議だ。モチベーションを上げるために、手近なところに置いておくというのも手かもしれない。

 

著者

堀正岳

 

ライフハック大全―――人生と仕事を変える小さな習慣250
 

 

 

登場する作品

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戦略的グズ克服術―ナウ・ハビット(The Now Habit)」

神曲 地獄篇 (河出文庫)

イエスマン "YES"は人生のパスワード (字幕版)

Habit Stacking 人生を大きく変える小さな行動習慣

三国志 01 序

やりとげる力(The War Of Art)」

カエルにキスをしろ!(Eat The Frog!)」

仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則・完全版(Do It Tomorrow)」

全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

羊たちの沈黙(上)(新潮文庫)

ハンニバル(上)(新潮文庫)

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(チェックリスト・マニフェスト) 

現代読書法 (講談社学術文庫)

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

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クトゥルーの呼び声 (星海社FICTIONS)

天才! 成功する人々の法則(Outliers)」

「すべてはリミックスである(Everything is a Remix)」 カービー・ファーガソン

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暁の出撃 HDリマスター版 [DVD]

Explaining Creativity: The Science Of Human Innovation

Brainstorm (English Edition)

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The Memory Illusion: Why You Might Not Be Who You Think You Are

 「あなたの生産性を上げる8つのアイディア(Smarter Faster Better)」

文化を超えて

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(The Willpower Instinct)

スーパーサイズ・ミー(字幕版)

「週4時間」だけ働く。(The 4 Hour Workweek)」

光あるうちに光の中を歩め (岩波文庫 赤 619-4)

 

 

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「われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略」 2019

われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

★★★☆☆

 

内容

 進化心理学者によって紐解かれる人類の歴史と、そこから読み取れる幸せになるための方法。

 

感想

 進化の過程で、人のこころがどのように変化してきたのかが紹介されていく。その中で、人類の発展を促したのは頭の良さではなく、コミュニケーション能力の高さだったという指摘は意外だった。

 

社会的知性こそがわたしたちの真の知的馬力であり、複雑な問題を解く能力(抽象的思考力をもとに測るIQ)は、進化した社会的能力が偶然生み出したたんなる派生物なのかもしれない。

p169

 

 体の小さい人類がサイズのでかい危険な動物から身を守るには、集団で一丸となって戦うしかない。協力をするためには相手と意思疎通をしなければならないが、そのためには他人が何を考えているのか推し量る能力が必要となってくる。そうやって他者と協力するための社会的能力を発達させてきた。

 

 そして全てにおいて能力の高い人は、新たなイノベーションの機会が訪れても、人とのコミュニケーションで解決できるならそちらを選択してしまうので、文明の発達にはあまり寄与することがない、という話は興味深かった。逆に、イノベーションを起こすのは社会的能力は低いが高い知能を持っている人たち、ということになるらしい。

 

 

 人類の進化には社会的能力の発達が必要なのに、文明の発展には社会的能力の低い人たちが寄与しているというのは不思議な構造だ。オタクが新しいテクノロジーを発明するが、それを最も享受するのはリア充の人たちみたいなことか。でも世の中でうまくやっているのは頭の良い人ではなく、社会的能力の高い人たちだというのは確かに実感する。

 

 人々が見栄を張ったり自信過剰だったりするのは、社会の中で少しでも良いポジションに立ちたいから。相手を騙し自分を騙して、すこしでも良いポジションにいるように見せかけようとする。そう考えると「マウントを取る」という言葉がよく使われるようになったのは味わい深い。そして、人間も序列争いをして生きる動物たちとそんなに変わらないような気がしてきた。

 

 我々が暮らすのは自由で平等な社会だと言っているが、心のなかでは皆、他人との優劣や序列を気にしている。自由にリーダーを選べる民主主義の世の中なのにあまりその意識はなく、お上には逆らっちゃいけないと思っている。理想を掲げて頭でっかちでここまで来たが、SNSで大衆の声を可視化してみたら、まだまだ中世の封建社会の気分のままだった、というのが世界の現在の状況だろう。

 

 そして実際の所、自由で平等で民主的な世の中なんて全然求めてなくて、理不尽で不平等でも構わないから、サル山みたいに秩序ある階層社会で何も考えずに生きていたいと思っている人がかなりいるのではないかと最近疑うようになった。人類の心の進化といっても、個々で見れば足並みが揃っているわけではなく個体差があるだろうから、それが500年くらい遅れていたとしても不思議ではないだろう。

 

 人間が自ら築いた社会の中で、どのように心が動きそして行動しているかが紹介され、色々と考えさせられる本となっている。人類の進化の歴史から考察する最後の幸せになる方法も、なるほどなと頷かされるものが多かった。

 

著者

ウィリアム・フォン・ヒッペル 

 

 

 

登場する作品

火の賜物―ヒトは料理で進化した

暴力の人類史 上

スパイダーマン (字幕版)

ライオン・キング (字幕版)

Hierarchy in the Forest: The Evolution of Egalitarian Behavior (English Edition)

White Man's Burden: Slogans of Poetry(白人の責務)」

国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)

クマのプーさん (岩波少年文庫)

ラスベガスをやっつけろ!―アメリカン・ドリームを探すワイルドな旅の記録 (Nonfiction vintage)

