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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「はじめて読む聖書」 2014

 

はじめて読む聖書(新潮新書)

★★★★☆

 

内容

 どのように聖書と接してきたのか、 作家や批評家、聖書学者などが語る。

 

感想

 それぞれが語る内容がどれも興味深く面白かった。聖書をただの宗教書としてだけ見るのはもったいない。世界最大のベストセラーであり、2千年近く読み継がれているのは単なる宗教書だからではなく、その内容に人を惹きつけるものがあるからだ。

 

田川 旧約聖書の時代には、神の像を刻んで拝んではならない、と言っていた。このことを拡張して考えると、単に彫刻をつくることだけじゃなくて、自分の頭の中に神の像をつくり、神という理念をつくり、その神によってすべてを説明する、というようなことになってはならない、ということじゃないでしょうか。

p110 「Ⅴ 神を信じないクリスチャン」 田川健三

 

 なかでも印象的だったのは5章の新約聖書学者、田川健三のインタビュー。神を信じるのであれば、神を想像する事すら間違っている、というのはすごい。それ以外にも、神は自らがいちいち手を差し伸べなくてもいいように人間をつくったはずだから、神様なしで上手くやれてこそ、神の存在を証明することになる、とか、すごい解釈だ。

 

 つまり神を求めてばかりいるようでは、本当の信者ではないということか。もはや神様は必要なのか?というレベルだが、こんなことを言い出す信者は教会は扱いづらいだろうなと同情してしまう。彼らにしてみれば、無邪気に神様を求めてくれた方がやりやすいだろう。

 

 

 それから、橋本治や池澤夏樹は聖書をちゃんと読んでないと断りながらも、それでも面白い話を展開していてさすがだ。ただし彼らのような人の言う「ちゃんと読んでいない」は、「じっくり読み込んでいない」だけで、「ほぼ読んでいる」ということだから気を付けないといけない。

 

 SNSなどでは彼らのような人の謙遜を真に受けて、レベル2ぐらいの人がマウントを取りにいく地獄が割とよく見られて、インターネッツはすごいなと思ってしまうのだが、知識が増えるほど人は謙虚になっていく現象は覚えておいた方がいいだろう。あの人ですら詳しくないと言っているのだから、自分も知らなくてもいいかなと判断してしまうのは軽率かもしれない。逆にやたら断定調で話す人のうさん臭さにも気づくかもしれない。

 

 様々な人の話を読んでいて、自分が聖書に関心があるのは、池澤夏樹のように小説や映画で使われている聖書のモチーフを理解したいからなんだよなと再確認した。ご存じないんですか?映画のあのシーンは聖書のあの部分を引用しているんですよ、とか言いたい。ちゃんと相手のレベルを確認した上で。

 

著者

山形孝夫/池澤夏樹/秋吉輝雄/内田樹/田川健三/山我哲雄/橋本治/吉本隆明/山本貴光

 

はじめて読む聖書(新潮新書)

はじめて読む聖書(新潮新書)

 

 

 

登場する作品

ぼくたちが聖書について知りたかったこと (小学館文庫)

バビロンに行きて歌え (新潮文庫)

日本文法大辞典

「カール・ギュツラフ略伝と日本語聖書」 秋山憲兄

イーリアス

古事記 (岩波文庫)

ジーザス・クライスト=スーパースター (2000) (字幕版)

バッハ:目覚めよと呼ぶ声あり(目覚めよ、とわれらに呼ばわる物見らの声)」

神学部とは何か (シリーズ神学への船出)

ヤコブ物語 ヨゼフとその兄弟たち 1

岩波文庫 クォ ヴァディス 上・中・下巻の3冊

草の花 (新潮文庫)

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愛する時と死する時〈上巻〉 (1958年) (新潮文庫)

「燃える棘」 石川淳

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アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)

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ビラヴド (集英社文庫)

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日曜日だけの一カ月 (新潮・現代世界の文学)

走れウサギ (上) (白水Uブックス (64))

情事の終り (新潮文庫)

ブライヅヘッドふたたび (ちくま文庫)

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オデュッセイア(上)

古代文化の光―ユダヤ教とクリスト教の考古学的背景 (1961年)

困難な自由 (叢書・ウニベルシタス)

ブルトマン著作集〈1〉共観福音書伝承史 (1983年)

使徒行伝と歴史 (現代神学双書)

新約聖書 訳と註 1 マルコ福音書/マタイ福音書

批判的主体の形成[増補改訂版] (洋泉社MC新書)

キリスト教思想への招待

イエスという男 第二版 増補改訂

書物としての新約聖書

平家物語 (岩波文庫 全4冊セット)

校訂延慶本平家物語〈1〉

完訳源平盛衰記―完訳 (1) (現代語で読む歴史文学)

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窯変源氏物語 全14巻セット

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)

マルクス 資本論 全9冊 (岩波文庫)

精神分析入門(上) (新潮文庫)

忍法破倭兵状 忍法帖 (角川文庫)」所収 「忍法天草灘」

「女大学」

和本,和俗童子訓1巻(全3冊5巻) (長野電波技術研究所)

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

芸術的抵抗と挫折 (こぶし文庫 52 戦後日本思想の原点)

マチウ書試論・転向論 (講談社文芸文庫)

旧約聖書外典(上) (講談社文芸文庫)

新約聖書外典 (講談社文芸文庫)

ユダの福音書を追え

ナグ・ハマディ文書〈1〉救済神話

死海文書―テキストの翻訳と解説 (1963年)

ナグ・ハマディ写本―初期キリスト教の正統と異端

死海写本の謎を解く

中世思想原典集成 精選1 ギリシア教父・ビザンティン思想 (平凡社ライブラリー0874)

ユダヤ哲学―聖書時代からフランツ・ローゼンツヴァイクに至る

聖書は誰のものか?―聖書とその解釈の歴史

美術で読み解く 旧約聖書の真実 (ちくま学芸文庫)

美術で読み解く 新約聖書の真実 (ちくま学芸文庫)

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

詩篇の音楽 旧約聖書から生まれた音楽 寺本まり子/著

Jerusalem

キリスト教音楽の歴史―初代教会からJ.S.バッハまで

日本の聖書―聖書和訳の歴史 (講談社学術文庫)

God Is Back: How the Global Revival of Faith Is Changing the World (English Edition)

ユダヤ古代誌1 (ちくま学芸文庫)

GOD―神の伝記

聖書の謎百科

原典 ユダの福音書

発掘された聖書―最新の考古学が明かす聖書の真実

聖書の日本語 翻訳の歴史 (岩波オンデマンドブックス)

死海写本―発見と論争1947‐1969

捏造された聖書

アジモフ博士の聖書を科学する (1983年)

聖書時代史―旧約篇 (岩波現代文庫)

聖書時代史 新約篇 (岩波現代文庫)

私の旧約聖書 (中公文庫)

私の聖書

死海のほとり (新潮文庫)

私にとって聖書とは

ヨブへの答え

歯車・至福千年 (講談社文芸文庫)

日本の名随筆 (別巻100) 聖書

 

 

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「ダブリナーズ」 1914

ダブリナーズ (新潮文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 アイルランド・ダブリンで暮らす人々の姿を描いた短編集。別邦題に「ダブリン市民」「ダブリン市井事」「ダブリンの人々」 「ダブリン人」「ダブリンの市民」「ダブリンの人びと」など。

 

感想

  理解できるがなんとも言えないような気分になるものや、分かるような分からないような内容だったりの、うーん、となってしまうような短編が続く。巻末の解説によると、音楽的に書かれているそうなので、原文で読まないとその良さが十分に理解できないのかもしれない。またパロディや引用も多いということで、そのあたりの知識も必要になってくるのだろう。

 

 短編集のタイトルからも分かるように、ダブリンという場所に焦点が当てられている。自分の中では、ダブリンはヨーロッパの辺境の田舎町というイメージなのだが、読んでいる最中はダブリンの話だと意識する事はあまりなかった。気づいていないだけで、いかにもダブリンらしい描写が出てきたりしていたのだろうか。

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 なんとなくぼんやりとした感じで読み進めていたのだが、最後の2つの短編は良かった。この2つは短編というよりも中篇といった方がいいような文章量だが。少し長くなったからか、登場人物たちの理解が深まって楽しむことができた。もしかしたら、ようやくこの本の世界に馴染んできたということなのかもしれない。

 

 特に最後の「死者たち」は、生と死が鮮やかに描かれていてグッと来た。我々は束の間の生を生きているに過ぎないのだなと、しみじみとしてしまった。何事にも終わりがやって来て、やがて思い出となる。そしてそれを思い出す人すらもいなくなり、すべてが無へと帰っていく。

 

 

 

著者

ジェイムズ・ジョイス

 

ダブリン市民 - Wikipedia

 

 

登場する作品

少年少女世界文学全集 第24巻―国際版 アボット」所収 「アボット(僧院長)」

「Devout Communnicant(信心深き聖餐拝受者)」

Memoirs of Vidocq(ヴィドックの回想録)」

「come-all-you(みんな来い)」

「士官候補生ルーセル」

Silent, O Moyle(静まれ、おおモイル)」

The Bohemian Girl / Act 2: 夢のボヘミア娘(歌劇《ボヘミアの娘》から)(夢に見しわれは)」

「Maynooth Catechism(メイヌース教理問答)」

「Michael Kramer(マイケル・クラマー)」 ハウプトマン

ツァラトゥストラはかく語りき

ニーチェ全集〈8〉悦ばしき知識 (ちくま学芸文庫)(楽しき知識)」

トマス・ムーア編「アイルランド歌曲集」

シェイクスピア全集 (2) ロミオとジュリエット (ちくま文庫)

「兵士のごとく斃れん」

Dinorah Ou Le Pardon De Ploermel [DVD] [Import](ディノラ)」

ドニゼッティ:歌劇「ルクレツィア・ボルジア」(Donizetti: Lucrezia Borgia)[2CDs]  

The Lass of Aughrim(オーグリムの乙女)」

「婚礼のために装いて」 ベッリーニ

 

 

関連する作品

映画化作品 

ザ・デッド/「ダブリン市民」より [DVD]

ザ・デッド/「ダブリン市民」より [DVD]

  • アンジェリカ・ヒューストン
Amazon

 

 

この作品が登場する作品

「死者たち」 

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「スピンクの笑顔」 2017

スピンクの笑顔

★★★☆☆

 

内容

  飼っている犬からみた著者の生活を綴ったエッセイ。

 

感想

  スピンクシリーズの最終巻。スピンクも高齢となり、あまり愉快な出来事が起こらなくなったからか、思い出話がかなりの部分を占めている。なんとなく年寄りが昔話をよくするようになるのと似ているのかもしれない。まるで犬の生涯の終わりが近付いている事を暗示ているようでもあった。

 

 ほら出た。ほら出た。みんなやってる、だ。みんなやってる。みんな買ってる。みんなそうしてる。だから正しいんだ、だからそれに従わぬお前は間違ってる、ってロジック。あのものたちの最終兵器。いやさ、あのものたちの神。

 p38

 

 とはいえ、いつも通りに時おり印象的な言葉が出てくる。そして、そんな言葉を放っておきながら、カッコよく終われず、結局情けない姿を晒すところが面白いし、安心する。このあたりは、エッセイなのだがフィクションが入り混じって不思議な世界観。

 

 スピンクと著者の関係もいかにも古い付き合いといった感じで、衝突するのではなくお互いを認め合うような関係。どことなく互いを見る目も老成している。他者の目で自分を見てみようとするとき、その他者が老人なのか若者なのか、どう設定するかで意外と見方が変わるのかもしれない。

 

 

 最後の突然の終わり方が切ない。でも別れというものはそういうものだ。いつもとは違うテイストで綴られる文庫本のあと書きには、著者のまだ癒えぬ悲しみを感じさせる。単行本の発売から三年経ち、ということは、別れからすでに三年以上が過ぎているというのに。

 

著者

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スピンクの笑顔 スピンク日記 (講談社文庫)

スピンクの笑顔 スピンク日記 (講談社文庫)

  • 作者:町田康
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

かわいい女 (創元推理文庫 131-2)(可愛い女)」

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多甚古村

花嫁

藪の中

たどり着いたらいつも雨降り

マッハGo Go Go ミュージックファイル Round-1」所収「マッハGOGOGO」

花笠道中

ちあきなおみ全曲集」所収「喝采」

悲しみのアンジー

港が見える丘

 

 

関連する作品

前作

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「教養としての聖書」 2015

教養としての聖書 (光文社新書)

★★★★☆

 

内容

 聖書の中から六つの書をピックアップしてダイジェストで解説した本。著者が行った講座の内容をもとにして書籍化。

 

感想

 聖書がいくつかの書からなっているという事すら知らなかったので、めちゃくちゃ勉強になった。しかし、映画やテレビで見る宣教師が持っている聖書は一冊だが、あれはそのうちのどの書を持ってるのだ?と気になってしまった。それとも分厚いのですべての書がまとめられているという事なのか。

 

 本書を読んでいて一番意外だったのは、殺生や戦争を完全には否定していない事。宗教というものは、そういう事を完全否定するものだと思っていた。神は何度も怒り、様々な集団を滅ぼしたりしている。どうりで宗教がらみの戦争や殺戮が頻繁に世界で起きているわけだと腑に落ちた。

 

 

 とにかく何も考えずに俺の言うことを聞け、ちゃんと聞いたらおいしい思いをさせてやる、というのはまるでどこかの独裁政権や悪代官のようだな、というのがざっくりとした印象。しかも俺のために死ね、とまで言うのだから、大日本帝国ぽくもある。意外と日本人に向いているのかも、と思わなくもない。

 

 モーセは神に反論してます。抗議しています。神はえらいですけど、理屈があれば、何を言ってもいい。「神さま、なんでこうなんですか?」みたいな。これが一神教の考え方です。日本人は相手がえらいと、「ハハ―」みたいになっちゃって、論争できませんね。

 p73

 

 でもこういう部分を読むと、やっぱり向いてないかも、と思ったり。ただ宗教は人々の生活に大きな影響を与えているのだなという事を思い知らされる。無神論者のつもりの自分だって、気付かないうちに神道や仏教の影響を受けているはずだ。そういう意味でも、世界の様々な宗教を理解することは重要だなと感じた。

 

 私としては、この書の預言を聞く者すべてに警告する。もし、それに書き加える者があれば、神がその者に、この書に書き記されている災いを加える。もし、一部でも取り除く者があれば、命の木と聖なる都の取り前を取り除かれる。 

p327

 

 文書の改ざんも禁じているから、さらに日本人には向いていないのかとも思ったが、文書を残して保存、管理するというのは世界の常識なので関係ないか。でも、キリスト教の影響の強い国では、日本で起きた信じられないような文書改ざん事件と同様の事は起きないような気がした。改ざん自体に抵抗を感じるだろうし、命じる上司に皆が異議を唱えて抵抗するだろう。仏教や神道にはそんな教えがないのか気になった。

 

 旧約聖書を扱った前半は歴史物語を読んでいるようで楽しかったのだが、新約聖書の「ローマ人の手紙」は言ってること難解で、良く分からずつらかった。そして最後の「ヨハネの黙示録」はトンデモ過ぎて頭に入ってこなかった。ただ、天使や怪物や魔法などが出てくるファンタジー系の物語が好きな人は楽しんで読めるのかもしれない。

 