Wild Life: Adventures of an Evolutionary Biologist(ワイルド・ライフ)」

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虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

 

 

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「吾輩は日本作家である」 2008

吾輩は日本作家である

★★★☆☆

 

あらすじ

 編集者に次作のタイトルを「吾輩は日本作家である」にすると告げた作家。 

 

感想

 カナダに住む黒人作家が、次作のタイトルを「吾輩は日本作家である」と決めたことから始まる物語。タイトルを聞きつけた日本大使館の人物が接触を図ってきたり、日本でちょっとした話題になったり。また、主人公は取材のために日本人のいる場所に足を運んだり。大きな物語が描かれるのではなく、淡々としたペースで箇条書き的に日々が綴られていく。

 

 何人かの日本人が登場するのだが、彼らの名前がタニザキだったりムラカミだったりムラサキだったりと、日本人作家の名前が付いているのが面白い。ショウナゴンという女性も登場して誰?と思ったが、清少納言の事だった。

 

 

 元ハイチ人で亡命してカナダ人となった黒人作家が、日本作家であると公言したことによって起きた波紋だったり、警官が住む場所や見た目から相手を判断すること、日本人の女子グループが集団内で互いを監視しあっている様子などが描かれ、これはアイデンティティやステレオタイプに関する物語なのだなという事が分かってくる。小説の中では「クリシェ」という言葉が使われている。

クリシェ - Wikipedia

 

 その中で、主人公に心酔して自分を失くしてしまった友人の話が印象的だった。誰かに心酔したり憧れたりするのは悪いコトではないが、度を超すと自分のアイデンティティを見失ったような状態になってしまう。宗教にのめりこんだり、怪しげな人物に傾倒したりする人たちも、同じ類の問題を抱えていると言えるだろう。その友人の妻が、夫といても全く夫と向き合っている気がしないと、主人公に助けを求めに来るのが切なかった。本人はそこにいるのに、その人ではないなんて。

 

 人々は互いに影響を与え合って生きている。世界中の人が簡単に交わることが出来る現代においては、つまりは皆がどんどんと似通ってくるという事だ。彼等にとってかけ離れたような特殊な存在に思えた日本だって、西欧の文化と交わることで互いが互いに寄せ合って、差異は小さくなってきている。そんな時代にステレオタイプで物事を語るなんて馬鹿らしい。そんなメッセージが感じられた。

 

 そもそも、まだタイトルしか決まっていない、存在すらしていない小説が議論になること自体、中身ではなく外見でジャッジするステレオタイプそのものなわけで。

 

著者

ダニー・ラフェリエール 

 

吾輩は日本作家である

吾輩は日本作家である

 

 

 

登場する作品

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失われた時を求めて 1~第一篇「スワン家のほうへI」~ (光文社古典新訳文庫)

午後の曳航 (新潮文庫)

Le Chemin étroit vers les contrées du Nord : Précédé par huit haïku(おくのほそ道)」

朝日のあたる家

Suzanne(スザンヌ)」

危険な関係〈上〉 (岩波文庫)

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戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

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ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

荒野のおおかみ(新潮文庫)

ギリシア人は神話を信じたか―世界を構成する想像力にかんする試論 (1985年) (叢書・ウニベルシタス)(ギリシャ人は神話を信じたか)」

ローズマリーの赤ちゃん (字幕版)

マッチ売りの少女 (世界名作おはなし絵本)

完全版 佐川君からの手紙 (河出文庫 か 1-1)

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Bebe Paramount (Tabou Combo)(べべ・パラマウント)」

運命論者ジャックとその主人(運命論者ジャック)」

東京モンタナ急行

 

 

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「流」 2015

流 (講談社文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 中国内戦で敗れて台湾に逃れてきた祖父を中心とした一家で育った青年。直木賞受賞作。

 

感想

 70~80年代の台湾の若者の青春小説。この当時の日本と似たようなヤンキー的要素もありながら、そこに中国との関係や、国内の本省人と外省人という立場の違いといった台湾ならではの複雑な事情も絡めつつ描かれていく。当時の台湾の様子が詳しく描写されていて、それだけでも新鮮で興味深い。

 

 ところでこの時代のヤンキー文化的なものは、全世界的なものだったのだろうか。アメリカでもリーゼントに革ジャン、みたいなイメージがあるし、台湾でも同様だったとすると、この時代のある種の流行だったという事なのだろうか。今でもヤンキー文化的なものは残っているが、半笑いで見られるような時代遅れなものとなっている。いつの時代も若者は粋がりたいものだが、この時代はこういう形で粋がる事になっていたということか。

 

 

 主人公は中国の内戦で敗れ、台湾に逃れてきた祖父をルーツに持つ台湾人。祖父もその子供である両親たちもまだ戦争を経験した世代だ。世の多くの人が戦争体験を持ち、何気なく戦争の思い出話をしたりする世界というのは、うまく想像できない。人を殺したり身内を殺された経験を持つ者たちが、まわりに溢れている世界。そんな時代を生きる若者たちの喧嘩や恋、将来への不安などが描かれていく。

 