 全体を通して読むことで、モーゼの海を割る話やノアの箱舟など、今まで断片的に知っていた聖書のエピソードやワードが、パズルのピースのようにはめ込まれ、全体が見えてくる体験は楽しかった。大まかな全体像をつかむには良い本だ。

 

 それから、ヒッチコックの「鳥」は実は聖書からヒントを得ていたといった話も興味深かった。その他にも、これは小説のタイトルにあったなとか、映画で引用されていたなと気づくこともあって、そういうものをより深く楽しむためにも聖書の知識は必要だなと痛感した。ただ全部を読み通すのはしんどそうなので、つまみ食いをする感じで気になる部分を読んでいきたい。

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著者

橋爪大三郎 

 

教養としての聖書 (光文社新書)

教養としての聖書 (光文社新書)

 

 

 

登場する作品

これから読む聖書: 創世記

The Bible with Sources Revealed (English Edition)

十戒 (字幕版)

トマスによる福音書 (講談社学術文庫)(トマス福音書)」

原典 ユダの福音書(ユダの福音書)」

ナグ・ハマディ文書 I 救済神話 (岩波オンデマンドブックス)

サロメ (岩波文庫)

最後の晩餐の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

SCIENCE AND HEALTH WITH KEY TO THE SCRIPTURES (English Edition)(科学と健康)」

黙示録論 (ちくま学芸文庫)

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「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」 2019

つけびの村  噂が5人を殺したのか?

★★★☆☆

 

内容

 2013年に山口県の過疎地で起きた連続殺人放火事件を取材したルポ。

山口連続殺人放火事件 - Wikipedia

 

感想

 事件発生当時は、Uターンしてきた犯人に住民達が嫌がらせをしていたなどと噂され、平成の津山事件・八つ墓村とも囁かれた事件。犯人による「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という貼り紙も話題になった。ただ実際のところ、具体的な嫌がらせの行動というのはほぼなかったようである。犯人ですらそのような事を供述しておらず、あの頃盛んに飛び回っていた噂は何だったのだ?という気になる。あの貼り紙も当時の皆が想像していたものとは違った。

津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)
 

 

 ただ「嫌がらせ」というのは、よく考えるとどんなものなのかが分からなくなる。こうしてください、これはやめてください、というのは単なるお願いや注意かもしれないが、捉え方によっては嫌がらせに感じることもあるはずだ。犯人は被害妄想気味だった。とはいえ、犯人が被害者の一人に刺されているのは事実で、それがまるで大したことがないように流されているのはちょっと怖い。

  

そしてワタル自身も、まず信頼関係を築く前に、近代的な家の設備で村人たちを呼び寄せようとしたことが裏目に出た。「Uターンハイ」とでも形容できるような状態になっていたのだろう。

p57 

 

 両親の介護のために東京からUターン移住した犯人。想像できるだけに「Uターンハイ」という言葉は心に痛い。本人は新しい生活を始めるという事で気分一新で張り切っているのだが、いつもの生活を続けているだけの村人たちにとってはただ鬱陶しいだけだ。町おこしや村おこしの難しさはここにある。住民の中にある温度差が、軋轢を生む。

 

 そして、ゼロからのスタートのつもりで始めた犯人の新生活だが、実はマイナスからのスタートだったというのもつらい。彼には両親の悪い噂が付きまとっていた。これを本人が元々承知していたのかは気になる。彼の幼少期はそれなりの人口の村だったという事なので、もしかしたら犯人の耳には入っていなかったのか。

 

 

 著者が取材を続けるにつれ、次第に明らかになる村の様子。犯人が戻ってくる前から放火があったり、飼ってる犬や猫が死んだりするという不穏な出来事が起きていた。それらの犯人もどうやら皆には目星がついているようだ。段々と空恐ろしくなってくる。そしてそんな話や今回の殺人放火事件について、あっけらからんと話す村人たちの様子がまた怖い。村のヤバさが浮き彫りになってくる。

 

 ただこれは、そんな日常を過ごさなければいけない村人たちのある種の知恵なのかもしれない。不安に怯えて閉じこもっているわけにはいかない以上は、笑い飛ばしてカラ元気で行くしかないということなのか。大したことではないと自分に言い聞かせて。

 

 そんな小さな村で威力を放っていたのは村人たちの噂話。どこにでもあるものだが、20人にも満たない村ではその一つ一つが大きな影響力を持つ。場を盛り上げたいだとか、承認欲求だとかできっと話に尾ひれがついていったはず。ほとんどが高齢者という事で、寂しさを紛らわすという事もあったのかもしれない。何度も通って気心が知れてきたのだろうが、よそ者である著者に対しても村の事を色々とペラペラと喋っているのが印象的だ。もしかしたら著者に取材で答えた内容にも、尾ひれがついてしまっているかもしれない。

 

 噂話は、生協の配達で村人のひとりの家に皆が集まるようになってからブーストしたという話は興味深い。人が集まると何かが起きる。独裁政権が人が集まるのを嫌うのが良く分かる。その噂話をもとに、誰かを注意することもあったという。

 

 意気込んでいた村の生活が上手くいかず、自分に関わる悪い噂もあるようだと感じていた被害妄想気味の、失意の底にあった犯人にとって、あちこちで村人が集まり話をする様子は自分の悪口を言っているように見えてしまったのかもしれない。何人かの被害者の遺体には、口の中に棒を突っ込まれたような跡があったというが、まるで「噂話をするな、黙れ」と言っているようでもある。

 

 読み進めると、事件当時のニュースで抱いた印象とはまた違った事件の姿が浮かび上がってくる。特に前半部分は興味深く読んだが、書籍化が決まってから書き足したという後半部分はいまいちだった。手紙のやり取りをしていた犯人からはまともな話を聞けなさそうだし、さらに事実だとしても被害者を含め村人たちの悪いことを書くのは支障があるしと色々と手詰まりだったのかもしれない。事件とは別に、裁判の問題点やノンフィクション作家の厳しい状況は良く伝わってきたが。

 

著者

高橋ユキ 

 

 

 

登場する作品

忘れられた日本人 (岩波文庫)

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 (ちくま学芸文庫)

よばいのあったころ(証言・周防の性風俗)

U‐miz

魔女の宅急便 [DVD]

津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)

およげ!たいやきくん

防長風土注進案 (1983年)

「山口縣風土誌(五)」

鹿野町誌 (1970年)

「須金村史」

「金峰百年の歩み」

U.S.A.(CD)

戦場中毒 撮りに行かずにいられない

 

 

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「イエスの幼子時代」 2013

イエスの幼子時代

★★★☆☆

 

あらすじ

 移民としてやってきた男と、彼と行動を共にする母親を探す男の子。

 

感想

 移民として一緒にとある街にやってきた初老の男と母親を探す男の子の物語だ。その冒頭からどこかふわふわしていて、いかにも寓話的だ。以前に何があったのか、主人公である老人は何をしていたのか、何も明かされない。

 

 二人がやってきた街は、一応は良さそうな街だ。難民のために住む所も用意してくれるし、仕事も紹介してくれる。バスもタダだし、仕事の補償もしっかりとしていて、生活のサポートは十分に満足できる。ただ、どこかおかしい。

 

 

 そして、そこに住む人々も善人だがどこか変だ。主人公たちが最初に出会った移民センターの受付の女性は、泊まる場所がないという二人を自宅に連れて行ってくれるのだが、案内されたのは裏庭で、そこで野宿しろという。この親切なのだか、鬼なのだか分からない行動が不気味だ。それでも知らない人間を自宅に泊めてあげること自体が親切なのかもしれないが、野宿しろという事の冷酷さを自覚していないのが怖かった。

 

 その後、主人公は順調に住む場所が決まり、仕事も決まる。ただ、仕事先の同僚たちも善人なのだがどこか噛み合わないし、知り合った女性との関係もどこかちぐはぐでしっくり来ず、主人公はストレスを感じている。おそらく原因は、彼らが物分かりが良すぎるという事なのかもしれない。彼らの言う事は道理が通っていて正論なのだが、じゃあこの行き場のない感情はどうすればいいのだ?という煩悶を理解してくれない。煩悩に悩む人と悟りを開いた人との違いのようだ。

 

 そのうち一緒に行動していた男の子の母親が見つかり、彼女に子供を託すのだが、ここからこの男の子が扱いにくい我儘な子供へと変わっていく。読んでいても腹立たしく、イライラするぐらいだ。そんな少年に引っ張られるように、母親も主人公も世間から外れていってしまう。特に主人公は、世間の言い分を理解しながらも、どこかで少年の言う事にシンパシーを感じていたという事なのだろう。

 

 これは有意義なルールだから、従ったほうがいい。ただ従うだけでなく、前向きに従うべきだ。嫌々引っ張っていかれるラバみたいな態度じゃなく、熱意と善意をもって。

p248

 

 タイトルからも想像できるが、キリストや聖書の話を意識しているのだろうから、その知識がないとそこまで楽しめないのかもしれない。少年がイエスなのはもちろん、その他の登場人物たちも聖書に登場する人物たちを表しているのではないかとされている。書評によっては、笑えるだとか、抱腹絶倒だとか言っているのもあったが、個人的にはそんなことは全然なかった。ただ、冒頭につながっていくようなラストは見事だった。

 

 それからおそらく原文がシンプルだからなのだろうと思うのだが、ナチュラルな翻訳で違和感なく読み進めることができた。特に若者言葉の訳し方があまりにも自然で、リアル過ぎてちょっと笑えてくるぐらいだった。

 

著者

J・M・クッツェー 

 

翻訳 鴻巣友季子

 

 

 

登場する作品

ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)

 

 

関連する作品

 

 

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「人間とは何か?」 1906

トウェイン完訳コレクション 人間とは何か (角川文庫)

★★★☆☆

 

内容

 人間とは何か?について語り合う老人と若者。  

 

感想

 人間は外部の刺激に対して自動的に返す機械に過ぎないと主張する老人と、それに反発する若者の会話が繰り広げられる。老人が新しい考え方を示し、若者が当時の一般的な考え方を代表していると言えるのだが、今読むと老人が至極普通のことを言っているように感じ、逆に若者の言っていることに違和感を感じてしまう。

 

 若者は人間は機械なんかじゃない、思いやりの心を持っているし自己犠牲の精神もある崇高な存在だと主張する。動物となんら変わらない、なんてとんでもないと慌てふためく様子を見ていると、それまで人間は必至で崇高な存在であろうと努力してきたのだなという事が良く分かる。

 

 

 当時はまだまだ宗教の影響が強かったという事だろう。この反応を見ていると、ダーウィンの人間は昔は猿だったという説が大きな反発を生んだというのも頷ける。未だにそれを受け入れられない宗教もあるわけで。しかし、人間は猿から進化したのではなく、神が作ったというのはとんでもない歴史修正だ。当時は言葉や文字といったそれを伝える術がなかったので責められないが。ただ真実を知ってどうするかで、その人が分かるという所はある。

 

老人 謙虚で、真剣で、誠実な「真理の探究者」は、いつだって改宗ができるのだ、こんな手段を使ってね。

p142

 

 老人の人間は機械だ、だから元々の性能と鍛錬によって決まる、というのは大体共感できる。ただ、インプットしたら勝手に出てくる機械なので、勝手に生じる成果に対して喜んだり誇ったりするのはおかしい、とまで卑下する事はない。それでもやっぱりそれを生み出せるのはその人だけだし、感情も機械に組み込まれているはずなので、それがあるから作動する機能もあるといえる。

 

 そもそも一人の人間をいくつかに分けて考えるのがどうかなと思ってしまう。分解して部分的に見ていくことは大事だが、最終的には組み立て直して全体を見ないと駄目だろう。

 

 ちなみに本編が終わった後の「訳者あとがき」がショッキングな内容で、ここでも「人間とは何か?」と考えることになってしまった。ちなみにその後2018年に逝去されたようで、想定より一年以上も生きられたことになる。

 

著者

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翻訳 大久保博

 

 

 

登場する作品

「イン・ザ・スイーート・バイ・アン・バイ(In the Swee-eet By and By)」

 

  

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「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」 2011

サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福

★★★★☆

 

内容

 これまでの人類の歴史を振り返り、今後どうなっていくのかを予測する。

 

感想

 人類、ホモ・サピエンスの歴史が語られていく。序盤はそこまで面白いという事はなく、これまでのおさらい、再確認といった感じなのだが、時々、興味深い考え方が出てくる。

 

農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。
 では、それは誰の責任だったのか?王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。

上巻 p107

 

 人類の歴史のターニングポイントとされる農業革命。これにより人類の生活が安定したので良い事だったと思い込んでいたが、実際の所はそうとも言い切れないようだ。確かにこれによって人口は増加し、サピエンスという種が生き残るには有利だったが、一人一人を見るとむしろ狩猟生活の方が幸せだったかも、というのはなんだか不思議な気分にさせられる。全体としては成功だが、個々で見ると失敗という結果。これは誰が喜べるのだろう。

 

 そして資本主義、帝国主義と共に、人類の発展の大きな要因となった科学の意義。知らないことがあると認めることで、皆が調査し、明らかにしようとする。そんなの普通の事だと思ってしまうのだが、それ以前はそうではなかったのか。それまでは知らない事、分からないことはすべて神の御業的なものだという事にして無理やり納得していたという事か。

 

 

 分からないことをそのままにしておくのではなく、何が分からないのかを明らかにして、調べていく。分からないことが分かるようになるというのは自信が持てるし、未来が明るいものに思えてくる。確かにこれは個人でも同じ。無知を認めない人は何年経っても同じことを言っていて暗澹たる気持ちになる。未来が明るいと思えるようになって、人類の進歩は加速した。

 

 そんな風に、ときどき感心する程度で読んでいたのだが、下巻の最後で語られる今後の人類についての考察は、自分の予想を超えていて刺激的で面白かった。そんなのSFの世界でしょと言いたくなってしまうが、よく考えれば今の科学ですべて出来そうな事だった。それを止めているのは主に倫理観だが、やがてそれも少しずつ変化していくのだろう。

 

 これからの人類は、DNAをいじったり、コンピューターを導入したりと、おそらくどんどんと人間の手が加えられていく。もはや今の人類は理解できない存在になるという。ちょうど我々が科学のなかった時代をよく理解できなかったように、新しい人類はまるで珍奇なものを見るかのように今の人類を見るのだろう。

 

 とはいえ、新しい人類を作るのは今の人類のわけなので、どんな人類を作るべきなのかをしっかり考えるべきだ、それにはまず我々は何を求めて生きているのか改めて考える必要がある、という結び。確かに神様の役目をすることになるので、頼んでもないのに何で生んだんだ!と責められないようにしたいものだ。

 

 そんな大変化が起きるのは何年後、何世紀後になるのか分からないが、その前に一旦世界はディストピア化するのでは、という気が最近はしている。「ディストピアだ。最悪だ!」ではなく、「ディストピアなの?そんなに悪くないけど。」というタイプの「すばらしい新世界」的なディストピア。ネットの普及で可視化されるようになった大衆を見てみれば、民主主義はそれほど理解されず、根付いていなかった事が良く分かる。もしかしたら人類には向いていないのかもしれない。

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著者

ユヴァル・ノア・ハラリ 

 

サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 - Wikipedia

 

 

登場する作品

鏡の国のアリス (角川文庫)

イリアス〈上〉 (岩波文庫)