 読んでいて一番印象的だったのは、彼らが身内を大事にすることだ。血のつながった家族だけでなく、友人や兄弟分、さらには兄弟分の兄弟分まで必死に守ろうとする。経済的な理由もあるのだろうが、殺してやるなどと物騒な言葉を口にしながらも、主人公たちが祖父を中心に一族で寄り添って暮らしているのは微笑ましかった。目上の人たちにちゃんと敬意を示すのもいい。このあたりは中国人の特徴なのだろう。

 

 一家の中心だった祖父が何者かに殺され、それがこの物語の核となっているのだが、その真相や結末がついに明らかになった時、正直、うまく理解できないというか、受け入れられない気持ちが強かった。ただ、そんな簡単に他人が理解できることではないのだという事は理解できた。

 

 主人公が過去を回想するという形で、時系列に沿ってその人生が描かれていくのだが、時おり、ある出来事に対するその後に起きたこともついでに語られたりもする。だからエンディングはその後に起きる悲しい出来事も分かっている状態で迎える事になる。それなのにこの上ないハッピーエンドになっていて、何ともいえない含蓄のあるラストに、すごいなと感心してしまった。この先に何があろうと、まずやるべきは今を大切に生きることだ。

 

著者

東山彰良 

 

流 (講談社文庫)

流 (講談社文庫)

  • 作者:東山彰良
  • 発売日: 2017/07/14
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

三国志演義 1 (角川ソフィア文庫)

【合本版】水滸伝(全19冊+1) (集英社文庫)

「我的家在大陸」

叫我如何不想他

ドーベルマン・ギャング [DVD]

Desperado (2013 Remaster)

聊斎志異〈上〉 (岩波文庫)

論語 (岩波文庫)

朧月夜

「青と黒」 王藍

「星、月、太陽」 徐速

「彼岸」

セカンド・ラブ

 

 

 

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「リッチな人々」 2020

リッチな人々

★★★★☆

 

内容

 リッチな人々とはどのような人たちなのか、その実態を明らかにし、また問題点を指摘する。漫画(バンド・デシネ)で紹介するブルデュー社会学。  

ピエール・ブルデュー - Wikipedia

 

感想

 一般的に思い浮かべる金持ちとはどのような人たちなのか、という事が詳細に説明される。単純に大金を持っている人だろうと思ってしまうが、そうではない。例えば自分がある日突然大金を手にしたとしても、皆が金持ちだと思うような暮らしをいきなり始める事は無理だろう。

 

 金持ちが庶民と違うのは大金を持っている事だけではなく、金持ちとしての振る舞いを身につけている事だ。お金の使い方に関する知識や文化に対する審美眼を持っていて、各界の有力者たちと幅広い交友関係があり、世間に認められるような地位を手にしている。

 

 

 中でも一番重要なのはコネだろう。それ以外のものは、有力者たちが集うパーティで気後れすることなく過ごすために必要なものなのかもしれない。こうやって知り合った金持ち同士が互いに少しずつ便宜を図り、連帯して助け合っている。コネのおかげで金持ちたちは庶民に混じって競争することなく、VIP待遇で世の中を渡っていける。彼らがどんな状況でも、コネの機会である「会食」を止めようとしないのはそういう事かと、合点がいった。

 

しかし現代社会は、実際には負の側面を抱える「個人主義・競争社会」が良しとされる。「連帯」が重要な労働者階級でさえ、それを失って、負の個人主義に巻き込まれてしまった。

p119

 

 最近は富の一極集中が進み、格差が広がっているといわれるが、本書はその原因として、行き過ぎた「個人主義・競争社会」があると指摘している。確かに、相手よりも少しでも優位に立とうと庶民同士が競っているその裏で、金持ち同士は仲良く「連帯」して着実に富を蓄えている、というのはなかなかショッキングな真実だ。

 

 きっと「あんな奴らに税金を使うな!」などと庶民が互いに叩き合っているのを見て、金持ちはきっとほくそ笑んでいるのだろう。わざわざ自分たちに回って来るお金を増やしてくれていると。冷笑・忖度大歓迎、どんどん庶民同士で分裂して叩き合えと。

 

 そう考えると、政府が庶民に10万円を配るのはめちゃくちゃ渋るのに、特定の業界には審査ガバガバで気前よく大金をつぎ込むのも腑に落ちる。この本を読んでいると、経済が落ち込む現在の状況下で進行する、政府の不可解な動きの理由が何となく理解できてくるのだが、それと同時に腹も立ってくる。

 

 本書ではおもにフランスの状況を紹介している。フランスが羨ましいと思えるのは、あちらのリッチな人々はちゃんと「ノブレス・オブリージュ」を意識した教育も受けているという事だ。日本だと、どこにでもいそうな普通のおじさんですが親が金と権力を持ってたから受け継いでいます、というのがほとんどのように思えるが、本当にやめて欲しい。ただただ迷惑をかけられるだけ。最近は普通どころか、教育の重要性すら理解してない普通以下みたいな人も多い。

ノブレス・オブリージュ - Wikipedia

 

 本書では最後に、広がり続ける格差の問題をどのように解消するかについての方法も紹介している。庶民が連帯・団結して対抗する事、必要以上に権限を与えない事など色々とあるが、庶民がそれらに気付いた上で一致団結し、更に共に行動する、というのはめちゃくちゃハードルが高そうだ。色々と考えさせられてしまう本だった。

 

著者

マリオン・モンテーニュ

 