マハーバーラタ(上)

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」

マトリックス (字幕版)

ターミネーター(字幕版)

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ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)

スペイン黄金世紀演劇集」所収 「ヌマンティアの包囲戦(ヌマンシアの包囲)」

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牧歌/農耕詩 (西洋古典叢書)」所収 「ゲオルギカ」 ウェルギリウス

資本論 第一部草稿~直接的生産過程の諸結果~ (光文社古典新訳文庫)

わが闘争(上下・続 3冊合本版) (角川文庫)

「自然哲学の数学的諸原理(プリンシピア 自然哲学の数学的原理 全3冊合本版 (ブルーバックス))」

ノヴム・オルガヌム―新機関 (岩波文庫 青 617-2)

国富論(上) (講談社学術文庫)

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ジュラシック・パーク(字幕版)

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「フランケンシュタインあるいは現代のプロメシュース」 メアリー・シェリー 

 

 

この作品が登場する作品

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「スローターハウス5」 1969

スローターハウス5

★★★★☆

 

あらすじ

 時間を行ったり来たりすることができ、宇宙人にさらわれたこともある男の生涯。

 

感想

 第2次大戦に出征し、捕虜となってドレスデン爆撃に遭遇した体験がメインに描かれている。しかし、敵の捕虜になっていたとはいえ、味方に爆撃を受けた気分はどんなだったのだろう。お国のためにと命をかけるつもりだったのに、そのお国に殺されそうになるなんて、戦争の馬鹿らしさを実感するには十分だったかもしれない。

ドレスデン爆撃 - Wikipedia

 

 とはいえ物語は、それに対してドラマチックに憤ったり悲しんだりすることはなく、ただただ淡々と進んでいく。無気力に、流されるままに身を任せている。

 

この小説には、性格らしい性格を持つ人物はほとんど現われないし、劇的な対決も皆無に近い。というのは、ここに登場する人びとの大部分が病んでおり、また得体の知れぬ巨大な力に翻弄される無気力な人形にすぎないからである。いずれにせよ戦争とは、人びとから人間としての性格を奪うことなのだ。

p194

 

 その姿勢は戦争中だけではなく、戦争が終わった後も続く。戦争を経験してしまった事で、もはや自由意思を用いる事を忘れてしまったかのように、主人公は操り人形のように漂うだけだ。そして、意図しない日時に時間旅行をしてしまうという特殊な能力を持つという主人公の設定が、それを強調するのに効いている。捕虜としてあちこち場所を移動させられるのも、時間をあちこち移動させられるのも大して変わらないとばかりに、慌てふためく事もなく常に無気力。過去を変えることで未来を変えようなんて思わない。それはもうそういうものなのだ。無常観というか、悟りというか、ただ時が流れるのを見つめている。

 

 さらには宇宙人に連れ去られて彼らの星で見世物にもなるのだが、それすらも「そういうものだ」と言わんばかりに、されるがままに受け入れている。そんな状態なのに、主人公が戦後、大金持ちになっているのが可笑しいが、そういう時代だったというだけなのかもしれない。そこには何も達成感は感じられない。

 

 

 時間軸が前後して物語が展開するので、これは中盤の話になるのだが、人生の終盤で彼は、自らの人生観というか人生のやり過ごし方を人々と分かち合おうとするようになる。だけどこれも決して積極的な様子はなくて、消極的であることを積極的に訴えているような感じ。皮肉というかなんというか。こんな状態を生み出してしまう戦争の無意味さ、悲惨さがひしひしと伝わってくる。

 

著者

カート・ヴォネガット

 

スローターハウス5

スローターハウス5

 

スローターハウス5 - Wikipedia

 

 

登場する作品

「異常なる民間の妄想と群衆の狂気(Extraordinary Popular Delusions and the Madness of Crowds : Complete and Unabridged : All Three Volumes 1841-54)」 チャールズ・マッケイ 

「風に捧げる言葉(Words For The Wind )」 シオドア・レスケ(Theodore Roethke)

「セリーヌとそのヴィジョン(Celine and His Vision)」 エリカ・オストロフスキー

なしくずしの死〈上〉 (河出文庫)

「兵卒スロヴィクの処刑(The Execution of Private Slovik)」 ウィリアム・ブラッドフォード・ヒューイ

人形の谷間 (1970年)

「赤色武勲章(赤い武功章―他3編 (岩波文庫))」

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アイヴァンホー〈上〉 (岩波文庫)

「ドレスデンの破壊(The Destruction of Dresden)」

新装版 新訳 アンクル・トムの小屋

 

 

関連する作品

 映画化作品 

スローターハウス5 [DVD]

スローターハウス5 [DVD]

  • 発売日: 2019/09/04
  • メディア: DVD
 

 

 

この作品が登場する作品

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「狂犬の眼」 2018

凶犬の眼 「孤狼の血」シリーズ (角川文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 左遷され田舎の駐在所に勤務していた主人公は、所轄の工事現場に敵対する組織のトップを殺害したとされる手配中のヤクザが潜んでいる事を知る。「孤狼の血」シリーズの2作目。

 

感想

 前作から時間が経過し、警察官である主人公は左遷され、田舎の駐在所勤務となっている。いかにも田舎にありがちな村人たちが村の有力者を気にする様子や、新参者の主人公をどんな人間か見極めようと観察する様子が描かれている。

 

 村人に気を使う主人公が延々と描かれていくのかと思ったがそんなわけもなく、指名手配されて逃亡中のヤクザが地域の工事現場に潜伏することになって物語は始まる。ただ、前作のような抗争中の暴力団の間をのらりくらりとうまく立ち回る緊迫感みたいなものはなく、この逃亡中のヤクザとの関係が中心となって描かれる。

 

 

 全面戦争となりかけている抗争がこのまま大きくなっていくのか、終焉に向かっていくのか、見極めようとする主人公。しかし、結局ヤクザの世界も相手を壊滅状態に追い込む事はまずなくて、良き所で手打ちをするのがほとんどの結末だ。彼らもつまりは平和を望んでいるということか。

 

 ヤクザの世界では、このさじ加減が上手い人間が上に行けるのかもしれない。ただ強いだけでは駄目で、有利な手打ちの条件を引き出せる状況を作って抗争を終わらせられる人間だ。ここで個人的感情や義侠心で抑えが利かなくなってしまう人間は、味方にすら爪弾きにされてしまう。

 

 そんな中で警察の役目は、両陣営の戦いを見守る審判みたいなものか。民間人に被害が及んだり、近隣住民が怯えるような出来事は反則として取り締まる。とはいえ主人公のように審判が肩入れしたり、賄賂をもらったりすることもある。だからヤクザは審判を味方に引き入れることも重要となる。

 

 主人公はさすがに一人のヤクザに肩入れし過ぎな感はあるが、そのヤクザはそうなってしまうのも分からなくはない義侠心を感じる男だった。今回はこのヤクザの生きざまを描いた物語となっている。クライマックスは立てこもり事件となるが、その原因となった人物は誰かが読めてしまってちょっと冷めた。冒頭の良く分からない刑務所での面会シーンが、後半に効いてくる構成は上手い。

 

著者

柚月裕子

 

孤狼の血 - Wikipedia

 

 

関連する作品

前作 シリーズ第1作 

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次作 シリーズ第3作

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「移動祝祭日」 1964

移動祝祭日(新潮文庫)

★★★★☆

 

内容

  文豪としての地位を確立していた晩年のアーネスト・ヘミングウェイが、まだ駆け出しだったパリ時代を回想する。

 

感想

 まだ名もなき文学を志す一青年だったころのヘミングウェイのパリ時代が描かれる。若い頃のヘミングウェイの文学にかける情熱がひしひしと伝わってきて、胸が熱くなる。

 