原案 ミシェル・パンソン/モニク・パンソン=シャルロ 

 

リッチな人々

リッチな人々

 

 

 

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「ホサナ」 2017

ホサナ (講談社文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 ドッグランで出会った女に、犬好きの集まるバーベキューパーティーに誘われた男。

 

感想

 著者名だけ見てネットで注文したら、届いた本があまりにも分厚くて若干怖気づいてしまった。同じ著者の「告白」と同じくらいの分厚さで、900ページ以上ある。

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 冒頭で、主人公が参加したバーベキューパーティーが、突然シュールで異様な展開を見せて驚き戸惑ったが、その次のシーンでは何事もなかったかのように元の世界に戻っていて安心した。と思ったら、そこからまたシュールな世界へと突き進んでいく。

 

 突然顔が光ったり、ひょっとこが出てきたりと、どんどんと訳の分からない状況になっていき、きっとそれらは何かを意味しているのだろうが、良く分からなかったというのが正直なところ。ただ面白おかしく描かれるので、訳が分からないなりに、物語にそれなりの推進力はある。

 

(前略)夢で屁をこいたようなことを言っては頭のなかに花畑をこしらえて、我と我が思いに感動して涙を流していた。

p654

 

 理解できなかったなりに無理やり解釈すると、何かとあれこれが気になってしまい、物事をうまく行うことができない主人公が、理不尽ばかりの世の中でなんとかうまく生きる術を模索する物語、といったところだろうか。

 

 主人公が目指したのは、些事を気にせず、理不尽も受け入れる「抜け作」となる事。抗うことなくただ流れに身を任せ、たゆたうようにしていられれば、思い悩んで苦しむこともない。飼い主の命令に従う犬と同じようなものかもしれない。どんなに不条理な命令に思えても、それは結果的に犬に幸福をもたらす。だから何も考えずに飼い主の命令を聞いていさえすればよい。

 

 

 ある男に助けられた主人公が、何が起きても動じず平気な顔をして、かいがいしく男の身の回りの世話をするその妻らしき女を見て、本当の「抜け作」というのはこの女のような人間を指すのではないだろうか、とハッとするシーンが妙に印象的だった。

 

 考えてみれば、うまく生きている人というのは、確かに「抜け作」なのかもしれない。生きていれば必ず遭遇する納得できない事や承服しがたい事をすんなりと受け入れられる人だけが、スマートに生きていくことができる。それが出来ずにつまずき、もがくことになる多くの人は、彼らの事が眩しく見えてしまうのだが、もしかしたら彼らは何も考えていなかっただけなのかもしれない。彼らのようにするだけで楽に生きていけるのかもしれないのに、でもそんな風にはなりたくないよな、という思いが心のどこかにいつまでも残って消えずにいるから、いつまでたっても苦しむことになる。

 

 この小説のタイトル「ホサナ」は、ヘブライ語で「どうか救ってください」という意味。きっと多分に宗教的な意味合いが込められているのだろう。それらをもっと理解するために、いつかまた深く読み込んでみたいなと思わせてくれる読み応えのある小説だった。

ホサナ - Wikipedia

 

著者

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ホサナ (講談社文庫)

ホサナ (講談社文庫)

  • 作者:町田 康
  • 発売日: 2020/11/13
  • メディア: 文庫
 

  

 

登場する作品

昭和枯れすゝき

決定版 2020 若原一郎」所収 「おーい中村君」

東海道四谷怪談 (岩波文庫 黄 213-1)

 

 

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「日はまた昇る」 1926

日はまた昇る〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 パリで暮らすアメリカ人の男は、仲間と共にスペインの祭りを訪れ、牛追いと闘牛を見物する。

 

感想

 最初はユダヤ人の元ボクサーの男が主人公で、その友人が第三者の視線で語っていく話なのかと思っていた。序盤のしばらくはそんな雰囲気だったが、やがては語り手自身が主人公となって物語が進行するようになる。なんだか不思議な始まり方だった。

 

 両想いの女性がいるにもかかわらず、戦争で負った傷が理由で一緒になることができない主人公。普段は平気なフリをしているが、一人の夜には自身の境遇に泣くこともある。だが、相手の女性もなかなかタチが悪い。本当は彼が好きだと言いながら、自由奔放に男を取っ替え引っ替えして過ごしている。逆に言えばある意味正直で、誠実な女性ということも出来るかもしれない。

 

 

 どうせ結ばれないのだからきっぱりと別れればいいのに、ずるずると仲間の一人として何かと顔を合わせ続ける二人。ただ最初の頃のように、主人公がどうにもならない自身の想いに苛立ったり、涙を見せる事はなくなった。その代わりにクローズアップされてくるのは、同じく彼女に恋をしたユダヤ人の友人の女々しさだ。

 

 彼は元大学ボクシングのチャンピオンで、充分に男らしい性質があるはずなのに、今は恋人の尻に敷かれている。そして新しく惚れた女性には迷惑がられているにもかかわらず、いじらしく付きまとう男だ。主人公にとってはもどかしい存在だったはずだ。だが、まるで自分を見ているかのような苛立たしさや、プライドもなく思いのままに行動してしまう純粋さに対する羨望もあったかもしれない。

 