創作の井戸をからからに涸れさせず、まだ井戸の底に水が残っている段階でいったん切り上げて、夜のあいだにまた泉から注ぐ水で井戸が満たされるようにする―—―それが最善の策だということに私はすでに気づいていたのだ。 

p42

 

 ただなんとなくパリにいるのではなく、毎日コツコツと文章を書き続け、どうすればよい小説が書けるのか試行錯誤を繰り返して精進している。目標を達成するためにはこれくらい真摯に取り組まないと駄目だよなと、身が引き締まる思い。モチベーションが上がる。

 

 そして、そんな金もなく将来も見えないヘミングウェイを支える奥さんが素敵だ。金がなくてもそれを苦にするでもなく、ただ良い面だけを見ようとする。手持ちのカードで人生を楽しもうとする姿勢は、ヘミングウェイにとっては心強かったはずだ。彼女だったから頑張れたのかもしれない。それだけに、その後二人が別れてしまったというのは寂しい。成功して苦労時代を知る奥さんと別れるというのは、よくある話ではあるのだが。

 

 

 そんな二人が過ごしたパリ。そこでヘミングウェイが交流した人々の多彩さには驚かされる。「グレート・ギャッツビー」のF・スコット・フィッツジェラルドや「ユリシーズ」のジェイムズ・ジョイス、その他にもたくさんの芸術家たちが登場する。この時代(1920年代)の世界的な文化人は皆パリにいたのでは、と思ってしまうほど。

 

 こうやって世界各地からやってきた才能あふれる人々が交流することで、ますます文化が栄えていったのだろう。多様性というのは大事だ。志のある若者たちがパリを目指したのも理解できる。この当時のパリも登場するウディ・アレンの映画「ミッドナイト・イン・パリ」をもう一度見直したくなった。

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 今だとこの時代のパリ的な役割を果たしている都市はどこになるのだろうか。ネットの普及でわざわざ出かけなくてもいろんな人に会えるが、やはり直接会って交流することの重要性というのはあるような気がする。アポイントを取って目的をもって会うのではなく、街のどこかでたまたま出会って何気ない会話を交わすことから新しい何かが生まれるかもしれない。才能ある人たちの良い面悪い面を見ることで学ぶこともあるだろう。

 

 数々のエピソードの中では、フィッツジェラルドとのエピソードが印象的だった。まだ無名だったヘミングウェイとすでに成功し有名人となっていたフィッツジェラルド。そんな彼らが二人きりでドライブ旅行をしたことがあるというのは、なかなか凄いことじゃないだろうか。着実に地位を築いていくヘミングウェイと落ちぶれていくフィッツジェラルドというその後の展開も考えると、なかなかに味わい深いエピソードだ。

 

 この本はヘミングウェイが無名だった頃に書いたものではなく、文豪として名を成した後に書いたものであることには留意しなければいけない。人の思い出は都合よく書き換えられるものだ。自分を良く見せたいとか、作家としてのイメージを保ちたいだとか様々なバイアスがかかっているはず。当時交流していた人たちでも、その後に仲たがいした人たちの事は悪く書かれているようだ。

 

 さらにこの本は、ヘミングウェイの意図が反映されているわけではなく、彼の死後に奥さんによってまとめられ、出版されたというのがややこしい。自分の知らない夫の若い頃の話に対する複雑な思いがあったかもしれないし、彼女は彼女で夫のイメージを守りたいという気持ちがあったかもしれない。ここにもバイアスがかかっている可能性がある。

 

 それはそれで物語にどう影響を与えているのか考えながら読むのも面白いとは思うが、シンプルに夢を追っていた時代の青春の思い出話として楽しめる。

 

著者

アーネスト・ヘミングウェイ 

 

移動祝祭日(新潮文庫)

移動祝祭日(新潮文庫)

 

 

 

登場する作品

  「われらの時代・男だけの世界: ヘミングウェイ全短編 (新潮文庫)」所収「北ミシガンで」「ぼくの父」「季節はずれ」

三人の女 (Mag・novels)」所収「メランクサ」

The Making of the Americans (English Edition)(アメリカ人の成り立ち)」

ロレンス短篇集 (ちくま文庫)」所収「プロシア士官」

息子と恋人 (ちくま文庫)

The White Peacock (English Edition)(白孔雀)」

恋する女たち〈上巻〉 (1964年) (角川文庫)

下宿人 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 199)

13の秘密 第1号水門 (創元推理文庫)」所収「第1号水門」

La Maison Du Canal (Presses-Pocket)(運河の家)」

黒い笑い (1964年) (アメリカの文学)(暗い笑い)」

猟人日記 (角川文庫)

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

「賭博者・その他の短編」 ドストエフスキー

「年間短編傑作選(1923)」 エドワード・オブライアン 

荒地 (岩波文庫)

ユリシーズ 文庫版 全4巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)

パルムの僧院〈上〉 (岩波文庫)

Mazeppa, A Poem. (Lord Byron Classics) (English Edition)(マゼッパ)」

罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)

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Out of Africa(アフリカの日々)」

「改訂版水路測量局地中海航海指針」

「ブラウン航海暦」

 

 

登場する人物

F・スコット・フィッツジェラルド

 

 

この作品が登場する作品

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「超芸術トマソン」 1987

超芸術トマソン (ちくま文庫)

★★★★☆

 

内容

 建物に加えられた変更により塞がれた門や窓、上った先に何もない階段など、実用的な用途がなくなったにもかかわらず、なぜか保存されている無用の長物を「超芸術トマソン」と命名し、報告された全国のトマソンを紹介する。

トマソン - Wikipedia

 

感想

 皆が毎日目にしていたのに、何も感じずスルーしていたような場所に、違和感を感じてそこに注目する。そしてそれを面白がって、しかし真面目に論じることで、同調するものが集まってムーブメントになっていくというのが興味深い。

 

 著者の前にこれを発見した人はたくさんいたと思うが、昔はそんな事を発表できる場は限られていて、発言できる人も限られていた。そして、そんな場で発言する人の多くは取り澄ましていて、こういったことを言う人はいなかったのだろう。

 

 

 これに反応して各地のトマソンを報告する人たちも、楽しげなのがいい。基本的には真面目なのだが、どこかふざけてるような、面白がっているような所があり、それに著者もちゃんと応えている。この遊びのような雰囲気が、新たな展開を生むのに必要な事なのかもしれない。

 

 たくさん紹介されるトマソンの中で一番印象的だったのは、解体された銭湯に残された煙突の話。報告者が煙突のてっぺんで自撮りした写真の話に、心と足が震えた。もう読んでいるだけで怖かった。そして、よく見たらその写真が本の表紙になっていて、それに気付いてからというもの、本を手にするたびに若干足がすくむような思い。しかし、ボロい煙突に登ってその上で写真を撮ろうという発想がよく出来たなと感心してしまう。凄いインパクトだった。

 

 時おり海外のトマソンも紹介されるのだが、イマイチ面白く感じなかったのは何故だろう。大雑把すぎるというか、豪快過ぎるというか。まさに無用の長物、と打ち捨ててしまっているからだろうか。その点日本だと、とはいってもなんか気になるからちょっと養生しておくか、といういじらしさが出てしまうのかもしれない。でもそこに侘び寂びがある。

 

 各地から寄せられる報告書の中には、トマソンを擁する他人の家の住所が堂々と載っていて、おおらかな時代だなと思ってしまった。プライバシーはどうなっているのだと気にしてしまうが、こちらもあまり拡散することもない雑誌や本に記載されるぐらいでは大して問題はなかったのか。

 

 ただ、トマソンが盛り上がり、テレビで取り上げられたりすると、人が押し寄せたりして問題が生じる事もあったようだ。後半に著者自身が住所は伏せる必要があるかもしれないと述べている。

 

 しかし、地元の人にとっては何でもない光景が、よそから来た人に面白がられ、持て囃される事によって、地元の人たちの意識が変わるというのは面白い。現実は何も変わっていないのに、人々の意識だけが変る。「日本すごい」も同じような現象か。

 

 この他にも、最初の頃の興奮が次第に薄れていっていることに言及し、その分析をしていたりして、著者の深い考察にハッとさせられる場面が随所にある。面白がりながらも、その裏では深い考察をして冷静な部分も持ち合わせている。こんな姿勢で日々を過ごせば、何気ない日常がどんどん違ったようなものに見えてくるはずだ。見習いたい。

 

著者

赤瀬川原平 

 

超芸術トマソン (ちくま文庫)

超芸術トマソン (ちくま文庫)

 

 

 

登場する作品

純文学の素 (ちくま文庫)

「内部抗争」「肌ざわり (河出文庫)」所収

東京ミキサー計画:ハイレッド・センター直接行動の記録 (ちくま文庫)

「WALLS」

「自宅の蠢き」「父が消えた (河出文庫)」所収

 

 

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「平賀源内「非常の人」の生涯 」 2020

平賀源内: 「非常の人」の生涯 (949) (平凡社新書)

★★★☆☆

 

内容

 江戸時代の才人、平賀源内の伝記。

 

感想

 「土用の丑の日」のキャッチコピーを考えたとか、エレキテルだとか、平賀源内という人の名前は色々なところで聞く。多才な人だったというのは知っていたが、じゃあ結局、主に何やってる方?と問われればよく分からない人だった。この本で、もともと彼は「本草学」の人だったというのを、初めて知った。

 

 中国医学の薬の原材料の研究から始まり、やがては現在の博物学へとつながる本草学。源内は、外国から入ってきた知識や日本各地の様々な自然物の知識を活かすことで色んなアイデアを生み出していった。たくさんのインプットがあったからこそ、多彩なアウトプットをすることが出来たというのは、納得である。

 

 

 ただ気になるのは、火浣布や金唐革紙等の開発はするものの、実用化・製品化しなかったものが多いということだ。いつも途中で人に任せて頓挫してしまっている。すぐに関心が他に移ってしまう飽きっぽい性格ということもあるのだろうが、ここまでやればこの先は誰だってできるだろう、自分にしか出来ないことではない、という思いがあったような気もする。

 

 自分は他の誰にも出来ないことをやろうという気持ちが強かったのではないだろうか。ただ、この先は誰でも出来るだろう、と他人に任せる時の見極めが誤っていたということにはなるが。でもこれは、凡人の事が理解できない天才にはありがちな話だ。

 

 その他、戯作なども書いて、江戸の町の有名人となった源内。晩年は人に当たり散らしたりして乱心気味になったそうで、最後は殺人を犯して獄死という寂しい結末だった。これは才能が枯れてしまったというやつなのだろうか。かつての輝きを失ってしまった自分に対する苛立ちや焦りを、他人にぶつけてしまったような気がする。 

 

 こうやって彼の生涯を振り返って見ると、色々と手を出してそれなりの功績を残したが、これといった大きな功績は残せなかった器用貧乏の人だった、という印象は否めない。このうちのどれか一つでも全身全霊で取り組んでいたら、と思わないでもないが、そういうことが出来なそうな気の多い性格だったということも伝わってくる。

 

 ただ「解体新書」の杉田玄白に代表されるように、彼の周りの友人や弟子、関係者には歴史に残る功績をあげた人も多い。才人が近くにいれば、周りは大いに刺激される。これが彼の最大の功績と言えるのかもしれない。

 

著者

新戸雅章 

 

平賀源内 (平凡社新書0949)

平賀源内 (平凡社新書0949)

  • 作者:新戸 雅章
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

新装版 解体新書 (講談社学術文庫)

[自由訳]平賀源内作 風流志道軒傳(風流志道軒)」

神霊矢口渡

太平記 全6巻: 美装ケースセット (岩波文庫)

 「国訳本草綱目〈第1冊〉 (1973年)(本草綱目)」

「クリュードベック」 レンベルト・ドドエンス(ドドネウス)

「紅毛本草」

阿蘭陀本草和解 [1] (国会図書館コレクション)

動物誌 (上) (岩波文庫)

プリニウスの博物誌〈第1巻~第6巻〉

「コスモス」 アレクサンダー・フォン・フンボルト

三楠実録

「和蘭文訳」 青木昆陽

「和蘭文字略考」 青木昆陽

鳥獣虫魚図譜 (荒俣コレクション復刻シリーズ―博物画の至宝)

「阿蘭陀禽獣虫魚図和解」 野呂元丈

「厚生新編」 馬場佐十郎

「衆麟図」 松平頼恭

「衆禽画譜」

「衆芳画譜」

「有馬紀行」 平賀源内/安芸文江/渡辺桃源

平賀源内 (朝日選書)」 芳賀徹

「ターヘル・アナトミア」 ヨハン・アダム・クルムス

蘭学事始

「紀州物産志」 平賀源内

新書875江戸の科学者 (平凡社新書)

「聞くまゝの記」 木村黙老

「増補高松藩記」

放屁論後編 (風々齋文庫)

「飛だ噂の評」 風来山人(平賀源内)

「物類品隲(ぶつるいひんしつ)」 平賀源内

天工開物 (東洋文庫 (130))

「蕃椒譜」 平賀源内

日本博物学史 (講談社学術文庫)

東方見聞録1 (平凡社ライブラリー)

竹取物語(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫)

「火浣布説」 平賀源内

火浣布略説 (国立図書館コレクション)

「紅毛花譜」

「紅毛禽獣魚介虫図」

「紅毛談(オランダばなし)」 後藤梨春

紅毛雑話/蘭説弁惑 (生活の古典双書)」所収「紅毛雑話」

江戸科学古典叢書〈11〉エレキテル全書.阿蘭陀始制エレキテル究理原.遠西奇器述.和蘭奇器 (1978年)

「日本創製寒熱昇降記」 平賀源内

西洋事物起原 (1) (岩波文庫)

「平賀鳩渓実記」 櫟斎老人

平賀源内 (人物叢書 新装版) 城福勇

新装版 故郷忘じがたく候 (文春文庫)

江戸の想像力―18世紀のメディアと表徴 (ちくま学芸文庫)

将軍と側用人の政治―新書・江戸時代〈1〉 (講談社現代新書)

江戸の幾何空間」所収「物産・商品・言語」

雨月物語 (岩波文庫)

古事記伝(1) (国立図書館コレクション)

寝惚先生文集・狂歌才蔵集・四方のあか (新 日本古典文学大系)」所収「寝惚先生文集」

「根無草後編」  風来山人(平賀源内)

「根南志具佐」 天竺浪人(平賀源内)

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

源氏物語 01 桐壺

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「金曾木」 太田南畝

長枕褥合戦 (風々齋文庫)

和漢三才図会 (1) (東洋文庫 (447))

田舎荘子・当世下手談義・当世穴さがし (新 日本古典文学大系)」所収「当世下手談義」

浮世床 (岩波文庫)

東海道中膝栗毛 上 (岩波文庫 黄 227-1)

浄瑠璃物語 (風々齋文庫)

現代語訳 曾根崎心中 (河出文庫)

「風来六部集」

「天狗髑髏鑒定縁起」  風来山人(平賀源内)

痿陰隠逸伝 (風々齋文庫)

侍ブラス 風来山人(金管九重奏+マリンバ) / スーパーキッズレコード」所収「漱石膏」

「飛花落葉」 太田南畝

「和蘭天説」 司馬江漢

「輿地全図」 司馬江漢

「西洋画談」 司馬江漢

「画法綱領」 佐竹曙山

「暦象新書」 志筑忠雄

「江戸男色細身菊の園」 水虎山人(平賀源内)