 主人公はスペインの闘牛と牛追いの狂乱の祭りの中で、彼を見ることで自身を客観視し、ある意味で悟ることができたのかもしれない。そして何があろうと日はまた昇り、続いていく日々の中で、自身で対処しなくてはいけない事、しなくてもいい事がはっきりした。彼女に対してもどのように接していくべきか、心の整理がついたのだろう。ラスト、彼女はきっとまたどこかに行ってしまうが、それでも束の間の幸せに素直に浸る彼に、じんわりと心が温かくなった。

 

著者

アーネスト・ヘミングウェイ 

 

日はまた昇る - Wikipedia

 

 

登場する作品

パープル・ランド―美わしきかな草原 (1971年) (英米名作ライブラリー)

猟人日記(上)

 

 

関連する作品

 映画化作品(1957年)

陽はまた昇る<特別編> [DVD]

陽はまた昇る<特別編> [DVD]

  • 発売日: 2013/04/18
  • メディア: DVD
 

 

 

この作品が登場する作品

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「本を読む本」 1972

本を読む本 (講談社学術文庫)

★★★☆☆

 

内容

 哲学者・教育者である著者による本の読み方の指南。1940年に出版された本の1972年改訂版。 

 

感想

 何について書かれた本か知り、そして伝えたいことを理解した上で、著者と対話をするという本の読み方が、順を追って事細かに説明されていく。本書は、この手の本としては古典で、きっとその後の同様の本がこの本を踏まえた上で書かれているだろうからか、内容的には新鮮に感じる部分はあまりなかった。

 

 同様の本を読んだり、それなりに読書をしている人にとっては何となく身に付いている読書法と言えるかもしれない。ただ、改めて体系的に読書の方法をチェックしたい人にとっては具体的で分かりやすい良い本と言える。

 

 

 基本的には良書を見つけて、それをじっくりと読むという事が推奨されているが、自身に関して言えば、近年そんな事をしたことは全くないなと少し反省してしまった。今は出来るだけ多くの本を読みたいという気持ちの方が強い。将来的には、それまで読んだ本の中から、心に残っているものを読み返してみたいと思っているが、実際やるかどうかは不明だ。どんなに頑張って本を読んだところで、全部の本を読むことは出来ないと、その時に観念できているかどうかにかかっているだろう。

 

 著者との対話から得る唯一の利益は、相手から何かを学ぶことにあり、読書の成功は、知識を得ることにある。読者がこのことに思いいたれば、いたずらに論争するだけでは、何の益もないことがわかるだろう。

p154

 

 著者と対話する方法を説明する章を読んでいたら、SNSなどでよく見られるやりとりのことを色々と考えてしまった。相手の言う事を完全に理解するまで反論するな、喧嘩腰で反論するな、という読書に対する姿勢と、SNSの世界は全く正反対だ。相手の意見を理解しようとしないで、言葉尻に反応し、挑発を繰り返している。

 

 勿論読書とSNSは別ものだし、SNSのそれを娯楽や憂さ晴らしで使っている人もいて、別にそれはそれでいいのだが、こういう互いにメリットのある関係を築く方法を学んでおくのは重要だなと感じた。誰だって話を遮られたり、喧嘩腰で反論されたりしたら、有意義な会話をしようとは思わなくなる。

 

著者

M・J・アドラー/C・V・ドーレン

 

 

 

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「信長の定理」 2018

信長の原理 上 (角川文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 「働きアリの法則」に気付いた信長が、配下の人間が皆良く働くためにはどうしたらいいのか思案する。 

働きアリの法則 - Wikipedia

 

感想

 信長の生涯が要所要所を踏まえて描かれていく。今回面白かったのは、信長に仕えた者たちの事が詳しく描かれているところで、織田家の人事の歴史が良く分かる。正直、明智光秀や豊臣秀吉、柴田勝家ら、信長が大きな力を持つようになった頃の主要な人物しか知らなかったので、信長がまだ尾張の一勢力として、家中さえもまとめ切れていなかった時代の話は興味深かった。

 

 佐久間信盛や林秀貞が織田家から追放された話も、その後の歴史を知った上だと、へーそんな人がいたのか、でも織田家で重要なのは秀吉や光秀だから、みたいに軽く流してしまいそうだが、当時の人たちのように、信長が尾張の一勢力からやがて天下を取ろうとする位置に行くまでの過程をじっくりと見ていると、それまでのトップ、筆頭の家老と文官を粛正した事がどれだけ衝撃的だったかが、ひしひしと伝わってくる。リアルタイムとあとから振り返って見るのでは、全然感想が違ってくることが良く分かる。

 

 

 たくさん登場する信長の家臣の中で、一番意外だったのは滝川一益。主要な武将だったにもかかわらず、信長の死後の争いでもあまり目立たず、地味なイメージだったが、若い頃はならず者だったという説もあるようだ。 

乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益 (時代小説文庫)

乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益 (時代小説文庫)

  • 作者:佐々木功
  • 発売日: 2019/03/13
  • メディア: 文庫
 

 

 しかし、こうやって色々な歴史小説や映画、ドラマなどを見ていると、史実かどうかはともかく、どんどんと歴史上の人物のキャラクターが立体化されてきて楽しい。旅行先で訪れた場所が、知っている歴史上の人物とゆかりのあることを紹介されていたりすると、急にその地に親近感を覚えたり。興味を持つだけでこれだけ人生が楽しくなるなんて、「歴史」はめちゃくちゃお得感のある趣味かもしれない。

 

 その他、当時の大名たちの情勢の変化もきっちりと描かれているのも分かり易くて良かった。「信長包囲網」とかも、でも結局大丈夫だったんでしょ、と思ってしまうのだが、これもリアルタイムで見ると本当にギリギリだったことが良く分かる。

 

 織田家の非情な人事を踏まえた上で、光秀が追い込まれていく過程が描かれ、それに当時の近畿の情勢と信長の家臣たちの位置が示されるので、光秀が謀反に踏み切った理由はこれだな、と思えるようなリアリティがあった。

 

 正直なところ、主題である「働きアリの法則」についてはピンとこなかったのだが、織田家内外の勢力の推移が描かれ、まるでとある企業の興亡史を見ているような面白さのある小説だった。本を読まなさそうな好きではない著名人が、冬休みに読みたい本として、好きではない著者の本と共にこの小説を挙げていて、逆にあんまり読みたくない気分になっていたが、読んでよかった。

 

著者

垣根涼介
 

信長の原理 上 (角川文庫)

信長の原理 上 (角川文庫)

  • 作者:垣根 涼介
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: Kindle版
 

 

 

 

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「リア王」 1605

リア王 (光文社古典新訳文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 引退を決意したリア王は、自身を褒め称える長女と次女に領土を分割して与え、追従の言葉を口にしなかった三女は追放してしまう。シェイクスピア四大悲劇の一つ。

 

感想

 引退して可愛い娘たちにあとを譲り、面倒を見てもらいながら余生を過ごそうとしていたリア王に起きた悲劇。ただ、王は娘たちに邪険にされて気の毒な人だ、とはあまりならない。娘に厄介になっているにも関わらず、威張り散らしてわがまま放題で、厄介だなと、どちらかというと娘たちに同情してしまう。

 

 老け込んで耄碌してしまったという事なのかもしれないが、そもそもお世辞を言わない三女を追い出したり、諫める家来をクビにする時点で、あまりリア王は立派な人間ではなかったのかなと思ってしまった。王に同情するというよりも、それでも忠誠心を見せる家来たちに感心してしまう。

 

権力が追従に身を屈するとき、忠節が恐れて口を閉ざすとでもお考えか。

p15

 

 それにしても、娘たちの態度に怒り狂い、怒鳴り散らすリア王の言葉がキレッキレで笑ってしまった。まるで関西人の「奥歯ガタガタ言わせたろか」みたいな罵り言葉が連発される。きっと舞台でやったら大うけなのだろうなと容易に想像できる。それ以外にも、したり顔で引用したくなるような、グッとくるセリフが次々と出てくる。

 

 一つ気になったのは、妾の子供に騙されてしまう王の家来の間抜けっぷり。王にクビにされてしまった同僚が変装して現れても、誤解して追い出してしまった長男が身分を偽って登場しても全く気付かない。いくら何でも節穴過ぎるだろう。そう思っていたら本当に節穴にされてしまったが。でも他の人間たちも全く気付かないので、そういう世界観という事なのだろう。

 

 

 最後はバッタバッタと人が死んでいく。リア王はじめその多くは因果応報だと思えるし、その家来はそんな王に仕えてしまったからというので仕方がないと思える部分はある。唯一、本当に父親の事を想っていた追放された三女くらいは幸せになって欲しかった気もするが、それだとあまりにも都合が良すぎるという事なのかもしれない。人生はままならない。だから悲劇も起きてしまうという事なのだろう。

 

 

著者

ウィリアム・シェイクスピア

 

リア王 (光文社古典新訳文庫)

リア王 (光文社古典新訳文庫)

 

リア王 - Wikipedia

 

 

関連する作品

ソ連の映画化作品(1971) 

リア王 [DVD]

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  • 発売日: 2003/12/18
  • メディア: DVD
 

 

この作品をベースにした映画 (1985)

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この作品を下敷きにしたオリジナル作品 (1987)

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この作品をベースにした小説(1991)

 

 

 

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「北回帰線」 1934

北回帰線 (新潮文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 パリを彷徨うアメリカ人。

 

感想

 序盤は状況が分かりづらく、たくさん人も出てきて、ストーリーを把握するのが難しく、かなり戸惑ってしまった。しかし、それでも頑張って読み進めているうちに分かってくるのは、この小説にはちゃんとしたストーリーやプロットといったものはないという事だ。

 

 パリでほとんど所持金もなく暮らす主人公の、友人や女性の話、理想や夢、パリへの愛と憎しみ、過去の思い出、そして頭の中に湧き上がるイメージなどが、徒然に語られている。でも人の毎日なんてそんなもので、目的に沿って真っすぐに生きているわけではなく、想定外の事が起きたりして行き当たりばったりの日々を送っている事の方が多い。頭の中も同様で、様々な思いが脈絡もなく次々と現れては消えていく。主人公はそんな小説を書きたいと語っているので、つまりはそれを目指しているのだろう。

 

ぼくは自由を感じると同時に束縛を感じた―――人が選挙の前に、とんでもない奴ばかりが候補者として指名されているのに、正しい人に投票していただきたいと訴えられるときに感じる気持と似ていた。

p358

 