「男色評判記 男色品定」 水虎山人(平賀源内)

「蔵志」 山脇東洋

新訂 江戸名所図会〈1〉天枢之部 ちくま学芸文庫

「平賀実記」 斎藤月岑

「驪山比翼塚」 森島中良

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

ファウスト

 

 

登場する人物

平賀源内

 

 

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「書けるひとになる! 魂の文章術」 2019

書けるひとになる! ――魂の文章術 (扶桑社BOOKS) 

★★★★☆

 

内容

 旧タイトルは 「魂の文章術 書くことから始めよう」。

 

感想

 タイトルに「魂の文章術」とあるだけに、正しい文法でテクニカルな文章を書ける技術を身につけるというよりも、書き手の魂が伝わるような、人の心を動かす血の通った文章を書く方法について書かれている。 

 

 魂のこもった文章というのは、オリジナリティのある文章、その人にしか書けない個性あふれる文章ということだから、まずはとにかく自分をさらけ出すことが必要だ。人によく見られたい、カッコつけたいなどという考えは捨てなければいけない。

 

 

 そのためにはとにかく文章を書けというのが著者の主張だ。それも、推敲して何度も書いては消してを繰り返すようなものではなく、頭の中にあるものをただひたすら吐き出していけ、という主張。それを人に見せる必要はないが、そうやって吐き出した物は、その後の文章に滲み出てくる。

 

 文章の構成や文法を考えながら書いたり消したりすることは、編集者の視点であって、まずはその視点を介在させないことが重要だ、というのは目からウロコだった。確かに文法や文章をチェックしながら書いていると、本来何を伝えたかったのか、分からなくなる時があった。書いているときは、内なる編集者の声に耳を貸さず、クリエイターに徹する事が大事だ。

 

 自分の内面をさらけ出すという事で、なんとなくセラピー的なものを感じない事もない。心の中のモヤモヤとしたものを吐き出すという意味で、そういった効果もあるのかもしれない。著者は禅や仏教から大きな影響を受けているようだ。

 

 文章もマニュアル本にありがちなシンプルで分かりやすいものではなく、著者の経験を交えた、まさにこの本の内容を実践したような魂のこもった文章だ。おかげで結局何を言いたかったのだろう?と思ってしまう章もあるのだが、とりあえず熱意は伝わってきてモチベーションが上がるのは確かだ。

 

 たいせつなのは、自分自身で状況を探ってたしかめることだ。前もって自分勝手なきまりを作るのはよそう。

p194

 

 ただひたすら文章を書く心構えを説く啓発本ぽい内容かのように見えて、ボキャブラリーや新たな表現の見つけ方、ディテールの重要性など、ちゃんとテクニック上達のコツも書かれている。理路整然と書かれた無味乾燥なハウツー本よりも、気持ちが前面に出た文章のこの本の方が、時おり読み返したくなるような気がする。パラパラとめくって、モチベーションを上げるのにも良さそうだ。

 

 支離滅裂だろうが、文法が滅茶苦茶だろうが、気にしないでとにかく書きまくれというのは、シンプルで分かり易くて何ひとつ難しいことはない。あとはやるかやらないか、それだけだ。

 

著者

ナタリー・ゴールドバーグ 

 

 

 

登場する作品

裸のランチ (河出文庫)

Fruits And Vegetables(果実と野菜)」

飛ぶのが怖い (河出文庫)

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God's Grandeur: Shmoop Poetry Guide (English Edition)(神の威光)」

「赤い手押し車」 ウィリアム・カルロス・ウィリアムズ

The Book of Nightmares

The Country Between Us (English Edition)(私たちのあいだの国)」

Percy Bysshe Shelley - To a Skylark(雲雀の歌)」

南太平洋 [DVD]

Younger Than Springtime (feat. Bill Lee)(春よりも若く)」

「Jewish-American stories(ユダヤ系アメリカ人作家集)」 序文 アーヴィング・ハウ

Top of My Lungs(声の限りに)」

アメリカのありふれた朝 (集英社文庫)

「叫べ、拍手せよ(Shout, Applaud: Poems from NorHaven)」 Marisha Chamberlain

プロレゴメナ (岩波文庫)

Green Hills of Africa (English Edition)(アフリカの緑の丘)」 

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禅マインド ビギナーズ・マインド (サンガ新書)(Zen Mind, Beginner's Mind)」(「初心・禅心」)

碧巌録〈上〉 (岩波文庫)

Dinners and Nightmares

水着の女王 [VHS]

Banana Rose: A Novel (English Edition)

 

 

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「異色作家短篇集14 虹をつかむ男」 2006

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)

★★★☆☆

 

あらすじ

 妻との外出中に空想にふける男を描いた1939年の表題作「虹をつかむ男(別の邦題:ウォルター・ミティの秘密の生活)」を含む短編集。

 

感想

 表題作「虹をつかむ男」を原作とした映画「虹を掴む男」をリメイクした「LIFE!」が面白かったので読んでみたが、原作はこんな短い物語だったとは。これを膨らませて映画にしたことが凄い。原作は、空想にふける男の日常といった内容だ。

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 ちょっとした小話のような笑い話やミステリー感のあるもの、ただの昔話をしているだけのような話など、収められた短編はバラエティに富んだ内容となっている。ただ、その根本にあるのは、「虹をつかむ男」の主人公がする空想のようなものからスタートしたものが多い気がした。著者本人がそんな人間なのかもしれない。

 

 フィクションというものは大抵空想からスタートするものだろうから当たり前と言えば当たり前なのだが、どこか地に足が付いていないようなふわふわした読み心地がする。結末も、ん?どっちだ?と思ってしまうようなものも多い。

 

 

 それから、「精神分析の先生にみてもらえば?」みたいなシーンが多いのも印象的。時代的にそれが注目されていたからというのもあるだろうが、著者自身も自分のそんな性格に気付いていたということかもしれない。

 

 収められたものの中から、気になった短編の感想をいくつか。

 

 「人間のはいる箱」は、まるで安部公房の「箱男」のようだった。順番で言うとこちらが先だが。あの段ボールの箱を見て、あの中に入って生活したいと夢見る人が世界中に一定の数いるかと思うと、ちょっと可笑しい。そしてちょっとその気持ちが分かってしまうのだが。

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 98セントの買い物に対して、1ドル3セントの支払いをお願いをして始まる「ウィルマおばさんの勘定」。疑心暗鬼のおばさんがそこに10セント追加したり、10セント貰おうとして、どんどんと混乱が増していく笑い話なのだが、計算が苦手な自分としては、ついていくだけで精一杯で頭が痛かった。そばでそれを見ながら「いや、おばさんが何セント損するから」とか「それだとお店が何セントの損だよ」と冷静に指摘している主人公の少年の計算能力が羨ましい。頭は痛くなるのに、なぜか笑えてくる不思議な話だった。

 

著者

ジェームズ・サーバー 

  

虹をつかむ男 (ハヤカワepi文庫)

虹をつかむ男 (ハヤカワepi文庫)

 

ウォルター・ミティの秘密の生活 - Wikipedia

 

 

登場する作品

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アイヴァンホー〈上〉 (岩波文庫)(アイバンホー)」

Lorna Doone; a Romance of Exmoor (English Edition)(ローナ・ドゥーン)」

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マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

バイ・バイ・ブラックバード

Marching Through Georgia(ジョージア進軍歌)」

讃美歌第379番「見よや十字架の」(見よや、十字架の旗たかし)」

Row Row Row Your Boat(漕げ、漕げ、漕げ!)」

「我がハレムで」 

 

 

関連する作品

1947年の映画化作品 

虹を掴む男 [DVD]

虹を掴む男 [DVD]

  • 発売日: 2006/08/25
  • メディア: DVD
 

 

 1947年の映画化作品のリメイク

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