 そして、そんな中から浮かび上がってくるのは、主人公の自由を求める衝動。頭で考えるのではなく、ありのままでいたいと望んでいる。ただし、そんな自由はいつも素晴らしいわけではなく、楽しいものではない場合もある。主人公には、常に貧しさが付きまとっている。

 

 しかし、この時代はパリに限らないだろうが、空腹やひもじさというのはありきたりのものだった、という事がよく伝わってくる。皆当然のようにお腹を空かせていて、食べるものがなければ闇雲に外を歩きまわり、運が良ければ金を持ってる友人と町で出会っておごってもらう、なんて事をやっている。きっと今、こんなことをやっている人はほぼいないだろう。そう考えると、この小説が書かれた1930年代から約100年で、世界はとてつもなく変わったのだな、としみじみとしてしまった。

 

 

 小説家を目指していた主人公つまり著者の、パリでの修業時代、下積み時代を描いたといえる物語だが、小説内で、主人公がコツコツと書いているような描写がないのが面白い。それがないために、なんのために主人公がパリにいるのか分からず、当てもなく彷徨っているだけにも見えてしまうのだが、この小説自体が主人公がずっと書いていたものという事なのだろう。

 

著者

ヘンリー・ミラー 

 

北回帰線 (新潮文庫)

北回帰線 (新潮文庫)

 

北回帰線 (小説) - Wikipedia

 

 

登場する作品 

永遠の夫(永遠の良人)」

Es wär' so schön gewesen(げにそは美しかりき)」

メトロポリス TMW-063 [DVD]

魔の山 上 (岩波文庫)

Roses of Picardy(ピカーディの薔薇)」 

生ける屍 (岩波文庫)

ガルガンチュア ガルガンチュアとパンタグリュエル1 (ちくま文庫)

The Diverting History of John Gilpin : complete with original Illustration (Illustrated) (English Edition)(ジョン・ジルピンズ・ライト)」

ヘルマンとドロテーア (岩波文庫)(ヘルマンとドロテア)」

ファウスト

草の葉

レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」全曲

 

 

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「結婚の奴」 2019

結婚の奴

★★★★☆

 

内容

 ゲイの男性と結婚生活のような暮らしを始めた著者。

 

感想

 契約結婚ではないが、なんとなくきっちりと条件を詰めての結婚的生活を始めたのかと思ったら、そういうわけでもなかった。ちゃんとデート的な事をして、結婚を前提にお願いします的な言葉を交わし、半同棲的な事をしてからの結婚的生活。こうなってくるとほとんど普通の結婚と変わらない。

 

 しかも元々、仲の良い友人というわけでもなく、気が合いそうだと判断したほぼ会った事もないような知人に自ら声をかけ、積極的に事を運んでいったというのがすごい。既成事実を積み上げて、もうやらざるを得ない状況に自らを追い込むことで、結婚的生活実現への推進力にしている。この感じもちょっと婚活ぽかったし、時々互いの結婚的生活の考え方にズレがあることに気付いて、戸惑ってしまう所まで普通の結婚生活そっくりだ。

 

 

 もっとドライな関係か、もしくはルームシェア的な関係かと思っていたがそうではなく、本当に結婚のようなことをしたかったという事なのか。しかし、結婚もそうだが、進学、就職、子育てなど、いわゆる社会に敷かれたレールを上手く走れないと、生きにくいのは事実だ。

 

 何の疑問もなく自然とレールの上を走れる人からすれば、毎度毎度立ち止まって逡巡している人の気持ちは分からない。それが普通で当然だと思っているから、なんの悪意もなく自然と、就職しないの?結婚はいつするの?なんて聞いてくる。意識的にレールを外れた生き方をしてやると決意しているのならまだしも、皆と同じ普通でいたいのにどうしてもそれが出来ない人は、そんな何気ない質問に毎回傷つくことになってしまう。

 

 自分も割と、迷いなくスイスイとレールの上を走っていく周囲の人間が不思議でしょうがなかった。そんな時に自分と同じような人を見つけると、勝手に仲間だと思って安心してしまうのだが、実は同じようでいて微妙に違うことに気が付いて、それはそれで傷ついたり、腹立たしく感じることもある。

 

 ただ、自分のここは普通じゃないよなと引け目を感じているような人でも、意外と別の部分では普通じゃない事を普通だと思って堂々としている事もあるような気がする。例えばこの本で言えば、ネットで知り合ったとんでもない人たちに会いに行ったり、初対面でキツいかもと思った男性と付き合ったり、自身のセックスを熱のこもらない平温で淡々と語れる著者はすごいなと思ってしまうが、きっと本人からしたら普通なのだろう。もしこの普通を誰かに押し付けたら、子供産まないの?みたいな感じで相手を傷つけてしまう事があるはずだ。

 

 そんな事を考えながら読んでいると、段々と「普通って何?」と分からなくなってくる。著者たちの恋愛感情のない結婚的生活も、きっと近所から見たらちょっと変わってるけどれっきとした普通の夫婦と思われているだろうし、世間の普通の夫婦たちだってその結婚生活を詳しく観察してみれば、皆同じではなくきっと千差万別で違うはずだ。

 

 そう考えると「普通」は、案外、懐が深いものなのかもしれない。普通じゃなくても、こうやって普通らしく振舞うのも有りなんだなと思わせてくれる。結婚に限らないが、なんでも無理やり合わせていくのではなく、自分に合ったスタイルを模索すればいい、という事だ。

 

著者

能町みね子 

 

結婚の奴

結婚の奴

 

 

 

登場する作品

四巨頭会談―男好きの男と女好きの女と女だった男と男だった女

ベリッシマ

光と私

あの娘が眠ってる

気分

Friends Again(Single Version) / フレンズ・アゲイン(シングル・ヴァージョン) (Remastered 2006)

世界一周ホモのたび (本当にあった笑える話)

神田川 (シングルバージョン)

女子をこじらせて

ときめかない日記 (幻冬舎文庫)

縁遠さん (コミックエッセイ)

東京を生きる

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

 

 

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「大学教授のように小説を読む方法」 2003

大学教授のように小説を読む方法

★★★★☆

 

内容

 大学教授はどのように小説を読み解いているのか。教授自らが解説する。

 

感想

  小説の中に出てくる様々な描写から、いろいろと読み取れることがある。食事のシーンは親密さを表し、雨は洗礼を示す。それをそのままの意味で使っている事もあるし、敢えて逆の意味に使う事で意外性を出そうとすることもある。そんな風な読み解き方がたくさん紹介され、とても興味深い。若干、パターンが多すぎて途中でダレてしまう部分はあるが。

 

 様々な小説の例を挙げながら展開される解説を読んでいたら、これまで読んでもいまいちピンと来なかった名作とされる作品たちは、こういう視点が欠けていたからだったのだなと痛感した。今回学んだことを意識して読み直したら、きっといろいろな事が見えてくるはずだ。すでに読んだ「ダブリナーズ」や「競売ナンバー49の叫び」も例として挙げられていて、そういう事だったのかと頷かさせられた。

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 ただ小説を理解するには、やはり文化的背景を理解していることが重要だ。聖書やギリシャ神話の話、色や動物などが意味するものなどは、欧米では自然と感じ取れるものかもしれないが、日本人にはピンと来なかったり、意味するものが違ったりする。そういった部分が、欧米文学を読んでもどことなく距離を感じるものにさせているのだろう。

 

 正直、登場人物がパンやワインを分け与えたり、大工だったりしただけで「もしかしてキリスト?」となる自信はない。いつも十字架背負ったらさすがに分かるぐらいか。同じような事が外国人にも日本の小説に対して起こっているのだろう。

 

 

 最後の章には、実際の短編を読んでみる実践の場があり、いつものただストーリーを追うだけではなく、この本で身につけた着眼点で読んでみると、色々なことに気付いてすごく楽しかった。犬が一匹横切るのにも意味はある。

 

 なんだか悟りを開いたように気分になって、これでどんな難解な本でも大丈夫という妙な自信が湧いてきた。今後の読書がもっと楽しくなりそうで、読んでよかったと心から思える本。出来る事ならもっと早く出会いたかった。

 

作家が死ぬまで待つ必要はない。生きているうちに本を買ってあげれば、印税は作家のポケットに入る。

p312

 

 最後におすすめの本が挙げられ、読書する上でのいくつかのアドバイスがされるのだが、これは確かにその通り。ついつい評価の定まった間違いのない古典を手に取ってしまいがちだが、作家が生きた時代の空気を感じながら読書できるのは、同時代人にしか与えられない特権なので、進んで享受するべだろう。それに著名な作家が亡くなるとちょっとしたブームが起きたりするが、同時代を生きていたのだから、生きている間にその作家の本を読んで、賛辞を贈りたいよなといつも思う。

 

著者

トーマス・C. フォスター 

 

大学教授のように小説を読む方法[増補新版]

大学教授のように小説を読む方法[増補新版]

 

  

 

登場する作品

くたばれ ! ヤンキース [DVD]

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シェーン(字幕版)

北北西に進路を取れ(字幕版)

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トム・ジョーンズの華麗な冒険 [DVD]

テンペスト [VHS]

サマー・ナイト [DVD]

ウエスト・サイド物語(字幕版)

パルプ・フィクション (字幕版)

エデンの東 (字幕版)

ゴーストバスターズ 

Can't Find My Way Home

ロストボーイ (字幕版)

オー・ブラザー! [DVD]

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マルタの鷹(字幕版)

汚名(字幕版)

Move It On Over

夢のカリフォルニア (Single Version)

冬の散歩道

ナイト・ムーヴス (2011-Remaster)

マギー・メイ

南米珍道中 [DVD]

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アパッチ砦(字幕版)

黄色いリボン

赤い河(字幕版)

シスコ・キッド [DVD]

銃撃 [DVD]

小さな巨人 [DVD]

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悪いことしましョ!(1967) [DVD]

青い影

ロール・オーヴァー・ベートーヴェン

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プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》 [DVD]

イージー★ライダー (字幕版)

テルマ&ルイーズ (字幕版)

「This life is Weary(この世はつらい)」

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黄金狂時代 コレクターズ・エディション [DVD]

モダン・タイムス(字幕版)

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インディ・ジョーンズ最後の聖戦 (字幕版)

駅馬車(字幕版)

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